目次

  1. 1. 贈与税がかかる二つのもの
    1. 1-1. 生きている個人が生きている個人からもらった財産
    2. 1-2. 税法上のみなし贈与財産
  2. 2. 贈与税がかからないもの
    1. 2-1. 扶養している家族のための生活費や教育費
    2. 2-2. 個人から受け取る香典や花輪代、お歳暮やお中元、お年玉やお見舞いなど
    3. 2-3. 財産の持ち主が亡くなった年に贈与された財産
    4. 2-4. 教育資金や住宅購入のための資金、結婚・子育てのための資金で非課税とされるもの
  3. 3. 贈与税の制度は2つある
    1. 3-1. 暦年課税制度 110万円を超えたら申告・納税を
    2. 3-2. 計算方法
  4. 4. 相続時精算課税制度 相続財産に足し戻す点に注意
    1. 4-1. 計算方法
  5. 5. 贈与財産の金額は法律によって評価する

贈与税とは、相続以外の場面で個人からお金や不動産、株式などの財産をもらったときに納付する税金です。贈与税の制度には「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つがあります。ここでは、贈与税のかかるもの・かからないものについて確認します。

「何かをもらったら贈与税がかかる」というイメージを持っている方が多いのですが、税法上は次の二つのものに贈与税がかかります。

  1. 生きている個人が生きている個人から受け取った財産
  2. 税法上のみなし贈与財産

以下、それぞれについて説明します。

多くの人が知っている典型的な贈与です。この贈与は民法という法律で定められた契約となっています。そのため、財産をあげただけではなく、あげる行為に次の3要素の全てが備わっていないと、法律上「贈与があった」と認められず、思わぬ課税をされることがあります。

  • あげる側だけが財産を与える責任を負い、もらう側には何の責任もないこと
  • お互いに「あげます」「もらいます」と意思表示をし、贈与に合意していること
  •  無償で財産をあげること

子ども名義の預金をこっそり作ってお金を振り込んでも、本人の了解を得ていないので贈与になりません。また、父親の仕事の手伝いをして受け取ったお金は、仕事の手伝いという役務を提供したからこそ受け取った対価であるため、贈与には当たらないのです。

この贈与は民法の規定にない、税法独自の贈与です。1.の贈与だけだと、受け取る側が得をしているにも関わらず納税を免れてしまい、他の納税者と公平でなくなってしまうため、「みなし贈与」として規定されています。次のようなことに該当する場合、税法で「贈与があった」とみなされるため、得した側は贈与税を納めなくてはなりません。

  • 夫名義の住宅のローンを夫婦で半分ずつ返済した
  • 夫婦で折半して購入したマンションを妻名義にした
  • 借金が帳消しになった
  • 親に税金を肩代わりしてもらった
  • 父が保険料を負担してくれたおかげで生命保険の満期金を受け取れた

タダで財産をもらうと贈与税がかかります。しかし、中には「経済的に困っているからお金をもらった」「生活に必要なお金を渡した」ということもあります。このような事情があると、贈与税はかかりません。具体的には次のようなケースになります。

親子や夫婦といった扶養家族に渡す生活費や教育費には贈与税がかかりません。ただ、常識から考えて多すぎるものは贈与税がかかります。また「生活費や教育費に」と言いながら受け取ったお金を投資に充てると贈与税を納めなくてはなりません。

社会生活の礼儀として渡されるお金や物には贈与税はかかりません。ただ、1.と同様、常識的に考えて多すぎると税金がかかります。

生前に財産をあげた人が贈与した年中に亡くなると、もらった人にかかる税金は次のようになります。

  • 財産をもらった人が相続か遺言で財産を引き継いだとき…贈与税がかからない
  • 財産をもらったけれどその後、相続等で遺産を引き継いでいない人…贈与税がかかる

相続か遺言で財産を引き継いだ人は、後々相続税の申告をします。そのため、贈与と相続が同じ年に発生したのなら、贈与と相続をまとめて申告すればよいのです。一方、相続でも遺言でも財産を受け取ってない人は、贈与税の申告をしなくてはなりません。

親や祖父母からもらった教育資金や住宅購入のための資金、結婚・子育てにあてるための資金のうち、贈与税の非課税措置の対象となるものは、贈与税がかかりません。ただし無条件で非課税にはなりません。法律で決められた条件を満たし、手続きを行う必要があります。

この他、離婚時の財産分与や賠償金も贈与税はかかりません。

贈与税の制度には「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」の2つがあります。

暦年課税制度とはいわゆる一般的な贈与税です。1月1日から12月31日までに1人の人が受け取った財産に対して課税します。1年間で受け取った財産額の合計が110万円以下なら贈与税はかかりません。逆に110万円を超えると、財産を受け取った人は翌年の3月15日までに贈与税の申告・納税をする必要があります。

贈与税がかかることになっても注意が必要です。贈与されたのが直系の血縁関係かそれ以外かで税率は変わります(図1参照)。18歳以上(ただし、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の子や孫が財産を親や祖父母からもらうケースでは、他の関係での財産の贈与よりも贈与税が安くなります。

18歳以上の人が親や祖父母から財産をもらったときの贈与税率
贈与税の計算(図1-1)
贈与税の計算(図1-2)

財産をもらうと、贈与税だけでなく相続税も気にしなくてはなりません。贈与者が亡くなる日以前の3年間にもらった財産はすべて相続財産に加算されます。この制度は「生前贈与加算」といい、死期を予知した贈与をして相続税を不当に減らすことを防ぐために作られました。

暦年課税制度における生前贈与加算は相続開始前3年以内の贈与が対象でしたが、2024年から7年に変更されました。2024年1月1日以降の贈与については、段階的に生前贈与加算の期間が延長され、2031年1月1日からは完全に7年間の加算に移行されます。「生前贈与で相続税を節税できる」と言われますが、この生前贈与加算の対象になると節税効果はなくなります。非課税枠110万円以下で贈与した財産も相続税の課税対象となるからです。

ただし、生前贈与加算の対象となった贈与で納めた贈与税は、相続人の納めるべき相続税から差し引くことができます。

暦年課税制度の贈与税の計算は「(1年間に受け取った財産の価額の合計額-110万円)×税率-控除額」で計算します。ただ、贈与者との関係で計算方法が少し変わります(図2参照)。

贈与の例(図2-1)
贈与の例(図2-2)

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相続時精算課税制度は、年110万円の基礎控除のほか、累計で2500万円の特別控除枠を使い切るまでは、生前にいくら贈与しても贈与税がかからないという制度です。この制度を使うには、贈与を受けた側が、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日までに「相続時精算課税制度選択届出書(以下「選択届出書」)」を税務署に出さなくてはなりません。

この制度はどんな贈与でも使えるわけではありません。贈与者が60歳以上の両親や祖父母といった直系尊属、受贈者が18歳以上の子や孫であることが条件です(ただし、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)。また、この制度を使うと、暦年課税制度にはない次のような制約がかかります。

  • 年110万円の基礎控除枠と累計2500万円の特別控除枠を超えたら一律20%で課税
  • 相続が始まったらこの制度を使って贈与された財産は相続財産に足し戻す(年110万円の基礎控除を除く)
  • 一度選択した間柄での贈与は二度と暦年課税制度を使うことはできない
  • 基礎控除の110万円を超えて1円でも多く贈与したら贈与税の申告をしなくてはならない

なお、相続時精算課税制度は、年110万円の基礎控除額以下の贈与なら暦年課税制度のような生前贈与加算はされないというメリットがあります。つまり、亡くなる日の1年前に相続人である子が亡くなった父から100万円贈与されても、相続財産に足し戻さなくていいわけです。一方で、贈与者が亡くなったら、基礎控除枠を除く贈与財産は相続財産に足し戻されます。足し戻す財産の金額は相続開始時の時価ではなく贈与時の時価になります。そのため、将来確実に値上がりする財産の贈与に使えば節税になります。

選択届出書を提出した年分以後の贈与を累積し、「1年間の贈与額-年110万円の基礎控除」の累計が2500万円に到達するまでは非課税、2500万円を超えた部分については一律20%で課税します。

暦年課税制度でも相続時精算課税制度でも、贈与する財産の価額が贈与税額の決め手となります。ここで言う「価額」とは「贈与時の時価」です。しかし、財産は上場株式や外貨のようにすぐに時価が分かるものばかりではなく、不動産や自社株、美術品のように時価が分からないものもあります。そのため、贈与税の計算では、相続税法の決まりに従って評価した金額を時価として用いることとされています。

贈与税のしくみは複雑です。思いもよらないところで贈与税がかかったり、生前贈与しても節税にならなかったりします。気になったら税理士など専門家に相談するとよいでしょう。

(記事は2024年3月1日時点の情報に基づいています)