遺言書がトラブルになりやすい7つのパターンと対処方法を解説
自分の死後、残された家族が遺産のことで揉めてしまうことは誰も望んでいないでしょう。このような事態を避けるためには、生前に遺言書を作成しておくことが最も有効です。しかし、遺言書を作成することで逆にトラブルになるパターンがあることも事実です。今回は遺言書がトラブルになりやすい7つのパターンや、トラブルを予防するための具体的な方策をお伝えします。
自分の死後、残された家族が遺産のことで揉めてしまうことは誰も望んでいないでしょう。このような事態を避けるためには、生前に遺言書を作成しておくことが最も有効です。しかし、遺言書を作成することで逆にトラブルになるパターンがあることも事実です。今回は遺言書がトラブルになりやすい7つのパターンや、トラブルを予防するための具体的な方策をお伝えします。
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まずは、遺言書についてトラブルになりやすいパターンを具体的に紹介します。
民法961条では15歳に達したものは遺言をすることができると規定しています。
それでは「15歳以上であれば誰でも遺言ができるのか」というと、そうではありません。遺言作成に必要な意思能力について、一般的には、「遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足る意思能力」と言われています。認知症がかなり進んでいる場合などには後に遺言能力が争われ、場合によっては裁判所から遺言が無効と判断されてしまう可能性があります。
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で21点を超えるかが一つの目安になりますが、絶対的な基準ではなくその他の事情も重要です。
認知症や高齢も判断材料に 遺言を無効にしない「遺言能力」とは?
例えば、「千葉にある倉庫は長女に相続させる。」などといったあいまいな遺言がされた場合、対象物件の特定が不十分として遺言の当該部分に効力が認められなかったり、登記申請が拒否されたりする可能性があります。
この場合、長女は他の相続人に対して所有権確認訴訟を提起しなければならず、何のために遺言をしたのか分からなくなってしまいます。
また、よくあるミスとして、土地に付属した私道を財産目録から漏らしてしまうケースが挙げられます。この場合、私道について、別途遺産分割協議が必要になってしまいます。
このように「何となく伝わるだろう」「妻や息子達なら皆まで言わなくても分かってくれるはずだ」という気持ちであいまいな遺言を作ると、後で大変な問題になってしまいます。
遺言は要式行為と言って、法律で決まった通りの書き方でなければ無効と言われる可能性があります。
中でも、自筆証書遺言(自分一人で書く遺言)は、要式を誤って無効になってしまったり、内容が十分に具体的ではなく効果が認められなかったりすることがあります。また、相続人間で、遺言は偽造ではないか等の紛争が生じるリスクがあります。
「財産は全て長男に相続させる。」という遺言は昔から割と広く用いられてきましたが、他の相続人は何ももらえないことになるため、遺留分侵害額請求による紛争勃発のリスクがあります。
遺言をする被相続人が、遺言により自由に配分できる遺産は遺留分を除いた財産だけです。例えば、夫が亡くなり、妻と子2人が相続人といったケースでは、妻が遺産に対して4分の1、子供がそれぞれ遺産に対して8分の1ずつ遺留分を有しています。したがって、上記のような遺言がなされた場合、例えば次男は遺産の評価額に8分の1を乗じた額を金銭で支払うように請求することができ、妻は遺産の評価額に4分の1を乗じた額を請求することができます。つまり、このケースでは亡夫は相続財産の8分の3は遺言によっても自由に処分できないことになります。
自由に処分できない財産を遺言によって自由に処分しようとすると、残された相続人らは相続人間での望まない紛争が誘発されてしまうことになります。
せっかく遺言が作成されても、死後に見つけてもらえなければ何にもなりません。特に、自筆証書遺言の場合には紛失してしまったり、相続人に遺言を見つけてもらえなかったりすることがよくあります。このようなことを防ぐためには、自筆証書遺言保管制度や、公正証書遺言を利用するとよいでしょう。法務局や公証役場で半永久的に遺言を保管してくれるので、紛失や発見されないなどの心配はありません。
上記⑤のケースと似ていますが、例えば自宅で保管されていた遺言が遺産分割後に発見されるとどうなるのでしょう。
この場合、遺産分割協議の錯誤無効を主張していくことになります。
基本的には発見された遺言が優先することにはなりますが、解決までの間に不動産が第三者に売却されるなど、権利関係に変動が生じる可能性もあり、裁判で必ず勝てるとは限りません。何よりも、紛争解決に費やされた時間やお金は返ってきません。
したがって、⑤のように死後、遺言を速やかに発見してもらえる手当をしておくべきです。
本来、相続が生じると遺産分割協議を経て遺産分割がなされます。この遺産分割協議について、スムーズにいけば半年程度で完了しますが、相続人間で紛争になり、裁判所で調停などをするような事態になってしまうと協議完了までに何年もかかるケースも珍しくありません。
これまで説明してきたポイントを押さえた遺言があれば、この面倒な遺産分割協議を省略できることになります。その後の手続きとしては、各金融機関などで払い戻し等の手続きを行ったり、法務局で登記の申請をしたりしていきます。
しかし、これが意外と面倒です。
読者の皆さんの中にも、平日は仕事を休めないため、銀行に並んだり市役所に行ったり、字が小さくて判読できないような戸籍を読んだりすることはできないという方は多いのではないでしょうか?
このような煩雑な仕事を引き受けてくれるのが、「遺言執行者」という制度です。遺言を作成する際に、遺言執行者が指名されていれば、遺言者が亡くなった際には基本的には遺言執行者が名義変更などの全て手続きを行います。相続人の負担は激減しますし、被相続人としても自分の遺言がきちんと実現できるため安心できます。
遺言無効確認訴訟を行う場合、法律により調停を先に行う必要があります。また、遺言無効が認められてもその後に遺産分割調停や審判を行う必要があり、時間が非常にかかるので早期解決は難しくなります。
それでは、遺言書を巡るトラブルを防ぐ方法をご紹介します。
上で述べたように、遺言能力のある元気なうちに遺言を作って、その後数年おきに内容を見直すようにするのが良いでしょう。
法律上定められた様式があるため、不安であれば弁護士に相談すべきです。実際に、簡単な要式を守らなかったことで裁判所に無効と判断された遺言は数知れずあります(日付を書かなかった、妻と連名で書いた、押印をしなかったなど)。
遺言書の作成で特に重要なのは、財産を特定できているかです。あいまいな表現は上に述べたような紛争を生じさせます。財産を特定した記載ができているのかについては財産ごとにしきたりがあるので、専門家にチェックしてもらうことが重要です。
遺言書が発見されない、隠されてしまうなどの問題を回避できます。また、きちんとした手続きを踏んで公証人立ち会いの下で遺言が作成されているということで、相続人の納得を得やすく、後の紛争を回避できる可能性が高まるという事実上の効果も期待できます。
遺言作成について、相談できる場所は以前よりも増えていますが、法的紛争を見据えた実践的なアドバイスができるのは弁護士だけです。
多額の相続税が発生しそうな事案であれば、税理士に節税方法を相談するのもいいでしょう。
遺留分に配慮しない遺言は遺留分権利者となる相続人の感情を逆なでし、無用な紛争を生じさせる可能性があります。なるべく遺留分に配慮した形が望ましいでしょう。
遺言執行者は誰でもなれますが、弁護士がなることも多いです。遺言作成とセットで依頼することで遺産に関係する問題を丸ごと任せてしまえるという利点があります。遺産が多岐にわたるようなケースではその効用が特に大きいと言えます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す最後に、遺言書トラブルでよくある誤解の例を紹介します。
遺言書の検認は遺言書が存在することの形式的な確認手続きに過ぎないので、後に遺言無効確認訴訟などの手続きで遺言の有効性が争われる可能性があります。有効な遺言であることの証明にはなりません。
新設された遺言書保管制度を利用しても、要式違背があったり、認知症などで遺言能力などを争われて遺言が無効になったりすることは防げません。
公正証書遺言を利用する場合、遺言者から公証人に対して遺言の内容が口授され、公証人が公正証書に作成します。そして、成人の証人2名が立ち会って遺言書が作成されるので紛争になる可能性は低くなります。しかし、公証人が遺言能力ついて鑑定を行うわけではないので、後に争われることを完全に防ぐことはできません。
相続問題が生じると遺族は死を悼む暇もないままに法的紛争手続きに巻き込まれていくことになります。遺言書は、そういったトラブルを防止するために極めて有効な手段ですが、作成には注意を要します。確実にトラブルを防いで有効な遺言書を作成するには、弁護士をはじめとする専門家へ相談すべきです。
(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)
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