目次

  1. 1. 胎児に相続権はあるのか?
    1. 1-1. 死産の場合
    2. 1-2. 生まれて間もなく子どもが死亡した場合
  2. 2. 胎児が相続人となる場合に知っておくべきこと
    1. 2-1. 遺言書で胎児に遺産を与えることも可能
    2. 2-2. 胎児による代襲相続も可能
    3. 2-3. 胎児による相続放棄も可能
    4. 2-4. 胎児がいる場合の遺産分割における注意点
    5. 2-5. 胎児名義による相続登記に関する注意点
    6. 2-6. 相続税申告における注意点
  3. 3. 胎児を生命保険の受取人にすることはできるか?
  4. 4. まとめ

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民法上、「人」とは出生をきっかけに始まります(民法3条1項)。この出生とは、赤ちゃんの体が母体から全部露出したかどうかによって判断されます(全部露出説)。

そのため、出生前の胎児は、民法上は「人」にあたらないのが原則となり、胎児がマンションを購入したり、胎児名義の預金口座をつくったりすることはできません。

ただし、民法は、相続の場合に関しては、特別に胎児を「人」とみなします(民法886条1項)。

これは、相続というものが、血縁に従って親から子になされることが最優先とされており、やがて生まれてくる予定であるにもかかわらず、父親が亡くなったときに出生前だったということだけで胎児への相続を否定することは、不当であると考えられているためです。

そのため、胎児には相続権が認められ、父親の財産を相続することが可能となります。

残念ながら死産となってしまった場合、胎児には相続権は発生しません(民法886条2項)。

なお、胎児の相続権については、二つの見解をめぐり法曹界で論争になっていました。「胎児の間も相続に限って『人』として扱い、死産の場合には、相続開始時(父親が死亡したとき)にさかのぼって『人』ではなかったとして扱う」という「解除条件説」と、「胎児の間は『人』としては扱わず、生きて生まれてきたときに、相続開始時にさかのぼって『人』として扱う」という「停止条件説」です。ただし、判例は停止条件説を採用しています。

死産ではなく、出生後に何らかの理由で赤ちゃんが死亡してしまった場合、生きていた時間が10分でも1日でも、胎児の体が全部露出している以上、露出の時点で胎児は「人」となり、当然に相続権を得ます。

死産とこの場合の違いとしては、たとえば次のような場合に大きな争点となるでしょう。

Aには、妻Bと胎児Cのほかに、前妻との子Dがいた場合です。Aに1000万円のお金があったとしましょう。

Cが死産だった場合、Cには相続権はないため、BとDがAの相続人となり、配偶者であるBが遺産の2分の1、前妻との子どもであるDが2分の1、つまり1000万円を2分の1ずつ分けることになります。

一方でCが生まれてから亡くなった場合には、CもAの相続人となるため、配偶者であるBが遺産の2分の1である500万円、子どもであるCとDが2分の1である500万円をさらに半分で分け合って、それぞれ250万円ずつを相続する形となり、Cが亡くなったことにより、Cの母親であるBがCの相続分250万円をCから相続する結果となります(※法定相続の場合)。

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それでは、次に、胎児が相続人となるとして、実際に相続の場面ではどのような手続きをとることになるのかという点を解説します。

相続においては、胎児にも相続権が認められるため、父親が遺言で胎児に対し遺産を残すことができます。

遺言においては、遺産を渡す相手を間違えないよう、続柄や氏名、生年月日によって特定する必要がありますが、胎児については、まだ生まれておらず氏名も生年月日もありません。

そのため、実務上、「Aは、Aが有する〇〇〇(財産)を妻B(生年月日)が懐胎している胎児に相続させる」というように記載して特定するケースが多いです。一方、「Aは、Aが有する〇〇〇をいずれ生まれてくる我が子に相続させる」という記載では、胎児の特定がなされておらず無効と判断されるリスクが高まるため、事前に弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

相続では、被相続人(亡くなった人)より先に相続人が死亡している場合、その相続人の子が相続することができる場合があります。これを代襲相続と言います。たとえば、Aに子どもBがいて、Bにも子どもCがいた場合、Aが死亡する前に、Bが死亡していた場合、Aにとっては孫にあたるCがAから相続することになります。

胎児は相続においてはすでに生まれたものとして扱うため、胎児も代襲相続が可能です。たとえば、上の事例で言うと、Cが母親のお腹にいる状況で、Bが死亡したあとに、Bの親であるAが死亡した場合、CはAを代襲相続することになります。

【関連】代襲相続はどこまで起こるのか? パターン別にわかりやすく家系図で解説

たとえば、死亡した父親に財産はなく、借金をした状態で死亡した場合、その子は相続によって借金のみを負うことになります。

しかし、それでは相続人にとって酷なため、民法は相続放棄という制度を設けています。相続放棄した場合には、プラスの財産もマイナスの借金もどちらも引き継がなくなります。

胎児も相続人として扱われる以上、この相続放棄が可能です。

ただし、相続人として扱われるとしても、胎児はまだ自分で意思決定したり書類を書いたりすることはできません。そのため、胎児の代わりに相続放棄の手続きを代行する人が必要になります。

父親の財産よりも借金のほうが多額で、母親と胎児のどちらもが相続放棄をする場合には、母親と胎児の利害は一致しているため、母親が胎児の代理人として相続放棄の手続きをすることができます。

他方で、父親に資産があり、これを母親が相続する場合には、母親が胎児の代理人となることはできません。母親が代理人になれるとすると、胎児には相続放棄させ、自分だけが資産を総取りできてしまう関係にあり、母親と胎児の利害が反する関係にあるからです。

そのため、この場合は、母親や関係者が、家庭裁判所に、胎児の代理人となる人物を選任するよう申し立てる必要があります。申立てがあると、家庭裁判所は、胎児のために動く人物として特別代理人を選任し、その特別代理人が胎児の代わりに相続放棄を含めた相続の手続きをとることになります。

特別代理人は、弁護士資格などの資格が必須というわけではないため、母親以外の親族が選ばれることもありますし、弁護士が指名されるケースもあります。

【関連】相続人が未成年の場合に必要な特別代理人 利益相反の考え方と選任方法を解説

胎児も相続人として扱われる以上、遺産をどう分けるかを話し合う遺産分割協議においては、胎児にどう遺産を相続させるかという点も協議する必要があります。

胎児の存在に気づいていなかった場合や胎児に相続権があるとは知らなかった場合に、胎児抜きで遺産分割を成立させてしまうと、後々無効となってしまうため、きちんと胎児も関与させる必要があります。

また、この場合、母親が胎児の代理人として決定権を持つとすると、母親有利の内容で遺産分割協議を成立させることができてしまいます。そのため、この場合にも適法に遺産分割を実現するためには、特別代理人を選任する必要があります。

もっとも、死産だった場合には胎児は相続人として扱われないため、懐胎中に実施した遺産分割協議が無意味になってしまうリスクがあります。そのため、遺産分割を急ぐ特段の事情がない限りは、出生後に特別代理人を選任し協議をすることが望ましいと言えます。

胎児名義による相続登記も可能です。

ただし、胎児には戸籍もなく法的な裏付けのある名前はまだないため、登記の名義は「亡A(父親)妻B胎児」となります。

また、胎児名義による登記ができるのは、法定相続分に従った登記の場合と、遺言による相続登記に限られ、遺産分割協議による相続登記はできないとされています。

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日(通常は父親が亡くなった日)の翌日から10カ月以内です。

胎児が関与する場合の相続税の申告は少し複雑です。胎児の出生時期との関係で、申告期限までに遺産分割が間に合わなかった場合には、遺産分割完了後に更正の請求または修正申告が必要になるケースがあります。いずれにせよ税理士や税務署に相談されることをお勧めします。

父親の中には、自分が死亡した場合の生命保険金の受取人を胎児にしたいと考える人もいるかもしれません。

しかしながら、胎児は生命保険の受取人になることはできません。

胎児が人として扱われるのはあくまで相続の場面に限られており、法的に、生命保険金は相続財産とは扱われず、相続に該当しないからです。

以上のとおり、胎児にも相続権があり、妻のお腹の子に自分の財産を残したい、という父親の願いは民法が保護しています。

しかしながら、相続人に胎児が含まれる場合には、特有の注意事項が多く存在します。自身の財産を適切に引き継がせるためにも、相続手続きを無事に解決するためにも、弁護士などの専門家のサポートを得ることを検討しましょう。

(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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