特別受益の「持ち戻し免除」とは? 効果・方法を改正相続法に沿って解説
2019年7月1日より改正相続法が施行され、その中で、特別受益の持ち戻し免除に関する推定規定が新設されました。「特別受益の持ち戻し」およびその免除は、相続分・遺留分を計算する際に重要となる考え方です。相続法改正の内容を踏まえて、現行法のルールを正しく理解しておきましょう。この記事では、「特別受益の持ち戻し免除」の効果や方法について、改正相続法の内容を踏まえて弁護士が解説します。
2019年7月1日より改正相続法が施行され、その中で、特別受益の持ち戻し免除に関する推定規定が新設されました。「特別受益の持ち戻し」およびその免除は、相続分・遺留分を計算する際に重要となる考え方です。相続法改正の内容を踏まえて、現行法のルールを正しく理解しておきましょう。この記事では、「特別受益の持ち戻し免除」の効果や方法について、改正相続法の内容を踏まえて弁護士が解説します。
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「特別受益の持ち戻し免除」と聞いて、すぐにピンとくる方は少数派かもしれません。
相続特有の法律用語が組み合わさったものなので、一つずつその意味を理解していきましょう。
「特別受益」とは、相続人が被相続人から受けた優遇的な遺贈・贈与を意味します(民法903条1項)。
<特別受益に当たるもの>
被相続人の相続人に対する、
①すべての遺贈
②以下のいずれかに該当する贈与
遺贈や贈与によって優遇された相続人と、そうでない相続人の間には、財産の承継に関して不公平が発生します。
「特別受益」は、このような相続人間の不公平を是正するための制度です。
具体的には、以下の手順で各相続人の相続分が修正され、相続人間の公平が図られます。
①特別受益の金額を、相続財産の金額に加える
②①で求められた「相続財産+特別受益」の金額を基に、各相続人の相続分を計算する
③特別受益のある相続人についてのみ、②で求められた法定相続分から、特別受益の金額を控除する(マイナスになる場合はゼロとする)
(例)
①3000万円+1000万円=4000万円
②4000万円÷2=2000万円(A・Bそれぞれ)
③Aのみ、2000万円-1000万円=1000万円
→最終的な相続分は、Aが1000万円、Bが2000万円
上記の一連の修正計算は、特別受益があたかも相続財産に含まれるかのようにして行われることから、「特別受益の持ち戻し」と呼ばれています。
この修正計算を免除することを、「特別受益の持ち戻し免除」といいます。
持ち戻し免除が行われた場合、相続分の計算に当たって特別受益を考慮する必要がなくなります。
したがって上記の計算例では、相続財産3000万円をA・Bが均等に分け合い、それぞれ1500万円の相続分を得ることになるのです。
特別受益の持ち戻し免除は、被相続人の意思表示によって行うことができます(民法903条3項)。
意思表示の方法については、特に法律上のルールは存在しないため、書面に限らず口頭による持ち戻し免除も認められます。
しかし、きちんと証拠が残る形で意思表示を行わなければ、遺産分割審判などに発展した際に、持ち戻し免除が認められないおそれがあるので要注意です。
遺言書や生前贈与契約書などで明確に記載されている場合、持ち戻し免除が認められる可能性は高いです。
また、相続人全員が特に持ち戻し免除の効力を争わない場合は、書面がなくても認められるでしょう。
さらに、持ち戻し免除の意思は黙示のものであってもよいと解されています。
対象財産を受遺者(受贈者)に遺贈(贈与)することについて合理的な事情があり、他の共同相続人にとっても不公平ではないと判断される場合には、黙示の免除意思が認められることもあり得るでしょう。
(例)
子に家を出て行ってもらわなければならないことの申し訳なさから、土地建物の購入資金を贈与した場合(鳥取家裁平成5年3月10日審判)
一方、持ち戻し免除の意思表示が口頭のみで行われ、明確な証拠がないケースで、相続人がその効力を争った場合には、持ち戻し免除が認められない可能性があります。
また、いったん持ち戻し免除の意思表示が行われたとしても、後からその意思表示が撤回された場合には、持ち戻し免除が認められません。
2019年7月1日に施行された改正相続法では、大きな改正ポイントの1つとして、持ち戻し免除の推定規定が設けられました。
すなわち、婚姻期間が20年以上の配偶者間で居住用不動産が遺贈・贈与された場合、持ち戻し免除の意思表示が推定されることになったのです(民法903条4項)。
長年連れ添った配偶者と同居していた土地・建物は、配偶者だけに与えるのが自然であることや、独り身になる配偶者の住居を確保する必要性などが根拠となっています。
この推定規定が設けられたことで、遺言書などで持ち戻し免除の意思表示がなされていない場合でも、配偶者が遺産相続で不利益を被ることは少なくなりました。
ただし、あくまでも「推定」規定なので、「持ち戻し免除はなかった」と反証することは可能です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す特別受益は、遺贈または相続開始前10年以内に行われた贈与に限りますが、遺留分(※)の計算にあたっても考慮されます(民法1044条1項、3項)。
※遺留分…相続できる財産の最低保障額。兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている。
被相続人によって持ち戻し免除の意思表示が行われた場合でも、遺留分を計算する際には、原則どおり特別受益を基礎財産に含める必要があります。
したがって、持ち戻し免除があったケースでは、相続分と遺留分で計算の考え方が異なる点に留意しておきましょう。
持ち戻し免除の効力を争うには、まず話し合いや調停を試みるのが一般的です。
しかし、持ち戻し免除の効力が否定される影響は大きいので、相続人間で意見がまとまる見込みは少ないでしょう。
そこで最終的には、遺産分割審判の場で裁判所の判断を仰ぐことになります。
また、持ち戻し免除の意思表示が遺言によって行われた場合には、遺言無効の訴えを提起して、遺言全体の無効を主張することも考えられます。
審判・訴訟などの法的手続きでは、整理された主張と証拠を用いた立証を展開する必要があり、きわめて専門的な対応が求められます。
そのため、もし審判・訴訟への対応が必要になる場合には、弁護士に相談するのが安心です。
特別受益の有無や、持ち戻し免除が認められるかどうかは、各相続人の相続分に大きな影響を及ぼします。そのため、相続人間の対立の原因になりやすいポイントの一つといえるでしょう。
もし特別受益やその持ち戻し、さらに持ち戻し免除の有効性などについてトラブルに発展した場合には、お早めに弁護士にご相談ください。
(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)
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