目次

  1. 1. 遺留分とは
    1. 1-1. 遺留分が認められる相続人の範囲
    2. 1-2. 遺留分の基礎となる財産の範囲と遺留分割合
  2. 2. 遺留分を渡さずに済む方法
    1. 2-1. 遺留分の放棄
    2. 2-2. 相続欠格
    3. 2-3. 相続廃除
    4. 2-4. 遺言書の付言事項
  3. 3. 相続人の遺留分を減らす方法
    1. 3-1. 養子縁組をする
    2. 3-2. 生前贈与+相続放棄
    3. 3-3. 生命保険
    4. 3-4. 中小企業経営承継円滑化法の特例
  4. 4. まとめ

「遺留分」とは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、相続できる遺産の最低保障額です(民法1042条1項)。

遺言書である相続人の相続分をゼロだと指定しても、その相続人の遺留分を奪うことはできません。遺留分に満たない遺産しか取得できなかった相続人は、遺産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことにより、不足分の金銭の支払いを受けられます(民法1046条1項)。

遺留分が認められているのは、遺言書などによって、被相続人となる人が自由に財産を処分することを認める一方で、法定相続人の相続に対する期待を保護するためです。遺留分は相続人の権利であり、簡単に奪うことはできません。遺言書で安易に遺留分を無視した相続分を指定すると、実際に相続が発生した際にトラブルが生じる可能性が高いです。

しかし非常に限られたケースですが、相続人に対して遺留分を渡さずにすむ場合もありますので、今回はその具体例や方法について解説します。

遺留分が認められる相続人
遺留分が認められる相続人の図版。被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められません

遺留分が認められるのは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。具体的には被相続人の配偶者と子、さらに相続人である場合は直系尊属(父母など)にも遺留分が認められます。

なお、被相続人の子が死亡、相続欠格、相続廃除によって相続権を失った場合、さらにその子(被相続人の孫)が代襲相続人となります(ひ孫以降も同様。民法887条2項、3項)。代襲相続人である孫には、被代襲者である子と同等の遺留分が認められます。

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遺留分の金額は、遺留分の基礎となる財産額に遺留分割合をかけて計算します。

遺留分額=基礎財産額×遺留分割合

遺留分の基礎となる財産は、以下のとおりです(民法1043条~1045条)。

1. 相続財産(被相続人が死亡時に有した財産。負債は控除する)
2. 遺贈(遺言によって贈与された財産。負担付遺贈の場合は、負担相当額を控除する)
3. 以下の期間に行われた生前贈与(負担付贈与の場合は、負担相当額を控除する)
● 相続人に対する贈与:相続開始前10年以内(婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けたものに限る
● 相続人以外の者に対する贈与:相続開始前1年以内

すべての相続人の遺留分割合の合計は、法定相続人の構成に応じて以下のとおりです(民法1042条)。

● 亡くなった人の父母など、直系尊属のみが相続人の場合:基礎財産の3分の1
● それ以外の場合:基礎財産の2分の1

相続人が複数の場合は原則として、上記の遺留分割合に対して法定相続分をかけることで、各相続人の遺留分割合が求められます。

たとえば配偶者と子2人が相続人の場合、遺留分割合は法定相続分の2分の1となります。この場合、配偶者の遺留分割合は4分の1、子2人の遺留分割合は8分の1ずつです。仮に遺留分の基礎財産が4000万円だとすると、配偶者の遺留分額は1000万円、子2人の遺留分額は各500万円となります。

ただし、配偶者ときょうだいが法定相続人の場合は、配偶者に基礎財産の2分の1の遺留分が認められます(きょうだいに遺留分が認められず、配偶者がすべての遺留分を得るため)。

相続人ごとの遺留分の割合
相続人ごとの遺留分の割合の一覧。遺留分が占める割合は基本的に2分の1で、配偶者と子ども一人の場合、それぞれが法定相続分の4分の1が遺留分として認められることになります

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遺留分は法定相続人に認められた権利であるため、被相続人となる人の判断によって奪うことは、原則としてできません。それでも、遺産を一切相続させたくない相続人がいる場合には、以下の方法などによって遺留分を渡さずに済むことがあります。

相続人には、遺留分を放棄することが認められています(民法1049条)。遺留分の放棄が有効に行われれば、遺留分侵害額請求ができなくなります。

ただし、遺留分の放棄は権利者である相続人が任意に行うものであって、強制はできません。

また、被相続人の生前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要であり(同条1項)、その審査は非常に厳しくなっています。権利者本人の自由意思に基づく放棄であることに加えて、すでに多額の生前贈与を受けているなど、十分な代償を与えられているかどうかが審査されます。

そのため、被相続人の生前に遺留分を放棄させることのハードルはかなり高いものと認識すべきでしょう。

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「相続欠格」(民法891条)に該当した者は、遺留分を含めたすべての相続権を失います。

相続欠格事由として挙げられているのは以下の5つで、いずれも相続に関連するきわめて悪質な行為です。

1. 故意に以下のいずれかの者を死亡させ、または死亡させようとしたために、刑に処せられたこと
● 被相続人
● 先順位相続人
● 同順位相続人

2. 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴をしなかったこと(是非の弁別がない場合、および殺害者が自己の配偶者または直系血族であった場合を除く)

3. 詐欺または強迫によって、遺言やその撤回、取り消し、変更を妨害したこと

4. 詐欺または強迫によって遺言をさせ、または遺言を撤回、取り消し、変更させたこと

5. 被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄または隠匿したこと

虐待や重大な侮辱などの著しい非行があった推定相続人については、被相続人となる人は、家庭裁判所に対して「相続廃除」を請求できます(民法892条)。相続廃除の審判を受けた推定相続人は、遺留分を含めたすべての相続権を失います。

<著しい非行の例>
● 被相続人に対する虐待
● 被相続人に対する重大な侮辱
● 被相続人の重要な財産を勝手に処分すること
● 重大な犯罪によって有罪判決を受けたこと
● 配偶者が、不貞行為や悪意の遺棄により、被相続人との婚姻関係を破綻させたこと

遺言書を作成する際に、付言事項として「遺留分侵害額請求をしないでほしい」旨を記載することも考えられます。ただし、付言事項に法的拘束力はなく、あくまでも「お願い」にとどまります。

上記のとおり、遺留分を一切渡さずに済む場合は非常に限られています。その一方で、被相続人が生前の段階において、相続人の遺留分を減らしておく方法は、以下のとおりいくつか存在します。

養子縁組をすると、子1人あたりの相続分が減ることに伴い、遺留分も減ります。

たとえば配偶者や子が相続人のケースで、養子縁組によって子が2人から3人に増えたとします。この場合、子の遺留分割合である「4分の1」を2人で分け合っていたのが、3人で分け合うようになります。その結果、子1人あたりの遺留分割合が「8分の1」から「12分の1」に減少します。

遺産を渡したい親族などと養子縁組をすれば、遺産を渡したくない相続人の遺留分割合を減らすことができるため、一石二鳥と言えるでしょう。

ただし、実質的な親子関係を形成する意思がないと判断され、養子縁組が無効となるリスクがある点には注意が必要です。

相続人に対する生前贈与は10年間、相続人以外の者に対する生前贈与は1年間が経過すると、遺留分の基礎財産から除外されます。

相続放棄をした人は、もともと相続人であっても「相続人以外の者」として扱われます。そのため、財産を与えたい相続人に対して生前贈与を行い、自身の死後に相続放棄をしてもらうことで、ほかの相続人の遺留分をかなり減らせる可能性があります。

ただし、生前贈与に対しては贈与税が課される点に注意が必要です。また、贈与によって振り込まれた金銭を預金口座に入れっぱなしにしていると、口座名義人と実際の所有者が異なる「名義預金」と判断されて遺留分の基礎に含められてしまう可能性がある点にも注意してください。

生命保険から支払われる死亡保険金は、受取人の固有財産であるため、遺留分の基礎財産に含まれません。

そのため、生前の段階で生命保険の掛金を払い続けることにより、遺留分の基礎となる相続財産を減らせます。

被相続人となる人が経営する会社の株式については、中小企業経営承継円滑化法に基づく「除外合意」「固定合意」を行うことが遺留分対策になり得ます。

1. 除外合意(同法4条1項1号)
後継者に対して贈与した株式を、遺留分計算の基礎から除外する旨の合意です。

2. 固定合意(同項2号)

後継者に対して贈与した株式を遺留分計算の基礎に算入する際、その価格を固定する合意です。後継者の経営努力によって高めた企業価値が、遺留分侵害額請求によってほかの相続人に奪われてしまう事態を防げます。

ただし、除外合意または固定合意を行う際には、相続人全員の同意が必要です。相続人に同意を促すためには、除外合意と固定合意とを併せて「付随合意」(後継者以外の相続人が受けた生前贈与を、遺留分計算の基礎から除外する旨の合意)をすることが考えられます(同法5条)。

遺留分対策にはさまざまな方法がありますが、いずれも万能ではなく、それぞれ法的な注意点が存在します。

相続発生後のトラブルを防ぐためにも、遺留分対策を検討する際には、早い段階で弁護士に相談しましょう。相続会議のサービスには全国の弁護士を検索できるものがありますので、ぜひそちらをご活用ください。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)