相続税申告は自分でできる? 手続き方法から必要書類、注意点まで解説
相続税申告を自分でしてみようと考えている人は少なくありません。しかし、相続税の申告はかなり特殊です。正しく手順を踏まないと申告書は作成できません。また、うっかりすると申告と納税のやり直しが必要です。自分で申告する場合の方法と注意点を、税理士が解説します。
相続税申告を自分でしてみようと考えている人は少なくありません。しかし、相続税の申告はかなり特殊です。正しく手順を踏まないと申告書は作成できません。また、うっかりすると申告と納税のやり直しが必要です。自分で申告する場合の方法と注意点を、税理士が解説します。
目次
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相続をしたからといって常に相続税の申告と納税を行うわけではありません。次のいずれかに当てはまるときに限り、必要となります。
相続税の申告が必要なのは、基本的に相続税がかかる場合です。相続税がかかるのは、亡くなった人の正味の遺産総額が基礎控除額を超えたときです。
「相続税計算シミュレ-ション」は、家族構成とおおよその財産額を入力すると、相続税額がいくらかかるかを把握することができます。
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ここで言う基礎控除額とは「相続財産があっても相続税が生じない最低ライン」のことです。「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。
一方、正味の遺産総額は、次の流れで計算した結果の③を言います。
正味の遺産総額が基礎控除額を超える部分が課税される遺産総額となり、これに相続税がかかります。
先ほどの計算式で正味の遺産総額が基礎控除額を超えても、相続税が0円になることがあります。次の制度を適用したときです。
この2つの制度を活用する場合、相続税がかからない場合でも申告が必要になります。期限内申告が適用の条件となっているからです。
相続で財産をまったく引き継がなくても、相続税の申告が必要なときがあります。被相続人(以下「亡くなった人」)の生前に、相続時精算課税制度で財産をもらったときです。
相続時精算課税制度の適用を受けて贈与された財産は、相続財産に足し戻さなくてはなりません。この制度で生前贈与を受けたのなら、相続で財産を受け取っていなくても相続税の申告が必要です。
相続税申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行わなくてはなりません。ただ、だからと言って申告書をすぐに作成することはできません。次のように、遺産分割協議を行い、協議書を作成するまでの手順を踏んでおく必要があります。
相続では、亡くなった人の意思が優先されます。「誰にどういう財産を遺したい」と書いた遺言があるなら、それに従わなくてはなりません。そのため、最初に遺言書を探します。自筆遺言証書なら裁判所での検認が必要ですが、公正証書遺言なら不要です。
遺言の指定がない財産は、相続人が相続します。この相続人は、亡くなった人の周辺にいる人だけとは限りません。前妻との子どもや認知した子も相続人になります。亡くなった人の誕生から死亡までの戸籍をすべて確認し、相続人を確定しなくてはなりません。
相続の対象となる財産や債務をすべて調べます。ここで漏れがあると、遺産分割協議を再度行わなくてはなりません。それだけでなく、相続税の申告と納税もやり直すことになります。
遺言書の有無、相続人の確定と相続財産の洗い出しが終わったら、遺産分割協議に入ります。遺産分割協議は「遺言による指定のない財産をどう分けるか」を相続人同士で話し合う会議です。
遺産分割協議が完了したら、協議で決めた遺産分割の内容を書面に書きます。これを遺産分割協議書と言います。相続人全員の実印を押し、それぞれの印鑑証明書を添付します。
相続税は、相続財産それぞれの評価額に基づいて計算します。そのため、相続税評価額を計算しなくてはなりません。この評価は、相続税の財産評価基本通達に基づいて行います。
相続財産の評価をし、相続税を計算したら相続税の申告書を作成します。作成が完了したら、申告書など必要書類を亡くなった人の住所地を管轄する税務署に提出します。提出期限は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。この日までに納税も済ませます。
相続税の申告は、申告書を税務署に提出して行います。申告書だけでなく、相続の状況がわかる書類の添付が必要です。最低限、以下の書類が求められます。
相続税の申告書は第1表から第15表まであります。すべてを添付するのではなく、相続の状況に応じて必要なものだけ提出します。
申告書は税務署のほか、国税庁のサイトでも入手可能です。ただし、申告書の年分に注意しましょう。相続が生じたのが2021年なら「令和3年分」、2022年なら「令和4年分」を使います。詳しくは、国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧(令和4年分用)」のページをご確認ください。
遺言があるなら遺言書を、ないなら相続人が作成した遺産分割協議書の添付が必要です。コピーでもかまいません。なお、遺産分割協議書を提出する際、相続人全員の印鑑証明書も添付しましょう。
申告する本人かどうかの確認書類です。次のいずれかの組み合わせとなります。
税務署の窓口で提出するなら原本の提示でもかまいません。郵送ならコピーを添付します。
亡くなった人のすべての相続人を明らかにするための書類です。戸籍謄本を添付することが多いのですが、法務局で発行している法定相続情報一覧図でもかまいません。
相続税の申告書にはいくつか種類があります。また、書き方にも注意が必要です。
申告書は第1表から第15表まであります。すべてを使うわけではありません。第1表と第2表を軸とし、相続財産や相続の状況に応じてほかの別表を選んで作成することとなります。
申告書の第1表と第2表は、次のような用紙となります。
相続税の申告書(第1表)
相続税の申告書(第2表)
申告書は、下の図のカッコ書きの数字の順番で書き進めていくといいでしょう。最後に第1表や第2表を作成する流れです。
なお、細かい計算方法は国税庁の「相続税の申告のしかた」をご確認ください。
相続税の申告書は、専用のソフトを使って作成することもできます。このソフトの使用には、次のようなメリットとデメリットがあります。
相続税のソフトを使えば、自動的に課税価格や相続税の額を計算してくれます。手計算や手書きの手間がかからないので楽です。
相続税のソフトは、自動計算するだけです。財産評価額が正しいかどうかまでは判定できませんので、注意が必要です。
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相続税申告に強い税理士を探す相続税の申告を自分で行うときは、次の点に注意しましょう。
一般人で苦もなく評価できる財産は現金と預貯金、上場株式等と家庭用財産くらいかもしれません。ほかの財産は手間がかかります。特に土地と非上場株式は評価が難しいです。
土地は権利関係や形状によって細かい評価が必要です。非上場株式の評価は、会社の規模や株主の立場によって評価が大きく変わります。
相続税の申告では相続だけに意識が向きがちです。しかし、生前に贈与された財産も相続税の対象となります。次の2つです。
特に相続時精算課税制度で贈与された財産は注意が必要です。10年前の贈与だと、贈与された本人が忘れていることもあります。申告前に、税務署に開示請求をするといいかもしれません。詳細については、国税庁の「贈与税の申告内容の開示請求手続」のページをご参照ください。
状況によっては、遺産分割協議が進まないこともあります。10カ月以内に協議を完了させるのが難しいと判断したら、いったん未分割のまま申告したほうがいいでしょう。
未分割で申告するときの相続税は「法定相続分で相続した」という前提で計算します。そして遺産分割協議を完了させたあと、実際の相続分に合わせて計算し、申告と納税をやり直します。
特に小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用をしたいのなら、期限内申告は必須です。未分割のまま期限内申告をする際、「3年以内の分割見込書」を申告書に添付しましょう。後日、申告をやり直したときに適用を受けられます。
国税庁の「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」が参考になります。
税額の計算では、相続人それぞれの状況に応じて控除や加算をします。相続人が未成年や障害者なら年齢に応じた税額控除をします。相続人が「配偶者及び一親等の直系血族」以外なら、相続税は2割増しになります。一般の方だと気づきにくいので注意しましょう。
「名義は子や孫だけど、管理運用しているのは亡くなった人だった」という預貯金があります。これを名義預金と言います。名義預金を作った本人は「名義が子だから子の財産だ」と思いがちですが、相続税では管理運用している人の財産として考えます。そのため、名義預金も相続財産に含めて申告しなくてはなりません。
ほかにも、自分で申告するときは次の点が不安になりがちです。
また、以下のように具体的な場合でも税理士に依頼したほうがいいでしょう。
というのも、上記のようなケースだと、相続財産の確認などに時間がかかったり、評価が難しくて正しく計算できなかったりするためです。無理に自分たちで申告すると、申告漏れや特例の判断ミスなどを税務署に指摘され、二度も三度も手間がかかる破目になるかもしれません。それなら税の専門家である税理士に頼んだほうが安心です。多少お金はかかりますが、ストレスから解放されて身も心も楽になり、時間を有効に使うことができます。
家族が亡くなったあとはやるべきことが非常に多く、忙しい中で専門知識を身につけて完璧に理解したうえで10カ月以内で申告するのは非常に大変です。繰り返しになりますが、状況によっては、税理士に頼んだほうが安心です。お金はかかりますが、正確な申告書を作成してくれます。無理に自分で申告するより、税理士に依頼したほうがよいでしょう。
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(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)