遺産に不動産 遺留分の計算方法 税理士がわかりやすく解説
被相続人(亡くなった人)の残した遺言に基づき、ほぼすべての相続財産を特定の相続人が取得する場合、民法の規定に基づき、被相続人の兄弟姉妹以外の他の相続人は最低限の取り分である「遺留分」が侵害されたとして遺留分侵害額請求をすることができます。また、遺産に不動産がある場合は、遺留分を算定する際にその時価を評価する必要があります。今回は、遺産に不動産があった場合の遺留分の計算法を税理士・不動産鑑定士が解説します。
被相続人(亡くなった人)の残した遺言に基づき、ほぼすべての相続財産を特定の相続人が取得する場合、民法の規定に基づき、被相続人の兄弟姉妹以外の他の相続人は最低限の取り分である「遺留分」が侵害されたとして遺留分侵害額請求をすることができます。また、遺産に不動産がある場合は、遺留分を算定する際にその時価を評価する必要があります。今回は、遺産に不動産があった場合の遺留分の計算法を税理士・不動産鑑定士が解説します。
目次
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まず「遺留分」について説明していきます。
被相続人が自身の財産について、生前に贈与したり、遺言で特定の相続人に取得させたりすることは自由です。しかし被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(遺留分権利者)について、その生活保障を図るなどの観点から、被相続人の意思に関わらず被相続人の財産から最低限の取り分を確保する制度が「遺留分制度」であり、「遺留分」とはその相続人の最低限の取り分を示す概念です。
したがって、被相続人による遺言や生前贈与がない場合には、遺留分の侵害は生じないことになります。
遺留分の計算式は民法で以下の通り規定されています。
<遺留分の計算式>
遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×遺留分割合×遺留分権利者の法定相続分
遺留分割合は、原則1/2であり、直系尊属(父母・祖父母など被相続人よりも前の世代)のみが相続人の場合は1/3となります。相続人のパターンごとに遺留分割合と法定相続分について具体例を示せば以下の通りです。なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。
では設例を通じて、遺留分・遺留分侵害額の計算法を解説します。
<設例>
被相続人Xには相続人として子供2人(相続人Z、W)がおり、被相続人の死亡する3年前からそれぞれ500万円ずつ生前贈与を行っていた。被相続人は生前に公正証書遺言を残しており、その遺言によれば、被相続人の遺産である預金および土地建物のすべてを相続人Wに相続させる旨が記載されていた。被相続人には借入金などの債務はなかった。被相続人死亡後に遺言の内容に不満を抱いた相続人Zは相続人Wに対して遺留分侵害額請求を行使することを考えている。
【Step1:相続人Zの遺留分の計算】
まず「遺留分を算定するための財産の価額」を以下計算式に基づき計算する必要があります。
<遺留分を算定するための財産の価額の計算式>
遺留分を算定するための財産の価額=相続財産の価額+贈与の価額-相続債務全額
相続財産の価額
設例では、相続財産として預金2000万円のほかに土地建物があるので、この土地建物の相続開始時における時価を求める必要があります。土地建物などの不動産の時価の求め方には以下の方法があり、それぞれ一長一短です。設例では、相続人Zは不動産鑑定士に評価依頼して、相続人Wが取得した複数の土地建物の評価額合計8000万円の不動産鑑定評価額を得たと仮定します。
① 地価公示・都道府県地価調査(土地)
国土交通省地価公示・都道府県地価調査より、対象不動産の周辺に所在し、類似性の高い標準地又は基準地の土地価格を基に対象不動産の評価額を概算する方法です。コストがかからない簡便的な評価方法ですが、地方で周辺に参考となる標準地・基準地が乏しい場合には適用が困難です。
② 相続税路線価(土地)
国税庁公表の相続税路線価を基に対象不動産の評価額を概算する方法です。コストがかからない簡便的な評価方法ですが、相続税路線価はそのまま用いると時価に比べてかなり低いというデメリットがあります。設例では、相続人Wが取得した土地の時価がより高く評価された方が相続人Zの遺留分侵害額として請求できる金額も大きくなるため、単純に相続税路線価で計算する方法は相続人Zにとって一概に良い方法とは言えません。
③ 固定資産税課税評価額(土地・建物)
各区市町村が毎年5月頃に送ってくる[固定資産税課税明細書]に記載にされている固定資産税評価額をもとに対象不動産の評価額を概算する方法です。こちらもコストがかからない簡便的な評価方法ですが、固定資産税評価額はそのまま用いると時価に比べてかなり低いので、上記②と同様、単純に固定資産税評価額で計算する方法は相続人Zにとって一概に良い方法とは言えません。
④ 不動産鑑定評価額(土地・建物)
不動産鑑定士に鑑定費用を払って不動産の評価を依頼する方法です。コストはかかりますが、他の方法に比べ、一番精度の高い時価が求められるメリットがあります。鑑定報酬は評価する不動産によって異なるため一概に言えませんが、1件当たりの評価額が数千万円程度であれば30万円~40万円程度を見ておく必要があります。また、複数案件の依頼で値引き対応してくれる場合もあります。
贈与の価額は、以下3つの金額を集計します。設例では、被相続人から相続人Z、Wへ生前贈与された「合計1000万円」が該当します。
以上より、設例の「遺留分を算定するための財産の価額」は以下の通り計算されます。
遺留分を算定するための財産の価額(1億1000万円)
=相続財産の価額(2000万円+8000万円)+贈与の価額(1000万円)-相続債務全額(ゼロ)
【Step2:相続人Zの遺留分の計算】
Step1で求めた遺留分を算定するための財産の価額(1億1000万円)に遺留分割合(1/2)と法定相続分(1/2)を乗じて相続人Zの遺留分は以下の通り計算されます。
相続人Zの遺留分(2750万円)=1億1000万円×1/2×1/2
【Step3:相続人Zの遺留分侵害額の計算】
Step2で求めた相続人Zの遺留分額がそのまま遺留分侵害額とはならないので注意が必要です。遺留分侵害額は以下の計算式で求めることとされています。
<遺留分侵害額の計算式>
遺留分侵害額=遺留分額(Step2で計算済)
-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額(A)
-遺留分権利者の具体的相続分(寄与分除く)に相当する価額(B)
+遺留分権利者が承継する債務(C)
設例では、遺留分権利者である相続人Zは遺言で財産を取得していませんが、生前贈与(特別受益)500万円があるので(A)は500万円となります。ここでの生前贈与は期間制限なく過去の贈与が含まれる点も注意が必要です。(B)は、遺産分割の対象になる財産がある場合には計算が必要となりますが、設例ではありませんのでゼロとなります。また、設例では被相続人の相続債務はないため(C)はゼロとなります。
以上により、相続人Zの遺留分侵害額は以下の通り計算されます。
相続人Zの遺留分侵害額(2250万円)=遺留分額(2750万円)-特別受益(500万円)
もし上記設例で、相続人Wが、相続人Zの主張する土地建物の時価8000万円に納得がいかず、別の不動産鑑定士に評価を依頼して6000万円の鑑定評価書を得たとします。仮に土地建物の時価6000万円で相続人Zの遺留分侵害額を計算すると1750万円となります(計算過程省略)。
このように、不動産の評価額について双方の主張が食い違うことで、遺留分侵害額も大きく影響を受けることになります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺留分侵害額請求を当事者間で直接行おうとすると争いが激化して話がまとまらない場合も多いものです。だからといって何もせずに待っていても遺留分侵害額請求ができる期間(遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間)を経過してしまうリスクもあります。
弁護士に依頼することでこうしたリスクを回避できますし、当事者間での協議で解決できない場合に次のステップとして家事調停(家庭裁判所で、合意による解決を目指すこと) の手続きも対応してもらえます。遺留分侵害額請求を行う場合は、できるだけ早く弁護士に依頼することをおすすめします。
(記事は2021年9月1日時点の情報に基づいています)
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