目次

  1. 1. 二次相続とは
  2. 2. 遺言で二次相続の方法を指定できない
  3. 3. 二次相続の方法を決められる家族信託とは
    1. 3-1. 家族信託の基本的な仕組み
    2. 3-2. 家族信託の利用の具体的なケース
  4. 4. 二次相続対策としての家族信託
  5. 5. 認知症対策としての家族信託
  6. 6. 二次相続の注意点
    1. 6-1. 遺産分割でのトラブル
    2. 6-2. 相続税でのトラブル
  7. 7. まとめ

一般的には、ある人が亡くなった際の相続を「一次相続」、一次相続での相続人が亡くなった際の相続を「二次相続」といいます。たとえば、父親→母親の順番で亡くなった場合、父親の相続が一次相続、母親の相続が二次相続です。今回は後者の二次相続をテーマに解説していきます。

遺言では自分が亡くなった際の財産の承継先しか決められず、二次相続の際の財産の承継先を決めることはできません。

たとえば、妻と長男、長女がいるAさんのケースで考えてみましょう。Aさんには先祖代々受け継いできた自宅不動産があり、自分が亡くなった際は妻に、また妻が亡くなった際は長男に自宅不動産を受け継がせたいと考えているとします。

このケースでAさんが「妻に自宅不動産を相続させる。妻が亡くなった際は長男に自宅不動産を相続させる」と遺言した場合、その効力はどうなるでしょうか。

前者の「妻に自宅不動産を相続させる」という部分は有効なので、遺言によって妻は自宅不動産を相続することができます。しかし、後者の「妻が亡くなった後は長男に自宅不動産を相続させ。」という部分は無効です。遺言によって長男は自宅不動産を相続することはできません。なぜなら、妻が亡くなった際、妻の所有する自宅不動産を誰に渡すかを決められるのは妻だけだからです。

妻がAさんと同じように自宅不動産は長男に相続させたいと考えており、その内容の遺言をしてくれるのであれば問題はないでしょう。しかし、妻が別の考えを有していれば、夫の希望は叶いません。また、同じ考えを有していても遺言まではしてくれないかもしれません。

そこで、Aさんのような方の希望を叶える手法として、近年注目されているのが『家族信託』です。

『家族信託』の基本的な仕組みや、具体的な利用ケースについて説明します。

『家族信託』とは、財産を持つ人が、自分の老後の生活や介護などに必要な資産の管理や財産の承継など、特定の目的のために不動産や預貯金などを信頼できる家族や親族などに託し、管理・処分を任せる仕組みです。基本的な当事者は、下記の3名で、委託者と受託者との間で「信託契約」を締結します。また、受託者に託した財産を「信託財産」と呼びます。

委託者(いたくしゃ)=財産を託す人
受託者(じゅたくしゃ)=財産を託される人
受益者=財産から利益を受ける人

家族信託の中で登場する委託者、受託者、受益者について
家族信託の中で登場する委託者、受託者、受益者について

では具体的なケースに基づいて説明します。

Aさんは、認知症の妻Bさんと自宅不動産に同居し、妻Bさんの介護に従事しています。Aさんには長男Cさんと長女Dさんがいますが、いずれも結婚して自宅を離れています。Aさんは、今でこそ自分で金銭管理をしているものの、最近物忘れが多くなってきており、近いうちに自分も認知症になって金銭管理が十分にできなくなってしまうのではないか、もし自分が先に亡くなった場合でも妻が安心して生活できるようにするにはどうしたら良いかと心配しています。

このケースの解決策として、家族信託の利用が考えられます。具体的には、自宅不動産や預貯金という財産を託するAさんを委託者、これらの財産を託される長男Cさんを受託者とする信託契約を締結します。受益者は当初はAさん、Aさんが亡くなった後は妻Bさんとします。こうすることで、長男Cさんが、AさんやBさんのために自宅不動産や預貯金を管理してくれるので、Aさんの不安は解消されます。

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上記のとおり家族信託とは、委託者と受託者との間の契約です。二次相続対策としてポイントとなるのは、委託者が信託契約を終了させる時期および終了時点での信託財産の承継先を選べるということです。

たとえば、上記のケースで妻Bさんの死亡をもって信託契約を終了させ、その際の信託財産の承継先を長男Cさんとしたとしましょう。こうすることで、信託財産である自宅不動産や預貯金は、妻Bさんの存命中はBさんのために使われ、Bさんが死亡した後は長男Cさんが取得することになります。したがって、Aさんは、家族信託を利用することで、二次相続、つまりBさん死亡時の財産の承継先を決めておくことができるのです。

この仕組みを応用することで、長男Cさん死亡時の財産の承継先など、さらに次の世代の承継先まで決めておくこともできます。

家族信託は認知症対策としても有効です。認知症などの理由で判断能力が不十分になってしまった人を支援するための他の制度としては『成年後見制度』が用意されています。しかし成年後見制度では、本人の財産は現状維持が原則で、本人にとって損害が生じうるような資産運用や相続税対策のための生前贈与・財産の組み換えなどを行うことは通常許されません。これに対し家族信託では、これらが可能な仕組みを構築することができます。

財産の承継先などをあらかじめ選ぶことができる家族信託ですが、二次相続には以下の注意点があります。

被相続人(亡くなった親)の配偶者(親)と子が相続人となる一次相続の場合、存命の親の意向や生活を尊重した遺産分割がなされることが多く、子同士で言い合いになっても親による仲裁が期待できるため、もめるケースは多くありません。

しかし、この場合、二次相続では子のみが相続人となります。子同士だと親の手前我慢していたことも主張するようになり、お互い感情的になりがちです。

二次相続でもめないためには、両親が生前に遺言書を作成するか家族信託を利用して、子の遺産の分け方を決めておくことが望ましいでしょう。なお、子に納得してもらうにためには、その分け方にした理由を説明しておくことが大切です。

「二次相続では配偶者控除が使えない、基礎控除が減る」などの理由で一次相続に比べて相続税が高くなりやすく、もめる原因のひとつになります。そのため、二次相続を見据えて一次相続の遺産分割方法を決めることが大切です。たとえば、一次相続で配偶者に遺産を集中させてしまうと、二次相続の際に子が多額の相続税を負担することになりかねないので注意が必要です。

二次相続での財産の承継先は遺言では指定できませんが、『家族信託』を利用することで指定することが可能になります。家族信託に関心のある方は弁護士や司法書士などの専門家に相談してみると良いでしょう。

(記事は12月1日時点の情報に基づいています。)