目次

  1. 1. 遺留分侵害額請求権とは 生前贈与との関係は?
    1. 1-1. 遺留分侵害額請求権とは
    2. 1-2. 遺留分侵害額請求ができる人とは
    3. 1-3. 生前贈与が遺留分とどう関わる?
    4. 1-4. 生前贈与が遺留分を侵害するとどんなもめごとが起こる?
  2. 2. 遺留分がかかわる生前贈与の例
    1. 2-1. 遺留分請求の対象となる資産の例
    2. 2-2. 遺留分トラブルが発生しやすい典型的なケース
    3. 2-3. 遺留分トラブルが起こるきっかけ
  3. 3. 遺留分侵害額を計算する手順
    1. 3-1. 遺留分の基礎となる財産を計算する
    2. 3-2. 遺留分割合を求める
    3. 3-3. 遺留分の基礎となる財産に遺留分割合をかけ算する
    4. 3-4. 遺留分計算の具体例
  4. 4. 遺留分侵害額請求の方法
    1. 4-1. 請求の相手方
    2. 4-2. 請求方法
    3. 4-3. 合意書を作成して支払いを受ける
    4. 4-4. 遺留分侵害額請求調停、訴訟を申し立てる
  5. 5. 遺留分侵害額請求は「1年の時効」に注意
  6. 6. 相手が返還に応じない場合の対応は
  7. 7. まとめ 時効に注意して手続きを

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遺留分侵害額請求権とは、侵害された「遺留分」に相当するお金を請求する権利です。遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産の取得割合です。

贈与や遺言によって自分の遺留分を侵害されたとき、侵害された相続人は侵害した人(受贈者や受遺者)へ遺留分に相当するお金の取り戻しを請求できます。それが遺留分侵害額請求権です。
なお遺留分を取り戻す権利は、以前は「遺留分減殺請求権」という「物を取り戻す」権利でした。今は民法改正によって侵害された分の「お金を払ってもらう権利」である「遺留分侵害額請求権」に変更されているので、間違えないように注意しましょう。

遺留分侵害額請求できる人は「兄弟姉妹以外の法定相続人」です。つまり以下の法定相続人に認められる可能性があります。

  • 配偶者
  • 子ども、孫、ひ孫などの直系卑属
  • 親、祖父母、曽祖父母などの直系尊属

遺留分の割合は、「親や祖父母などの直系尊属のみが法定相続人の場合に3分の1」、「それ以外のケース(子どもや配偶者が相続人に含まれる場合)に2分の1」です。その割合に、遺留分権利者の法定相続割合をかけ算すると個別の遺留分割合を求められます。

たとえば3人の子どもが相続人となる場合、遺留分の割合は2分の1です。子ども達それぞれの法定相続分が3分の1なので、1人1人の子どもには2分の1×3分の1=6分の1の遺留分が認められます。

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生前贈与が行われると「遺留分」を侵害する可能性があります。あまりに多額の生前贈与が行われると、贈与を受けられなかった相続人の取得分が大きく減ってしまい、権利を害される可能性があるからです。
具体的には以下のような生前贈与があると、遺留分侵害額請求の対象になります。

  • 相続開始前1年間に行われた生前贈与
  • 遺留分権利者を害すると知って行われた相続開始1年以上前の生前贈与
  • 法定相続人に対して行われた相続開始前10年以内の生前贈与

多額の生前贈与によって遺留分を侵害してしまったら、遺留分権利者が侵害者へ「遺留分侵害額請求権」を行使して金銭請求する可能性があります。請求された人がすんなり遺留分侵害額を払わなかったり、払いたくてもお金がなかったりすると、スムーズに解決できずにトラブルが大きくなってしまうでしょう。

生前贈与によって遺留分の対象となる財産の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 現金、預金
  • 株式
  • 不動産
  • 親が子どもの結婚の際に高額な持参金を与えた
  • 親が特定の子どもに不動産を贈与した
  • 親が特定の子どもだけに高額な学費を支払った
  • 親が特定の子どもに事業資金を出してあげた
  • 祖父母が孫に高額な生前贈与をした
  • 相場より著しく低い価格で子に土地や建物を売却した

そもそも遺留分トラブルはどのようなきっかけで起こるのでしょうか?
一般的に相続が開始した後、子どもが「そういえば、兄は親から事業資金を出してもらっていた」などと思い当たることがあると「遺留分を侵害されているかもしれない」と言い出してトラブルになるケースが多くなっています。

遺留分侵害額の計算方法は以下の通りです。

まずは「遺留分の基礎となる財産」を明らかにします。具体的には「相続開始時に存在した財産」から「負債」を控除して、以下の遺留分の対象となる生前贈与を足します。

  • 相続開始前1年以内の生前贈与
  • 贈る側と受け取る側が遺留分を侵害すると知って行われた贈与
  • 相続開始前10年以内に行われた法定相続人への生前贈与(結婚や住宅取得などによる特別受益)

法定相続人への生前贈与で含まれるのは「相続開始前10年以内」の生前贈与に限られます。たとえば「20年前の留学資金」などは遺留分計算の基礎にできないので、注意しましょう。

ケースごとの遺留分割合を求めます。たとえば4人の子どもが相続人となる場合、事案全体の遺留分割合は2分の1、子どもたちそれぞれの遺留分割合は2分の1×4分の1=8分の1ずつとなります。

遺留分の基礎となる財産額に遺留分割合をかけ算すれば、遺留分が算出されます。

相続開始時の遺産額が1,000万円で、長男に生前贈与が3,000万円があった場合を考えます。子ども4人が相続人となっている場合は、どうなるでしょうか。
遺留分の基礎となる財産は1,000万円+3,000万円=4,000万円
子ども1人当たりの遺留分侵害額は、4,000万円×8分の1=500万円となります。

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遺留分侵害額請求は「遺留分を侵害した人」に対して行います。
具体的には以下の人が「遺留分侵害者」です。

  • 遺言によって多額の遺贈を受けた人
  • 多額の生前贈与を受けた人
  • 多額の死因贈与を受けた人

遺留分侵害額請求の際、特別な手続きは不要です。
口頭での請求でもかまいませんが、口頭では証拠が残らないので、相手に無視されやすくなり「請求された覚えはない」などと言われるおそれもあります。
次の項目で説明するように遺留分侵害額請求には「時効」もあるので、明確な証拠を残せるように「内容証明郵便」を使いましょう。

内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送ったら、相手との間で交渉をして返還金額や支払い方法を決定します。

遺留分の侵害者と話し合って合意ができたら、「遺留分侵害額請求に関する合意書」という書面を作成しましょう。口約束では守ってもらえない可能性が高くなるので、必ず書面を作成すべきです。そのうえで、入金が行われたかどうかしっかり確認しましょう。

相手に遺留分侵害額請求をしても無視される場合や話し合っても合意できない場合、家庭裁判所で「遺留分侵害額請求調停」を申し立てましょう。調停では、調停委員を介して遺留分侵害額の支払い方法について話し合いを進められます。
それでも解決できなければ、地方裁判所で「遺留分侵害額請求訴訟」を起こし、裁判所に遺留分侵害額の金額や支払い方法を確定してもらう必要があります。

遺留分侵害額請求権には「時効」があります。遺留分権利者が、「相続の開始及び遺留分を侵害する生前贈与や遺贈があった事実を知った時から1年間」で権利が消滅してしまいます。遺留分を侵害する生前贈与を知ったら、早めに遺留分侵害額請求をしないと、遺留分に相当するお金を払ってもらえなくなるので、注意してください。

また「確実に1年以内に遺留分侵害額請求を行った」事実を明らかにするため、請求通知は「内容証明郵便」で送るようお勧めします。普通郵便はこちらに控えが残らないので、相手に「受け取っていない」と言われたら時効によって遺留分侵害額請求できなくなってしまう可能性があります。
内容証明郵便で遺留分侵害額請求通知を送ったら、権利は保全されます。通知後話し合いが難航して1年が経過してしまっても、支払いを受ける権利は失われません。

遺留分侵害額請求を行っても、相手が対応しないケースが少なくありません。親族同士の場合、お互いに感情的になって話し合いが難しくなるケースもあるでしょう。そのような場合、弁護士に代理人として交渉してもらったら、解決できる可能性があります。
弁護士が法律的な観点から冷静に相手を説得したら、相手も支払いに応じるでしょう。どうしても解決できない場合、弁護士に遺留分侵害額請求調停や訴訟を依頼する方法もあります。自分で対応するよりも弁護士に代理人を依頼した方が、調停や訴訟も有利に進められるので、困ったときには弁護士に相談してみてください。

生前贈与によって遺留分を侵害されたら、遺留分侵害額の計算や侵害者との交渉などが必要です。証拠集め、財産評価なども行わねばならず、専門知識やノウハウがないとスムーズに進めるのは難しくなるでしょう。時効にも注意しなければなりません。迷ったときには弁護士に相談して、できるだけ有利な条件による解決を目指しましょう。

(記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)

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