目次

  1. 1. 親子の相続観にはギャップが
  2. 2. 温度差を埋める最初の一歩は財産の棚卸し
  3. 3. 相続手続は次世代に残さず親の代で完結
  4. 4. 一部の手続きは簡略化されたけど・・・・
  5. 5. 相続トラブル回避のポイントは「平等」ではなく「公平」
  6. 6. 優しい人が損をする
  7. 7. ネット銀行のID・パスワードを共有し相続漏れを防ぐ
  8. 8. 家族の幸せにつながる「魂の遺言」とは

相続の経験の有無と年齢や性別ごとに多項目の調査が実施された「現代日本人の相続観 」。50代の場合、約7割が親の相続を経験し、60代では9割に上りました。つまり、50代以上の年齢になると、誰しもが相続に直面することとなるのです。その一方で、相続手続への関わり方は50代以上の各世代で4割以上が代表者として手続を行うも、5割以上が積極的に関わっていないという結果が出ました。
相続に対する意識は親と子どもではどのような温度差が見られたのでしょうか?「財産を渡す立場での意識調査」の中で、親の立場の人たちに「生前の負担と不安」を聴いたところ、「自身の介護」、「高齢時の認知機能の低下」、「入院費用などの経済的負担」がトップ3を占めました。

財産を渡す立場の人に聴いた「生前の負担と不安」
財産を渡す立場の人に聴いた「生前の負担と不安」

これに対して、ギャップが見られたのが、「相続を受ける立場での意識調査」です。子どもの立場から、「事前に親に準備してほしいこと」を聴いてみると、トップは「財産整理」についてで、相続の経験がある人で50.2%、経験がない人でも46.5%にそれぞれ上りました。その後は、「死後の事務手続きや財産処分」、「財産配分と承継」と続き、4番目に「入院や介護に関する要望」がランクインしました。

相続を受ける立場の人たちに聴いた「事前に親に準備してほしいこと」
相続を受ける立場の人たちに聴いた「事前に親に準備してほしいこと」

これらのデータから、何が言えるのか。小谷さんは、こう教えてくれました。
「今回の調査は親子間のギャップの確認が大きな目的でした。親の不安は看護、介護、身体の機能低下や経済的な負担。対して子どもは相続関連の手続や税金、財産の把握を心配する声が顕在化しました。つまり、親は自分の健康問題に重きを置いて、相続なんて『まだまだ先のこと』、子どもは財産に関することが上位で、相続について『そろそろ考えないと』と不安を感じているのです」

生前の準備として知名度が広がっている遺言やエンディングノート、その重要性も理解はしているものの行動に移している人が少ないのが現状でした。エンディングノートのことを知っていても、「用意していない」と答えた人は、相続の経験が「ある」「ない」双方を含めて8割以上を占めました。多くの人が自身の病気をきっかけに相続について考え始めていますが、できれば心身ともに元気なうちに相続の準備を始める方が効率的でトラブルも起きにくいもの。ここでも「書いて欲しい」と願う子どもと親との間で、考えに差があることが分かります。
では、親と子のギャップを埋めるためにはまず何から始めればいいのでしょうか?
「まずは財産の棚卸しです」と小谷さんは話します。「どこに何がどれだけあるのかを自分自身で把握すること。次に財産の整理です。よく『少額だから』と放置している口座をいくつも持っている方がいます。ただ、自分は不要だと思っていても、相続の際には名義書換の手続が必要になります。不要な口座は解約してひとつにまとめるなどの整理が大切です。その上で自分の思いをきちんと遺言で明文化させれば後のトラブルを未然に防ぐことができます」

「遺言は法的に有効かどうかだけではなく、家族が納得するという点で有効であることを考えてほしいです」と話す小谷さん
「遺言は法的に有効かどうかだけではなく、家族が納得するという点で有効であることを考えてほしいです」と話す小谷さん

相続に対する不安には、親子ともに税金対策や相続手続の煩雑さを挙げる声も多く見受けられました。具体的にどのような手続きで悩まれることが多いのでしょうか。
「皆さん悩まれるのが有価証券に関することです。銀行は戸籍謄本や印鑑証明などの必要書類をそろえれば名義書換などが可能ですが、有価証券は、取引がない場合、原則、証券会社に口座を作る必要があります。複数の証券会社と取引していると、とてもやっかいです。さらに公共料金から年金、自動車の名義やゴルフ会員権など、相続時の手続の範囲も広い。共有フォームがあればいいのですが書式も様々なのでとても煩雑です」

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令和2年7月に施行された自筆証書遺言書保管制度では、家庭裁判所の検認が必要ないなど、かなり遺言書の手続きが簡略化されました。制度ができた際に、今後は死亡届や埋葬許可証の提出から相続手続までを法務局で一本化するシステムも視野に入れているというような話題もありましたが、今後の展望が気になります。ただ、今でも、相続手続きには面倒な点もあるようで・・・・。その一つが戸籍の収集です。被相続人が亡くなると、生まれてから亡くなるまでの戸籍を集める必要が生じることもあります。小谷さんが解説してくれました。
「戸籍法の改正によって戸籍は様式が何度か変更されています。相続手続には改正前の戸籍(改製原戸籍)が必要ですが、古い戸籍は手書きです。なかには筆書きのようなものもあり読み解くのが困難であるばかりか、誤記があると、その後、違う名前を使っているケースなどもあり、マッチングに時間を要します。一気通貫にはまだ時間がかかりそうですね」
これは私も思い当たることがあります。私の普段の苗字の表記は「永浜」で、名刺や表札などにも使用しています。しかし、戸籍上は「永濱」なのです。画数の多い「濱」を書くのが面倒だという横着な理由で「浜」を使用しているのですが、両親や祖父母もそうだったのでしょう。相続の際、膨大な書類と金融機関の届け出印に「永浜」と「永濱」が混在し、その証明や整理だけでも多くの時間をとられました。こういった変更届けは相続人がするのはとても手間がかかるので、本人が整理しておくのが子どもへの思いやりだと思いました。

親子間のギャップが顕在化する中で、興味深いのが親子の思いが一致した項目です。それは親と子、どちらの立場であっても「財産はあまり残さない方がよい」という意見です。この根底には「揉め事を避けたい」という思いが強く存在します。その証左は遺留分侵害額請求をしたくないという意見が多いことにも伺えます。
また親の意見として、配分は基本的に均等派が主流ですが、不動産や介護者への配分に関してはその限りではなく、不動産は「親と同居したり介護したりした子どもへ残したい」、あるいは不動産がない場合も、「介護者には財産を多く渡したい」という思いが強く現れています。これらのデータから読み解けることを小谷さんは、次のように語ります。

「相続でもめない大きなポイントは、『平等』ではなく『公平』にすることです。平等とは細かい状況は考えず、相続人全員を同じ配分にすることを意味します。対して公平は、全員を同じように扱うことです。つまり、長年介護をした子どもの労をねぎらい、多くの財産を渡すことが公平な相続です。たとえば、きょうだいの中にも、声の大きいアクティブな人もいれば、内気で自己主張ができない人もいるでしょう。やさしいタイプの人は、どうしても声の大きな人に押し切られて損をしがちです。それを放置していると父親のときはがまんしたけど、母親のときに爆発してトラブルになってしまうこともあります。親なら子どもたちの性格をよくわかっているはずですから、きょうだい間の力関係にも配慮してほしいと思います」
よかれと思った「平等」が「不公平」になっては、きょうだい間に遺恨が残ってしまいます。「なぜ、このように分けるのか」、その根拠を遺言の付言事項に記すことが大切です。

アンケートをもとに示唆に富んだ相続のヒントを教えてくれた小谷さん(右)とインタビューした永浜さん。過去に相続を体験しただけに、永浜さんの取材は熱心なものに
アンケートをもとに示唆に富んだ相続のヒントを教えてくれた小谷さん(右)とインタビューした永浜さん。過去に相続を体験しただけに、永浜さんの取材は熱心なものに

「もったいない」と捨てずに何でも貯め込んでしまうのが親の世代。特に、別荘などの不動産は誰も使用していないのに「いつか子どもが使うかもしれない」と持ち続けている人も多いようです。しかし、誰も使用しない家は傷みが進むのも早いです。いざ売ろうとしてもなかなか売れず、子どもに負の財産を残す結果になってしまいます。子どもからも親が元気なうちに財産の処分を望む声が多くみられました。しかし、子どもが親に財産の処分を持ちかけるのは、なかなか言いにくいものです。よいきっかけづくりはありますか?
「私のケースですが、母が小さなアパートを経営していたのですが、ある時から、鍵の管理が大変になっているように見えました。そんなある日、『最近は宅配ポストが人気だよ』と提案したところ、リフォームと同時に管理を不動産会社に頼むようになりました」
どうやら、直接アプローチするよりも、困っていることの解決から相談していくほうがよいのかもしれません。「母は施設の入所を快く思っていませんでしたが、最近になり叔母が楽しそうに施設で生活している様子を見ると、『あの子、施設に入ったら顔色も良くてなんだか元気になったわね』と、だんだん施設への興味が出てきたようです。親が困っている問題をサポートしたり、新しい選択肢を見せてあげたりすることが糸口になると思います」
今回の調査はインターネットで行われました。情報化が進む社会において、相続で気をつけたいことも変わってきているようです。
「インターネット完結型の口座の保有率が急増しています。しかし、IDやパスワード共有を準備している人は、相続経験者でも6割弱、未経験者で子どもがいない層では4割弱です。極端な例ですが、インターネットの口座に3億円もの資金があったことが死後判明し、税金対応が大変だったケースもあります。また口座の存在すらわからないと相続漏れの危険性もあります。いざというときに慌てないために、情報の共有を進めておくことをおすすめします」。もしも、遺産の把握に漏れがあった場合には、遺産分割協議のやり直しという事態になるかもしれません。子どもたちがスムーズに相続するためにも、ネット口座の整理も必要です。

親子間のギャップをなくすためには、子どもたちの一人ひとりの立場に立って考え、配分を「公平」にすることが重要であることがわかりました。それでも、相続と切っても切れないのが「感情」です。「お兄ちゃんは留学行ったでしょ!」「これはオレにくれると言っていた」など、それぞれの考えがぶつかって、きょうだいが絶縁になることも、実際にあるそうです。そうならないため、必要なのが「魂の遺言」だそうです。小谷さんは、こう教えてくれました。「遺言は法的に有効かどうかだけではなく、家族が納得するという点で有効であることを考えてほしいです。自分だけの気持ちを書くのではいけません。財産の分け方に至った考えも、しっかり説明しておくといいでしょう。それが残された家族の幸せにつながる『魂の遺言』となるはずです」

(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)