目次

  1. 1. 遺産分割の基本ルール
  2. 2. 法定相続分とは
    1. 2-1. 遺産を分ける目安
    2. 2-2. 法定相続分と遺留分の違い
  3. 3. 法定相続人にあたる人
    1. 3-1. 配偶者は常に法定相続人となる
    2. 3-2. 子、直系尊属、兄弟姉妹の最上位者が法定相続人となる
    3. 3-3. 代襲相続について
  4. 4. 法定相続人にあたらない人の例
    1. 4-1. 離婚した元配偶者
    2. 4-2. 事実婚(内縁)の相手
    3. 4-3. 介護をしてくれた息子の配偶者(嫁)など
    4. 4-4. 再婚相手の連れ子
    5. 4-5. 孫(代襲相続人である場合を除く)
  5. 5. 法定相続分の具体例
    1. 5-1. 配偶者と子2人が相続人の場合
    2. 5-2. 配偶者と子2人、さらに内縁の妻との子1人が相続人の場合
    3. 5-3. 配偶者と両親が相続人の場合
    4. 5-4. 配偶者と兄と妹が相続人の場合
    5. 5-5. 子2人と、死亡した子の子(孫)2人が相続人の場合
  6. 6. 法定相続人でない人に財産を残す方法
    1. 6-1. 遺言書
    2. 6-2. 生前贈与
    3. 6-3. 家族信託
  7. 7. まとめ

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遺産分割の基本的なルールとして、被相続人(以下「亡くなった人」)による指定分割は法定相続に優先します。指定分割とは、遺言書によって遺産分割方法を指定することです。法定相続とは、民法の定める法定相続人や法定相続分に従った相続方法です。

指定分割は法定相続に優先するので、遺言書があれば遺言書で指定されている遺産の分け方に従うのが基本となります。

有効な遺言書がない場合には、相続人全員で話し合って遺産分割の方法を決めます。これが法定分割です。法定分割における遺産分割協議に参加できるのは法定相続人だけであり、法定相続分は遺産分割する際の目安になる相続割合です。

法定相続分は、民法によって定められる相続割合です。それぞれの法定相続人の法定相続分は、相続人と亡くなった人との続柄によって決まります。ただし、相続人全員で話し合って合意すれば、必ずしも法定相続分どおりに遺産を分ける必要はありません。別の方法や割合による分割も可能です。なお、遺言書でも法定相続分とは異なる方法や割合による相続分を指定できます。

相続人構成別の法定相続分の一覧。配偶者と子、父母と兄弟姉妹が対象となります
相続人構成別の法定相続分の一覧。配偶者と子、父母と兄弟姉妹が対象となります

法定相続分は、あくまで遺産を分ける際の目安であり、絶対的なものではありません。実際、遺産の分け方については相続人が合意すれば、1人の相続人に集中させることもできます。法定相続分に縛られる必要はありません。

ただし、遺産分割の際にもめてしまい、協議や調停で解決できず審判になった場合には、裁判官が法定相続分に従って遺産を分割します。

法定相続分と遺留分は異なるので、違いを押さえておきましょう。

遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人が相続できる遺産の最低保障割合です。遺留分は法定相続分とは異なり、遺言書によっても奪えません

相続人ごとの遺留分の割合の一覧。法定相続分とは異なり、きょうだいには遺留分は認められていません
相続人ごとの遺留分の割合の一覧。法定相続分とは異なり、きょうだいには遺留分は認められていません

遺留分の割合は、誰が法定相続人なのかによって異なります。親などの直系尊属のみが法定相続人になる場合には3分の1、それ以外のケースでは2分の1です。その数字を各遺留分権者の法定相続分に応じて割り振ると、個別の遺留分割合となります。

遺留分と遺産分割の際の特別受益では、生前贈与の取り扱いも異なります。

遺留分の場合、死亡前の10年間に行われた生前贈与だけが遺留分侵害額請求の対象になります。一方、特別受益の場合には死亡前何年以内に行われたかなどの制限はありません。死亡前20年に行われた生前贈与などであっても特別受益の持戻計算が行われます。

以下ではどういった人が具体的に法定相続人にあたるのか、法定相続人がどのように決まるのかみてみましょう。

相続順位の家系図の図解。配偶者は常に法定相続人となり、子どもは第1順位の法定相続人となります
相続順位の家系図の図解。配偶者は常に法定相続人となり、子どもは第1順位の法定相続人となります

亡くなった人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となります。ただし相続人になれるのは「法律婚の配偶者」のみであり、事実婚の配偶者には相続権が認められません。

子どもや孫といった直系卑属は第1順位の法定相続人です。最も優先して相続人になるので、亡くなった人に子どもがいる場合は、子どもが必ず相続人となります。子どもがいない場合は、第2順位の親などの直系尊属が相続人になります。子どもなどの直系卑属も親などの直系尊属もいない場合、第3順位である兄弟姉妹が相続人になります。

なお、法定相続人になる可能性のある人が複数いる場合、実際に相続人になれるのは子(第1順位)、親などの直系尊属(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)のうち最上位者のみです。たとえば子どもがいるなら親は相続人になりませんし、親がいるなら兄弟姉妹には相続権が認められません。同順位の相続人が複数いる場合は、全員が相続人になります。

被相続人が亡くなった際、相続人である子どもや故人の兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合、その相続人の子ども(亡くなった人からすると孫または甥や姪)が「代襲相続」によって相続人となります。

また、亡くなった人の意思で相続人の相続権を失わせる相続廃除、相続に関する法律を犯すような行為による相続欠格によって相続権を失った場合も、相続権を失った人の子どもが「代襲相続」によって相続人になります。

代襲相続とは、相続人が亡くなった人より先に死亡している場合などに相続人の子どもが代わって相続することです。代襲相続人である孫も本人より先に死亡していたら、その子どもであるひ孫が代襲相続します。これを再代襲相続と言います。なお、兄弟姉妹の場合、代襲相続は一代限りなので再代襲相続は起こりません。

相続放棄が行われても代襲相続は発生しません。子どもが相続放棄したら孫は代襲相続人にならず、ほかに子どもや孫がいなければ親や兄弟姉妹へ相続権が移ります。

以下では法定相続人にあたらず、相続権がない人の例をご紹介します。

死亡時の配偶者は法定相続人になりますが、離婚した元配偶者は法定相続人になりません。

法律婚の配偶者は法定相続人になりますが、事実婚(内縁)の相手は法定相続人ではありません。財産分与の規定を類推適用もできないと判断されているので、内縁の配偶者はまったく遺産相続できないと言えます(最高裁平成12年3月10日判決)。

息子の配偶者(嫁)や娘の配偶者(婿)にも相続権が認められません。

息子の嫁に介護などでお世話になったとしても、法律上の相続権は続柄によってのみ発生するので「息子の配偶者」に相続権はありません。

ただし、献身的に介護を行って遺産の維持形成に貢献した場合、介護した親族は相続人へ「特別寄与料」というお金を請求できる可能性があります(民法1050条)。

再婚相手の連れ子にも基本的に相続権がありません。

ただし、連れ子と養子縁組をしている場合、連れ子は「子ども」としての地位を取得するので、子どもとしての相続権が認められます。

孫は法定相続人にあたらないのが原則です。ただし、子どもが親より先に死亡したり相続欠格や相続廃除によって相続権を失ったりした場合は、代襲相続によって孫が法定相続人になります。

また、孫を養子にすると、親子関係ができるので孫も相続人になります。

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次に法定相続分の計算例をいくつかご紹介します。

法定相続分の具体例を図解。さまざまなケースの割合を知っておくことがスムーズな遺産相続につながります
法定相続分の具体例を図解。さまざまなケースの割合を知っておくことがスムーズな遺産相続につながります

配偶者と2人の子どもが相続人になる場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1ずつです。もしも子どものうち1人が相続放棄をした場合、相続人である子どもは1人になるので、配偶者が2分の1、残った子どもが2分の1になります。

法律婚の配偶者がいてその間に子どもが2人あり、さらに事実婚の内縁の妻の子がいる場合をみてみましょう。

この場合、亡くなった人が内縁の配偶者の子どもを認知していれば、法律婚の配偶者が2分の1、子ども3人がそれぞれ6分の1ずつとなります。認知していない場合は内縁の配偶者の子どもが相続できないので、法律婚の配偶者が2分の1、その間の2人の子どもがそれぞれ4分の1ずつになります。内縁の妻の子どもには相続権が認められません。

ただし、内縁の妻の子どもは、認知されなくても親の死亡後3年以内に限って認知請求ができます。「認知の訴え」で認知が確定すると、内縁の配偶者の子どもにも相続権が認められます(民法787条)。

配偶者と両親、つまり親2人が相続人になる場合、配偶者が3分の2、両親はそれぞれ6分の1ずつになります。

配偶者と兄と妹が相続人になる場合、配偶者が4分の3、兄と妹がそれぞれ8分の1ずつ相続します。

3人の子どもがいて、うち1人は先に死亡していたので代襲相続が発生するケースを考えてみましょう。代襲相続人である孫は2人とします。この場合、2人の子どもと死亡した孫2人の合計4人が相続人になります。

相続分は子ども2人がそれぞれ3分の1ずつ、孫2人はそれぞれ6分の1ずつです。

遺産分割の際、相続人全員の合意があれば法定相続分に従う必要はありません。しかし、法定相続人を無視することはできません。遺産分割協議には法定相続人しか参加できないので、法定相続人しか相続できないのが原則です。

法定相続人以外の人へ財産を受け渡すには、以下のような手段をとりましょう。

遺言書によって法定相続人以外の人へ遺贈すれば、相手へ財産を受け継がせられます。相続の優先順番としては、遺言書、遺産分割協議、法定相続分の順となっており、遺産相続においては「遺言者の意思」が最優先されるのが原則です。

【関連】遺言書は法定相続分に優先する! 遺言無効や遺留分のトラブルを予防できる遺言書作成の方法

生前贈与してしまえばその時点で財産が移転するので、法定相続人以外の人へも財産を受け継がせられます。生前贈与で渡した財産は遺産の前渡しであり、「特別受益」と呼ばれる点は認識しておきましょう。

家族信託によって法定相続人以外の人を「受益者」にしておけば、受益者が財産から利益を得られます。結果的に受益者へ財産を受け継がせたのと似た効果が発生します。家族信託は家族内で「委託者=財産を預ける人」「受託者=財産を預かる人」「受益者=財産から利益を得る人」に分けることで、認知症対策や生前の相続対策として、幅広く活用できる仕組みです。

家族信託の仕組みの図解。「委託者=財産を預ける人」「受託者=財産を預かる人」「受益者=財産から利益を得る人」と考えると、覚えやすいでしょう
家族信託の仕組みの図解。「委託者=財産を預ける人」「受託者=財産を預かる人」「受益者=財産から利益を得る人」と考えると、覚えやすいでしょう

【関連】家族信託が必要なケースと必要ないケースを司法書士が解説

遺産分割の際には法定相続人が法定相続分に従って遺産を分け合うのが基本です。まずは法定相続人の範囲や順位、法定相続分を正しく理解することが大切です。

また、遺産分割協議や調停などで相続人同士がもめてしまうケースも多数あります。スムーズに遺産分割を行うためにも、早い段階で弁護士に相談しましょう。

(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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