法テラスでは相続トラブルも相談できる 収入に応じて遺言作成などの援助も
誰でも法的な支援を受けられる社会づくりに向けて活動している日本司法支援センター「法テラス」では、相続に関する依頼も受け付けています。経済的な理由で弁護士等に相談できない人からの相談を受け付けるとともに法的手続を支援。過疎地では、地域事務所を開いて弁護士を赴任させるといった事業も進めています。活動を進める中で、近年の相続事情はどう見えるのか。同センター本部の設楽あづさ・第一事業部長にうかがいました。
誰でも法的な支援を受けられる社会づくりに向けて活動している日本司法支援センター「法テラス」では、相続に関する依頼も受け付けています。経済的な理由で弁護士等に相談できない人からの相談を受け付けるとともに法的手続を支援。過疎地では、地域事務所を開いて弁護士を赴任させるといった事業も進めています。活動を進める中で、近年の相続事情はどう見えるのか。同センター本部の設楽あづさ・第一事業部長にうかがいました。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
――法テラスで受け付けている相談に関するお問合せは増えているのでしょうか。
明確な統計は取っていませんが、じわじわと増えている感覚はあります。法テラスに昨年度、全国から寄せられた法律相談31万5000件のうち、相続や離婚を取り扱う家事事件は約30%です。家事事件のうち、「離婚事件とそのほか」という形でデータをまとめているので、明確に増えているとは言えませんが、法テラス・サポートダイヤル(法テラスのコールセンター。以下「サポートダイヤル」)に寄せられる電話やメール、窓口業務での情報提供の件数も徐々に増えているようです。サポートダイヤルに昨年度は39万件のお問合せがありました。このうち、相続に関するものは5~6%で、約2万件になります。法テラスでは、収入等が一定以下であることなどが利用条件になりますが、サポートダイヤルへのお問合せは、どなたでもご利用いただけます。
――少子高齢化で相続に関するトラブルが増えていることが背景にあるのでしょうか。
少子化になると相続人が少なくなるので、トラブルは少なくなってもおかしくありません。一つの要因は高齢化に伴う介護の問題が介在しているのだと思います。一生懸命、介護した人が法定相続分では納得できない場合があります。そういった時など、特別に相続の権利を主張できる「特別寄与」もあって、一つの要因になっているのではないでしょうか。
そのほかにも、生前の被相続人から相続人が財産を受け取ったとされる「特別受益」も問題になっているのかもしれません。相続でのもめ事は、基本的に法律の問題です。しかし、こころの問題もあって、なかなか理屈では割り切れません。当事者の心情とルールが一致しないことがあるのだと思います。
――相続トラブルが深刻になる前に代理人を立てることも考えたほうがいいのでしょうか
ちょっと疎遠なきょうだいが、突如、代理人を立てると「遺産を多く取ろうとしているのかな?」と不信感を招くこともあるので判断が難しいです。代理人が介入したほうがいいタイミングは、家族によって異なります。慎重になったほうがいいですよ。関係性があまりに悪化してから代理人を立てても、どうにもならないこともあります。将来のもめ事を避けるのに一番いいのは、普段から少しでもいいから関係性を維持することです。直接のコミュニケーションが難しければ、ご両親を通す形でもいいと思います。離婚と再婚の件数が増えている中では、異母きょうだいや親の再婚相手との問題も起きています。お互いに見ず知らずの相手なので、もめやすい構図とも言えます。社会の変容に、法律が先回りするのは難しいですが、もうちょっとキャッチアップできるといいのかもしれません。
両親が法律上の結婚をしないことを前提にした親子関係もあれば、同性愛のカップルに子どもがいることもあります。社会全体が、典型的な家族モデルから脱却しようとしています。こういった時、生前贈与で財産を引き継ぐこともできますが、他人への贈与になるので、税金は高くなってしまいます。相続の手続きなどは、従来の典型的な家族モデルを前提としているため、解決が困難なこともあります。
――法律相談は、お金がかかるというイメージがあります。法テラスでは、民事法律扶助業務で経済的に余裕がない人でも依頼することが可能になっていますが、制度を教えてもらえますか。
サポートダイヤルなどでの情報提供は、収入に関係なく利用できます。それで解決できない場合、経済的に余裕のない方については、無料法律相談の援助を受けられます。一つのテーマにつき、3回までです。今は新型コロナウイルスの感染が広がっているので、電話などでの相談にも応じています。相談だけでは対応が難しいと判断した後に、依頼の手順に移ります。そうなると、弁護士・司法書士の費用等を立て替える制度の援助を受けるために、審査書類などの提出が必要です。
援助のうち、代理援助は交渉や裁判所での手続を代理で行います。書類作成援助というものもありますが、法律文書すべてが対象になるわけではなく、裁判所に提出する書類の作成を代行します。相続で考えると、遺産分割協議書は対象に含まれません。
ただ、簡易援助という制度を使えば、作成料の半分を負担してもらい、私人間での協議書や合意書の作成を援助できます。遺言書の場合は、まず1回目の法律相談を受けて作成し、2回目で確認してもらうことも可能です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す――昨今、相続放棄も増えていると聴きます。需要があっても、自分で手続きを終えるのは難しいと思うのですが、支援を受けることはできるのでしょうか
相続放棄も増えていると思います。あくまで感覚的なものですが、20年ごろ前は、親の遺産のうち借金が圧倒的に多い時の選択肢の一つでした。最近では相続が複雑化している上に、こころの問題もあって「遺産を巡って争いたくない」という思いから相続放棄するケースが出てきました。親やきょうだいに向けて「関わりたくない」というメッセージを込めた例も増えているのではないでしょうか。家族間の確執はさまざまです。きょうだいのうち、親が1人だけをかわいがっていたり、親の最期のみとり方で意見が合わなかったりして、感情にしこりが残ってしまうこともあるようです。
――相続放棄を検討した場合、法テラスで援助を受けられるのでしょうか
相続放棄の手続で依頼を受けた場合、書類作成援助であれば、そんなに時間をかけないで裁判所に提出する申述書を完成させられます。実は、大変なのは書類作成よりも、一緒に提出する書類をそろえることです。簡易援助でもいいのですが、法テラスに相談してもらい司法書士の書類作成援助を受ける方が安心な場合があります。
――法テラスは災害時での支援にも力を入れていると思います
大規模な災害が起きた際、相続放棄するかどうかを決める熟慮期限が延長されることもあります。このため、専門家にいち早く相談して適用があるかどうかを確認することが大切です。まずは、サポートダイヤルに問い合わせてもらえればお答えできるかもしれません。特定非常災害になると、専用のダイヤルを設置して、行政の支援なども確認してもらえます。
――法テラスに社会インフラとしての役割を期待するニーズが増えているように感じます
2018年からは、認知機能が衰えている高齢者の方を対象にした出張法律相談サービスも始めました。法的な争いに巻き込まれつつある、もしくは巻き込まれている人の支援者や施設の職員からの申し込みに、弁護士や司法書士が対応しています。このほか、離島や過疎地に弁護士を赴任させているので、自治体の職員と一緒に成年後見が必要な高齢者の掘り起こしなどに取り組んでいます。法律問題は弁護士が解決し、生活の扶助や見守りは自治体や福祉関係者などが行い、高齢者の生活を支える活動もしています。ただ、役割を果たせているかどうかは外部が評価することだと思っています。現在、こういった連携を進め、お互いハブになることで、さらなる社会貢献を果たしていきたいと考えています。
(記事は2021年1月1日時点の情報に基づいています)
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