1、相続放棄とは

相続放棄とは、相続により被相続人の財産を包括的に承継した効果を遡及的に消滅させるために行われます。
これにより、相続人がはじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
被相続人の負債を承継することがなくなる一方、すべてのプラスの資産についても承継できないこととなります。

相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して、相続放棄の申述書等の必要書類を提出して手続きを行います。申述書の書式は、裁判所のホームページに掲載されています。

2、申述の受理前に取り下げる

では、上記必要書類の提出をいったん行ってしまった場合には、これを取りやめることはできないのでしょうか。

相続放棄の申述が受理される前であれば、上記相続放棄の申述の受理申立を取り下げることができます(家事事件手続法82条1項)。

3、申述受理後の撤回・取消

⑴ 他方、一度受理された相続放棄は、撤回することができません(民法919条1項、最判昭和37年5月29日民集16巻5号1204頁)。

⑵ 相続放棄の取消
では、相続放棄に何らかの問題があったとして、取り消すことはできないのでしょうか。
民法上、以下の理由がある場合に取消が認められています(民法919条2項)。

ア 未成年者(法定代理人の同意なし)、成年被後見人、被保佐人(保佐人の同意等なし)が相続放棄手続を行った場合

イ 「錯誤」により放棄した場合
「被相続人には見るべき資産は特にない」「被相続人に多額の借金がある」といったような錯誤があった場合(高松高判平成2年3月29日判時1359号73頁、福岡高判平成10年8月26日判時1698号83頁)に相続放棄の取消が認められた事例があります。

もっとも、このような錯誤があったから必ず相続放棄の無効が認められるわけではありません。誤解した事情が相続放棄申述書に記載されるなどして表示されていたこと、当該錯誤が相続放棄を取消しうるほどの重大な影響をもたらしたこと、相続放棄をした人が十分な調査を行っていたなど重大な過失がなかったこと等の事情も斟酌されます。これらの事情を立証することは難しく、そもそも錯誤取消が認められた事例においても微妙な難しい判断がなされています。このため、錯誤による取消を認めてもらうには高いハードルがあるといえます。

ウ 「詐欺又は強迫」により放棄した場合
相続人の1人が財産を独占しようと考え、他の相続人に対し、「相続放棄をした場合には自立しうるだけの財産を必ず分与する」などと約束した上で相続放棄をさせた場合(東京高決昭和27年7月22日家庭裁判月報4巻8号95頁)に「詐欺」を理由として、相続放棄の取消を認めたケースがあります。
また、実在する債務がないにもかかわらず、「相続放棄をしないと莫大な借金を負う」などと騙して相続放棄をさせた事案につき、詐欺取消ができる場合があります。

「相続放棄をしない限り家に火をつける」など、相続人に害悪を示して恐怖を生じさせたうえで相続放棄をさせた場合が「強迫」による相続放棄として、取り消すことができる場合があります。

エ 後見監督人がいるときに後見人がその同意を得ずに、被後見人ないし未成年被後見人の相続放棄をした場合  

4、相続放棄取消は難しい

相続放棄の取消手続きを行うには、「追認をすることができる時から6か月」ないし「相続放棄の時から10年」以内に(民法919条3項)、相続放棄取消申述書などの必要書類を家庭裁判所に提出する手続が必要となります。

その際、上記のような取消原因があったことの証拠等の提出も行うこととなりますが、そのような証拠が残っていることは一般的に稀かと思います。
また、何らかの証拠があったとしても、相続放棄を行う意思決定過程において、取消が認められる程度の重大な影響があったと立証することは困難です。

このため、相続放棄取消が認められる件数自体は少なく、難しい手続きであるといえるかと思います。
だからこそ、相続放棄を行う際は、財産の調査や相続人との話し合いを綿密に行うなど、慎重に決定してください。
相続放棄をするか否か迷う場合やいったん相続放棄をしてしまい、以上のような取消原因があるためにどうしても納得がいかず、相続放棄の取消を行いたい場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

(記事は2020年11月1日現在の情報に基づきます)