「死後離婚」は相続や遺族年金に影響する? 手続きや注意点も解説
配偶者が亡くなったとしても、配偶者の血族との姻族関係は続きます。姻族関係を終了させるためには、市町村長に対して姻族関係終了の届出をする必要があります。これがいわゆる「死後離婚」です。死後離婚をした場合の効果、相続や遺族年金への影響、注意点も含めて弁護士が解説します。
配偶者が亡くなったとしても、配偶者の血族との姻族関係は続きます。姻族関係を終了させるためには、市町村長に対して姻族関係終了の届出をする必要があります。これがいわゆる「死後離婚」です。死後離婚をした場合の効果、相続や遺族年金への影響、注意点も含めて弁護士が解説します。
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「死後離婚」とは、市町村長に届出をすることによって、自分と亡くなった配偶者の血族(
血縁者)との姻族関係を終了させることをいいます。
結婚(婚姻)をすると、一方の配偶者と他方の配偶者の血族との間で「姻族関係」が生じます。例えば、妻からみると、夫の両親や夫の兄弟姉妹は姻族です。そして、配偶者が亡くなったとしても、自分と亡くなった配偶者の血族との姻族関係は自動的に終了することはありません。
そのため、例えば、妻が、亡くなった夫の両親や夫の兄弟姉妹との姻族関係を終了させたいと考えた場合、市町村町にその旨の届出をする必要があります。
ここで注意が必要なのは、「死後離婚」という言葉からは、あたかも配偶者の死後に、自分と配偶者とを離婚させるものであるかのようなイメージを受けますが、そのようなものではない、という点です。離婚は、夫婦がともに生存している間にしか行えないため、配偶者が亡くなってから自分と配偶者を離婚させることはできません。「死後離婚」とは、あくまで自分と亡くなった配偶者の血族との姻族関係を終了させるものです。その意味で、「死後離婚」というネーミングは誤解を招きやすく、注意を要します。
死後離婚のメリットとデメリットは、法的なものよりも心理的なものが多く挙げられます。後述するように、相続や遺族年金には影響はないので、経済的なデメリットはないといっていいでしょう。
【メリット】
扶養義務については、配偶者が亡くなった後、義父母や義理の兄弟姉妹の扶養義務を負う可能性があります。家庭裁判所が「特別な事情」を認めた場合に限るのですが、死後離婚すると、そうした家庭裁判所の判断を受けずにすみます。扶養義務については後ほど、詳しく説明します。
祭祀の承継は、承継者にならずにすむのはメリットといえる一方で、新たな承継者を決めるために亡くなった配偶者の親族を協議するというのは大きなストレスにもなり得ます。
【デメリット】
亡くなった配偶者との間に子どもがいる場合、子どもが「なぜ死後に配偶者の親族との関係を絶つ必要があるのか」と悪く受け止める可能性があります。死後離婚をする際には、子どもの理解を得ることも大切です。
また、死後離婚をしても、子どもと配偶者の血族との血縁関係は続くため、配偶者の親族との関係悪化による影響も考慮した方がいいでしょう。
先に解説したとおり、「死後離婚」とは、一般に自分と亡くなった配偶者の血族との姻族関係を終了させることをいいます。自分と亡くなった配偶者との関係には影響を与えないため、亡くなった配偶者の財産はそのまま相続することができます。また、一方の配偶者は他方の配偶者の血族の誰かが亡くなったとしても、法律上は、相続権を有しません。元々、相続権がありませんので、「死後離婚」による影響もありません。
「死後離婚」は、自分と亡くなった配偶者との関係には影響を与えません。そのため、遺族年金等もそのまま受給することができます。
法律上、直系血族と兄弟姉妹は、扶養義務があります。例えば、親と子、祖父母と孫、兄弟姉妹は互いに扶養することが求められます。他方で、例えば、妻と、夫の両親や夫の兄弟姉妹という姻族関係にある者については、最初から扶養義務があるわけではありません。家庭裁判所が「特別の事情」があるときに限って、扶養義務を負わせることがあるにとどまります。そして、実務上、「特別の事情」はよほどの事情がない限り認められません。
そのため、例えば、夫を亡くした妻が夫の両親の扶養義務を負う可能性は極めて低いといえます。したがって、夫を亡くした妻が、「夫の両親の扶養義務を免れるため、死後離婚をしなければならない」と考える必要は通常ありません。家庭裁判所の判断がない限り、そもそも扶養義務は発生しないためです。
また、民法上、「同居の親族は、互いに扶けあわなければならない」という規定もありますが、これは一般的には倫理規定であり、法律上の効果を有しないと考えられています。このように、法律上、一方の配偶者が他方の配偶者の両親や兄弟姉妹の面倒を見なければならないのは、あくまでそのような家庭裁判所の判断があった場合に限られます。
そのため、あらかじめ「死後離婚」をしておく必要はさほどない、といえます。亡くなった配偶者の両親や兄弟姉妹が、残された配偶者に対して扶養義務を求めるためには、家庭裁判所への申立が必要になりますから、配偶者としては、そのような申立があってから「死後離婚」をすることで問題ないと考えられます。
配偶者の一方が亡くなった場合、残された配偶者は、届出をすることによって、婚姻前の元の氏(名字)に戻すことができます(これを「復氏」といいます)。この復氏の届出と「死後離婚」(姻族関係の終了の届出)とは、相互に影響を与えません。
そのため、「死後離婚」をすることなく、元の氏に戻ることもできますし、「死後離婚」をしたからといって元の氏に戻さなければならない、ということもありません。
また、復氏の届出をした際には、元の戸籍に戻るか新たに戸籍を作るか選ぶ必要があります。
「死後離婚」をした場合、仮に、残された配偶者が婚姻の際に氏を改めており、かつ、亡くなった配偶者の祭祀(墓地・仏具・位牌)を承継していた場合には、祭祀の承継に利害関係を有する者との間で改めてその承継者を決めなければなりません。
例えば、婚姻の際、妻が夫の氏に改め、夫が遺言書で祭祀の承継者に妻を指定した場合が考えられます。この場合、「死後離婚」をすると、夫が遺言書で祭祀の承継者に妻を指定していたとしても、祭祀の承継に利害関係を有する者、例えば、夫の両親や兄弟姉妹との間で、この祭祀の承継者を誰にするか改めて協議しなければならないということになります。これは残された配偶者にとっては非常に負担が大きく、頭の痛い問題となります。
死後離婚によって関係が断ち切れるのは、残された配偶者と亡くなった配偶者の血族との関係のみです。亡くなった配偶者との間に子どもがいる場合には、子どもと亡くなった配偶者の親族との血縁関係は続きます。
このため、亡くなった配偶者の両親が亡くなった場合は、子どもが亡くなった配偶者に代わって代襲相続することになります(ただし、これは死後離婚の効果ではありません。死後離婚をしていても、していなくても、子どもは、亡くなった配偶者に代わって代襲相続することになります)。
死後離婚の有無とどこのお墓に入るかは全くの別問題です。あくまでも死後離婚とは、自分と亡くなった配偶者の血族との姻族関係を終了させるものであり、自分と配偶者が夫婦であったという事実がなくなるわけではありません。
そのため、死後離婚をした場合であっても、亡くなった配偶者と同じお墓に入ることに何ら問題はありません。また、亡くなった配偶者とは別のお墓に入るためには死後離婚をしなければならない、ということもありません。
死後離婚は正式には「姻族関係終了届」といいます。本籍地もしくは住所地のある市区町村の役場に必要書類を提出します。期限はありません。
届出にあたっては、配偶者の親族の承諾は必要ありません。死後離婚成立後にも、子どもや配偶者の親族に役場から連絡がいくことはありません。
姻族関係終了届に必要な書類などは以下の通りです。
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相続の相談が出来る弁護士を探す姻族関係終了届を一度提出してしまうと取り消すことはできません。そのため、慎重に検討した上で、後悔のない選択をするようにしましょう。
死後離婚をしても、相続放棄をしたことにはなりません。仮に亡くなった配偶者に多額の借金があって相続放棄したい場合には、死後離婚の手続きとは別に相続放棄の手続きが必要です。相続放棄の手続きは、相続が開始してから3カ月以内という期限があるので、注意が必要です。
冒頭で解説したとおり、死後離婚とは、自分と亡くなった配偶者の血族との姻族関係を終了させることをいいます。自分と配偶者とを離婚させるものではありませんので、この点、注意が必要です。
また、法律上は、あえて死後離婚をすることの効能はさほどない一方で、祭祀の承継に関し、大きな紛争が生じる可能性があります。
もし、亡くなった配偶者の血族とのその後の関係性やしがらみを断ち切りたいというのであれば、それは死後離婚(姻族関係の終了の届出)という方法ではなく、実際に配偶者の血族にその旨宣言する、同居を解消するといった法的手段ではない方法による必要があります。また、死後離婚の有無とどこのお墓に入るかも別問題です。
このように、本当に死後離婚をする必要があるのかは慎重に検討する必要があります。死後離婚すべきかどうか迷う場合には、まずは弁護士など専門家に相談することをお勧めします。
(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)
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