目次

  1. 1. 生活保護を受給していても遺産は相続できる
    1. 1-1. 生活保護の受給資格とは
    2. 1-2. 相続財産の額によっては受給停止または廃止になる可能性
    3. 1-3. 少額の財産であれば、生活保護の受給を続けられる
    4. 1-4. 受給を続けられる「少額の財産」はいくらまで? 100万円は?
  2. 2. 生活保護受給者は相続放棄できない?
    1. 2-1. 相続放棄自体は可能
    2. 2-2. 生活保護受給者が相続放棄を検討すべき場合
  3. 3. 生活保護受給者が相続人となった場合の注意点
    1. 3-1. 生活保護を受給しながら保有できる財産もある
    2. 3-2. 遺産を相続したら、必ず福祉事務所等に届け出ること
    3. 3-3. 相続放棄ができる場合もあるので弁護士らに相談を
  4. 4. まとめ

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遺産を相続できる権利は、生活保護受給者であるからといって失われるものではありません。そのため、生活保護を受給していても、遺産は相続できます。

ただし、生活保護受給者が遺産を相続した場合、生活保護の受給資格を満たさなくなることで、それ以降の生活保護の受給が停止または廃止になる可能性はあります。

なお、生活保護費の支給が一時的に中断される場合が「停止」、保護の受給資格自体が失われる場合が「廃止」です。

生活保護法は、受給資格について、下記のとおり規定しています

4条1項「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」

4条2項「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」

上記の規定からすると、①生活に困窮する者であること、②その利用し得る資産等あらゆるものを活用し、かつ③扶養義務者の扶養などを受けても生活に困窮することが受給資格といえます。

生活保護は、あくまでも「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」した上で、その「不足分を補う程度において」行われるもの(同法8条1項)です。

そのため、遺産を相続したことで最低限度の生活を維持することができるようになった場合には「保護を必要としなくなったとき」(同法26条)に該当し、生活保護は停止または廃止されることになるでしょう。停止や廃止まではいかないまでも、受給額が減額される可能性もあります。

なお、廃止後に遺産を使い切って再び生活に困窮した場合には、改めて生活保護の申請をすることが可能です。

逆にいえば、相続した遺産を活用しても最低限度の生活の維持ができないのであれば、生活保護の停止や廃止にはなりません。例えば、1か月の保護費に満たない程度の少額の現預金を相続した場合は、生活保護の受給を続けられるでしょう。また、処分することが著しく困難な地方の不動産を相続しても現金化することは困難であって最低限度の生活の維持に活用できないので、受給資格に影響はないのが通常でしょう。

さきほど、1か月の保護費に満たない程度の少額の現預金であれば、生活保護の停止や廃止にはならないと説明しました。では、具体的にいくらまでなのかが、気になる方もいるでしょう。たとえば、100万円の場合はどうでしょうか? 

実は、どのくらいの金額を相続すると生活保護の停止や廃止になるという明確な基準は決まっていません。

ただ、一般的には臨時的な収入の増加があった場合、6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想される場合は生活保護を停止、6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められる場合は生活保護を廃止するという運用がなされているようです。

例えば、1か月に支給される保護費が12万円で相続した現預金が60万円であれば、6か月分の保護費の額を超えませんので、廃止はされないでしょう。他方、相続した現預金が100万円であれば、6か月分の保護費の額を超えるため、廃止され得ると思われます。

それぞれの具体的な状況によって判断が変わりますので、担当のケースワーカーに相談してみて下さい。

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生活保護受給者であっても家庭裁判所での相続放棄は可能です。生活保護受給者であることを理由に、家庭裁判所が相続放棄を受理しないことはないでしょう。

ただし、家庭裁判所での相続放棄が可能であったとしても、相続放棄が生活保護に与える影響は別問題です。

なぜなら、生活保護法上の「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」するという要件(4条1項、資産活用の要件)との関係で、相続した遺産は最低限度の生活の維持のために活用すべき、とも考えられるからです。

しかし、相続放棄は身分行為ですので、上記要件があるからといって、相続放棄をする自由を制約すべきではないでしょう。ある裁判例(最判昭和49年9月20日・相続人が行った相続放棄に対し、被相続人の債権者が詐害行為取消権を行使しうるかが争われた事案)でも、裁判所は「相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである」旨を判示しており、相続人に相続放棄をする自由を認めています。

いずれにしても、何らかの事情で相続放棄をしたい場合には、事前に担当ケースワーカーや弁護士に相談すべきです。相続放棄には3カ月という期間制限があるので、早めに相談しましょう。

下記のようなケースでは、通常、相続放棄することを検討すべきでしょう。

  • 借金などのマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合
  • 処分が困難な不動産などがある

ただ、相続放棄すべきと思われる場合であっても、事前に担当ケースワーカーや弁護士に相談するようにしましょう。生活を維持するために活用できる遺産を相続できるのか、それとも相続することでかえって経済的な負担が増してしまうのかなどを考慮して相続放棄の是非を判断することになるでしょう。

なお、相続放棄ができるとしても相続放棄をすることが適切かどうかは慎重に判断すべきです。例えば、配偶者と生活保護受給者である子が相続人のケースで唯一の子が相続放棄をしてしまうと直系尊属または兄弟姉妹に相続権が移るため、配偶者とこれらの者との間での紛争を招いてしまう可能性があります。

たとえば次のような財産は、生活保護を受給しながら保有することが許されるでしょう。

  • 現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持や自立の助長に有効である資産
  • 処分することができないか又は著しく困難である資産
  • 売却代金よりも売却に要する経費が高い資産

相続する遺産が生活保護の支給に影響を与えるかどうか不安であれば、担当ケースワーカーに確認してみると良いでしょう。

生活保護の利用者は、世帯主ないし世帯員に何らかの収入が発生した場合には、速やかに保護の実施機関または福祉事務所長にその旨を届け出る必要があります(生活保護法61条)。遺産を相続した場合も同じです。

生活保護の受給への影響が心配だからといって、「ばれないだろう」と思って、福祉事務所などへの届け出を怠るのは絶対にやめましょう。遺産を相続した旨を届け出ないで受給を続けると不正受給になり得ます。不正受給になると、不正に受給した保護費相当額に最大40%を上乗せして徴収されることになります(生活保護法78条)。

相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内という期限があるため、早めの対応が必要です。また一度相続放棄の手続きが受理されると、原則として「撤回」は認められていないため、その決断には慎重さも求められます。担当ケースワーカーや弁護士に早めに相談することが大切です。

生活保護受給者の遺産相続について説明してきました。少額の現預金や財産の種類によっては、生活保護を受給しながら相続できます。

弁護士に相談したい場合の窓口としては、日本司法支援センター「法テラス」がおすすめです。法テラスでは、生活保護受給者は、弁護士・司法書士と面談のほか電話などでも無料で法律相談を受けることが可能です。詳しくはお近くの法テラスに問い合わせてみてください。また、初回相談を無料で応じている弁護士事務所もありますので、利用を検討してもよいでしょう。

(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています)

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