「財産評価基本通達」とは 相続税申告の評価の基本 最高裁判決で話題の例外規定も解説
「財産評価基本通達」とは、相続や贈与で取得した財産の評価方法を国税庁が示したものです。通常、この通達に沿って財産の金額を評価し、相続税や贈与税の金額を計算します。ただし、2022年4月の最高裁判決のように、例外規定で通達による評価が否定されるケースもあります。例外規定の発動の基準も含め、税理士が財産評価基本通達の内容を解説します。
「財産評価基本通達」とは、相続や贈与で取得した財産の評価方法を国税庁が示したものです。通常、この通達に沿って財産の金額を評価し、相続税や贈与税の金額を計算します。ただし、2022年4月の最高裁判決のように、例外規定で通達による評価が否定されるケースもあります。例外規定の発動の基準も含め、税理士が財産評価基本通達の内容を解説します。
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財産評価基本通達は、国税庁による相続財産や贈与財産の評価の仕方に関するマニュアルのようなものです。なぜ存在するのでしょうか。
相続税は、相続や遺贈で受け取った財産にかかります。このとき問題になるのが財産の金額です。相続税法22条では、この金額を「財産を取得したとき(死亡日)の時価で評価する」としています。なお、ここで言う時価は、いろいろな人が自由に取引する中で自然と決まる金額を指します。売り急いだ場合や親族間での取引金額は含めません。
一口に「時価」と言ってもさまざまです。上場株式などは、時々刻々と変化しています。
土地の価格も一定ではありません。売買の目安となる実勢価格、地価公示価格、固定資産税評価額、路線価などがあります。
土地の時価は、取引の状況や時間の推移によっても変わります。例えば、親子なら「経済的に大変な子どもの負担を減らしてあげたい」という理由で、親が持つ土地を子どもに格安で売るケースもあります。反対に、不動産業者が仲介するような第三者同士の売買なら、「高く売りたい」「利益を取りたい」といった狙いで相場からやや高めに設定する場合もあるでしょう。「急いで売りたい」のであれば、早めに買ってもらえるように価格を安く設定する傾向があります。
どの時価を使うべきかはっきりしないままでは、相続税の計算も安心してできません。また「Aさんは高い時価を使いBさんは低い時価を使う」となると、課税が不公平になります。誰もが簡単に計算し、相続税が公平になるようにするために、財産評価基本通達では時価の評価方法を定めています。
なお、通達とは、本来、行政官庁の上位の機関が下位の機関に対し、事務についての指示や命令をまとめた文書です。国民に対する法的な拘束力はありませんが、実務の相続税申告は10カ月以内に行う必要があります。また、評価額をめぐって税務署とトラブルになるのは避けたいものです。そのため、多くの相続税の申告では、通達に従って財産評価をしています。
財産評価基本通達は財産ごとの評価方法をどのように定めているのでしょうか。主な財産について、それぞれ確認していきましょう。
自宅の敷地は、路線価地域にあるなら「路線価方式」で、倍率地域にあるなら「倍率方式」で評価します。どの地域にあるかは国税庁の「財産評価基準書」で確認できます。
路線価方式と倍率方式それぞれの評価方法は次のとおりです。
路線価方式
【評価の計算式】路線価×補正率×宅地面積(㎡)=評価額
倍率方式
【評価の計算式】固定資産税評価額×倍率=評価額
倍率方式は路線価が定められていない地域の土地などを評価する場合に用いられます。下の掲載例のように、評価倍率表(一般の土地等用)で「宅地」の部分に記されている数字が、「宅地」の価額を評価する場合に固定資産税評価額に乗じる倍率となります。
なお、自宅や賃貸アパートの土地は、条件に当てはまれば小規模宅地等の特例で評価額が下がります。小規模宅地等の特例については下記の記事を参考にしてみてください。
自宅の建物は「固定資産税評価額×1.0」で評価します。つまり、固定資産税の課税明細書や固定資産課税台帳に書かれている固定資産税評価額が、相続税での評価額となります。建築中の建物は「相続開始時までにかかった建築費用×70%」が評価額です。
なお、電気・ガス設備のように、自宅の建物と一体化している附属設備は、建物の一部なので評価は不要です。一方、門扉や塀、庭木や庭石などは、建物とは別に評価します。
自宅の建物の評価方法をまとめると、次のようになります。
賃貸アパートは、持ち主本人が使えない部分があるため、自宅より評価額も下がります。そのため、賃貸アパートの敷地の評価額は、次の図のように計算します。
借家権割合、借地権割合、賃貸割合はいずれも「持ち主が自由に使えない部分」を表します。下の図のように、借地権割合は路線価図でアルファベットごとに表記されています。
借家権割合は基本的に一律30%ですが、年分や地域によって40%になるところもあります。賃貸割合は、建物の各部屋の床面積全体のうち、賃貸している部屋の床面積が占める割合のことです。
賃貸アパートだと、持ち主本人が使えないぶんだけ評価額が下がります。賃貸アパートの建物の評価の計算式は、次の図のような求め方になります。
この借家権割合も賃貸割合も、先ほどの賃貸アパートの敷地と同じものとなります。
不動産の評価については下記の記事も参考にしてみてください。
上場株式の評価は、次の4つの金額のうち、最も低いものを選びます。なお、いずれの額も証券取引所が公表しているものです。
死亡保険金とは、亡くなったあとに受け取る生命保険金のことです。保険金を受け取ったら、最初に「保険料負担者、被保険者、受取人が誰か」を確認しましょう。誰がどの立場なのかで、税金が変わります。生命保険金に関係する人が亡くなったからといって、相続税がかかるとは限りません。
上記の表の1の欄のように「相続税がかかる生命保険金」に当てはまったら、受け取った保険金の金額が相続税評価額となります。
ただし、相続人の受け取る死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が適用されます。結果、相続人が受け取った死亡保険金の評価額は、次のようになります。
なお、相続放棄をした相続人や、相続欠格や相続廃除で相続権を奪われた相続人、相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、非課税枠は使えません。
死亡退職金とは、故人が受け取るはずだった退職金で、死亡後3年以内に支給額が確定したものを言います。退職は、死亡退職と生前退職の両方を含みます。
死亡退職金も死亡保険金と同様、相続人が受け取ったら「500万円×法定相続人の数」で計算する非課税枠が適用されます。結果、相続人が受け取った死亡退職金の評価額は、次の式で計算した金額となります。
死亡退職金も死亡保険金と同じく、相続放棄をした相続人、または相続欠格や相続廃除で相続権を奪われた相続人、相続人以外の人が受け取った生命保険金に非課税枠は使えません。
自動車は、相続開始時の売買実例価格が評価額となります。売買実例価格とは、実際に市場で売買されている価格のことです。ただし、売買実例価格が不明なら、「新品の小売価格-償却費相当額」で評価をします。
家庭用財産も自動車と同様、原則は売買実例価格が評価額です。ただし、1個あるいは1組の価格が5万円以下なら、一括で評価します。実際は、個別に評価を下すのが難しいので「家財一式10万円」などとするのが一般的です。なお、家庭用財産の評価額は、合計で10~50万円になるケースが多いです。
ただし、家庭用財産でも、高価な家電やアンティークのソファのように、1個あるいは1組の価格が5万円を超えるなら、個別に評価が必要です。このときの評価額は売買実例価格の他、専門家からの意見に基づく評価額となることがあります。
預貯金の評価額は「死亡日の預け入れ残高+利息」です。なお、ここで言う利息は原則、「死亡日にすでに発生している利息」となります。ただし、普通預金のように利率が低い預貯金なら、利息を含めず計算しても構いません。
外貨預金は、外貨換算が必要です。このときの為替は原則、死亡日の最終TTB(対顧客直物電信買相場)を用います。そのため、評価額は原則、「(死亡日の預入残高+利息)×死亡日の最終TTB」となるのです。なお、このTTBは相続人の取引金融機関の為替を使います。「対顧客電信買い相場(TTB)」に関しては、下記の記事をご確認ください。
相続財産は原則、通達に従って評価します。しかし、例外的な評価をするときもあります。総則6項が発動したときです。
総則6項とは「財産評価基本通達の6項」を言います。次のような内容です。
要は「通達で評価をするとかえって課税が不公平になるようであれば、国税側で評価をする」ということです。この総則6項が発動することは、きわめて稀です。しかし、行き過ぎた節税をすれば、適用されることがあります。
実際に、総則6項が発動した例を確認しましょう。2022年4月の最高裁で判決が下った事例です。
納税者側は、賃貸マンションを通達で評価し、「相続税0円」で申告していました。しかし、税務署側はこの申告を「著しく不適当」と判断、不動産鑑定を行い、評価をし直して課税しました。これを不服とした納税者側が訴え、最高裁まで争われたのです。結局、税務署側の言い分が認められ、不動産鑑定評価額が相続税評価額として採用されました。
何をもって「著しく不適当」とするかは明確には示されていません。ですが、2022年4月の最高裁判決を含め、過去の事例を見ると、「節税度合が行き過ぎた結果、課税が不公平になる」がポイントになると見られます。
先ほどの最高裁判決の事例を確認しましょう。納税者側の相続税の申告上の評価額と税務署側の評価額はそれぞれ次のとおりです。
金額を比較すると、納税者側の評価額は購入価額より約10億円も低くなっています。物件購入のためのローンまで含めて計算した結果、相続税額が0円になったのです。
一方、特に相続税対策をせずに13億円超の財産を相続したら、相続税は2億円を超えます。つまり、ほかの納税者が相続税対策をせず、13億円超の財産を相続したら、2億円超の相続税がかかるわけです。0円と2億円超とでは、かかる相続税の額があまりにも違います。
そのため、税務署側は、納税者側の行為を行き過ぎた節税と考え、「著しく不適当」だとして総則6項を発動したのです。なお、2022年4月の最高裁判決で通達評価が否認されたケースについては、下記の記事で詳しく説明されています。
2022年4月の最高裁判決の事例でもう一つ意識したいのが「相続前に節税目的の行為が行われた」という点です。偶然によるものではなく意図的に過度な節税が行われたと見られたのです。
最高裁判決の事例では、節税意図をうかがわせる事実に次の2つがありました。
「90代での賃貸マンションの購入が投資目的だ」と言うには無理があります。相続税の節税目的だったと見るのが自然です。そして、銀行内の稟議書の言葉が節税目的を裏付けています。「やりすぎ節税」かどうかは、金額だけでなく、購入時などの状況も見たうえで判断されるのです。
総則6項という例外規定が発動する可能性はほとんどありません。過去10年の発動率は0.006%だとされています。しかし、過度な節税は注意したほうがよいでしょう。
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相続税申告に強い税理士を探す財産評価を自分で行うときは、次の点に注意しましょう。
土地は評価が難しいのが現実です。すべての土地が、正方形のような整った形ならいいのです。しかし多くの土地は、いびつな形だったり、奥行きが長すぎたりしています。このような土地は、図面を引いて整った土地と比較し、複雑なプロセスで評価をしなくてはなりません。
このほか、「借地権が設定されている」などといった事情も評価に反映します。一般の人だけで正しく評価するのは難しいかもしれません。
死亡後に受け取る生命保険金は、判断が難しいです。「誰が保険金を負担し、誰が被保険者となったのか」を丁寧に調べないと、評価を間違えるかもしれません。特に相続放棄をした人や相続権を法律により奪われた人が受け取った死亡保険金には注意です。受け取ることはできても、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠は使えません。
また、故人が本来受け取るはずだった生命保険金を相続人が受け取っても、非課税枠は使えません。「保険料負担者と被保険者が故人」「受取人が相続人」という死亡保険金ではないからです。
財産評価以前の問題ですが、財産の見落としに注意しましょう。たとえば名義預金です。子や孫の名義であっても、通帳や印鑑を被相続人が管理していたのなら、相続財産になります。名義預金を相続財産に含めず申告をしてしまうと、後日、申告のやり直しが必要です。過少申告加算税や延滞税といったペナルティもかかります。
今回は相続財産の評価について解説をしました。相続財産の評価は、簡単そうに見えて難しいものも少なくありません。また、手間と時間がかかります。家族だけで行うより、税理士に一括して依頼したほうが安心でしょう。
(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)
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