家族信託の手続きの流れ 費用や税金はどれぐらいかかる?
家族信託を利用するかどうかを決める際、家族で話し合うことが大切です。同意が取れれば、その後は手続きを進めることになります。今回は、その流れを具体的に解説し、個人で全ての手続きを終えようとした時のメリットとデメリットをお伝えするとともに、専門家に手続きを依頼した場合の費用相場についても説明します。
家族信託を利用するかどうかを決める際、家族で話し合うことが大切です。同意が取れれば、その後は手続きを進めることになります。今回は、その流れを具体的に解説し、個人で全ての手続きを終えようとした時のメリットとデメリットをお伝えするとともに、専門家に手続きを依頼した場合の費用相場についても説明します。
目次
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これから説明するポイントについては、家族信託を利用する前に、家族間で話し合って決めておくことをおすすめします。
最初に決めるべきは「家族信託の目的」です。家庭の状況や家族構成、財産状況によって目的はさまざまでしょう。家族間でしっかりと話し合い、自分たちの目的を明確にしたうえで次のステップに進んでください。
家族信託の目的が決まったら、次は信託する財産を決めます。信託の対象にできるのは、主に現金、預金、株式などの有価証券、不動産などです。管理や運用をまかせる財産を何にするかというのは非常に重大なテーマなので、家族間で納得するまで話し合って決めましょう。
家族信託の対象になる財産を決めたら、信託契約の内容に踏み込んでいきます。具体的には、次の通りです。
最初に決めた家族信託の目的を達成するための具体的な方法や将来的な財産のゆくえを詳細に決めることがポイントです。
なお、受託者管理人は、受託者が信託契約どおりに財産を管理しているかを見張る役目を担います。「受託者ひとりに信託財産の管理を任せるのは不安」のときは受託者管理人を指定しておくのもよいでしょう。もちろん、家族からの反発や不満があれば、その都度入念に話し合って、できるかぎり納得を得たうえで信託の内容を決めることが最善です。
家族信託で受託者に任せる財産を、契約書上で明らかにします。家族信託の効力が及ぶ範囲が明確になり、委託者や受託者個人の財産との線引きができます。
ここでは、委託者兼受益者とする家族信託で必要な書類を紹介します。信託の内容によって必要書類の種類も変化しますが、基本的には公証役場で信託契約書を公正証書にするタイミングで以下の書類等を用意しておかなければなりません。
本人確認資料は、運転免許証やマイナンバーカードなどの、公的機関から発行された書類です。
また、受託者と受益者の実印とともに、受託者と受益者の印鑑証明書(発行から3カ月以内のもの)を用意しましょう。
土地や建物といった不動産を家族信託の対象にするなら、不動産の「登記事項証明書(登記簿謄本)」が必要です。また、不動産の価格を証明するための、「固定資産税評価証明書」や「固定資産税課税明細書」も準備しておきましょう。
家族関係を証明できる戸籍謄抄本も必要です。
土地や建物といった不動産を家族信託する場合は、不動産登記の手続きが必要です。具体的には、不動産の名義を委託者から受託者に変更する登記を申請します。また、登記を申請すると、委託者から受託者に名義が変わるのと同時に「信託目録」が作成され、信託の内容が記録されるという仕組みです。
なお、登記に必要な書類等は、基本的には以下のとおりです。ケースによっては以下の書類等以外も準備しておかなければなりません。
原則として、不動産を取得した人には登記識別情報(従来は登記済証)が法務局から通知されます。これは、いわゆる「権利証」のことで「登記識別情報(登記済証)は大切に保管しておいてくださいね」と法務局のスタッフや、登記申請を依頼した司法書士から念を押されたことのある人は多いのではないでしょうか。
ただ、不動産の取得日が数年以上も前だと、発行された登記識別情報(登記済証)を紛失してしまっているケースもめずらしくありません。登記識別情報(登記済証)は再発行されませんが、たとえ紛失していても、司法書士などの専門家に依頼すれば信託の登記を申請することができます。登記識別情報(登記済証)を紛失したことに気付いたら、まずは専門家に相談しましょう。
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相続の相談が出来る司法書士を探す家族信託の契約手続きの流れを解説します。家族信託の内容を決定後、決定した内容を契約書に落とし込み、可能なら公正証書にします。契約書を作成したら、財産の名義を委託者から受託者に移して、最後に財産管理のための口座を開く、というのが家族信託の大まかな流れです。
家族信託のファーストステップは、上記でも説明した家族間の話し合いです。まずは信託に関係する人を含んだ家族全員で話し合って、家族信託の目的を決めます。最初に目的をしっかり決めておかないと、その後の手続きが迷走してしまいかねません。
認知症の備えとしての家族信託なのか、財産の行方を決めるための家族信託なのか、それとも障害のある子どもの生活を支えるための家族信託なのかなど、目的は家庭によってさまざまでしょう。重要なことは、委託者と受託者になる予定の人だけですべてを決めてしまわないことです。
信託契約の当事者でなくとも、他の家族の意見もヒアリングしておきましょう。他の家族の意見を置き去りにして家族信託を進めてしまうと、後になって不満が生じ、トラブルや揉め事に発展しかねません。最も長く時間をかけるくらいの気持ちで慎重に検討してください。
専門家に相談している場合は、専門家も一緒になって信託契約の内容を検討するのが一般的です。
家族間の話し合いで決めた内容に基づいて、信託契約書を作成します。作成においては、可能なかぎり具体的な表現を用いましょう。あいまいな表現で解釈の余地を残してしまうと、後から議論に発展して、財産管理の邪魔になるおそれがあります。
登記は可能か、税務上問題がないか、などの疑問が生じた場合は、司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談しましょう。疑問をひとつずつ解消しながら、漏れのない信託契約書を作成していきます。
作成した契約書は公証役場で公正証書にします。公正証書化が必須というわけではありませんが、作成した信託契約書が委託者の意思に基づくものであることを公的に証明してもらうことで、トラブル防止効果が期待できます。
契約書を作成したら、いよいよ財産の名義を親から子へ移します。名義を移す手続きは、財産の種類によって異なります。
たとえば、信託財産のなかに不動産が含まれているなら、所有権を親から受託者である子に移転する信託登記を法務局に申請しなければなりません。また、信託目録という信託財産を一覧にした記録の作成も必須です。
現金や預金が信託財産なら、それらのお金を管理するための専用口座を開設し、開設した専用口座に信託財産のお金を入金して管理していくのです。
なお、家族信託は新しい財産管理の方法なので、今後の法制度や判例の変更によっては、契約書の内容を微調整する必要が生じるでしょう。そんなときには、家族信託を依頼した専門家に再度相談することをおすすめします。
また、家族信託には「30年ルール」という有効期間が設けられていることも念頭に置いておきましょう。30年ルールとは「信託開始から30年経過後に受益者となった人が死亡すると、信託は終了する」というルールです。従って信託の効果は永遠ではない、ということです。
「遺言代用信託」という家族信託のかたちもあります。遺言代用信託とは文字通り、「遺言の代わりとして利用できる信託」です。委託者が生前に受託者と信託契約を結ぶ点は普通の家族信託と同じです。
遺言代用信託では、委託者の死亡により、指定しておいた人に受益権が移るようにしておきます。受益権は、信託財産から発生する利益等(お金など)を受け取る権利です。
たとえば、委託者の死後残される子どもや配偶者の生活を守りたい、といった委託者の生前の希望を叶えるための手段として、遺言代用信託が利用される傾向にあります。
また、家族信託には「信託宣言」というかたちもあります。信託宣言の特徴は、「自分に自分の財産を託す」という、委託者自身が受託者になる点です。信託宣言の目的は、一般的には信託の「倒産隔離機能」で、信託した財産は委託者固有の財産とは切り離されます。
そのため、万が一委託者が自己破産して委託者固有の財産が没収されたとしても、信託財産は手元に残るのです。しかし、信託宣言が債権者(お金を払え!と委託者に請求できる人)の邪魔をする目的でおこなわれた場合は、倒産隔離機能が認められない可能性があります。
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相続の相談が出来る司法書士を探す家族信託は専門家に依頼するイメージが強いですが、個人でも可能です。ここからは、家族信託を専門家に依頼せずにおこなうメリットを紹介します。
家族信託を個人でおこなうことで、専門家に依頼した場合の相談料金や、契約書作成手数料、コンサルティング料などが不要になり、費用がかなり安くなります。
個人で家族信託をする場合にかかる費用は、たとえば、交通費や印紙代金、公正証書にする場合の手数料等の実費だけです。
ただし、信託財産に不動産が含まれているなら、原則として登記申請時に「登録免許税」を支払わなければなりません。登録免許税は、不動産の課税価格の1000分の4です。課税価格が1000万円の不動産であれば、登録免許税として4万円を法務局に納めます。
なお、土地を信託する場合の登録免許税は、2023年3月31日までは課税価格の1000分の3に軽減されているので、計算の際は気を付けてください。
自分で家族信託をおこなう場合には、プライバシーを他人に話す必要がないメリットがあります。
家族信託を専門家に相談する場合、家族構成や財産の内容、財産管理方法や承継に関する家族の意向など、プライバシーをつまびらかにしなければなりません。専門家には守秘義務があるので、話した内容を専門家が外部に漏らすことはありえませんが、それでも、プライバシーを公開することに抵抗を感じる人もいるのではないのでしょうか。
家族信託は個人で手続き可能とはいえ、やはり、専門家に依頼しなかったことでトラブルに発展する可能性はあります。知識が不十分なまま家族信託契約を進めると、のちにトラブルが生じるおそれがあります。
と言うのも、信託契約は複雑です。トラブルを予防したいなら「なんとなく大丈夫だろう」と油断せずに、法律や税金面など確かな知識に基づいて慎重に手続きを進めなければなりません。現状から判断した最善の手が、将来において悪手に転じる可能性など、あらゆるリスクを詳細に検討しておきたいところです。
一般的に家族信託の問題点が発覚するのは、トラブルが発生したタイミングです。しかし、トラブルが生じてから家族信託の内容を変更しようとしても手遅れになる場合があります。
たとえば、契約書に不備がある状態で、委託者の親が認知症になってしまったようなケースです。認知症になった人は家族信託契約を結べないため、打つ手がなくなってしまいます。
家族信託の契約書が偽物だと主張されるリスクもあります。たとえば、委託者を父親、受託者を長女とする家族信託で、信託内容の話し合いを父親と長女だけで進めてしまうと、他の家族が不信感を抱きかねません。結果的に家族信託契約書が完成しても、内容に納得できない家族から委託者の死後等に「契約書は偽物だ」という主張等がされて、トラブルに発展するおそれがあるのです。
将来的なトラブルを予防するためにも、知識と経験が豊富な専門家に家族信託を依頼して、第三者の立場から手続きを慎重かつ安全に進めてもらうことをおすすめします。
家族信託を専門家(司法書士、弁護士など)に依頼した場合の費用はおよそ50~100万円程度です。内訳は以下のようになります。
相談・コンサルティング料は30~80万円ですが、この費用相場は信託財産の価格によって異なります。1億円以下の信託財産なら価格の1%、1億円超で3億円以下なら価格の0.5%です。
公正証書作成を専門家に依頼した場合の費用相場は10~15万円です。
公正証書作成手数料は、公正証書作成の手数料として公証人へ支払う費用です。3~10万円が相場といえます。契約の内容や信託財産額に応じて費用が上下します。
信託財産に不動産が含まれている場合、不動産価格の1000分の4に相当する額を法務局へ税金として納めます。ただし、2023年3月31日まで、土地については税率が1000分の3に軽減されています。
なお、専門家に信託の登記を依頼した場合は、別途報酬がかかるのが一般的です。費用相場は専門家ごとに異なりますが、最低でも10万円~15万円はかかると考えておきましょう。
ここでは、家族信託に関わる税金について説明します。
委託者以外の人が受益者になったケースで発生する場合があります。
収益マンションを信託した例で考えてみましょう。Aさんが息子のBさんを受託者として、所有するマンションを信託しました。このとき、Aさんは姪のCさんを受益者に設定したので、今後はCさんが、マンションから発生する家賃などの利益を受け取ることになります。
この家族信託によって、法的にはAさんはCさんに利益を「贈与」したと解釈され、Cさんに贈与税が課されるのです。贈与税は、利益を受け取った人が支払わなければなりません。委託者以外の人を受益者にしたい場合は、贈与税についてもしっかりと検討しておきましょう。
委託者の存命中は、委託者が受益者を兼ねるケースが多く見られます。委託者兼受益者と定めてておけば、贈与税を支払わずに済むからです。しかし、委託者の死亡で相続人が「受益権」を相続した場合には、受益権の相続について相続税がかかります。家族信託をした財産について、相続税を支払わずに済むようになるわけではないことに注意しましょう。
受益者が受益権を売却した場合には、売却して得た儲けに対して所得税が課されます。もともとの受益者が法人なら、法人税も発生します。
不動産を信託する際には「信託による所有権移転登記」を法務局に申請する必要があります。登記を申請することで、不動産の名義が委託者から受託者に変更され、信託の内容が不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されるのです。
登記には「登録免許税」という税金がかかります。信託による所有権の移転登記なら、不動産の課税価格の1000分の4にあたる額を税金として法務局に納めなければなりません。なお、2023年3月31日までは、土地の信託による移転登記の税率のみ、課税価格の1000分の3に軽減されています。
不動産を家族信託するなら、固定資産税も無視できません。固定資産税は、不動産の所有者である「所有権登記名義人)が支払う税金です。
信託によって、不動産の所有者が委託者から受託者にかわります。すると、次の年度からは、受託者のもとに固定資産税の納税通知書が届きます。
つまり、受託者が納税しなければならなくなります。
しかし、受託者は委託者に財産を託されて管理、運用している立場にすぎません。運用で得た利益は受益者のものになるため、所有者といっても名ばかりのケースが多く、その受託者が固定資産税を負担するのは不満のもとになりかねないでしょう。不動産を家族信託する際は、固定資産税を実際は誰が支払うのかについても話し合っておくことをおすすめします。
家族信託は専門家に依頼すべきとはいっても、依頼する専門家によっては満足できる家族信託が叶わないおそれがあります。ここでは、家族信託における専門家選びで気を付けたいポイントを紹介しています。
家族信託は比較的新しい財産管理、承継方法です。そのため、家族信託を専門に扱っている専門家の数はまだ少なく、精通した専門家は一握りです。そんな数少ない頼れる専門家を探したいなら、家族信託の実績を問い合わせるところから始めましょう。実績や経験が多ければ多いほど、依頼者の安心感につながりますし、手続きもスムーズに進みやすいです。
家族信託は、委託者の意思に沿った自由な財産管理、処分、承継を可能にします。しかし活用方法を間違えると、トラブルの種になりかねません。家族の生活の安定、安心のためにも、専門家や専門機関に頼るところは頼って、上手に家族信託を活用しましょう。
(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)
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