LINEで相続手続きをサポート みずほ信託銀行の「WEB遺産整理」を取材
みずほ信託銀行が、LINEで相続手続きをサポートするサービス「WEB遺産整理」を提供しています。アナログな手続きが必要な相続とデジタルのコミュニケーションツールLINE。二つを組み合わせると、どんなサービスになるのかを取材しました。開発責任者のリテール・事業法人開発部信託業務室の相馬竹秀室長にお話をうかがうと、金融商品には時代のニーズを映し出す鏡という横顔のあることが分かりました。
みずほ信託銀行が、LINEで相続手続きをサポートするサービス「WEB遺産整理」を提供しています。アナログな手続きが必要な相続とデジタルのコミュニケーションツールLINE。二つを組み合わせると、どんなサービスになるのかを取材しました。開発責任者のリテール・事業法人開発部信託業務室の相馬竹秀室長にお話をうかがうと、金融商品には時代のニーズを映し出す鏡という横顔のあることが分かりました。
「相続会議」の弁護士検索サービスで
――「WEB遺産整理」のサービス内容を具体的に教えてもらえますか。
まず、委任契約書に捺印してもらうことから始まります。提携する司法書士に依頼して相続人を確定し、財産目録の作成などの手続きが続きます。その流れの中で、お客さまが分からないことや知りたいことに、LINEやメールで対応しています。一つの手続きが終わった後には、次の手続きをご案内して伴走するイメージです。書類を郵送した際には、「ご確認ください」といったメッセージもLINEでお送りし、お客さまからの相談も受け付けています。ほかには、電子私書箱を活用することもできます。遺産分割協議に必要な財産目録を電子私書箱に入れて、お客さまにはIDとパスワードでアクセスしてもらいます。
いずれも、相続のプロと言える行員がきめ細かく対応しています。相続手続きは、人生に何度も経験するものではなく心配する点も多いかもしれませんが、お客さまからは「不安に思うことがありませんでした」といった評価もいただいています。
2年前にスタートした時点は、1カ月に1件のお申し込みもいただけない状況が続きましたが、新型コロナウイルスの影響で外出を控えようとする人が増えたのか、今では1カ月に15件ぐらい申し込みがあります。
――アイデアが生まれた経緯をおうかがいできますか。
以前に在職していた、みずほ銀行では、個人向けの商品を開発し、20年前からインターネットバンキングなど、時間的な制約なしにアクセスしてもらえる環境づくりに取り組んできました。今の職場では5年前から商品開発を手がけています。今の60代は若くてITリテラシーがある点に着目し、遺産整理のWEB化に価値があると感じて企画しました。まだまだ現役世代として働き、忙しい毎日を送っている方も多いです。
しかし、相続が発生すると、預貯金を相続するのに銀行の店頭に戸籍を持ってきたり、亡くなられた方の戸籍を集めたりする必要が生じます。戸籍は集めるのにも一苦労するので、いちいち会社を休まないといけないケースもあります。相続手続きがうまく進まないと預金は凍結されたまま、有価証券も塩漬けになります。社会的に考えると、ちょっとずつ経済が回らないことにもつながります。そういった問題を少しでも解消するのが目的でもあります。時間や場所の制約なしにWEBでサポートする意義は大きいと思います。
――信託銀行が相続手続きに携わることでのメリットはあるのでしょうか。
以前、信託銀行が相続を取り扱うのは、遺産整理と資産継承のための遺言作成の二つぐらいしかありませんでした。しかし、教育資金などを目的にした生前贈与の一部に贈与税をかけない法制度ができました。その後、それに基づく信託商品が出始めます。ほかにも、遺言代用信託、暦年贈与型信託などがあります。贈与をする際に重要となるエビデンス(証拠)をしっかり残すことを念頭に、活用する枠組みを提供しています。この点が、信託銀行が相続に携わる強みです。
「人生100年時代」と言われ、高齢化が進むのに伴い、社会問題も出てきています。代表的なのは、一定の資産を持っている一方、多額の相続税がかかってしまう。このため、生前贈与をしておきたいが、自分がどれくらい生きるのかも分からず、何から手を着ければいいのかが明確になりません。こういった悩みを解決するため、当行では「選べる安心信託」という商品を開発しました。さまざまな機能をパッケージとして一つにしたのが特徴です。毎月、財産の一部を普通預金に振り替え、その範囲内で生活費をまかないます。万が一のために信託財産の受取人を決めておき、物忘れなどが増えて認知機能が低下した場合は、手続き代理人の了解がないと解約できなくすることも可能です。ライフタイムに沿って機能を選べるのは信託銀行ならではのポイントです。
ほかにも、介護を経験した人にグループインタビューして開発した商品もあります。相続発生時、介護の必要経費として使ったのに、「必要以上にお金を引き出したのではないか」と言われる、という声をもとに、ニーズがあると考えついた「認知症サポート信託」です。認知症の診断書を提出してもらった後、ご本人さまの解約を制限したうえで、信託銀行が医療機関などの書類をもとに支払いに応じます。介護費や社会保険料の支払い時にも、同様の取り扱いとなり、後々、ほかの親族の方々への説明責任も果たせます。
――高齢化の課題に応じて商品を開発されているのだと思います。そういう意味では、金融商品は現代を映す鏡とも言えますね。
最近、商品化したものの中にプライベートデータ信託商品の「未来への手紙」があります。具体的には、個人情報をお預かりしています。例えば、SNSのIDとパスワードに始まり、不動産の情報、印鑑や通帳の保管場所、ネット証券などの情報を残せます。エンディングノートではボリュームがあり過ぎて書ききれず、書いても家族に見つけてもらえない場合があるのではないか、と考えて始めました。工夫したのは、情報の指定受取人を指定してもらう点です。臓器提供の意思など、一部の情報は、お客さまの生前に閲覧が可能です。亡くなった際には、財産情報なども閲覧できるようになります。
――信託銀行を活用すると報酬が高くなる、というイメージもあると思いますが。
遺産整理の標準版の商品を使うと、最低100万円がかかります。サラリーマンの立場から考えると、わたしも正直高いと感じます。しかし、WEB遺産整理の基本報酬は44万円です。例えば、相続手続きをする場合、被相続人の生涯をさかのぼって戸籍を取得する必要があります。何度も手続きを行わなければいけない場合も考えられます。その手間を考え、この額で全て終えることができれば必要な出費と言えるのではないでしょうか。
将来、国が戸籍の電子化やマイナンバー制度で相続手続きをできるようになると、この商品は価値がなくなるかもしれません。でも、いいのです。相続の手続きは、専門家が代行しなくてはならない、というのはあるべき姿ではないはずです。あるべき姿は相続人が負担なく終えられる形です。そうはなっていないので、サービスを展開する必要が生じるのです。お客さまが、もっと簡単に手続きを終えられる日がくるといいなと思います。
(記事は2020年12月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の弁護士検索サービスで