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相続放棄の取消しができるケースとは?撤回はできない? 条件や手続を解説
相続放棄をするかどうかは、慎重に考えないといけません。(c)Getty Images
相続放棄は、家庭裁判所で一度受理されると撤回はできません。もっとも、「だまされた」「脅された」「重大な思い違いがあった」などの事情があるときは、受理後でも取消しが認められるケースがあります。
取消しには主張できる期間があり、事情に気づいた日から6か月以内、または放棄した日から10年以内です。本人の意思によらない相続放棄がなされた場合は無効の主張ができる場合もあります。
相続放棄の撤回・取消し・無効の違いや期間を整理し、「相続放棄をやめたい」と思ったときに取り得る対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。
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1. 相続放棄とは
相続放棄とは、相続開始により生じた相続の効果を、全面的に消滅させる行為です。これにより、相続放棄をした人は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。亡くなった人(被相続人)の負債を承継することがなくなる一方、プラスの資産についてもすべて承継できないこととなります。
相続放棄の手続きは、相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して、相続放棄の申述書等の必要書類を提出します。申述書の書式は、裁判所のホームページに掲載されています。
もし相続人が「相続放棄をやめたい」と考えた場合、どうすればよいのでしょうか。相続放棄の申述が家庭裁判所に受理される前か後か、さらにその理由によって、以下の表のように「取下げ」「取消し」「無効」などと取るべき対応が変わります。
| 手続きの種類 |
可否 |
主張できるケース |
認められる期間 |
| 取下げ |
可 |
相続放棄の申述が受理される前に取りやめたい |
家裁に申述が受理される前まで |
| 撤回 |
不可 |
━ |
━ |
| 取消し |
例外的に可 |
・未成年者が同意なくして行った相続放棄 ・錯誤・詐欺・強迫があった |
・「追認ができる時」から6か月 ・相続放棄の時から10年 |
| 無効 |
例外的に可 |
・相続放棄の申述が偽造された ・代理権のない者が申述した |
なし |
2. 相続放棄の申述が受理される前であれば取下げができる
相続放棄の申述は、家庭裁判所に受理される前であれば受理申立を取り下げることができます(家事事件手続法82条1項)。
申述書を家庭裁判所に提出すると、後日、家庭裁判所から申述人宛てに相続放棄の意思を確認するための「相続放棄照会書」が送付されます。申述人が照会書に回答して返送し、裁判所が審査を行ったうえで受理決定がなされます。
取下げを行う場合は、家庭裁判所の受理決定がなされる前に、申述をした裁判所にすみやかに連絡し、取下書を提出する必要があります。
3. 相続放棄の撤回はできない
相続放棄は、申述について家庭裁判所で受理審判がなされた時点で法的な効力が発生するため、撤回することができません(民法919条1項、最判昭和37年5月29日民集16巻5号1204頁)。撤回とは、過去になされた行為の効力を将来にわたって消滅させることを指します。
したがって、「気が変わったので、やはり相続したい」など、申述後の相続人の心変わりなどを理由に覆すことはできません。
4. 相続放棄の取消しは例外的に認められる
相続放棄が家裁に受理されてしまった後でも、「取消し」が認められるケースがあります。
「取消し」とは、相続放棄をするという意思表示に法律上問題があったときに、相続放棄をした時点に遡って効力をなくすことを意味します。取消しが認められると相続放棄の申述が最初からなかったものとして扱われ、相続人として遺産を相続することができるようになります。
相続放棄の意思表示に問題があったと取消しが認められた事例を紹介します。
4-1. 取消事例①|未成年者など法律行為に制限のある人が単独で相続放棄手続をとった
未成年者(法定代理人である親権者の同意なし)、成年被後見人、被保佐人(保佐人の同意等なし)が相続放棄手続を単独で行った場合は、取消しができる場合があります。
4-2. 取消事例②|「錯誤」により相続放棄した
実際にはそういった事実はないにもかかわらず、「被相続人には見るべき資産は特にない」「被相続人に多額の借金がある」といったような誤解(錯誤)があった場合(高松高判平成2年3月29日判時1359号73頁、福岡高判平成10年8月26日判時1698号83頁)に相続放棄の取消しが認められた事例があります。
このような錯誤があったから必ず相続放棄の取消が認められるわけではありません。以下のような事情も考慮されます。
- 誤解した事情が相続放棄申述書に記載されるなどして表示されていた
- 当該錯誤が相続放棄を取り消しうるほどの重大な影響をもたらした
- 相続放棄をした人が十分な調査を行っていたなど重大な過失がなかった
これらの事情を立証することは難しく、そもそも錯誤取消が認められた事例においても微妙な難しい判断がなされています。このため、錯誤による取消しを認めてもらうには高いハードルがあるといえます。
4-3. 取消事例③|「詐欺又は強迫」により相続放棄した
相続人の1人が財産を独占しようと考え、他の相続人に対し、「相続放棄をした場合には自立しうるだけの財産を必ず分与する」などと約束した上で相続放棄をさせた場合(東京高決昭和27年7月22日家庭裁判月報4巻8号95頁)に「詐欺」を理由として、相続放棄の取消しを認めたケースがあります。
また、実在する債務がないにもかかわらず、「相続放棄をしないと莫大な借金を負う」などと騙して相続放棄をさせた事案につき、取消しができる場合があります。
「相続放棄をしない限り家に火をつける」など、相続人に害悪を示して恐怖を生じさせたうえで相続放棄をさせた場合が「強迫」による相続放棄として、取り消すことができる場合があります。
4-4. 相続放棄の取消しができる期間
以下の期間内に「相続放棄取消申述書」と必要書類を添付し、相続放棄の申述をした家庭裁判所に提出します。
- 追認をすることができる時から6か月以内(民法919条3項)
- 相続放棄をした時から10年以内
「追認することができる時」とは、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消しをできることを知った時とされています。例えば、詐欺を理由として取消す場合には、詐欺であることが分かり、取消しをできることを知った時ということになります。
5. 相続放棄の無効が認められるケースもある
相続放棄が無効、つまり相続放棄の法律上の効果はそもそも生じていないと主張できるケースもあります。
「無効」とは、そもそも法律行為の基礎となる意思が不存在であった場合や法律の要件を満たさない相続放棄がなされたとき等に、最初から相続放棄の効果は発生していないことを意味します。
例えば、知らない間に勝手に書類が偽造されるなどして相続放棄が申述され受理されてしまっていたような場合、その相続放棄は無効とされた裁判例があります。
6. 取消しや無効が認められた後の影響や手続
相続放棄の取消しや無効が認められると、相続人としての地位が復活します。その結果、相続人として相続関連の手続を改めて行う必要が生じます。
たとえば、他の相続人との遺産分割協議や相続登記、相続税申告などの相続手続をやり直す必要があります。
他の相続人や債権者(被相続人にお金を貸していた金融機関など)にも影響する可能性があり、特に取消しや無効が相続放棄から時間が経過しているほど大きなトラブルになるリスクがあります。適切な対応を専門家に相談すべきです。
7. まとめ 「相続放棄を取り消したい」と思ったら弁護士に相談を
相続放棄は家庭裁判所に受理された後は撤回できなくなります。取消しが認められるのも、「だまされた」「脅された」「重大な思い違いがあった」などの場合に限られます。
だからこそ、相続放棄を行う際は、財産の調査や相続人との話し合いを綿密に行うなど、慎重に決定してください。
相続放棄をするか否か迷う場合やいったん相続放棄をしてしまい、以上のような取消原因があるためにどうしても納得がいかず、相続放棄の取消しを行いたい場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)
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