祭祀承継者の役割・選び方 就任するメリット・デメリット 祭祀財産と遺産相続の関係性を解説
祖先の祭祀を担当していた方が亡くなった場合、「祭祀財産」の承継が発生します。祭祀財産は、通常の遺産とは異なるルールによって引き継がれる点に注意が必要です。今回は、祭祀承継者の役割や選び方、祭祀承継者に就任するメリットやデメリット、さらに祭祀財産の遺産相続における位置づけなどを弁護士が詳しく解説します。
祖先の祭祀を担当していた方が亡くなった場合、「祭祀財産」の承継が発生します。祭祀財産は、通常の遺産とは異なるルールによって引き継がれる点に注意が必要です。今回は、祭祀承継者の役割や選び方、祭祀承継者に就任するメリットやデメリット、さらに祭祀財産の遺産相続における位置づけなどを弁護士が詳しく解説します。
目次
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「祭祀承継者」とは、代々受け継がれている「祭祀財産」を承継し、祖先の祭祀を主宰する者を意味します。
祭祀財産は系譜・祭具・墳墓の3種類に分類されます。
①系譜
先祖代々の血縁関係を記載した図表です。
(例)家系図
②祭具
祖先の祭祀に用いられる器具です。
(例)位牌、仏像、仏壇、神棚
③墳墓
遺体や遺骨の埋葬等に用いる土地やその利用権、物品などです。
(例)墓地、墓碑
祭祀承継者は、上記のような祭祀財産を管理し、祖先のお墓を維持したり、定期的に法要を開催したりする役割を担います。
祭祀承継者になると、祖先の祭祀のやり方などを、自分が中心となって決めることができます。
したがって、いわゆる「家」の当主に当たる人が、祭祀承継者となるケースが多いです。
祭祀のやり方を含めて、家全体に関する事柄を自分で決めていきたい方は、祭祀承継者になるメリットがあります。
その一方で祭祀承継者は、祭祀財産を維持・管理しなければなりません。
祭祀財産の維持・管理にあたっては、墓地の清掃や永代供養の費用など、一定のコストがかかります。
さらに、祭祀の実施方法については、最終的に祭祀主宰者が決められるとしても、他の親族の意向を全く無視してしまうわけにはいきません。
そのため祭祀承継者は、祭祀の実施に関して、親族間の取りまとめ役を担うのが一般的です。
場合によっては、親族同士で祭祀を巡る意見対立が発生し、祭祀承継者が板挟みになってしまうケースも想定されるので注意しましょう。
祭祀財産は、遺産相続において、通常の遺産とは異なる取扱いがなされています。
祭祀財産は、民法上の「相続財産」には該当しません。
祭祀財産の承継ルールは、通常の相続とは別枠で定められています(民法897条1項)。
したがって、祭祀財産は遺産分割の対象とならず、独特なルールによって祭祀承継者が決定されることになるのです。
なお、祭祀財産は相続財産に該当しないため、祭祀財産を承継したとしても、他の遺産の取り分が減ってしまうことはありません。
また、相続放棄をした場合であっても、祭祀財産を承継することは可能となっています。
祭祀財産は、相続税の非課税財産とされています(相続税法12条1項2号)。
ただし、骨董的な価値があるものや、投資対象となるものなどは、祭祀財産であっても相続税の課税対象となるので注意が必要です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す祭祀承継者は、以下の3段階の手順で選出されます(民法897条1項、2項)。
被相続人が祭祀承継者を指定した場合、指定された者が祭祀承継者となります。
なお祭祀承継者の指定は、必ずしも遺言による必要はなく、その他の書面や口頭によって行うことも可能です。
被相続人による指定がない場合、慣習に従って祭祀承継者が選出されます。
被相続人との続柄によって決めることが多いですが、慣習は地域や家ごとに異なるので、一概には言えません。
慣習が明らかでない場合には、家庭裁判所に対して、祭祀承継者を定める審判を申し立てることができます。
家庭裁判所は、以下の要素を考慮して、祭祀承継者として誰が適任であるかを判断します。
祭祀財産の管理や親族間の調整が面倒であるなどの理由で、祭祀承継者になりたくないと考える方もいるかと思います。
祭祀承継者への就任を回避するには、どのように対処すればよいのでしょうか?
被相続人から祭祀承継者として指名された場合、法律上は、祭祀承継者への就任を辞退することはできません。
祭祀財産は相続財産ではないため、相続放棄によって承継を回避することも不可能です。
そのため、被相続人から指名を受けた場合、法的には祭祀承継者への就任を避けられないことになります。
被相続人が所有していた祭祀財産は、相続発生によって祭祀承継者の所有物となります。
自らの所有物である以上、祭祀承継者は、祭祀財産を自由に処分することができます。
例えば、系譜や祭具であれば、他の親族に譲り渡してもよいですし、極端な話ですが捨ててしまっても違法ではありません。
お墓であれば、いわゆる「墓じまい」を行うことも考えられます。
このように、祭祀承継者としての役目を放棄する行為をしたとしても、何らかの罰則を受けたりすることはありません。
ただし、祭祀承継者が自分だけの判断で祭祀財産を処分してしまうと、他の親族から強い反発を受ける可能性が高いです。
そのため、祭祀財産の処分方法については、祭祀承継者の引き継ぎを含めて、親族間で事前に話し合っておくことが望ましいでしょう。
被相続人による指名がなく、慣習に従って祭祀承継者を決定する場合には、親族間の話し合いの中で、自分は祭祀承継者になりたくない旨を伝えましょう。
「慣習によって決める」とは言っても、主要な親族が合意したのであれば、伝統とは異なる方法で祭祀承継者を決めても問題ありません。
どうしても祭祀承継者への就任を回避したい場合には、他の適任者を推薦することも考えられます。
いずれにしても、できる限り主要な親族全員が納得できるような方法で、円満に祭祀承継者を決定することを目指しましょう。
祭祀財産は、通常の遺産とは異なり遺産分割の対象とならず、独特なルールによって被相続人から祭祀承継者へ引き継がれる点に注意が必要です。
祭祀承継者への就任を巡っては、親族間で対立が発生することもあります。
弁護士にご相談いただければ、遺産分割トラブルと併せて、解決策についてアドバイスいたします。
祭祀財産の承継や、その他遺産相続に関するトラブルの解決は、弁護士にお任せください。
(記事は2022年2月1日時点の情報に基づいています)
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