危険な家族信託の11のパターン

「家族信託」でトラブルに発展しがちな「11のパターン」を説明します。

家族信託の仕組みの法的根拠となる「信託契約書」において、法律上無効なものや法律上・税務上多大なトラブルリスクをはらんだものが散見されるようになりました。これらのトラブルは、専門家ではない一般の人が見様見真似で契約書を作ったり、信託法や家族信託の実務に精通していない士業に家族信託の設計や契約書作成を依頼してしまっていることが原因と言われています。危険なケースをパターン別に紹介します。

① 自分たちで契約書を作成し、無効な内容になっている

信託法を理解し、かつ家族信託の実務を熟知していないと、たとえ弁護士・司法書士 等の士業でも法的に問題のある契約書を作ってしまうケースは非常に多いです。まして、一般の方が書籍やインターネットの情報を元に信託の設計をイメージし、信託契約書を作ることは、医師免許を持たない人が自分で親や家族の外科手術をしようとするのと同じく非常に危険な行為です。

自分で契約書を作成すると、そもそも法的に無効な内容となり、実務上実効性のないものになってしまうこともあります。
たとえば「信託契約書を締結したけれども、不動産の信託登記ができない」「預貯金の移動ができない」というケースがあるため、結果として「不動産を売れない、預金が凍結してしまった」という事態になりかねません。

② 公正証書を作成せず、トラブルになる

信託契約書は、公証役場で公正証書にしておかないと、委託者である老親が判断能力を喪失したり、亡くなった後にトラブルが生じたりとリスクが高まります。
たとえば、契約締結時に委託者である老親が「本当に理解や納得をして調印したのか」ということが争点となり、信託契約の有効性を争う事態は容易に起こり得ます。

また、契約日付を老親がまだ元気だった頃の日付にさかのぼって記入するといった日付の正確性(バックデート)の問題も生じるかもしれません。契約条項の事後的な書き加えなどの懸念も出てきます。

信託契約書は、公証人という公的機関のフィルターを通すことでその有効性を高めるため、原則として公正証書で作成すべきです。なお、公証人も家族信託・信託契約書に精通している方はそれほど多くはいないので、契約書の文案作成をする際は、やはり家族信託に精通した士業へ相談する方が安全でしょう。

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③ 理解力が著しく低下した段階で契約書を交わして無効になる

認知症などで理解力・判断能力が著しく低下してしまった老親が契約を締結しようとしても、有効な契約はできなくなります。
形の上では調印ができても、老親本人が契約した内容を理解していなければ、そもそも法的に無効となります(つまり、法定な効力がない)。
ただし、医者から「認知症」と診断をされたからと言って、必ずしも本人の理解力がまったくないとは言い切れないので、実務上その見極め自体は難しいです。この点においても、家族信託や成年後見制度に精通した士業に相談をすることが重要になってきます。

④ 信託口口座を開設できない

老親から預かった金銭や信託不動産から生じる賃料たる金銭は、受託者となった子が信託用の専用口座で分別管理する必要があります。
理想的なのは「委託者 〇〇 、受託者 ×× 信託口」という、いわゆる『信託口口座』で管理することですが、この口座を作成してくれる金融機関は、全国的にみてもごくわずかです。
また、『信託口口座』に対応できる金融機関であっても、口座作成の前に金融機関独自のリーガルチェック(この契約が法的に問題がないかどうかの審査)を要するので、精通した士業が作成した信託契約書でないと、リーガルチェックすら受け付けてくれないケースが多いです。

その一方で、士業が作成した信託契約書でも、法的に問題があり審査段階で口座作成を拒絶されるケースもあとを絶ちません。
『信託口口座』でないと、受託者である子の固有資産と区別されにくく、また受託者が先に亡くなってしまった場合には、当該死亡者の相続預金として口座凍結されてしまうことになるため、『信託口口座』で対応できない場合の代案についてもしっかりと検討する必要があります。

⑤ 信託できない財産を対象にした

理論上は信託可能な財産であっても、家族信託の実務においては実効性が無い財産があります。
老親名義の「預貯金」や老親を契約者兼被保険者とする「生命保険」、老親が持つ「全財産」を信託財産として契約書に記載にしても、実務上は何の役にも立たない可能性があります。

⑥ 抵当権つきの不動産を対象にした

アパートローンなど金融機関の抵当権が設定された土地・建物を信託財産にする場合、当該金融機関から事前の承諾を得ることが原則となります。事前承諾のないまま信託契約を締結し、信託登記をしてしまうと、事後的に問題となり、金銭消費貸借契約上の契約違反として、ローン残高を一括請求される可能性もあります。

⑦ 遺留分トラブルが発生

老親の保有資産を信託財産に入れても、老親の相続発生時に、遺留分侵害額請求の対象財産から除外することはできません。
その一方で、遺留分侵害額請求に対抗することを主目的とした家族信託の契約が一部無効となった判決もあります。遺留分トラブルに関する備えは、家族信託の実行と合わせて専門家と検討をすべきです。

⑧ 受益者へ高額な贈与税がかかった

財産を所有する老親(委託者)が、信託契約における「受益者」とならなければ(「委託者=受益者」という信託の設計にしなければ)、税務上、受益者に対して贈与税が課税されてしまいます。
弁護士や司法書士ら専門家の中でも、家族信託に精通した専門家に相談しないと、高額な贈与税の課税を受けるリスクが生じることも十分に認識しましょう。

⑨ 損益通算できなくなって所得税が高額に

信託財産である不動産から年間を通じて生じた損失は、不動産所得の計算上「なかったものとみなす」という税務上の取扱いがあります(租税特別措置法41の4の2①)。
そのため、信託財産とは別に所有権財産である収益不動産を持っている場合で、年間を通じて黒字が生じた場合、信託財産の損失と通算してすることができません。
また、収益不動産に関して複数の信託契約に分けた場合、一方の信託契約内の財産で生じた損失を、他方の信託契約内の財産における黒字と損益通算することもできません。
この「損益通算禁止」の税務上の注意点を踏まえた設計や実行時期を検討しなければ、所得税の課税が想定外に負担となる可能性もあります。

⑩ 実際に支払う専門家報酬が高額になった

家族信託に精通した士業が一切関与しないまま、家族信託の設計・実行の全作業を請け負う民間企業には注意が必要です。その一方で、家族信託を取り扱う士業によっても、その報酬額は大きく異なります。

家族信託の設計・実行に関する費用は安く見積られていても、家族信託の実行後も毎月の月額報酬やシステム利用料という名目でのランニングコスト(維持費)がかかるビジネスモデルも多数存在します。
家族信託は、長期にわたり存続することを前提とするケースも多いので、「初期の報酬額が安いから」と安易に依頼するのはリスクを伴いやすいです。毎月のランニングコストを含めると累積額として高額に膨れ上がる可能性もありますし、途中解約不可というケースもあるようです。正式な依頼をする前にきちんとした説明を受ける必要があります。

⑪ 知識やスキルの足りない専門家に依頼してしまった

家族信託は、設計・実行して終わりではなく、むしろ信託契約を締結してからが始まりで、その後の老親のための財産管理が長期にわたり継続します。そのため、信託契約書作成だけを専門家に依頼するのではなく、その後も家族信託に関して生じた疑問や不明点、トラブルを長期にわたりサポートしてもらえる専門家を探すべきです。

信託法や家族信託、成年後見制度の実務的な知識や経験の少ない専門家では、十分なサポートを得られない可能性があるので、家族信託を検討する段階で、複数の専門家に話を聞くなど、依頼する専門家をしっかりと見極めることが重要です。

安全に家族信託を進める方法

優れた財産管理の仕組みである家族信託ではありますが、進め方や相談先を間違えると危険も多々あります。家族信託の検討・実行を安全に進めるためには、下記の点に留意しましょう。

●家族会議でしっかり話し合う

親世代と子世代が揃う「家族会議」で、家族全員が親の老後についてしっかり話し合いましょう。そして、老後の先に相続・資産承継があるという認識で、親世代も子世代も安心納得できる老後と承継の実現を図りましょう。

●専門家に同席をしてもらう

老親の安心の老後、円満円滑な資産承継の実現には、家族信託だけではなく、遺言や任意後見、生前贈与、不動産の有効活用、生命保険の活用、法人化などさまざまな方策を組み合わせることが多いものです。したがって、「家族会議」には、家族信託はもちろんのこと、成年後見制度、遺言など生前対策のコンサルティングを得意とする弁護士や司法書士といった専門家で、かつ親子間・家族間で円滑なコミュニケーションが取れるコミュニケーションスキルが高い人に同席をしてもらいましょう。

●専門家は複数の比較検討を

適切な専門家を見極めることは難しいので、実績・報酬総額・スキル・アフターサポートなどの観点から複数の専門家を比較することもおすすめです。

●親の老後対策は早めの取り組みが大事

家族信託の設計を含め、親の老後の対策は、認知症が進行して手遅れになる前に早め早めの取り組みが重要です。

(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)