目次

  1. 1. 遺産だけではなくリテラシーも大切
  2. 2. 守り?リスク?運用の分類を
  3. 3. 人生の資金ニーズに基づくアドバイス
  4. 4. FPは家計のホームドクター

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――ファイナンシャルプランナー(以下、FP)が、相続に関してアドバイスしてくれることは、どんなことでしょう

ファイナンシャルプランナーから見た相続のポイントは、子どもら相続人に、どういった形で資産を引き継げばいいのか、という視点です。相続人が資産に関するリテラシーを持っていないと、過度に使い込んだり、もてあましたりしてしまいます。時には、あっという間になくなることもあります。被相続人は遺産を遺すだけでなく、きちっとしたリテラシーを相続人に伝えることも大切なのです。ここには、生き様というか、財産を遺された被相続人の人生哲学も現れてきます。
つまり、先々を見通して、教育としてリテラシーを子どもに相続させるのが理想的です。例えば、事業承継のことを考えてみましょう。会社の財産を遺したとしても、経営方針が間違っていると、経営は傾いてしまいます。理念や哲学を受け継がないといけないことが分かると思います。

――被相続人には、どんな後押しをしてくれるのでしょう

まず、被相続人にとって大事なことは、充実したセカンドライフを送ることです。ライフプランを考える上では、セカンドに次いで、サード、マルチと続きます。60代でも、その後、30年のライフプランを先に考えておかないといけないのです。そこを支えるのが人生哲学です。相続人に継がせたい財産がある一方、自分で使いたいものもあると思います。簡単に言うと、自分で使い切る資産と子・孫のための資産を分けることです。子どもたちに迷惑かけたくない、と思うと、財産を使い切ることはできません。ただ、余りに使わないと窮屈な生活を送ることになってしまいます。
私の知人に、子どもに住宅の購入資金を渡した人がいます。バランスをとるため、もう一人の子どもにも、財産を渡すことになりました。そうなると、充実した生活を送るための財産が足りない事態に陥るかもしれません。
リタイアした後、退職金の多くを使ってしまう人がいます。長い間、輸入車に乗りたかった、クルーズ船で世界一周旅行をしたい、とか、思い描いていたものを実現しようとするのです。これはこれでいいのですが、気づいたら使いすぎて青くなってしまうこともあり得ます。医療費も若い頃と比べて、高額にもなります。そうならないため、将来を「見える化」しておかないといけません。
高齢者と言っても、最初は心身共に元気ですから、生活を豊かに満たすための支出に目がいくと思います。しかし、徐々に衰えてくると、介護など守りの消費になってきます。そこをうまく見える化しておくことが大切です。慎重な人は「将来、大変だから」と、財産を使わずに不完全燃焼になってしまう。実際にあったケースですが、80代の女性が1億円余りの金融資産を持っていても「将来が不安だから」と使っていませんでした。「何があるかわからない」と。ほかにも、90代で約3億円の資産があっても「定期的な収入がないと不安で・・・」と使わない人もいました。
こういったケースでも、将来、必要な税金なども含めて見える化しておけばいいのです。お金の使い方は習慣でありリテラシーです。ある程度、お年を召された方は、自分の財産の数字が潜在意識として残ってしまって使えないのです。例えば、預金を取り崩すと財産が減るので使いにくく感じてしまいます。見える化しておかないと、今の財産を守ろうとするだけになってしまいます。財産を使いやすい形にしておくことも、一つの解決法です。もちろん、適切なリスクコントロールで運用する必要がありますが。

――どのような形で遺産を遺すのかを考えることも大切ですね

被相続人は、自分で使える資産について考えてほしいです。
例えば、自分で使い切る資産でも、二つに分類してみましょう。一つは守りの運用をするもの。もう一つは、リスクをとっても運用できるものです。対して、子どもに遺す資産も、同じように二つに分類できます。
自分の住まいが優良な物件で、子どもも住みたいのなら残す資産です。守っていかないといけません。しかし、子どもが興味を持たない別荘やセカンドハウスはどうでしょう。かつては、よく足をのばしていたけど、すでに億劫になって持てあましていたら、早めに売らないといけません。賃貸物件もそうですね。アパート、マンション、商業ビルみたいなものを所有していても、人口減少地域にあったら、買い手がいるうちに処分しないといけないものもあります。子どもに遺すのではなく、自分で処分し、別の資産の形にしましょう。もしも優良な賃貸物件だったら、子どもに遺すことも考えて積極的に運用することもできます。
もし、子どもが相続しても、リテラシーがないと処分できません。不動産の処分には目利きが必要だからです。資産家や富裕層と呼ばれる人たちは、不動産を所有して財をなした人が多いです。マイホームも含めて、そのままの形で相続させてもいいのかどうかを慎重に考えなければなりません。場合によっては「負動産」になってしまうものもあります。それならば、自分で処分しないと、子どもに迷惑がかかってしまいます。売却して有料老人ホームに入ることもできます。

――そういった資産形成に詳しくないと、将来設計は難しいです。相続人にとって、FPは、どんな後押しを期待できるのでしょう。

FPは、若い世代の相続人がどういうライフプランを持っているのか。必要な資金はどれくらいかといった問いにアドバイスできます。親が亡くなる時には、子どもも60代、場合によっては70代になっているかもしれません。これでは、人生の資金ニーズに間に合わないかもしれません。例えば孫が大学に入学したら、将来、相続するかもしれない財産を生前に贈与する特例を使うことができます。そういった助言ができます。

――子どもの世代が財産を相続したら、運用方法も相談できますか

ライフプランを考えて、どういう資金がいつ必要になるのか、を見通すことができます。相続した財産だから増やさなければいけないわけではありません。財産を手にしたからといって、いきなり投資をすると思わぬ目に遭うこともあるかもしれません。つみ立てNISAなどを活用した分散投資で、少しずつ増やすことも可能です。

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――ライフプランを考える上で、FPに相談することは大事ですね

FPは、「家計のホームドクター」と言われます。米国では「医者と弁護士とFPは必要」と言われます。相続人世代に相談してもらえると、総合的・包括的にアドバイスできます。大きなポイントは、自分で気づいていない課題を掘り出せる点です。相談を受けて気になる問題を棚卸しして整理していく。そうすると別の問題も掘り起こせるのです。FPがカバーする分野は広いので、30年先、50年先を見通したキャッシュフロー表を作っていくので問題の洗い出しができます。今後、年金の給付水準も下がっていくと思われます。若いうちから、備えていかないといけません。もちろん、1回作って終わりではなく、何度も作り直していきます。
日本FP協会は、全国各地で無料相談会を開いているので、問題が顕在化する前に、一度、相談に訪れてほしいです。相続を意識した時、相続の問題だけを考えるのではなく、ライフプランという大きな枠組みの中で相続を考える必要があります。その手助けをできるのがFPです。

(記事は2021年1月1日時点の情報に基づいています)

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