家族信託が必要なケースと必要ないケースを司法書士が解説
昨今、家族信託は相続対策や親の認知症対策として話題になります。しかし、家族信託が必要のないケースもあります。不要なケースにはいくつかのパターンがあります。「財産が少ない、信託できる財産がない、親族仲が悪い場合」などは家族信託に適しません。今回は家族信託が必要のないケースと必要なケース、また家族信託のデメリットやよくある失敗例を家族信託に詳しい司法書士が紹介します。
昨今、家族信託は相続対策や親の認知症対策として話題になります。しかし、家族信託が必要のないケースもあります。不要なケースにはいくつかのパターンがあります。「財産が少ない、信託できる財産がない、親族仲が悪い場合」などは家族信託に適しません。今回は家族信託が必要のないケースと必要なケース、また家族信託のデメリットやよくある失敗例を家族信託に詳しい司法書士が紹介します。
「相続会議」の司法書士検索サービスで
「家族信託をしておけば何でも大丈夫!」
「家族信託は万能である!」
最近、そのような誤解が広がっている印象を受けます。家族信託は万能なものではありません。今回は家族信託が必要なケースと必要のないケース、家族信託のデメリットについて解説していきます。
家族信託が必要ないケースとして、次のような場合があげられます。
ケースごとに詳細を説明します。
家族信託の大きなメリットのひとつは、「親の医療費」や「生活費」、「介護費用」を親の財産から、子供が使うことができる点です。
そのため「親が金融資産をほぼ持っていない、また不動産も持っていない」という場合には、家族信託の対象の財産がなく、対策を進めても効果が期待できません。
少ない預貯金を家族信託することもできなくはないのですが、対策にかかる費用の方が高くなってしまう可能性もあります。
家族信託は何でもできるわけではなく、信託できない財産もあります。代表的なものとして「農地」と「年金」があります。
・「農地」について
現状が農地(畑や田んぼ)である土地を家族信託するためには、法律上、農業委員会の許可が必要です。しかし家族信託をしようとしても、農業委員会の許可は、ほぼ認められません。
・「年金」について
年金を受け取る口座は、ご本人名義の銀行口座しか指定できません。そのため、受託者名義の口座を、親の年金の受取口座にすることはできないのです。
親の財産が「農地」や、これから支給される「年金」のみの場合には、家族信託の対象になる財産がないため、家族信託で解決することが難しくなります。
親族仲が悪い場合でも、家族信託が必要ないわけではなく、むしろ親の介護を考えた時には必要なケースも多々あります。しかし、親族内で対立関係があると、対策が複雑化しとても難しくなります。
家族信託は親が生きている時の認知症対策から親の相続まで長い期間の対策が可能です。そして家族信託は親族間の強い信頼関係をベースとしている手段になります。そのため、契約書の内容もあえてガチガチには固めず柔軟性を持てる内容になっていることも多いのです。
一方で、親族仲が悪い場合、例えば兄弟の一人が「親のお金を管理することを快く思わない」など、家族信託をきっかけにトラブルに発展したときは問題です。なぜなら、家族信託のベースとしている強い信頼関係が崩れてしまうからです。このようなケースに発展しても耐えられるような仕組みを築くことは難易度がとても高くなります。
すでに所有財産を子供や孫に生前に贈与しており、贈与したお金から親の医療費や介護費用などを子供たちが支払っていける体制が整っている場合は、家族信託を結ぶ必要はありません。加えて、所有している財産がほとんどない場合には、無理に家族信託をする必要はありません。上記(1)の「財産がほとんどない」場合と同様の理由だからです。
対策を考える方の年齢が40代または50代で身体も健康の場合には、自身の介護や認知症対策を目的とした家族信託を結ぶにはまだ早いです。なぜなら家族信託の効果を発揮させるためには、家族信託契約を結ぶことに加えて「財産を受託者の名義」にする必要があり、本人にとって制約が増えるからです。
家族信託契約を結んだ後、財産を受託者名義にする必要があります。しかし受託者名義にすると、自分で自由に財産を動かせなくなります。財産を使いたい場合には受託者にお願いをして動いてもらうことになります。その手間がもどかしいと感じることが理由です。
また40代50代の場合は自身の老後資金のために投資をしている人も少なくありません。しかし、家族信託に適用している証券会社はまだ少ないようです。また、家族信託された財産については新たに有価証券の購入を制限される規定を置いている証券会社もあります。
特定口座も使えません。そのため、自身で確定申告をする負担も生じます。
これらの理由から、自分で財産を積極的に活用・運用していきたい場合には、家族信託は向きません。どうしても認知症対策をしたい場合には、「任意後見契約」を活用するということが考えられます。
家族信託では自分のほかに、信頼して財産管理を任せられる人が必要になります。そのため、財産を託す人がいない場合には家族信託を進めることができません。
託す人がいないパターンも二つあり、「独り身で身内に頼れる人がいないというパターン」のほかに、「頼れる人はいるが、信頼できず頼りたくないというパターン」も含まれます。
頼れる人がいるけれど信頼できない場合には、家族信託はおすすめできません。家族信託では信頼関係を前提としている制度です。制約などを付けられないことはないですが、限界があります。そのため、これらの場合には頼れる人を探すことが初めの一歩です。頼れる人が見つかった場合には「家族信託契約」または「任意後見契約」を検討してみましょう。
次に、家族信託が必要なケースとして以下の場合があげられます。
ケースごとに詳細を説明します。
前述より、家族信託を進めていくうえで以下の条件があてはまれば、家族信託はとても効果的な対策になります。
何も対策をしておらず、親の認知症が悪化をしてしまうと、親名義の預貯金が凍結をされてしまい、配偶者や子供であっても、当該凍結された預金からお金を引き出すことが出来ません。
預金が一度凍結されると、成年後見制度を利用するか、もしくは子供の貯蓄から支払うことになります。残念ながら、どちらの選択肢もあまりお勧めできません。事前の対策の一つとして家族信託が有効です。
例えば「親の次には長男に相続させたいが、長男には子供がいないため、長男が亡くなった後には孫のいる次男家族に承継させたい。そして家の財産として、守っていって欲しい」というケース。このような場合、遺言だけでは親の意思を実現させることは難しいです。
なぜなら遺言では自分の財産を長男に承継させることは決められますが、長男の次に次男家族に承継させることまでは指定ができないからです。
遺言だけで実現したいと考えた場合には、財産を承継した長男に、「次男家族に承継させる」内容の遺言を作成してもらう必要があります。しかし長男がそのような遺言を残したかは、親はすでに亡くなっているので、確認はできません。
しかし、家族信託契約であれば自分の次、さらにその次まで承継先を指定することができます。そのため「親の次は長男、そして長男が亡くなったら、孫のいる次男家族に受け継いでほしい」ということも家族信託であれば、親が生きている間に指定することが可能です
子供に知的障がいがある場合、就職をして十分な給与を得ることができないケースも多いです。
障害年金を受給している方も少なくないですが、「障害年金以外にも子供に定期的に収入が入る仕組みを構築したい」という相談もよく受けます。例えば「親が賃貸不動産を所有しており、親なきあとの対策として当該不動産より得た賃料収入を障がいのある子供に入るようにしたい」「当該金銭を生活費などの原資として使っていけるようにしたい」という場合、家族信託もそのひとつの方法になります。
子供に知的障がいがある場合、子供自身で賃貸不動産を管理し経営していくことは難しいです。しかし、家族信託を使えば「収益を受け取る人」と「管理する人」とを分けることができます。管理は別の人に任せ、収益は障がいのある子供に入るという仕組みが作れるからです。そして障がいのある子供に相続が起こった時には当該不動産の所有権を、あらかじめ決めた人に渡す仕組みも作ることができます。
正直なところ、頼れる人が見つからず、仕組みを作ることを断念することも少なくありません。頼れる人を見つけることもハードルが高いですが、もしも見つかった場合には親なきあと対策のひとつとして「家族信託」を検討してみてはいかがでしょうか。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る司法書士を探すでは、家族信託にはどんなデメリットがあるのでしょうか。以下のことが考えられます。
以下、詳細を説明します。
家族信託は法律専門職といわれる弁護士や司法書士、行政書士などであっても作ることが難しい契約です。
一般の方が自分で調べて進めることは難しく、家族信託の専門家のサポートを受けながら進めることになります。そのため専門家の報酬、不動産がある場合には不動産登記の手続きにかかる費用などがかかります。家族信託を検討している場合には、我が家の場合にはどのくらい費用がかかるのかについて、専門家に見積もりを取り、確認をして進めていくことが大事です。
また専門家側から見ても、家族ごとにオーダーメイドになっていくこと、継続的に支援が必要になるかなどがわからないと報酬の計算もできないため、見積もりを作るまでに打ち合わせや費用がかかることもあります。
家族信託契約を締結するまでには、専門家との打ち合わせや確認、公証役場に実際に行き契約を締結することなどが必要になります。
また契約を締結した後も、受託者である子供から、受益者である親に最低1年に1回預かっている財産の状況について報告する義務が生じます。特定の要件に当てはまる場合には税務署への書類提出が義務付けられています。
前述したとおり、家族信託に関する判例はまだまだ多くありません。そのためトラブルが発生してしまった場合の帰結について確立されていないことがあります。
また税務についてもまだ不明確なところがあります。代表的なものとして、受託者が融資を受けた借金について、受益者である親の死後、当該親の債務控除の対象になり相続税から控除されるかどうかは国税庁からの明確な回答が出ていない論点です。
家族信託についての情報は、毎年更新されていくので、やはり専門家に支援を受けながら進めていくことが重要です。
家族信託は親の財産を預かり、代わりに管理できますが、そこには管理責任が発生します。そして、対外的にも責任を負います。
例えば、実家の土地建物を家族信託したケースで建物の老朽化が進んでおり、崩れて他人にけがをさせてしまったケース。この場合に、「親」や「受託者である子ども」に過失が認められると、損害賠償を払わなければいけません。
親から信託された財産で不足する場合には、受託者である子どもが自分の財産から払う義務を負います。これを受託者の無限責任といっています。
親の財産を子供が管理し、子供の判断で使っていけることが家族信託のメリットです。
しかし、いざ家族信託契約を締結し子供が財産の管理をスタートした時に、お金の使用用途などはブラックボックスになりやすいです。
そのため親族仲が悪い場合には、使い込みを疑われる可能性もあり、関係がさらに悪化するということも起こりえます。
また、家族信託契約の締結までの進め方も重要です。受託者とならない兄弟のひとりが「自分には相談なく勝手に進められた」としてトラブルに発展する可能性もあります。
家族信託でもできないことがあります。代表的なものが介護サービスの契約や施設入居の契約など親の生活に関する契約を『本人を代理』して行うことは家族信託ではできません。
家族信託は信託契約書の中で定めた財産の管理に関する契約です。一方で介護サービスや施設入居は、財産に関することではなく、親の生活や暮らしに関する契約です。家族信託契約ではカバーできません。
もしも介護施設から求められた場合には、成年後見制度を利用しないと入居契約ができない可能性もあります。その時に子供が後見人になれるようにするには、家族信託契約に合わせて任意後見契約も合わせて準備をしておくことが必要です。
たとえば預金資産が数百万円程度と高額でなければ、あらかじめ生前贈与をしておくのも一つの方法です。贈与された資金から親の介護費用や医療費などを支払うことができるため、家族信託をする必要がなくなります。
家族信託契約は基本的に委託者(財産を預ける人=親)と受託者(財産を預かる人=子ども)の間で結ばれ、受託者は受益者(財産から利益を受ける人=親であることが多い)のために財産を管理、運用および処分します。委託者=受益者である場合は委託者兼受益者と呼ばれます。
任意後見契約は、認知症のリスクなどがある本人があらかじめ後見人になる方を指定する契約です。本人の認知症が悪化し、判断能力が喪失した時には、あらかじめ指定していた人が優先的に後見人に選ばれます。そのため、後見人は信頼している家族や親族を後見人に選ぶことができます。また、家庭裁判所で選任された任意後見監督人が必ず監督に就きます。
一番大きな違いとしては、家族信託は資産管理についてのみ効力を発揮し、介護サービスの契約や施設入居の契約など親の生活に関する契約を本人の代理として行う権限はありません。一方、任意後見契約は後見人に身上監護の権限があり、財産管理だけでなく、生活や医療、そのほか日常の暮らしに関わる契約を代理して行うことができます。
以上、家族信託の必要なケースと不必要なケース、デメリットについて紹介しました。親の認知症対策として考えられている家族信託ですが、家族信託だけでは対応が難しいケースもあります。遺言や任意後見契約、生命保険など他の方法を組み合わせた方がいい場合もありますので、家族信託を結ぶかどうかを迷った時は、上記を踏まえて慎重に検討したうえで、家族信託に詳しい弁護士や司法書士に相談してください。
(記事は2023年6月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の司法書士検索サービスで