目次

  1. 1. 疎遠だった人の相続を放棄する問題点
  2. 2. 疎遠を理由とする相続放棄も可能
  3. 3. 疎遠な親族の相続放棄をするメリット
  4. 4. 疎遠な親族の相続放棄をする際の注意点
    1. 4-1. 資産があったことが判明しても、相続できなくなる
    2. 4-2. 他の相続人から強要されても応じる必要はない
  5. 5. 相続放棄申述書と照会書の書き方
    1. 5-1. 相続放棄申述書の書き方
    2. 5-2. 裁判所からの照会書の書き方
  6. 6. 相続放棄が受理されないパターン
    1. 6-1. 書類の不備
    2. 6-2. 熟慮期間を過ぎてしまった
    3. 6-3. 本人以外の人が勝手に申述書を提出した場合
    4. 6-4. 親が子どもの相続放棄をするなど利益相反が認められる場合
    5. 6-5. 未成年者が自分一人で相続放棄する場合
    6. 6-6. 遺産に手をつけてしまった場合
  7. 7. 相続開始後3カ月を過ぎてしまった場合の対処方法
  8. 8. まとめ

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生前疎遠だった親族が亡くなり、自分が相続人となった場合、亡くなった親族(以下、「被相続人」といいます)の財産を相続するかどうか決めなければなりません。
このようなケースでは、そもそも被相続人にどのような財産があったのかわかりませんが、相続をするかどうか決めるための期間は3カ月と決まっているため、早急に決断しなければならないという問題が生じます。

そもそも「生前に疎遠であった」という理由で相続放棄をすることが許されるのでしょうか。

この点については、相続放棄をするのに理由はいらないため、疎遠であることを理由とする相続放棄も可能であるといえます。

被相続人の遺産に借金が多いことがわかっているのであれば、相続放棄をすることで借金を相続しなくてよくなるというメリットがあります。また、相続人同士の相続争いに巻き込まれたくないという場合は、相続放棄をすることで“争続”に引きずり込まれる心配はなくなります。

相続放棄をした場合、あとから被相続人に資産があることが判明したとしても、もはやその資産を相続することはできなくなります。

実際、相続放棄をするつもりの相談者が被相続人の財産調査をしてみたところ、負債より資産のほうが多いことがわかり、相続放棄をしなくてもよいことがわかったという事例がたくさんあります。こうしたケースが示すように、相続放棄をするかどうかは、専門家にきちんと調査依頼をしてから検討したほうが安心ということになります。

相続放棄をするかどうかは、本人の意思で決めることです。そのため、他の相続人から相続放棄をするように強要されたとしても、従う必要は一切ありません。

相続放棄の申述書は各裁判所のホームページからダウンロードすることができます。

相続放棄申述書には「放棄の理由」という欄があります。被相続人の相続争いに巻き込まれたくないという理由であれば、「その他」に丸をつけ、「被相続人とは疎遠であったため、相続したくない」等と書くとよいでしょう。なお、相続放棄の手続きは郵送で可能であるため、裁判所に行く必要はありません。

相続放棄申述書を裁判所に提出すると、相続人が本当に自分の意思に基づいて相続放棄をしたのかどうか調べるため、裁判所が照会書を送って来ることがあります。

照会書には、相続放棄を自分の意思で行ったのか、相続放棄をする理由等についての質問が記載されています。記入する際は、なるべく自分の意思で相続放棄をしていることが伝わるように書くとよいでしょう。なお、書ききれない場合は、別紙をつけて記載することも可能です。

相続放棄は、相続人のみがすることができるため、自己が相続人であることがわかる資料が必要です。
相続放棄の申述書以外で必要な書類としては、

  1. 被相続人の住民票または戸籍附票
  2. 相続放棄する人の戸籍謄本

があります。

それ以外にどのような書類が必要であるかは、相続人の立場によっても異なりますが、たとえば被相続人の除籍謄本や、以前の縦書きの形式の改製原戸籍などが考えられます。

相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから「3カ月以内」にしなければなりません。この「3カ月」という期間を「熟慮期間」といいます。

そのため、被相続人が亡くなり、自分が相続人であることを知ったときから3カ月経ってしまうと、相続放棄をすることができなくなります。ただし、熟慮期間については、家庭裁判に申立てをして期限の伸長をすることもできます。詳しくは各裁判所のホームページを見るとよいでしょう。

相続放棄は本人の意思に反し、第三者が行うことはできません。そのため、第三者が勝手に申述書を提出したとしても、本人からの委任状などがない限り、受理されません。

親と子どもの双方が相続人であるという場合、親と子どもは互いに、自己の取り分が増えれば他方の取り分が減るという関係にあるといえ、利害関係は対立するということになります[菅野1] 。そのため、そのようなケースで、親が自分の子どもを代理して子どもの相続放棄をすることはできません。

ただし、親が自分の相続について、子どもより先に、あるいは子どもと同時に相続放棄をしている場合は利害が対立しないため、子どもの相続放棄をすることができます。

未成年者は単独で相続放棄をすることができません。そのため、法定代理人である親が子どもの代理をすることが考えられますが、前に述べたとおり、親と子どもの利害が対立する場合、親は代理をすることができません。

そのような場合、未成年者のために特別代理人の選任を家庭裁判に申し立てる必要があります。特別代理人の選任の申立ては、親権者や他の相続人などの利害関係人がすることができます。

相続放棄は、相続の単純承認をしてしまった場合はすることができません。単純承認とは、被相続人の権利義務を相続することを無条件に承認することです。

民法の規定には、相続財産の全部または一部を処分した場合は、単純承認したこととみなすというものがあります。そのため、遺産に手をつけて売却・換価等の処分をした場合、相続放棄することができなくなります。

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6-2で述べたとおり、相続人は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月が経過してしまうと、相続放棄をすることができなくなることが原則です。

ただし、この3カ月という期間については、1984(昭和59)年4月27日の次のような最高裁の判例があり、相続財産が全くないと信じる相当な理由がある場合は、熟慮期間経過後も相続放棄ができる可能性があります。

「(相続放棄をしなかった理由が)被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」

すでに述べたとおり、生前に疎遠だった親族については、相続放棄をすることができます。相続放棄をすることで煩わしい相続争いから免れることができる点はメリットといえるかもしれません。

ただし、遺産について実際に調べてみると、プラスの遺産のほうが多かったというケースも少なくありません。そのため、生前に疎遠だった親族が亡くなった際は、自分の判断だけで相続放棄をする前に、弁護士等の専門家に依頼することをお勧めします。

(記事は2021年7月1日時点の情報に基づいています)

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