目次

  1. 1. 家族信託とは
    1. 1-1. 財産管理を家族に託す制度
    2. 1-2. 家族信託を利用すると良いケース
  2. 2. 家族信託を自分で設定するのは難しい|専門家に相談すべき
    1. 2-1. 信託契約書の作成が必要
    2. 2-2. 契約書でさまざまなルールを決める必要がある
  3. 3. 家族信託について司法書士に相談するメリット
    1. 3-1. 整った信託契約書を作成してもらえる
    2. 3-2. 細かい財産管理のルールについて相談できる
    3. 3-3. 契約締結後も相談ができる
    4. 3-4. 信託登記の手続きも任せられる
  4. 4. 家族信託に関する司法書士費用(報酬)の目安
  5. 5. 家族信託を司法書士に相談する場合の手続きの流れ
  6. 6. 家族信託について相談する司法書士の選び方
    1. 6-1. 当該司法書士事務所の実績
    2. 6-2. 対応業務の範囲
    3. 6-3. 家族信託以外の他の選択肢とメリットとデメリット
  7. 7. 家族信託については弁護士にも相談可能
  8. 8. まとめ

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家族信託は、本人の所有する財産を子どもや配偶者に預け、信託契約に従って財産を管理したり運用したりしてもらう仕組みです。主に親や配偶者の認知症対策で利用されています。

あらかじめ家族信託をしておけば、親やご主人が認知症や脳梗塞などで判断能力が難しくなったとしても財産は凍結せず、子どもや妻の判断で当該親やご主人の財産を本人のための生活費や介護費、医療費に使うことができます。

成年後見制度と比べて、家庭裁判所などの関与が入らないことや、管理を任せる人を本人が決めることができるなどのメリットがあります。

所有する財産を預ける人のことを委託者、財産を預かり、管理を任される子どもや妻のことを受託者と呼びます。また、信託契約により財産から利益を受ける人のことを受益者と呼びます。なお、父や母などの親が委託者兼受益者となるケースが少なくありません。

家族信託のよくある事例
家族信託のよくある事例を図解。財産を預かり、管理したり運用したりする「受託者」に子がなるケースがよく見られます

「親の認知症が悪化し施設に入居することになったときに、実家を子どもの判断で売却できるようにしたい」

「親が賃貸不動産を所有しており、重い認知症になっても賃貸経営が止まらないようにしたい」

家族信託はこれらの目的がある場合、効果的です。所有者である親が重い認知症や脳梗塞で判断能力がなくなると、不動産を売ることもできず、新規の賃貸借契約や更新契約も難しくなります。そのため、親が元気なときに対策をしておくことが重要です。

特に不動産を家族信託したい場合には、不動産登記の専門家である司法書士が優れています。なぜなら、不動産の家族信託には不動産登記が不可欠だからです。

家族信託を実行するには、委託者(親など)と受託者(子どもなど)とで信託契約書を締結します。

信託契約書の内容も作り込まないといけませんが、そのためには信託法をはじめとした法律や税務、そして不動産の専門知識が必要になります。専門家以外の方が自分一人の力ですることは難しく、自分だけでやろうとすると想定外のトラブルや、余計な税金の発生などを引き起こす危険があります。

信託契約は締結して終わりではなく、5年10年続く契約です。その間もしっかりと管理できるよう、管理方法のルールなどを信託契約書に定めておく必要があります。

さらに、長く続く契約のため、想定外の事態が生じたときにも、柔軟に対応できるようにしたいものです。しかし、一般の方がそこまで考えて作り込むことは困難です。また、家族信託ができない財産があることや、契約書の条項がないことにより信託の終了時の税金が変わることもあります。税金の面でも、取り扱いが明確になっていない領域もまだまだあります。

これらの事情から、自分でやろうとすると想定外の落とし穴にはまる可能性があるため、費用がかかっても専門家に頼るほうが安心です。家族信託を業務の一つに掲げている専門家は増えましたが、信託財産に実家や賃貸不動産を考えている場合には家族信託の実績のある司法書士に相談することがお勧めです。

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家族信託について司法書士に相談するメリットは主に以下の4つです。

  • 整った信託契約書を作成してもらえる
  • 細かい財産管理のルールについて相談できる
  • 契約締結後も相談ができる
  • 信託登記の手続きも任せられる

依頼した司法書士の今までの経験をもとに、希望にかなっていて、かつ柔軟に対応できる契約書の作成をしてくれます。また、信託口座を開設する金融機関や、不動産登記を管轄する法務局とも間に入って調整し、スムーズに手続きできる契約書を作成してもらえます。

家族の状況や財産、相談者の希望を踏まえた具体的なアドバイスを受けられます。実際に契約内容の検討を始めると、管理方法や相続のことで、ご家族でいろいろな希望が出てきます。すべての希望を満たすのは難しいかもしれません。しかし、司法書士に伝えることで、実現可能かの判断や、実現するための仕組みもアドバイスを受けられます。

また、契約締結後も相談ができる点も大きなメリットです。2022年に改正された司法書士行為規範には下記の条項が追加されました。

第11章 民事信託支援業務に関する規律

(基本姿勢)
第80条 司法書士は、民事信託支援業務を受任したときは、信託目的の達成に向けて、委託者、受託者、受益者その他信託関係人の知識、経験、財産の状況等に配慮して業務を行う。

(適正な民事信託の支援)
第81条 司法書士は、民事信託の設定を支援するにあたっては、委託者の意思を尊重し、かつ、信託法上の権利及び義務に関する正確な情報を提供するように努めなければならない。

2 司法書士は、民事信託の設定後においては、受託者の義務が適正に履行され、かつ、受益者の利益が図られるよう、必要に応じて、継続的な支援に努めなければならない。

民事信託」と「家族信託」は同じ意味です。特に、第81条第2項で、「継続的な支援」を明文化しています。

家族信託を実行したあとは、今までと管理方法が変わります。疑問点や不明点も出てくるでしょう。そのときに真っ先に頼れるのは、実行をサポートした専門家です。その点、司法書士は上記のとおり行為規範のなかで「継続的な支援」を謳っています。司法書士の場合には、信託の実行後も相談をできると考えて良いでしょう。そのうえで、聞きやすい、質問しやすい関係を築けそうかどうかは専門家を選ぶポイントです。

不動産を家族信託する場合には、信託目録を作成して法務局に提出し、不動産登記にも反映させなければいけません。

不動産登記の手続きには、信託法のほかに「登記の専門知識」が必要です。信託契約書について司法書士以外の専門家に依頼をした場合でも、不動産登記の手続きは司法書士に依頼をして行うことがほとんどです。そのため、初めから司法書士に依頼すれば、ワンストップでの対応が受けられます。

費用の目安は、数十万円~数百万円となっており、信託財産の種類とその額によって計算されます。信託財産額の1%以上は覚悟しておいたほうが良いでしょう。かかる費用の内訳は、大まかに下記になります。

①コンサルティング報酬
②契約書作成報酬
③公証役場手数料
④登記手続き報酬(不動産を信託する場合)
⑤法務局への登録免許税(不動産を信託する場合)
⑥アフターサポート報酬

③の公証役場手数料、⑤の法務局への登録免許税は、相談する専門家に関係なく発生する費用です。⑥のアフターサポート報酬については、質問対応だけなら無料としている専門家もいます。一方で、毎月定額費用として請求する専門家もいるようです。また、信託契約書の内容を変更する場合や相続が発生した場合は、別途費用がかかります。

上記①〜⑥のほかに、金融機関によって信託口座を開設する手数料が発生すること、税務の検討が必要な場合に税理士報酬などほかの専門家への報酬が発生することもあります。そのため、事前に見積もりを取得して進めることが大切です。

司法書士に相談する場合の手続きの流れは次のとおりになります。

①問い合わせ
②相談
③家族信託サポート申込契約の締結
④信託契約の内容の打ち合わせ(ドラフトのやり取り)
⑤信託契約の締結
⑥不動産登記手続き、信託口座の開設手続き
⑦受託者による職務の開始

②の相談に関しては、1回では終わらず、複数回かかるケースもあります。③の家族信託サポート申込契約の締結時に着手金として、全部または一部の支払いが発生します。

⑥の不動産登記手続き、信託口座の開設手続き時、または完了時に、報酬の残金がある場合には、その支払いが発生します。⑦受託者による職務の開始後も、受託者の職務の中で出た不明点や疑問点は司法書士に相談して進められます

なお、相談や実行までの打ち合わせについて、対面だけでなくZoomなどオンライン会議のツールを使った相談に対応できる司法書士も増えました。

次は相談する司法書士の選び方です。司法書士事務所であっても、家族信託を取り扱わない事務所もあります。それだけ専門性の高い領域になっています。

そのため問い合わせをするときには、事前にホームページなどをチェックし「家族信託(または民事信託)」を掲げている事務所を選ぶことがよいでしょう。また、相談時には下記の3点を確認しましょう。

信託終了までサポートした実績もあるとより信頼できます。

信託実行までサポートしてくれることは前提として、ほかにどのようなことを頼れるのか?

たとえば、契約当事者の親子だけでなく、配偶者やほかの兄弟姉妹、その他の利害関係者への説明もサポートしてくれるかや、アフターサポートの内容なども確認しましょう。信頼して、家族の問題に一緒に取り組んでくれると思えるかが重要です。

残念ながら「家族信託をすれば、すべて大丈夫」ということはありません。そのため、家族信託以外の対策の検討も必要です。自分たちで全部行うことは難しいので、相談した司法書士にほかの選択肢やメリットとデメリットも提示してもらい、自分たちで選んで決めることが重要です。

家族信託のメリットとデメリット、ほかの選択肢とそのメリットとデメリットを質問し、丁寧に答えてくれるかも、専門家を選ぶ大きなポイントになります。

家族信託については弁護士に相談することも可能です。特に家族間で紛争性がある場合などは、弁護士に相談するほうが適切なケースもあります。

ただし、弁護士でも家族信託に対応していない事務所もありますので、事前にホームページ等を確認して、問い合わせするほうがスムーズです。

【関連】家族信託を弁護士に相談するメリット 相談の流れ、選び方、費用相場なども解説

家族信託の実行を司法書士に依頼すると、信託契約書の細かい内容について相談できるほか、登記手続きについてもワンストップで任せられます。家族信託は認知症対策や相続対策として活用し得るもので、親が元気なときに対策をしておくことが重要です。関心のある場合は司法書士に一度相談してみてください。

(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)

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