遺言書の効力を解説 債務の相続人は指定できる?専門家が解説
遺言書の法的効力には制限もあります。もしかすると、遺言書を作っても意思を反映できないことがあるかもしれません。今回は、遺言で「決められること」と「決められないこと」を解説します。
遺言書の法的効力には制限もあります。もしかすると、遺言書を作っても意思を反映できないことがあるかもしれません。今回は、遺言で「決められること」と「決められないこと」を解説します。
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私は「遺言書セミナー」や「エンディングノートセミナー」で講師を務めています。その中で「遺言書に書くべきことは何か?」「エンディングノートには何を書けばいいか?」といった質問が多く寄せられます。
遺言書は、日常的に接する機会が少ないので、漠然としたイメージのままで考えている人もおられると思います。そこで、遺言書で法的効力が発生することと、遺言書を遺しても法的効力が発生しないことを整理していきましょう。
まずは、遺言書で決められることについてお伝えします。
自分の財産を、誰にどのくらいの割合で譲るのかを決めることです。たとえば「妻に相続財産の10分の6、長男に10分の2、長女に10分の2の割合で相続させる」などと明記するものです。
また、割合の指定を第三者に遺言書で頼むこともできます。ここで言う第三者には、法律上の制限はありません。弁護士や行政書士でもいいです。親族で信頼できたり頼れたりする人もいいかもしれません。もちろん、おじやおばといった親族でも大丈夫です。
第三者に割合を決めてもらう際のメリットは、死亡した時点での相続人や相続財産の状況を考慮して財産の配分を決められることです。
もっともよく知られていて、一般的に「遺言書」のイメージを形にしたものです。相続財産の分割とともに、承継の相手を指定することです。具体的には「不動産を妻に、○○銀行の預金を長男に、○○会社の株式を次男に相続させる」などと決めることです。また、「相続分の指定」と同じように、その指定を第三者に頼むことも出来ます。
相続財産を相続人、友人や知人、法人に譲ることです。譲る先としては、病に冒された際に治療をしてくれた医療機関なども考えられます。また、遺贈の割合を決めたり、特定の財産を指定したりもできます。
遺言書を書いた遺言者が亡くなった後、その遺言書を使って、実際に法務局や金融機関で手続きを進める「遺言執行者」を決められます。また、遺言執行者の指定を第三者に頼むことも決められます。
自分が亡くなった後、財産を巡るトラブルが予想されるため「冷却期間を設けたい」などと考えた場合、遺言者は、相続開始の時(死亡)から5年以内で期間を決め、遺産の分割を禁止できます。ただし、相続税の申告と納付は10カ月以内と変わらないので注意が必要です。
婚姻関係にない女性との間に生まれた子を遺言書で認知することです。男性が遺言書にその旨を記載し、亡くなった後には、遺言執行者が認知の手続きを済ませ、その子を認知する流れとなります。
相続人に未成年者がいた場合、父や母といった最後の親権者は、遺言書で未成年後見人を決めることができます。後見人は、未成年の養育や財産管理などを担うことになります。後見人の事務を監督する未成年後見監督人も同様に指定できます。
「相続人の廃除」は、相続する資格を失わせることを指します。いわば、財産を受け取れなくさせるものです。遺言者自身が生前に手続きを済ませることもできます。また、死後に遺言書を使って行うこともできます。
遺言者に虐待や重大な侮辱などを加えた相続人には、遺言者死亡後、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをし、審判の結果、相続人の資格を失わせることができます。また、生前に遺言者自身が廃除の申し立てをし、一度、廃除が決まった場合、その効果を遺言書で取り消すこともできます。
墓地、仏壇、位牌などを承継する人を指定できます。
遺言書では、信託を設定することもできます。効果が発生するのは、遺言者が死亡した後になります。こちらは二者の契約ではなく、遺言者の単独の行為になります。
たとえば、障がいのある親族に財産を引き継ぐ際、金銭管理などをお願いできます。ただ、お願いされた「受託者」が断ることも考えられます。このため、生前に、受託者と合意して契約を交わす「信託契約」を選んだほうがいいと思います。
次に遺言書で決められないこと(法的効力が発生しないこと)について説明します。
遺言書で、子どもといった特定の人同士に結婚や離婚を求めることはできません。遺言者自身が異性と結婚したり、配偶者と離婚したりすることもできません。養子縁組についても同様です。
遺言者の兄弟姉妹以外の相続人には、最低限度で相続する権利があります。これを「遺留分」と言います。具体的な遺留分は、配偶者や子どもは、法定相続分の2分の1、親だけが相続人の場合は、3分の1です。
もしも、遺言書で指定された相続人(遺留分権利者)の受け取る割合が、遺留分よりも少ないと、財産を多く取得した相続人に、遺留分の金銭を支払うよう求めることができます。もし、遺言者が「遺留分侵害額請求はしないようにすること」と遺言書に書いたとしても、法的な効力はありません。
遺言者の財産の維持または増加に「特別な貢献」をした相続人には、相続人の協議または家庭裁判所の決定で相続分を多くもらえる制度があります。それを「寄与分」と言います。これは遺言書で決められません。ただ、相続人同士の話し合いで、寄与分の金額を決めて、介護など続けられてきた人に、多く財産を取得させることもできます。
借金なども相続の対象になります。ただ、「長男が債務のすべてを承継すること」と記載しても、債務は法定相続分の割合に従って各相続人に承継され、各相続人に支払い義務が発生します。
遺言書で決められることに「祭祀承継者の指定」を挙げましたが、葬儀を行う際の希望などは決められません。もしも、希望がある場合には、エンディングノートに記載して、ご家族によくお願いをしておくと実現できる可能性があります。
いざ遺言書を書くとなると、戸惑うこともあると思います。書く内容を決めても、実際に文章にするとなると、思い通りにいかないかもしれません。ましてや、書いたことに法的効果があるかどうか、不安に感じることもあるでしょう。スムーズに相続手続きが進められるかどうか分からない方は、弁護士や行政書士などの専門家にご相談することをお勧めします。そうすることで、より確かな形で思いを形にできると思います。
(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)