目次

  1. 1. 元々は商事信託を想定した制度
  2. 2. 強力な権限を持つ、家族信託における「成年後見人」?
    1. 2-1. 家賃収入や小遣いを請求することも可能
  3. 3. 「船頭多くして…」にならないよう慎重な設計を
    1. 3-1. 受益者代理人設置による家族トラブルだけは避けたい

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信託法には、「受益者代理人」という制度が用意されています。
元々は、受益者が多数いる「商事信託」(信託銀行等が受託者として個人から金銭を預かり資産運用する信託の仕組み)で迅速かつ適切な意思決定が困難な場合に、信託契約書において受益者代理人を定め、意思決定権を集約することを想定したものです。
この代理人制度は、以下の通り家族信託においても活用の余地があります。

「受益者代理人」は、文字通り受益者に代わって権利を代理する立場の者ですので、判断能力の低下・喪失のおそれのある高齢の親世代が受益者になる家族信託においても、大いに活用可能な制度です。

ただし、受益者代理人は、受益者に関する一切の裁判上または裁判外の権限を有するうえに、受益者代理人がいる場合は原則として受益者自身がその権利を行使することができない(信託法139条4項)という、強力かつ排他的な権限を有することを認識する必要があります。
言うなれば、「成年後見人」と同じような立場であり、受益者そのもの(受益者の分身)の立場ということがいえます。

受益者代理人の具体的な業務としては、受益者に代わって、毎月の賃料収入等の分配を求め、定期・不定期に小遣い等の給付を受託者に対し要求することが考えられます。

老親が委託者兼受益者としてその保有資産のほとんどを信託財産とした場合は、前述の通り、老親の成年後見人と同じようにその財産について包括的な権限を持ち、事実上財産給付や管理処分方針の指図が可能となります。また、状況に応じて受託者の財産管理業務を監督することにもなります。

受益者代理人の権限をまとめた表

そもそも、家族の中で最も信頼できる相手を「受託者」として、大切な財産の管理を託すのが家族信託ですが、「受益者代理人」を置くということは、もう一人、受益者と同等の強い権限を持つ者が併存することになります。

そのため、受託者と受益者代理人という“船頭”が2人いて、しかも2人は財産管理の方針の違いから立場上対峙することもあり得るという点で、「船頭多くして船山に上る」という事態に陥らないよう、信託設計には慎重かつ細心の配慮が求められます。

以上を踏まえますと、家族の中から受託者と受益者代理人を選ぶこと(例えば、受託者を長男、受益者代理人を長女とするようなケース)は、将来的に兄弟喧嘩を誘発しかねないリスクがあることを十分に考慮すべきです。

一方で、受益者代理人に司法書士や弁護士等の第三者が就任することも可能ですが、受益者そのものの立場として大きな権限を持つことを考えますと、第三者が受益者代理人に就任することも慎重に考えなければならないといえます。

どのような目的・役割として受益代理人を定めるかを家族信託の設計を担う法律専門職と家族会議で話し合い、受益者代理人を置くのか、置く場合は誰にするのか、いつから受益者代理人の業務を開始するのか、などをしっかりと検討しましょう。

前回は、「信託監督人」の任務開始と完了のタイミングについて解説しました。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)

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