目次

  1. 1. 遺言書を無視すると罰則を受ける?
    1. 1-1. 遺言書を無視するだけなら刑事罰を受けることはない
    2. 1-2. 相続人・受遺者全員の合意があれば、遺言とは異なる方法による遺産分割も可能
  2. 2. 遺言を無視した遺産分割ができないケースは?
    1. 2-1. 相続人・受遺者が一人でも反対した場合
    2. 2-2. 遺言により遺産分割が禁止されている場合
    3. 2-3. 遺言執行者がいる場合
  3. 3. 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合は罰則・ペナルティあり
    1. 3-1. 有印私文書偽造罪などにより罰せられる
    2. 3-2. 相続欠格により相続権を失う
  4. 4. 遺言書の検認を怠った場合は過料の制裁を受ける
  5. 5. まとめ|遺言書と異なる遺産分割は弁護士へ相談を

遺言書がある場合でも、相続人・受遺者全員が納得して合意すれば、異なる方法で遺産分割を行うことができます。この場合、罰則等の適用もありません。

しかし、遺言によって遺産分割が禁止されている場合があるほか、遺言書の隠匿・偽造・変造は犯罪に当たるので注意が必要です。

遺言書が存在する場合、その内容のとおりに遺産を分けるのが原則です。

しかし、遺言書の内容に納得できず、無視して遺産分割をしたいケースもあるかもしれません。その場合、相続人が罰則を受けてしまうようなことはあるのでしょうか。

実は、遺言書を単純に「無視」するだけであれば、相続人が刑事罰を受けることはありません。

刑事罰の対象となっているのは、後述する遺言の偽造・変造・破棄・隠匿に限られ、遺言の単なる「無視」は刑事罰の対象ではないのです。

刑事罰の問題とは別に、「遺言を無視した遺産分割が有効なのかどうか」という問題があります。この点、相続人・受遺者※全員の合意があれば、遺言とは異なる方法による遺産分割が可能と解されています。

※受遺者:遺言による贈与(遺贈)を受ける人

いったん遺言のとおりに遺産を分け、それから相続人間の協議によって遺産を分け直すのは二度手間なので、一度にまとめてしまってよいということです。なお、全相続人・受遺者の同意が必須となるので、関係する戸籍情報をすべて確認したうえで、全員を確実に把握することが大切です。

遺言書の内容を無視した遺産分割は常に認められるわけではなく、以下の場合には認められないので注意が必要です。

遺言書とは異なる内容の遺産分割を行うには、相続人・受遺者全員の同意が必須です。

逆に言えば、相続人・受遺者が一人でも反対した場合には、遺言書どおりに遺産を分けなければなりません。

遺言書の中では、相続開始の時から5年以内の期間を定めて、遺産分割を禁止することが認められています(民法908条)。

遺言によって遺産分割の禁止が定められている場合、その定めを無視して行われた遺産分割は無効となってしまうので注意しましょう。

遺言執行者が就任している状況で、遺言とは異なる内容の遺産分割を行いたい場合には、遺言執行者の辞任または解任が必要です。遺言執行者の辞任・解任については、いずれも「正当な事由」が要件とされていますが(民法1019条1項、2項)、両者の意味内容には違いがあります。

特に「相続人全員の合意により、遺言とは異なる内容の遺産分割を行いたいから」という理由は、辞任の「正当な事由」としては認められやすいものの、解任の「正当な事由」としては認められにくいので注意が必要です。

相続人(または受遺者)の誰かが遺言執行者の場合は、自ら家庭裁判所に辞任を申し出ればよいでしょう。

一方、そうでない人が遺言執行者の場合は、遺言執行者に対して辞任を説得する必要があるでしょう。

遺言書を単に「無視」するにとどまらず、偽造・変造・破棄・隠匿に及んだ場合には、刑事罰を受けるほか、相続権を失う結果となってしまいます。

刑事罰の対象となる偽造・変造・破棄・隠匿の内容
刑事罰の対象となる偽造・変造・破棄・隠匿の内容

たとえ遺言書の内容に不満があるとしても、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿は絶対にやめましょう。

遺言の偽造・変造・破棄・隠匿に対しては、それぞれ以下の犯罪が成立します。

遺言の偽造・変造・隠匿に対して成立する犯罪と法定刑
遺言の偽造・変造・隠匿に対して成立する犯罪と法定刑

被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は、相続人の欠格事由(民法891条5号)に該当し、相続権を失ってしまいます。

相続欠格に該当した場合、遺留分を含めた一切の権利が失われ、全く財産を相続できなくなってしまうので要注意です。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません(民法1004条1項本文)。

「遺言書は無視して遺産分割をするから、検認はいいや」というわけにはいかず、必ず検認を求める必要があります。

もし検認義務を怠った場合には、「5万円以下の過料」という行政罰に処される可能性があるので注意しましょう(民法1005条)。

なお、以下のいずれかに該当する場合には、遺言書の検認は不要です。

  • 公正証書遺言の場合(民法1004条2項)
  • 法務局で保管されている自筆証書遺言の場合(遺言書保管法11条)

遺言書の内容とは異なる遺産分割をする場合には、相続人・受遺者全員の同意をとる必要があるほか、さまざまな注意点が存在します。そのため、遺言書とは異なる方法での遺産分割をご検討中の場合には、事前に弁護士へご相談ください。刑事罰その他のペナルティを受けることがないように、留意しておくべき事項についてアドバイスを受けられます。

(記事は2021年9月1日時点の情報に基づいています)