家族経営でも事業承継の専門家に相談を

家族経営の事業承継は、第三者への事業承継とくらべると、後継者が親族ということもあり、経営者の引退を意味する事業承継について話し合いにくいことも多いでしょう。こういった経緯から、経営者が亡くなる直前まで現役を退かず、事前の対策が疎かにされるケースが多いのです。

その結果、遺言が作成されないまま経営者の相続が発生し、相続人たちで紛争になったり、税金の対策を行わなかったことで相続人に多額の相続税等がのしかかったりすることも少なくありません。

これは、会社の大小にかかわらず発生する問題です。家族経営だからといって事業承継対策を軽視せず、経営者が現役のうちから弁護士や税理士等の専門家に相談しておくと、円滑に進めることができます。

生前にできる親族内の事業承継対策

相続に備えた遺言の作成

遺言を作成すれば、特定の推定相続人に特定の遺産を相続させることができます。つまり、遺言で会社の後継者となる推定相続人に会社の株式を相続させ、他の相続財産を後継者以外の推定相続人に相続させることが可能です。

遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの種類があり、もっとも無効となりくい確実な方法が、公証役場で作成する公正証書遺言です。ただ、相続財産全体の中で会社資産(株式や事業用資産の価値)の割合が大きい場合には、後継者以外の推定相続人の遺留分に留意する必要があります。
遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない範囲を保障する制度をいいます。子や配偶者の場合は、いずれも法定相続分の2分の1が遺留分となります。

つまり、後継者以外の遺留分を侵害するような遺言の内容だと、相続開始後に遺留分減殺請求により、相続人たちで争いが生じる可能性があります。これを避けるため、後述する経営承継円滑化法の特例の利用を検討する必要があります。

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債務・保証・担保の承継

中小企業の場合、金融機関からの借り入れに経営者個人の保証が付いていたり、経営者個人の資産に担保が設定されていたりすることが多いです。経営者から後継者に会社を引き継ぐためには、生前から準備してこれらの個人保証や担保も後継者に引き継いでいく必要があります。

変更が認められるかは最終的に金融機関の判断となりますが、まだ先のことと思わず、早めに金融機関と事業承継について協議していくとよいでしょう。また、個人保証や担保を解消するために、完済できるのであれば、役員退職金を活用して経営者が会社から金員を受け取り、返済に充てるということも考えられます。

生前贈与及び売買

・株式の生前贈与
生前贈与とは、経営者が生前に後継者へ、株式や事業用資産を贈与していく方法です(いわゆる暦年贈与)。もっとも、贈与税の負担は大きいため、贈与税がかからない範囲で毎年少しずつ贈与を行うなど、計画性をもって進めていくことが考えられます。

また、相続時精算課税制度や後述する非上場株式等についての贈与税の猶予及び免除制度の活用も検討されるべきでしょう。

・株式の譲渡(売買)
株式の譲渡とは、後継者が経営者から株式などの事業用資産を買い取る方法をいいます。譲渡の場合は、取得した資産が相続財産とはならないため、遺留分を考慮する必要がないことがメリットです。しかし、譲渡に際しては後継者が譲渡対価となる資金を用意する必要があるため、資金調達が課題となります。したがって、親族内での承継では一般的ではありません。

会社の評価額を低下させる方法

相続財産全体における会社(株式)の価値の割合を低下させる方法には、以下の方法があります。

・役員退職金の支給
経営者が退職する際に、会社から退職金を経営者に支給する方法です。これにより、支給した退職金の分だけ、会社の価値を低下させることができます。

・自己株式の取得
会社が、自己の発行する株式を経営者から取得する方法です。これにより、当該自己株式の取得分だけ経営者に対して現金を交付することになるので、会社の価値を低下させることができます。

経営承継円滑化法の活用

事業承継を円滑に行うため、「中小企業における経営の承継の円滑に関する法律」を活用すると、民法上の遺留分への対応や事業承継に伴う税負担の軽減を図れます。

遺留分に関する民法の特例

相続財産全体の中で会社資産(株式や事業用資産の価値)の割合が大きい場合は、遺留分を侵害する結果となってしまいますが、経営承継円滑化法を活用して事前に対策をすることができます。

具体的には、後継者が、遺留分を有する権利者の全員との合意及び所定の手続き(経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可)を条件として、以下の措置を利用することができます。

・除外合意
除外合意とは、生前贈与した株式や事業用資産の価額を、遺留分の算定基礎となる財産の価額から除外する合意をいいます。これにより、除外された株式等の財産が、遺留分減殺請求の対象からも外れます。

・固定合意
固定合意とは、「一定の時期に会社の価値を確定させる合意をすること」ができる合意をいいます。これはその後、後継者の貢献によって株式等の会社の価値の上昇分が、遺留分を算定基礎となる財産の価額に含まれないようにすることで、後継者の経営意欲を阻害しないための特例です。

・附随合意
附随合意とは、上記の除外合意または固定合意をする場合に併せて、後継者以外の推定相続人が経営者からの贈与や遺贈によって取得した財産について、「その価額を遺留分の算定基礎となる財産の価額に算入しないこと」を合意できます。後継者とそれ以外の推定相続人の公平を図るための合意になります。

事業承継税制の活用

事業承継税制とは、事業承継に伴う税負担を軽減する特例をいいます。非上場株式等や個人の事業用資産に係る贈与税・相続税について、都道府県知事の認定を受けた場合に、贈与税・相続税の納税を猶予または免除を受けることができます。

その他

上記以外にも、所在不明の株主がいる場合に通常より短期間で所在不明株主から株式買取を行う特例や、事業承継の際に必要となる資金について、事業承継に伴う幅広い資金ニーズに対応できる金融支援策を利用できる場合があります。

事前対策なく経営者の相続が開始した場合の対応策

何らかの事情で事前に何の対策もなく、経営者の相続が開始した場合にはどうなるか見ていきたいと思います。

遺産分割の基本

たとえば経営者の奥さんと子ども2人の計3人が相続人の場合、配偶者が相続財産の2分の1を、子どもたちがそれぞれ4分の1ずつを相続します。相続財産には、積極財産(資産)と消極財産(負債)の双方があり、いずれの財産も相続することになります。

遺産分割の方法

・遺産分割協議
まず、相続人間で誰がどの財産を相続するかを協議(話し合い)します。基本的には法定相続分に従って各相続人が相続することが一般的ですが、相続人間で合意すれば法定相続分と異なる割合で相続することも可能です。

・遺産分割調停・審判
相続人間で協議がまとまらない場合は、各相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができ、裁判所の場で話し合うことになります。それでも相続人間で調停がまとまらない場合は、家庭裁判所の判断によって遺産分割の審判がなされます。家庭裁判所の審判は、原則として法定相続分による分割となります。

遺産分割の審判の結果、資産が相続人間で共有という結果になることもあり、その場合は共有関係を解消するために共有物分割の手続きをとる必要があり、紛争が長期化することもあります。

まとめ

事業承継の方法や制度の活用については、最適な方法を個別に検討する必要があります。小規模な親族での事業承継だとしても、事業承継の準備を軽視せず、事業承継に関する税制や相続などについて、必ず一度は税理士と弁護士に相談してみてください。
(この記事は2021年11月1日現在の情報に基づきます)