目次

  1. 1. 家族信託とは
    1. 1-1. 家族信託契約は親が認知症になる前に
    2. 1-2. 家族信託の仕組み
  2. 2. 家族信託を利用するメリット
    1. 2-1. 次の世代の相続も指定ができる
    2. 2-2. 受託者が自己破産しても財産は影響を受けない
    3. 2-3. 不動産の共有で起こるトラブルを防止できる
    4. 2-4. 自分自身も自分以外も受益者に指定できる
  3. 3. 家族信託を利用した事例
  4. 4. 家族信託を利用する際の注意点やデメリット
    1. 4-1. 家族信託の専門家を見つけるのが難しい
    2. 4-2. 士業は受託者になれない
    3. 4-3. 不動産の赤字を他の所得と相殺できない
    4. 4-4. 家族信託の手続きは手間がかかる
    5. 4-5. 受託者が長期間拘束されてしまう
  5. 5. 既に認知症でも家族信託ができる?
    1. 5-1. 家族信託の可否は、親の「判断能力」
    2. 5-2. 親が軽度認知症で家族信託を利用できた事例
    3. 5-3. 信託契約書作成の際の公証人の質問に答えられるかがポイント
    4. 5-4. 親に判断能力がない場合は法定後見制度の活用を
  6. 6. まとめ

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家族信託は、家族間で信託契約を結んだ上で、財産管理を可能にする方法です。親が元気なうちにできるので、財産管理や処分の方向性について、親自身の意思を最大限反映できます。

ただし、家族信託は、家族間の「信託契約」となっているため、既に認知症と診断された人は家族信託の契約が原則としてできません。家族信託は認知症になってから契約できないので注意が必要です。

認知症になり、自分の意思を外部に伝える能力が低下したり失われたりすると、その人は、自分の財産の管理や処分が自分でできなくなります。具体的には、銀行口座からお金をおろしたり、所有している不動産を賃貸したり、売却したりできなくなるということです。

では、親が認知症になった場合にその子供が親の代わりに親の銀行口座からお金を引き出したり、親名義の不動産を売却したりできるでしょうか。たとえば幼児の代わりに親が幼児名義の銀行口座を作成したり、幼児名義の不動産を管理したりするのは認められているので、ともすれば可能だと考える読者もいるかもしれません。

しかし認知症の親名義の財産を子どもが代わりに管理するのは、原則として認められていません。たとえ親の入院費用など、親自身が必要な資金を用立てるためであっても、子供が親の銀行口座からお金を引き出すことはできないのです。財産管理ができるのは、「その財産の所有者だけ」であることを理解しておきましょう。

認知症になってからの財産管理方法は限定的です。だからこそ、家族信託などで認知症対策を講じておくのが重要です。認知症になる前に家族信託を契約しておくことで、認知症になった親の代わりに子どもが信託口座のお金を管理したり、不動産の売買契約や賃貸借契約を結べたりするようになります。

家族信託の仕組みを簡単に説明しましょう。

家族信託での登場人物は、主に「委託者」「受託者」「受益者」の三者です。委託者は、自分が所有する財産の管理を任せる人で、受託者は管理を任される人、受益者は信託で生じた利益を受ける人です。

家族信託は、所有権を「財産権(財産から利益を受ける権利)」と「財産を管理運用処分できる権利」とに分けて、受託者と受益者へ別々に渡すことができる契約です。この契約によって所有者が認知症などで判断能力が低下しても、影響を受けることなく財産管理が可能となります。

家族信託には、以下のメリットがあります。

  • 次の世代の相続も指定ができる
  • 受託者が自己破産しても財産は影響を受けない
  • 不動産の共有で起こるトラブルを防止できる
  • 自分以外を受益者に指定できる

自分の財産を相続させる相手を決める手段として一般的に用いられるのが「遺言」です。たとえば、「自分の亡き後は自宅を配偶者に相続させたい」という希望があるなら、遺言書にその内容を記載しておくことで足ります。

ただし「自分が亡き後、自宅を相続させた配偶者が亡くなったら、長男に相続させたい」といった、次の世代への希望も叶えたい場合は、遺言では不十分です。なぜなら、遺言で決められるのは「自分の財産を最初に相続させる人」だけだからです。

遺言によって配偶者が自宅を相続すると、その自宅は配偶者の財産になります。配偶者の財産になった以上、その自宅を次に相続させる人を決められるのは配偶者だけなのです。

一方、家族信託なら、自分が亡き後の次の世代の相続についても指定できます。

家族信託によって財産管理を任せた「受託者」が自己破産したとき、自分の財産がどうなってしまうのか不安に感じる人もいるのではないでしょうか。

自己破産をすると、不動産や銀行預金など、自己破産者が所有する一定額以上の財産は没収され、現金化された後に債権者に配分されます。

家族信託で信託した財産の名義は受託者にうつるため、受託者個人の財産と同様に没収されると思われがちですが、それは間違いです。たとえ受託者が自己破産をしたとしても、受託者個人の財産とは完全に区別される「倒産隔離機能」によって、信託した財産は守られます。

不動産を共有するにはリスクを伴います。たとえば、きょうだいで2分の1ずつ土地を共有しているケースで考えてみましょう。

きょうだいが仲良く、土地の管理や処分について揉めなければ良いですが、折り合いが悪いと土地をめぐってトラブルになることもめずらしくありません。特に土地の売却について共有者同士が揉めると、売却できないまま膠着状態がつづき、売れるチャンスを逃してしまうおそれもあります。

初めは共有者同士の仲が良くても、ささいなきっかけで関係が悪くなる可能性があるため、不動産の共有は基本的にはおすすめできません。

しかし家族信託をしておけば、共有によって生じがちなトラブルを防止できる可能性は高くなります。

仮に弟の持分すべてを兄に信託し、兄が一人で土地を管理、処分することができると定めたとします。兄の一存で決定できるため、双方の承諾が必要な場合のように、揉めて売却できずに土地を放置するような事態を防ぐことができるのです。売却金は持分に応じて受け取れるので 、お金の問題も解決できます。

委託者は自分以外を受益者に指定することも、自分自身を受益者に指定することもできます。

たとえば高齢の父親が所有する収益マンションを、息子に信託するケースでは、父親が「委託者」で息子が「受託者」です。

受託者の息子は父親に代わってマンションを管理し、入居者から家賃を受け取ったり、賃貸借契約などの手続きをおこなったりします。しかし息子はあくまでもマンションを管理するだけであり、マンションの収益(家賃)を自分の収入にできるわけではありません。マンションの家賃などの利益は、信託契約で定めた受益者のものになります。従って、受益者を父親自身に定めた場合は、家賃は父親のものです。

信託契約の定め方によっては、父親の亡き後の受益者を母親に指定することもできます。管理は信頼できる息子に任せて、お金はそれまで通り親の生活費にできるので、親子ともに安心感があります。

家族信託が効果を発揮する例を紹介します。

A男さんとB子さんは夫婦で、子どもはいません。A男さんの両親と祖父母は他界していますが、姉が一人います。B子さんもまた両親と祖父母が他界し、弟が一人います。夫婦が住む土地と建物はA男さんの名義で、A男さんは自分が亡くなった後は、B子さんに土地と建物を相続させたいと考えています。

土地と建物をB子さんに相続させたいだけなら、遺言書で十分です。しかし、実はA男さんは、B子さんが亡くなったあとの土地建物の行方を心配していました。B子さんが亡くなったあとは、彼女の弟が相続人になるため、土地と建物もB子さんの弟のものになるでしょう。

A男さんは、先祖代々受け継がれてきた土地がB子さんの親族のものになることに抵抗がありました。できるならB子さんが亡くなった後は、自分の姉の子である甥に土地建物を継がせたいと考えています。しかし遺言書では、その希望は叶えられません。遺言書は、自分が亡くなったときの相続人を指定できますが、その次の世代の相続人までは決められないからです。

このケースでは、家族信託ならA男さんの希望を叶えられます。A男さんと甥の間で、委託者兼受益者をA男さん、受託者を甥として土地建物を信託する契約を結びます。

信託によって土地建物の名義は甥に移りますが、A男さんが受益者として土地と建物に住み続けることができるようにしておきます。その後、A男さんが亡くなっても、土地と建物はすでに甥の名義のままです。B子さんに土地建物の名義が移ることはありません。ただし、信託契約で「A男さんが亡くなったら、B子さんを受益者とする」としておけば、B子さんもずっとその土地 と建物に住み続けることができます。

加えて、「B子さんが亡くなったら信託は終了し、土地と建物は甥のものにする」という内容にしておけば、B子さんの弟に土地と建物が渡ることはありません。

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便利な家族信託ですが、注意点もあります。ここからは、家族信託で勘違いされがちなポイントや注意点を紹介します。

  • 家族信託の専門家を見つけるのが難しい
  • 士業は受託者になれない
  • 不動産の赤字を他の所得と相殺できない
  • 家族信託の手続きは手間がかかる
  • 受託者が長期間拘束されてしまう

家族信託自体が比較的新しい手法のため、精通している専門家の数がまだまだ少ないのが現状です。弁護士や司法書士、税理士それぞれに扱う分野も経験も違うため、誰でも詳しいわけではありません。相談するなら、家族信託に詳しくて経験のある専門家を選んでください。

【関連記事】相続の相談先はどこがいい? 弁護士、司法書士、税理士に相談できる内容と探し方

法律上、専門家が不特定多数の信託の受託者になることは認められていないため 、専門家は受託者になれません。家族信託は、あくまで家族のなかから 選ばれることを前提としています。

信託財産の運用による赤字を、他の事業と損益通算できない点もデメリットです。損益通算とは、所得税の申告の際に、赤字と黒字を差し引きして最終的な所得を算出することを指します。

塾を経営しているAさんが、収益用のマンションを所有しているケースで考えてみましょう。Aさんが確定申告をするときは、塾経営の損益(黒字と赤字)とマンション経営の損益を合算して所得を算出します。塾経営が黒字で、マンション経営が赤字の場合、損益通算によってマンション経営の赤字が塾経営の黒字から差し引かれるので、結果的に所得が低くなり、所得税も安くなります。

では、Aさんが娘のBさんにマンションを信託していた場合はどうなるのでしょうか。信託財産であるマンションの経営で生じた損益を、Aさんの本業である塾経営の損益と合算することはできません。つまり、塾経営の黒字からマンションの赤字を引けないため、所得が高額になり、所得税も高くなってしまうのです。

また、信託財産から収益がある場合は、信託計算書などの書類を作成して税務署に提出しなければいけないため、税務上の手間も増えます。

さらに家族信託自体には相続税の節税効果はほぼないため、節税目的なら、他の方法と家族信託との組み合わせによる活用が必須です。

家族信託を利用することで、遺言よりも柔軟な財産承継が可能になります。しかし家族信託は、遺言よりも手間がかかるのが通常です。遺言は、遺言を残す当事者のみで作成できますが、家族信託は委託者と受託者の合意の上で進めていく必要があります。事前準備も家族信託の方が大変になるケースが多数です。

家族信託の契約手続きの大まかな流れ

自分が亡き後の財産の行方や管理方法まで指定できるのが家族信託のメリットです。しかし裏を返せば、委託者である故人の遺志に受託者や財産が長期間拘束されてしまう一面もあります。

委託者亡き後に、受託者や財産をとりまく状況が一変するかもしれません。そんなとき、臨機応変に財産の管理方法を変えたくても、最初の契約内容に拘束されて断念せざるを得ないおそれがあります。

加えて不測のトラブルをも招きかねないため、二世代後にもわたるような家族信託をおこなうときは、長期間にわたって当事者を拘束するリスクも把握したうえで変化にも対応できるよう信託契約の内容を検討しましょう。

【関連記事】家族信託は危険!? 失敗・後悔の9パターン トラブル回避の方法を解説

家族信託は、家族間の信託契約です。認知症の人は契約行為ができないため、既に認知症と診断された人の家族信託は原則として不可能だということはすでに述べました。しかし例外的に家族信託が利用できる場合があります。ここでは認知症でも家族信託ができる可能性について説明します。

認知症の症状、つまり判断能力の低下具合によっては、家族信託が活用できるかもしれません。

認知症の前段階とされる「軽度認知症(軽度認知障害)」ならば家族信託を利用できる可能性があります。軽度認知症とは、判断能力について「正常と認知症の間」と診断されている状態です。日常生活や判断能力には問題ないが、年齢のわりに物忘れが激しくて若干の記憶生涯がある、といった症状が軽度認知症にあてはまります。

重要なのは、軽度認知症は「医師が認知症と診断した場合」ではないということです。あくまでも、認知症になると家族信託はできないと踏まえて、財産管理については早めの検討と行動を心がけてください。

認知症の親がいる場合に家族信託を利用できたケースを紹介します。軽度認知症のA子さんが、自分の所有するマンションを息子のB男さんを受託者として信託した例です。

軽度認知症の人を委託者として家族信託をおこなうわけですから、通常の家族信託よりも注意深く契約を進めていかなければなりません。まずはA子さんに、家族信託をおこなえるだけの判断能力があるのか、に注目します。A子さんが家族信託の内容をしっかり理解して、前向きな姿勢を示しているのかを慎重に判断する必要があります。

A子さんは家族信託の契約内容が十分に理解できており、契約書を公正証書で作成する際の、公証人からの確認にも淀みなく答えることができていたため、無事に家族信託をおこなえました。しかし、このケースをすべての軽度認知症の方にあてはめることはできないので、その点はご注意ください。

軽度認知症でも家族信託ができた理由の1つが「公正証書」の存在です。信託契約書は、公正証書で作成するのが一般的です。公正証書で契約書を作成する場合、公証人や契約書を作成した専門家が、厳密な確認をおこないます。

軽度認知症の委託者が、ほんとうに契約内容を理解できているのか、という確認です。委託者の意思を確認するために、公証人は委託者に対してさまざまな質問をします。委託者が公証人からの質問に、よどみなく口頭で回答できたなら、公証人は委託者の判断能力に問題なしとして公正証書を作成するのです。

認知症ではないことを契約前にはっきりさせておきたい場合は、医療機関で「長谷川式認知症スケール」といった認知テストを受けておくのも一つの手です。また、軽度認知症だった委託者が認知症になったり、亡くなったりした後に、家族間で信託契約の内容について揉めるような事態にならないよう、家族の合意書を作成しておくことも欠かせません。

家族信託は柔軟な財産管理を可能にする方法です。しかし財産の所有者が認知症になってしまった後では、家族信託は利用できません。認知症や事故の後遺症などで判断能力を失った人の財産管理や契約手続きをおこなう必要があるなら、法定後見制度を利用しましょう。

法定後見制度は、家族信託とは異なり、判断能力が衰えた後からでも新たに利用できます。認知症などで判断能力が低下した人(被後見人)の代わりに契約や料金の支払い、介護保険の手続きなどをおこないます。利用には家庭裁判所への申し立てが必要です。申し立てを受けた家庭裁判所は、被後見人を支援する成年後見人等を選任します。

法定後見制度では、被後見人の自宅の売却など、被後見人の財産の処分や管理方法に制限がかけられます。被後見人のすべての財産が家庭裁判所の管理下に置かれます。成年後見人は被後見人の財産を守る行為はできても、勝手に運用したり、処分したりすることは基本的にはできないのです。

一方で、法定後見制度だからこそできることもあります。それが「身上監護」です。身上監護とは、簡単に言うと被後見人の「身の回り」の手続きを代わっておこなうことを指します。身上監護権があるからこそ、成年後見人は被後見人の入退院や、施設への入所、退所の手続きなどをすることができるのです。家族信託の受託者は、身上監護権を与えられません。そこが、法定後見制度による成年後見人との大きな違いです。

なお、成年後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選ばれた場合は、毎月、専門家への費用が発生します。費用は被後見人の財産から支払われるものの、法定後見が終了しない限りは費用がかかり続けるので、法定後見の期間が長いほど被後見人の財産が目減りしてしまうのです。

財産管理に焦点をあてるなら成年後見制度を活用するよりも家族信託の方が、メリットがあるでしょう。財産管理や承継における柔軟性と自由度を優先するなら、なおさらです。認知症になった後に家族信託の契約はできないため、両親が元気なうちに専門家に相談するなど、早めに行動することをおすすめします。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)

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