目次

  1. 1. 法定後見と任意後見
  2. 2. 後見人になるにはどんな資格が必要?
  3. 3. 法定後見人になる手続きの流れ
    1. 3-1. 申立人
    2. 3-2. 申し立て方法
  4. 4. 任意後見人になる手続きの流れ
  5. 5. 法定後見人にできること
    1. 5-1. 財産管理に関する法律行為
    2. 5-2. 身上監護に関する法律行為
    3. 5-3. 後見人ができないこと
  6. 6. 法定後見制度を利用する際の注意点

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精神的な障害により判断能力の低下した人の生活を守る「成年後見制度」には、大別すると「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。さらに、法定後見は判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。

法定後見と任意後見の最大の違いは、後見人が「いつ」選任されるのか、「誰が」後見人を選任するかの2点です。なお、後見人とは、判断能力が衰えた本人の代わりに財産管理等を行う役割を与えられた人を指します。

法定後見は本人の判断能力が低下したあとに家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所の審判をもって後見人が選任されます。申し立てのときに後見人の候補者をたてることはできますが、誰を後見人とするかを最終的に決定するのは家庭裁判所です。

一方、任意後見は本人の判断能力が低下する前に、あらかじめ自分の財産管理等を任せたい人と任意後見契約を締結しておく制度です。本人が元気なうちに本人の意思に基づいて契約を締結するので、誰を後見人にするかの決定権は本人にあります。

後見人になるために特別な資格は必要ありません。ただし、法定後見と任意後見のどちらの場合でも、下記に該当する人は後見人になることができません。

【 後見人の欠格事由 】

  1. 未成年者
  2. 後見人の地位を家庭裁判所から解任された者
  3. 破産者
  4. 本人に対して訴訟をし、またはした者ならびにその配偶者及び直系血族
  5. 行方の知れない者

つまり、上記の欠格事由に該当しない限りは、弁護士や司法書士などの資格がなくても後見人になることができます。

もっとも、前述したように法定後見において誰を後見人とするかを決めるのは家庭裁判所です。親族を候補者として申し立てを行ったとしても、家庭裁判所の判断により弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されることもあります。

家庭裁判所が公表しているデータによると、令和2年1月から12月までの間に選任された後見人のうち、本人の配偶者、親、子、兄弟姉妹やその他の親族が後見人に選任されたケースは2割弱しかありません。

つまり、全体の8割以上で親族以外が後見人となっています。特に、親族間に意見の対立がある場合や本人の資産が多額の場合、複数の賃貸不動産を所有していて財産管理が複雑な場合などは、親族以外の専門職後見人が選任されることが多いようです。

続いて、法定後見人になる場合の手続きの流れを解説します。

法定後見人(成年後見人、保佐人、補助人)になるためには、まず本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して後見等開始の申し立てをしなければなりません。

この申し立てができる人は法律で決まっています。本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長などが申立権者として定められています。内縁の妻や夫、遠縁の親戚、友人、知人などは、本人と生活をともにするなど親密な関係であっても申し立てをすることはできません。

後見等開始の申し立ては、口頭によることはできず、必ず申立書と添付書類を家庭裁判所に提出しなければなりません。一般的に提出が求められる書類は次のとおりです。ただし、家庭裁判所ごとに添付書類やその様式に若干の違いがありますので、書類の準備を始める前に管轄の家庭裁判所に問い合わせるかホームページ等で確認することをお勧めします。

【 主な提出書類 】

  1. 申立書及び申立事情説明書
  2. 財産目録及び財産内容を証明する資料
  3. 収支状況報告書及び収入・支出を証明する資料
  4. 親族関係図
  5. 候補者事情説明書
  6. 親族の同意書
  7. 医師の診断書
  8. 本人及び候補者の戸籍謄本・住民票の写し
  9. 登記されていないことの証明書

提出書類の準備が整ったら管轄の家庭裁判所に申し立てを行います。申し立てが受け付けられたあとは、家庭裁判所によって本人、申立人、候補者に対する面談や親族に対する照会等が行われます。また、本人の判断能力がどの程度なのかを医師が判定する鑑定という手続きも行われるのが原則です。なお、提出した診断書等から後見開始が相当であることが明らかであるときは鑑定が行われないこともあります。

家庭裁判所は申立書等の内容を精査し、関係者との面談、医師の鑑定等の結果に基づき後見開始が相当であると認めると、後見(補助、保佐)開始の審判と同時に成年後見人(補助人、保佐人)選任の審判を行います。これらの審判が確定し、家庭裁判所からの嘱託により法務局で後見登記がされると後見人選任の手続きが完了します。

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任意後見は自分の判断能力が低下したときに備えて、本人が元気なうちに財産管理等を任せる人(任意後見受任者)と財産管理等の方法を決めておく制度です。本制度は本人と任意後見受任者が任意後見契約を締結することで成立します。この契約書は公正証書で作成する必要があり、公正証書が作成されると、公証人の嘱託により任意後見契約の内容が登記されます。

しかし、この契約を締結しただけでは任意後見受任者には何らの権限も生じません。任意後見契約は本人が元気なときに将来に備えてあらかじめ後見人を決めておく契約ですから、任意後見受任者はあくまでも「将来的に後見人になる人」であって、契約を締結した時点では後見人にはならないのです。

任意後見受任者が後見人となって本人のために財産管理等を行うには、任意後見契約の効力を発動させる必要があります。具体的には、本人の判断能力が低下し保護や支援の必要性が生じたら家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申し立てをします。この申し立てをすることによって任意後見受任者は正式に任意後見人となり、家庭裁判所が選任した任意後見監督人の監督のもとで本人のために財産管理等を行うことができるようになります。

法定後見人に選任されたからといって、本人の代わりにあらゆる行為ができるわけではありません。

法定後見人は、主に「財産管理に関する法律行為」と「身上監護に関する法律行為」を行います。

財産管理に関する法律行為とは、文字どおり本人の財産の管理を行うことを言います。

具体的には、預貯金、保険、有価証券の管理、不動産などの重要な財産の管理や処分、相続手続き(遺産分割)、その他日常生活における収入支出の管理などです。本人がした契約等の法律行為を取り消したり、本人が行う法律行為に同意したりすることも後見人の権限です。

身上監護に関する法律行為とは、本人の心身の状態や生活状況などを考慮しながら、本人の生活や健康、療養等に関する支援を行うことです。

具体的には、本人の住居確保、生活環境の整備、介護契約、施設等の入退所契約、病院での治療及び入院手続きなどを本人に代わって行います。

一方、身体介護や看護などの事実行為を後見人自らが行うことはできません。介護が必要な場合に本人に代わってホームヘルパー契約などを締結することはできますが、後見人が自ら介護を行うことは後見人の職務ではありません。また、入退院手続きなどを行うことはできますが、具体的な医療行為(手術など)の同意、延命治療の拒否や中止を本人に代わって行うことはできません。

結婚、離婚、認知、養子縁組、遺言などの身分行為を本人に代わって後見人が行うことも許されていません。これらの行為は、本人の意思が最も尊重されるべきものであるため、後見人の権限の範囲外となっています。

法定後見人に選任されると前述のとおり多くの権限が与えられますが、それに伴い大きな責任と義務が生じます。

まず、後見人が職務を行うにあたっては「善管注意義務」と呼ばれる注意義務が課されます。これは一般の人が自分の財産管理において払うべき注意よりも高度な注意義務です。被後見人の財産を自分や自分の親族のために消費することが許されないのは当然のことですが、自己の財産と被後見人の財産をしっかり区別して管理し、財産の管理状況について少なくとも1年に1回は家庭裁判所に報告する必要があります。

また、一度後見人として選任されると、原則として本人が亡くなるまで後見人としての職務が続きます。やむを得ない事由があり家庭裁判所が許可した場合のみ辞任することができますが、「思っていたより大変だったから……」とか「他のことで忙しくて手が回らない……」などの自己都合で辞めることはできません。

弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任された場合には、これらの義務や責任を親族が負うことはありません。ただし、本人と縁もゆかりもない他人に配偶者や親のすべての財産管理を任せることに抵抗を感じる人も少なくはないでしょう。また、専門職後見人には必ず報酬の支払いが必要になること、被後見人の療養看護について親族と意見が合わないとか、単純に気に入らないといった理由で解任することができない点などには注意が必要です。

成年後見制度は、判断能力が低下してしまった本人を保護・支援する制度であり、後見人には、本人の自己決定権を尊重しつつ、本人の利益を最優先に考えることが求められます。

いったん後見人に選任されれば本人が亡くなるまで任務が続きますし、自己都合で辞めることはできません。成年後見制度を利用する際には、制度をよく理解したうえで、本人も含め親族間でよく話し合ってから手続きを進めると良いでしょう。

(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)

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