成年後見人になれる人 誰が多い? 家族はなれない? メリット・デメリットまで解説
成年後見人とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が十分ではない場合に、本人の判断をほかの人が補うことで、本人を法律的に支援するための制度です。では、どんな人が成年後見人になれるのでしょうか。家族も成年後見人になれるのでしょうか。成年後見人に家族がなる場合と、専門家がなる場合のそれぞれのメリットとデメリットについても解説します。
成年後見人とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が十分ではない場合に、本人の判断をほかの人が補うことで、本人を法律的に支援するための制度です。では、どんな人が成年後見人になれるのでしょうか。家族も成年後見人になれるのでしょうか。成年後見人に家族がなる場合と、専門家がなる場合のそれぞれのメリットとデメリットについても解説します。
目次
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成年後見人は、成年被後見人(以下、「被後見人」)の財産管理や身上監護という重要な役割を担います。
成年後見人制度には、判断能力が不十分と判断されてから家庭裁判所に申立てをする「法定後見」と、本人の判断能力がまだ十分にあるうちに将来に備える「任意後見」の2種類があります。法定後見は、家庭裁判所が「誰が成年後見人にふさわしいのか」を可能な限り慎重に検討し、後見人を選任するのが通常です。一方、任意後見は、本人が自らの意思で後見人を選び、双方で認知症などで判断能力が不十分になった後の支援内容を決めます。
成年後見人になるために特別な資格は不要です。
認知症になった本人(被後見人)の身近な家族だけでなく、弁護士、司法書士、介護福祉士など法律や福祉の専門家も成年後見人になることができます。なお、2019年には最高裁判所が「後見人は親族が望ましい」とする旨の報告を行っています。親族等の身近な支援者を後見人にすることが本人の利益保護の観点からは望ましく、また専門家への報酬が大きな負担になるといった事情を踏まえ、成年後見制度をより利用しやすい制度に変えていくために検討が重ねられた結果の方針です。
ただし、以下の事由に一つでも当てはまる人は成年後見人になれません(民法847条)。
これらの条件を、成年後見人の「欠格事由」といいます。成年後見人は被後見人の財産管理や身上監護という重要な役割を果たす必要がありますので、欠格事由を定めることで不適当な者を排除しています。
成年後見人は、法で定められた被後見人の代理人です。その責務は厳密で、「家族だから」という理由で責任が軽くなることはありません。成年後見人は、判断能力を欠く被後見人のために、財産管理や身上監護などを担います。たとえば契約締結したり、預金口座から金銭を引き出したり、保険の解約をしたり、高齢者施設などへの入退所の手続きをしたりと、被後見人にしかできない契約や手続きを代理するため、職務の範囲は非常に広いです。
どのようなときも、成年後見人として誠実に職務をまっとうすることが求められます。後見人自身や、その家族のために被後見人の財産を使いこむことはもってのほかです。
その職務には、「自分以外の人の財産を預かる」という明確な自覚が求められます。普段は家族だからといって受け入れられるようなことも、成年後見人には認められない点に注意し、きっちりと線引きをして職務にのぞまなければなりません。
「後見人は親族が望ましい」との方針が最高裁判所から出されましたが、実際にはどのような人が成年後見人になっているのかデータを元に解説します。
実際の割合的には、法定後見では家族(親族)以外の第三者が成年後見人に選ばれるケースが多いです。
最高裁判所事務総局家庭局が発表している「令和4年1~12月成年後見制度の概況」によると、配偶者や親兄弟などの親族が成年後見人に選ばれている割合は19.1%と2割以下です。弁護士や司法書士などの専門職など親族以外が成年後見人に選ばれるケースが8割を超えています。
上記の数字が一人歩きした結果、「家族は成年後見人になれない」「候補者になっても選任されない」との話が出回っています。確かに、被後見人となるべき者に多額の財産があったり、親族間に意見の対立があったり、複数の賃貸不動産を所有したりして財産管理が複雑な場合は、家族に任せることを家庭裁判所が避ける傾向にあります。また、親族による「財産の使い込み」が懸念されることもあります。
しかし、「令和4年1~12月成年後見関係事件の概況」には、親族が成年後見人などの候補者になっているのは23.1%(令和3年は23.9%)とのデータも同時に掲載されています。成年後見人全体のうち親族が占める割合は19.1%ですので、候補者となった親族のうち一部は選任されていないと言えるものの、その選任率は低いとは言えないでしょう。
つまり、そもそも成年後見人の候補者に手を挙げる親族が少ないことが、親族が成年後見人に選ばれる割合が少ない原因となっています。
従って、家族を後見人にすることを申し立ての前からあきらめる必要はありません。司法書士や弁護士などの専門家の中には、家族が後見人に選ばれるように申し立ての仕方などを一緒に考えてくれる人もいますので、相談してみるとよいでしょう。ただ、成年後見人を選任する権限は家庭裁判所にあり、候補者が必ず選ばれるとは限りませんので注意してください。
成年後見人の家庭裁判所への申し立てから手続きまでの流れについては、以下の記事で解説していますので参考にして下さい。
【関連】後見人になるには 申し立てから手続きの流れまで解説
では、成年後見人に誰がなってもらうのが適任なのでしょうか。家族と専門家が就任する場合のそれぞれのメリットとデメリットを解説します。
被後見人の中には専門家など知らない第三者より信頼できる家族のほうが安心して財産の管理を任せられると感じる人もいるでしょう。また本人の性格をよく知っている親族であれば、お金の使い方や介護についても本人の望みを叶えることができます。
また、報酬がかからないことは大きなメリットです。家族が成年後見人になる場合は、基本的に報酬は発生しません。親族でも家庭裁判所に申立てをして報酬をもらうことは可能ですが、申立てをしないケースが多いでしょう。従って、家族が成年後見人になることで被後見人の財産的な負担を減らすことができます。
親族が成年後見人になると、財産を管理する上で緊張感が生まれにくいこともあり、財産の使い込みが起きる恐れがあります。もちろん専門職の成年後見人による横領事件もありますが、実際、専門職以外の成年後見人による不正事件の件数が多く、親族間のトラブルにも発展してしまうこともあります。
また成年後見人は、定期的に財産目録や収支報告書などの書面を作成し、裁判所に提出しなければならず、こうした事務作業は大きな負担となります。
司法書士や弁護士などの第三者が成年後見人になれば、使い込みなどのリスクは抑えられます。また、家庭裁判所への報告も一任できるので、手間がかかりません。
なお、特定の専門家を候補者に立てることも可能ですが、候補者を立てずに成年後見の申立てをしても、裁判所が弁護士や司法書士、社会福祉士などの第三者を成年後見人に選任してくれます。
成年後見人に専門家がなる場合は、報酬が必ず発生します。報酬額は、被後見人の財産額などによるため金額が決まっているわけではありませんが、最低でもひと月に2万円、高いと5 ~6万円程度が通例です。報酬は、成年後見制度を利用し続ける限り継続して発生します。年間で24~72万円程度を、被後見人の財産から毎年支出しなければなりせん。また、成年後見人が訴訟や遺産分割などの特別な対応をした場合には、これに相当額の報酬が加わることになります。
また、本人の財産から支出を要する場合に、その都度、専門職に相談してその判断を求めなければならないことを負担に感じることもあるでしょう。
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相続の相談が出来る司法書士を探す成年後見人を監督する「成年後見監督人」が家庭裁判所によって選ばれることがあります。
家族が成年後見人のときに成年後見監督人が選ばれやすいのは管理する財産が多額、複雑など専門職の知識が必要なときなどで、家庭裁判所は被後見人の財産を守るためにも成年後見監督人を選任する傾向にあります。成年後見監督人にはさまざまな権限が認められています。たとえば、必要に応じて被後見人の財産状況や成年後見人の事務を調査したり、家庭裁判所に必要な処分の申立を行ったりといった権限です。
ほかにも、成年後見人の解任の申し立てや、成年後見人と被後見人の利害が対立するような取引の際に、被後見人の代理人になるなど、多くのシーンで大きな役割を担っています。
成年後見監督人は、成年後見人からすれば面倒に感じる存在かもしれません。しかし、成年後見監督人の監視が、成年後見人による被後見人の財産管理等の安全性や正当性を高めていることも確かです。
多くの人が見過ごしがちなポイントがあります。それは、「一度選ばれた成年後見人を解任するのは非常に難しい」ということです。とくに専門家が成年後見人に選ばれると、毎月数万円の費用が発生するため、被後見人の家族からすると納得がいかない部分もあるでしょう。成年後見人として家族を希望していたにもかかわらず、専門家が選ばれた場合はなおさらです。しかし報酬面などに不満があっても、一度選ばれた成年後見人を解任することは基本的にはできません。それは解任するだけの相当の理由を求められるからです。
たとえば、成年後見人が不誠実にも後見人の職務をまっとうしなかったり、不正行為が発生したりするなど、家庭裁判所が客観的に成年後見人にふさわしくないと判断した場合に解任が認められますが、家族の一存で解任はできません。成年後見制度の利用を検討する際は、一度選ばれた成年後見人の解任は難しいことを念頭におきましょう。
「成年後見人」に司法書士を選任すれば、複雑な後見業務から解放され、使い込みのリスクを減らすことができます。司法書士を選任するメリットや報酬について、以下の記事を参考にして下さい。
被後見人の財産を手堅く守り続けるために「後見制度支援信託」と呼ばれる財産管理方法があります。被後見人が暮らしで必要とする金銭のみを成年後見人が管理し、その他の金銭は信託銀行に信託する財産管理法で、信託銀行に信託した金銭を払い戻したり、信託を解約したりするには家庭裁判所の指示書を要します。
後見制度支援信託を利用すべきかどうかを検討する機関は、成年後見の申立をうけた家庭裁判所です。さらに、後見制度支援信託を利用する前提として、原則として、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人として選ばれます。専門家と親族の両方が成年後見人に選ばれ、それぞれに役割分担がなされているケースでも後見制度支援信託の利用は可能です。
専門家である成年後見人は後見制度支援信託の利用について検討し、「利用すべき」と判断すれば、信託する金額等を決定し家庭裁判所へその旨を報告します。報告を受けた家庭裁判所はその内容を審査してから成年後見人に対して指示書を発行するので、その指示書をもって信託銀行との信託契約を締結するという流れです。
後見制度支援信託の利用開始後、専門家である成年後見人は必要がなくなった時点でお役御免となり、あとは家族である後見人へ管理が引き継がれることが多いです。このように、後見監督人の選任なしで安定的な財産管理を叶えるのが後見制度支援信託です。
成年後見人になるためには特別な資格はなく、「欠格事由」に当てはまらなければ誰でも候補者となることができます。ただし、成年後見人の選任は裁判所の裁量であり、候補者が選任されるとは限らない点は把握しておきましょう。
本人の性格や希望をよく知る家族が成年後見人になることもできますが、被後見人の契約や手続きの代理など職務の範囲は非常に広く、煩雑な事務作業もこなす必要があります。報酬がかかることとの兼ね合いにはなりますが、司法書士や弁護士に成年後見人への就任を依頼すれば、こうした手間から解放されますし、本人のために客観的な立場から財産管理を行ってもらえるでしょう。成年後見の活用を考えている人は、司法書士や弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2023年7月1日現在の情報に基づきます)
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