受託者に課税の負担がかかる

家族信託においては、受益者に対して課税されるのが原則です。しかし、これはあくまで原則であって、例外はあります。その例外の1つが「目的信託」と呼ばれる家族信託のかたちです。

目的信託とは、「受益者を定めずに、目的のみを定めた信託」を指します。目的信託は、災害からの復興支援や、地域の福祉振興のためなど、公益的な目的を達成するために利用される傾向にあります。

目的信託の登場人物に「受益者」は存在しないため、受益者に課税されるという信託の原則があてはまりません。かわりに課税される人物は、財産を管理、処分する受託者が課税対象者になります。

受益者に課税されない家族信託の例外的なケースとして、もう一つ挙げられるのが「受益者連続信託」で受益者がいなくなってしまった場合です。このケースについては、後ほど詳しく説明しましょう。また、受託者が存在する一般的なケースの課税についても後の章で解説します。

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家族信託での受益者の役割とは

ここでは家族信託での、受益者の基本的な立場について説明していきましょう。

「受益者」は財産の利益を受ける人

家族信託の主な登場人物は、「委託者」「受託者」そして、「受益者」です。

委託者は自分の財産を「信託財産として受託者に任せる人」、受託者は「委託者から信託財産を任せられる人」、「受益者」は、「信託財産から発生する利益を与えられる人」を指します。

受託者は、信託契約に基づいて信託財産を管理、処分できます。
たとえば、委託者Xが受託者Yにマンションを信託し、マンションの管理と運用により発生する利益を受益者に与える場合で考えてみましょう。

仮に受託者Yが、信託契約に基づき第三者にマンションを賃貸したとすると、通常は賃料が発生します。この賃料は、信託財産であるマンションの管理・運用により発生した利益の一つです。利益をもらう権利は受益者にあるため、信託契約において受益者と定められた人がマンションの賃料収入を得ることになります。

受益者には贈与税がかかる場合がある

受益者は、信託財産から生じる利益をもらえるわけですから、とても得な立場に思えます。しかし受益者の選び方によっては、受益者に思わぬ負担がかかるリスクがあることを忘れてはいけません。その負担とは、ズバリ「贈与税」です。

上で説明した、委託者Xが受託者Yにマンションを信託する例に当てはめてみましょう。
この信託契約において、委託者Xは自分の姪のZを受益者として選んだとします。すると、信託契約の効力発生以降、Zはマンションから発生する家賃などの利益をもらえる立場になるわけです。

しかし税務上、この信託でZがもらえる利益は、委託者Xから「贈与」されたものとして扱われます。つまり、利益をもらったZには贈与税が課せられてしまうのです。

通常、信託設定時に贈与税を発生させないためには、委託者自身が最初の受益者になることです。委託者が受益者を兼ねる信託を「自益信託」、受益者が委託者以外の人物である信託を「他益信託」といいます。贈与税との兼ね合いから、最初の信託設定時においては自益信託のかたちをとるケースがほとんどです。

受益者連続信託で受益者がいなくなった場合は?

受益者連続信託とは、受益者となる者が次々と変わっていく信託をいいます。受益者連続信託でも、基本的には受益者に課税されますが、例外も含めて解説していきましょう。

次の受益者に課税対象が移行する

受益者連続信託では、受益者が交代すると、前の受益者から新たな受益者に課税対象者が変わります。しかしお話ししてきたように、例外的に受託者へ課税される場合もあります。「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を例にして説明しましょう。

「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は受益者連続信託の1種で、受益者の死亡により受益者が交代していく信託です。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、最初の信託設定時に二代目、三代目の受益者を決めておくことができます。たとえば「最初の受益者は委託者Aとする。委託者Aの死後は委託者Aの娘B、娘Bの死後は娘Bの子Cが受益者とする」といった具合です。

特徴的なのは、信託設定時に「子C」が生まれていなくても、将来の受益者として指定しておくことができる点でしょう。しかしこの例の信託において、娘Bが受益者となった後、子Cが生まれる前にBが亡くなる不慮の事態が生じた場合、その時点で受益者が存在しなくなるため、本来課税されるべき受益者に代わって、例外的に受託者が課税されます。

受益者代理人とは

信託契約のなかで「受益者代理人」という役割の者を定めることができます。ここからは、受益者代理人とは何者で、どういった役割を担い、どのような義務を負うかを順番に説明していきましょう。

受益者の権利を代行する者

従来、受益者が短いサイクルで入れ替わる信託や、受益者の人数が多すぎる信託などでは、受益者の権利行使が困難になりがちでした。この問題を解消するために導入されたのが、受益者代理人制度です。

受益者代理人は文字通り受益者を代理する者で、受益者の代わりに裁判上または裁判外の権利を行使できます。

受益者代理人は、信託契約において必須とはされていませんが、必ず定めるべきでしょう。裁判所が第三者等の求めに応じて受益者代理人を選ぶことはできないため、受益者代理人の必要性は信託設定時によく検討しておく必要があります。

なお、受益者が存在しない信託では、受益者代理人を選べません。また、未成年者及び、成年被後見人、被保佐人、受託者は受益者代理人になれないことも、受益者代理人を選ぶ際には念頭に置いておきましょう。

受益者代理人の役割・義務

受益者代理人を選んでおくことで、受益者のスムーズな権利行使が難しい場面でも、受益者代理人が対応できます。
また将来的に受益者の判断能力が低下し、受託者を監視・監督したり、意思表示したりすることが難しくなるような事態に備えて、受益者代理人を選ぶケースもあります。

なお、受益者代理人は、受益者に認められている権利の範囲内でしか代理権を行使できません。

受益者代理人に課される義務の一つは、受益者の代わりに権利を行使する際に、受益者に対して誠実かつ公平であることを求められる「誠実公平義務」です。

もう一つは「善良な管理者の注意義務」の略称「善管注意義務」です。善管注意義務を課された者は、その者の職業や社会的地位、能力に照らし合わせて、通常要求される程度の注意を尽くさなければならないとされています。
この善管注意義務が求められるのも、誠実公平義務と同様に受益者代理人が受益者の権利を代理行使するときです。

受益者は得するだけではない

信託の受益者は、単に利益をもらえる立場のイメージが強いのではないでしょうか。しかし受益者には贈与税が課される場合もあり、信託の内容によっては得ばかりとも言い切れません。また、受益者がいなくなった場合の課税対象や、受益者が権利行使できなくなった事態などに備えた受益者代理人についても、贈与税の問題と併せて信託の設定時に検討しておくべきでしょう。

(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)