「家族は成年後見人になれない」という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。事実、最高裁判所事務総局家庭局が発表している、「平成30年1~12月成年後見制度の概況」によると、多くのケースで弁護士や専門家が成年後見人に選ばれていることがわかります。しかし、2019年以降、成年後見制度の基本方針は変化を見せつつあります。ここでは、家族が成年後見人になりにくい事情や、今後の可能性、活用できる制度などを解説します。

成年後見人の選任は家庭裁判所の判断にゆだねられる

成年後見人は成年被後見人(以下、単に「被後見人」とします)の財産管理や身上監護という重要な役割を担います。そのため、家庭裁判所は成年後見人を選ぶ際に「誰が成年後見人にふさわしいのか」を可能な限り慎重に検討するのが通常です。被後見人の家族であっても、成年後見人として適当と家庭裁判所から判断されれば成年後見人になります。

成年後見人になる人は、被後見人の身近な家族といったイメージがあるかもしれません。たしかに家族は最も身近な存在であるため、被後見人の財産管理や身上監護を任せるには最適に思えます。被後見人の家族の立場なら、被後見人の財産を、専門家とはいえ見知らぬ第三者に任せるほうが不自然だと感じるのではないでしょうか。

実際に、成年後見人に選ばれた専門家が被後見人の財産を使い込んでしまうケースもありますから、そのような事例を知ると「被後見人の家族を成年後見人に選んでほしい」との思いが強くなるのも当然のことです。しかし、家庭裁判所が被後見人の家族を成年後見人に選ぶかというと、必ずしもそうとは限りません。成年後見人の選任は完全に家庭裁判所の判断にゆだねられるため、成年後見人として家族を希望したとしても、実現するケースばかりではないのです。

親族が成年後見人に選ばれている割合は3割以下

実際の割合的には、家族(親族)以外の第三者が成年後見人に選ばれるケースが増加しています。最高裁判所事務総局家庭局が発表している、「平成30年1~12月成年後見制度の概況」によると、配偶者や親兄弟などの親族が成年後見人に選ばれている割合は3割以下です。弁護士や司法書士などの専門職や市民後見人が成年後見人に選ばれるケースが7割を超えていることから、親族が成年後見人に選ばれにくいことがわかります。

なお、成年後見人の資格は特にありませんが、以下の事由に一つでも当てはまる人は成年後見人になれません。
・未成年者
・破産者
・過去に成年後見人等に選任されていたが、家庭裁判所から解任された者
・過去に被後見人に対して訴訟を提起した者およびその配偶者ならびにその直系血族
・行方不明者

これらの条件を、成年後見人の「欠格事由」といいます。成年後見人は豊富な社会経験や高い倫理観、被後見人と対立関係にないことを厳密に要求される立場にあるため、欠格事由を定めることで不適当な者を排除しているのです。

財産の使い込みのリスクが高い?

家族が成年後見人に選ばれる割合が低い背景にはさまざまな要因がありますが、とくに大きな理由が「不正防止のため」です。成年後見人に選任された家族が不正を行うリスクが問題視され、家族が成年後見人として検討される際の障害になっています。

ここで問題視される不正とは「財産の使い込み」です。たとえば、成年後見人は被後見人の代わりに被後見人の銀行預金を引き出せます。成年後見人は被後見人の財産へ簡単に手が届くわけですから、使い込みを犯すハードルは低くなります。もちろん、不正など行わず適正に職務をまっとうする親族後見人が大多数ですが、実際に不正の事例が多いという事情がある以上、家庭裁判所としては選任に慎重にならざるを得ません。家族が選ばれないケースでは、司法書士や弁護士などの専門職や市民後見人が成年後見人に選ばれます。特に高い割合を占めているのが、法律家の司法書士と弁護士です。ただし、専門職後見人であっても使い込みなどは発生しており、専門家が優先して成年後見人に選ばれる傾向も見直されつつあるのが現状です。

多額の財産管理を家族に任せることを家裁が避ける

家族以外が成年後見人に選ばれやすいケースには、それなりの背景があります。家庭裁判所が、家族を成年後見人に選ぶのは不適当と判断するだけの事情があるということです。その代表例としては「被後見人となるべき者に多額の財産がある場合」が挙げられます。多額の財産の管理を、家族に任せることを家庭裁判所が避ける傾向にあるので、たとえ家族が成年後見人に選任されたとしても、専門家が後見監督人に併せて選任されるケースが大半でしょう。被後見人となるべき者に、賃料収入など一定の事業収入がある場合も同様です。

また、成年後見人への選任を希望する家族と、被後見人候補との間で何らかの対立が生じている場合も、家族以外の第三者を成年後見人に指定する傾向にあります。ほかにも、家族内で成年後見人に関する意見の相違があったり、候補者が高齢だったりすると、家庭裁判所は第三者を成年後見人に選任するケースが主流です。家族を成年後見人に選ぶことで、被後見人に不利益が生じるおそれがあるかどうかは厳密にチェックされます。

第三者が後見人になると年間24万円以上かかるケースも

成年後見の利用で多くの人が関心を寄せるのが「報酬」です。成年後見人に対して、どの程度の報酬を支払う必要があるのかについては、家族と専門家のどちらが成年後見人になるのかによって異なります。

成年後見人に専門家がなる場合は、報酬が必ず発生します。報酬額は、被後見人の財産額などによるため金額が決まっているわけではありませんが、最低でもひと月に2万円、高いと5 万円程度が通例です。報酬は、成年後見制度を利用し続ける限り継続して発生します。年間で24~60万円程度を、被後見人の財産から毎年支出しなければならない状況は、考えようによっては大きな負担です。一方、家族が成年後見人になる場合は、基本的に報酬は発生しません。しかし成年後見人が家庭裁判所に「報酬をください」と申し立てを行い、それが認められれば報酬が発生します。この面からみても、家族が成年後見人になることで被後見人の財産的な負担を減らせることがわかります。

成年後見人を解任するのは非常に難しい

多くの人が見過ごしがちなポイントがあります。それは、「一度選ばれた成年後見人を解任するのは非常に難しい」ということです。とくに専門家が成年後見人に選ばれると、毎月数万円の費用が発生するため、被後見人の家族からすると納得がいかない部分もあるでしょう。成年後見人として家族を希望していたにもかかわらず、専門家が選ばれた場合はなおさらです。しかし報酬面などに不満があっても、一度選ばれた成年後見人を解任することは基本的にはできません。それは解任するだけの相当の理由を求められるからです。

たとえば、成年後見人が不誠実にも後見人の職務をまっとうしなかったり、不正行為が発生したりするなど、家庭裁判所が客観的に成年後見人にふさわしくないと判断した場合に解任が認められますが、家族の一存で解任はできません。成年後見制度の利用を検討する際は、一度選ばれた成年後見人の解任は難しいことを念頭におきましょう。

成年後見人に求められる資質とは?

ここからは、成年後見人の基本的な役割を紹介します。成年後見人に選ばれた家族にどのような責任が課されるのかについては、成年後見の申立てを行う前に確認しておきましょう。

成年後見人は、法で定められた被後見人の代理人です。その責務は厳密で、「家族だから」という理由で責任が軽くなることはありません。成年後見人は、判断能力を欠く被後見人のために、財産管理や身上監護などを担います。たとえば契約締結したり、預金口座から金銭を引き出したり、保険の解約をしたり、高齢者施設などへの入退所の手続きをしたりと、被後見人にしかできない契約や手続きを代理するため、職務の範囲は非常に広いです。

どのようなときも、成年後見人として誠実に職務をまっとうすることが求められます。後見人自身や、その家族のために被後見人の財産を使いこむことはもってのほかです。
その職務には、身内ではなく「自分以外の人の財産を預かる」という明確な自覚が求められます。普段は家族だからといって受け入れられるようなことも、成年後見人には認められない点に注意し、きっちりと線引きをして職務にのぞまなければなりません。

成年後見人を監督する「成年後見監督人」

成年後見人を監督する「成年後見監督人」が家庭裁判所によって選ばれることもあります。
家族が成年後見人のときに成年後見監督人が選ばれやすい例は、被後見人の財産が多い場合です。被後見人の財産が多いと、家庭裁判所は被後見人の財産を守るためにも成年後見監督人を選任する傾向にあります。成年後見監督人にはさまざまな権限が認められています。たとえば、必要に応じて被後見人の財産状況や成年後見人の事務を調査したり、家庭裁判所に必要な処分の申立を行ったりといった権限です。

ほかにも、成年後見人の解任の申し立てや、成年後見人と被後見人の利害が対立するような取引の際に、被後見人の代理人になるなど、多くのシーンで大きな役割を担っています。
成年後見監督人は、成年後見人からすれば面倒に感じる存在かもしれません。しかし、成年後見監督人の監視が、成年後見人による被後見人の財産管理等の安全性や正当性を高めていることも確かです。

被後見人の財産を守り続ける後見制度支援信託

後見制度支援信託は、被後見人が暮らしで必要とする金銭のみを成年後見人が管理し、その他の金銭は信託銀行に信託する財産管理法です。信託銀行に信託した金銭を払い戻したり、信託を解約したりするには家庭裁判所の指示書を要するため、被後見人の財産を手堅く守り続けることができます。後見制度支援信託を利用すべきかどうかを検討する機関は、成年後見の申立をうけた家庭裁判所です。さらに、後見制度支援信託を利用する前提として、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人として選ばれている必要があります。専門家と親族の両方が成年後見人に選ばれ、それぞれに役割分担がなされているケースでも後見制度支援信託の利用は可能です。

専門家である成年後見人は後見制度支援信託の利用について検討し、「利用すべき」と判断すれば、信託する金額等を決定し家庭裁判所へその旨を報告します。報告を受けた家庭裁判所はその内容を審査してから成年後見人に対して指示書を発行するので、その指示書をもって信託銀行との信託契約を締結するという流れです。後見制度支援信託の利用開始後、専門家である成年後見人は必要がなくなった時点でお役御免となり、あとは家族である後見人へ管理が引き継がれます。このように、後見監督人の選任なしで安定的な財産管理を叶えるのが後見制度支援信託なのです。

「後見人は家族」のケースが増える可能性

2019年に、最高裁判所が「後見人は家族が基本」とする旨の報告を行いました。それ以前の専門家を優先して成年後見人に選任するという方針の変換が明らかになったものです。
その背景にはさまざまな事情があります。たとえば、被後見人の財産が小規模の場合などは、専門家を成年後見人とする必要性が小さく、また専門家への報酬が大きな負担になるといった事情です。そういった事情を踏まえ、成年後見制度をより利用しやすい制度に変えていくために検討が重ねられた結果、基本方針の転換がなされました。

家族が成年後見人になれる場合は家族を選び、ケースバイケースで後見監督人をつけることで後見事務や財産管理の安定性を確保するというのが、今後の成年後見制度の主流になると予想できます。また、一度成年後見人が選任されれば解任が非常に難しいという制度上の問題点についても議論され、定期的な成年後見人の見直しも制度に組み込まれる可能性が高いです。成年後見監督人や後見制度支援信託などの仕組みを最大限に活用することで、被後見人とその家族にとって利用しやすい成年後見制度の実現が近づいているのです。

(記事は2020年10 月1日現在の情報に基づきます)