連絡を無視する相続人がいる場合の対処法 手続きの進め方を弁護士が解説
相続手続きを進めるとき、連絡を無視、拒否する相続人がいたらどうしたら良いのでしょうか? 手続きをせずに放置するとさまざまなデメリットがありますが、かといって一部の相続人が欠席している状態で遺産分割協議を成立させても無効です。連絡を無視する相続人がいる場合の正しい相続手続きの進め方を、弁護士がわかりやすく解説します。
相続手続きを進めるとき、連絡を無視、拒否する相続人がいたらどうしたら良いのでしょうか? 手続きをせずに放置するとさまざまなデメリットがありますが、かといって一部の相続人が欠席している状態で遺産分割協議を成立させても無効です。連絡を無視する相続人がいる場合の正しい相続手続きの進め方を、弁護士がわかりやすく解説します。
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連絡を無視、拒否される、返信がこないからといって、その相続人全員が出席せずに遺産分割協議をしてはいけません。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、一部の相続人を外して協議を成立させることができないためです。また、勝手にその相続人の署名押印をして遺産分割協議書を作成しても無効です。遺産分割そのものに締め切りはありませんが、そのままにしておくと様々なデメリットが生じます。
連絡を無視する相続人がいても、遺産分割協議や相続手続きを放置すると下記のようなデメリットが考えられます。
被相続人の死亡に伴って実家が空き家になることは少なくありません。老朽化が進んでいる空き家の場合、建物の一部が倒壊して隣地の居住者や歩行者などに怪我をさせてしまったり、草木が隣地や道路に侵入してしまったりする事態も生じかねません。
このような事態を避けるため、不動産を売却してしまいたいと思うかもしれませんが、不動産は相続人全員の「共有」状態であるため、一部の相続人だけでは売却できません。
そして、不動産の老朽化による損害発生を防ぐためには、不動産の所有者を決める必要があります。この点からも、速やかに相続手続きを進めるべきでしょう。
銀行が被相続人の死亡を把握すると同人名義に口座は凍結されるため、それ以降は相続人全員で協力しなければ預貯金を引き出すことができなくなります。
そうなると、葬儀費用、被相続人の医療費や借金の支払い、実家の管理や解体などのために被相続人の預貯金を使いたいと思っても使うことができません。また、被相続人の同居者が被相続人名義の預貯金で生活費をまかなっていた場合には、生活費に窮することにもなりかねません。
なお、預貯金の仮払制度を利用すれば一定額の引き出しは可能ですが、全額の引き出しはできませんから、やはり相続手続きは速やかに進めるべきでしょう。
被相続人が株式を有していた場合、未受領の配当金が発生することもあります。未受領配当金の請求については、3年や5年など比較的短期で請求期限を定める会社も少なくありません。そのため、相続手続きを放置していると、請求できなくなってしまうことにもなりかねません。
相続税の申告が必要なケースでは、相続開始を知った時から10カ月以内に相続税の申告をしなければなりません。遺産分割協議が終わっていない場合、法定相続人が法定相続分で相続したものと仮定して申告することになります。この場合、小規模宅地の特例などが適用されないため、相続税が高くなってしまいます。
ただし、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議ができる見込みであれば、その旨をあらかじめ届け出ておくことで、後日、特例の適用を受けることは可能です。
令和3年民法改正によって、相続開始の時(被相続人が亡くなった時)から10年が経過すると、原則として特別受益や寄与分の主張ができなくなりました(民法904条の3・令和5年4月1日施行)。
今回の改正では、民法改正付則3条により、法律施行時(令和5年4月1日)以前に被相続人が死亡していた場合にも効力が及ぶので注意が必要です。ただし、この場合、経過措置として、相続開始の時から10年を経過する時または施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時までが期限になります。例えば、法律施行時に既に相続開始の時から10年が経過していても、施行の時から5年間は特別受益や寄与分の主張が可能ということです。
このように、遺産分割協議を長期間放置していると、上記の期限を過ぎてしまい、寄与分や特別受益の主張ができなくなってしまうおそれがあるので注意が必要です。期限が過ぎる前に家庭裁判所に遺産の分割の請求をするなどの対応をするようにしましょう(民法904条の3ただし書き)。
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相続の相談が出来る弁護士を探す連絡を無視する、または取れない相続人がいる場合、どのように遺産相続手続きを進めればいいのでしょうか。いくつか対処法を紹介します。
他の相続人からの連絡は把握しているものの、多忙である、折り合いが悪いなどの理由で無視する相続人も少なくありません。このような場合に、いきなり遺産分割調停を申し立てると、かえって関係を悪化させかねません。
そこで、まずは相手に、前記の相続手続きを放置することによるデメリットを説明することから始めると良いでしょう。また、そのまま無視し続けると遺産分割調停をするしかなく、お互い家庭裁判所に出頭する面倒が生じることを説明しておくことも有効です。
相続人本人からの連絡は無視しても、弁護士からの連絡には応答する相続人もいます。このように弁護士を入れることで解決するケースもありますから、調停を申し立てる前に弁護士に依頼することを検討すると良いでしょう。
デメリットを伝えても弁護士が介入しても何の返答もないこともあるでしょう。その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるしかありません。調停を申し立てると、家庭裁判所から相手の住所地に呼び出し状を送ってくれます。
そのため「裁判所から連絡が来てしまっては仕方がない」「裁判所が間に入ってくれるなら」ということで応答が来ることもありますし、正当な理由がなく欠席すると5万円以下の過料制裁を受ける可能性があります。「正当な理由」についてはかなり緩いので、過料が科されるケースも非常に少ないのが現状ですが、一定の効果があると思われます。
また遺産分割調停に欠席すると自身の主張をする機会がなくなり、無断で欠席した場合は調停委員の心象を悪くなるため、連絡を無視するメリットはほとんどないことを伝えましょう。
特定の相続人が家庭裁判所からの呼び出し状にも応答しない、欠席などがつづくと、調停でも遺産分割が成立しないこともあります。その場合、遺産分割調停から遺産分割審判へと移行します。
遺産分割審判は、それぞれの相続人が意見を主張して、最終的に審判官が遺産分割の方法を判断するため、相続人全員が参加しなくても成立します。
ここまでは連絡を無視する相続人を念頭に相続手続きの進め方を解説してきました。ここからは、行方不明の相続人がいる場合の相続手続きの進め方を解説します。
まずは、その相続人の住所地を調査します。具体的には、住民票や戸籍の附票を取り寄せます。また、近しい親族に事情を聞いてみるのも良いでしょう。住所地が判明したら手紙で連絡を入れてみます。応答があればそのまま相続手続きを進めましょう。
通常、人は住民票上の住所地に居住していますが、何からの事情でその場所には居住していないこともあります。その場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」選任の申し立てをしましょう。
不在者財産管理人とは、従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)がいる場合に、不在者に代わって遺産分割などを行える人物です。共同相続人であれば、利害関係人として不在者財産管理人選任の申し立てができ、その後は選任された不在者財産管理人との間で遺産分割協議をします。
行方不明の相続人が生死不明の状況で7年以上経過しているのであれば、家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てをすることも一つの方法です。
失踪宣告がなされれば、その相続人は法律上死亡したことになるので、遺産分割協議に参加させる必要はありません。ただし、失踪宣告をされた相続人に相続人(配偶者や子など)がいれば、遺産分割協議に参加させる必要があります。なお、失踪宣告は親族の心情になじまない場合が多いので、前記の不在者財産管理人の選任を選択することが多いです。
連絡がとれない相続人がいる場合、早めに弁護士に相談しましょう。
弁護士に依頼をすれば、連絡が取れない原因や状況に応じて、他の相続人に対する連絡や遺産分割調停や審判への対応、不在者財産管理人選任や失踪宣告の申し立てといったひと通りの法的手続きに対応してもらえます。ご自身で進めるよりもスムーズに相続手続きを完了できるでしょう。
これまで述べたように相続手続きを長引かせることによるデメリットも大きいですから、ぜひ弁護士に相談や依頼することを検討してみてください。
(記事は2023年1月1日時点の情報に基づいています)
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