目次

  1. 1. 元気なうちの財産整理を
  2. 2. 相続の準備は財産の確認から
  3. 3. 意思を遺すことがきょうだいの断絶を防ぐ
  4. 4. 付言事項に家族への思いを託す
  5. 5. 老後の未来予想図を描く
  6. 6. コミュニケーション増やして「相続」を切り出す
  7. 7. デジタル資産も整理を
  8. 8. 取材を終えて

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「私が相続の相談を受ける際、親子で決定的に認識が異なるのは、子どもは親が亡くなった後のことを考えますが、親は自分の死後のことを考えません。被相続人の方とお話して、まず話題に上るのは、自分の体調・病気や介護の心配。やはり、皆さん自分の死後のことは考えたくないという気持ちが働くのでしょうね」
自分の死と直結する相続についての話は、先延ばししたいという気持ちは理解できます。しかし、長寿時代を迎え、必ず誰でも体の機能は低下します。意思判断ができる元気なうちに財産を整理し、相続について対策することが大切です。

相続の準備と言っても、遺言の作成、生前贈与、相続税対策・・・・と、挙げればキリがありません。何から手をつけていいのか分からず、途方に暮れてしまう人もいるのではないでしょうか。そうならないため、最初に始めたほうがいいことを小谷さんが教えてくれました。
「まずは財産の確認です。何がどこにどれだけあるのかを明確にします。そして自分しか知らないことを皆に伝えるように整理すること。気をつけたいのは、子どもが複数人いる場合、親子間では知っていても、子ども同士は知らないこともあります。例えば、一人の子どもだけに金銭の援助をしたが、他の子どもたちには内緒にしている場合です。これは後々に発覚すると揉める原因になります」

また、酒の席などで、「家はおまえにやるよ」と、親は気軽に言っただけなのに、子どもが本気にしてしまうこともあります。しかし、親が亡くなってしまうと、裏付けをとりようがなく、揉め始めると収まりがつきそうにありません。果ては、きょうだい間で断絶が始まるという悪い未来も目に浮かびます。そうならないためにも親が、きちっと意思を遺しておくことです。小谷さんは、こう語ります。
「長男が家を購入する際に資金を援助していたとします。この場合、法定相続分で分けると、不平等になってしまいます。そこで長男への相続は生前贈与した分を減額して、平等にするのですが、『なぜ、そう分けるのか』を遺言できちんと説明しないと、残された家族の間にわだかまりが残ります。自分で説明しづらい場合、必要があれば専門家に介入してもらって、ニュートラルな立場から調整してもらうことをおすすめします」

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遺言の中に、自分の意思を遺せるのが「付言事項」です。「家族への最後のラブレター」とも言われ、遺産の分割方法を決めた理由といった堅い情報から、今までの人生を振り返っての感謝の言葉まで、遺言を書く人が自由に記入できるのです。
「江戸時代にも書残(かきのこし)という遺言がありましたが、これはとても細かく、誰々がお金を出して橋を作ったというような村の歴史まで記されています。こういう説明があると、現在で言う、遺留分侵害額請求が起きにくい。付言事項には家族への思いとともに、遺言を作成した経緯や配分に至る過程などの詳しい説明をすることで相続人の理解を得やすくなります」
遺留分侵害額請求は、遺言の内容にかかわらず、法律に基づいて相続人が自分の相続分を請求することです。たとえば、相続人の1人に遺産を集中させた場合、「不平等だ」と感じた別の相続人が請求すれば、金銭で侵害額を払わなければなりません。しかし、付言事項で分配の理由をきちっと書いておけば、後のこういった事態を防ぐことにつながるのです。

「人生100年時代」が近づく現在、子どもたちに遺す遺産を考えると同時に、老後をおくる上で必要になる資産を考えておくことも必要です。今後の年金や配当などの入金と支出のバランスを考えないと、預貯金がなくなり、場合によっては子どもたちに負の遺産を残してしまうこともあり得るかもしれません。大事なのは「マネープラン」と「ライフシュミレーション」です。
「10年後、20年後の生活にお金はどれくらい必要なのか、何歳のときにどのようなイベントがあるのか、収支はどうなるのかの未来予想図を描いてください。金融庁が出した『老後20~30 年間で、約1,300 万円~2,000 万円が不足する』という試算、いわゆる『老後2,000万円問題』が話題になりましたが、この数字は人によって違います。大事なのは自分のライフスタイルに応じたシミュレーションです。インターネットでAIが診断してくれる会計サービスやアプリケーションもあるので活用するといいでしょう」

老後の暮らしから相続まで、幅広く調査・研究に取り組む小谷さん。研究所で行ったアンケート調査からは、体調不良や病気をきっかけに、相続について考え始める傾向が見えてきました。遺言を書き残す人は、多くが70歳代から85歳未満。心身ともに健康な70歳代で遺言を書いておくのが理想的ですが、子どもの立場になると、親の死後について話すのは、なかなかハードルが高いと感じる人も多そうです。なにか、妙案はないのでしょうか?

「コミュニケーションの機会を増やすことです。『最近どう?』、『大丈夫?』と声をかけてみてください。そこで出てきた困りごとをサポートするのです。物忘れが多くなり、大事な書類が見当たらない、掃除をするのが億劫になったなど、何かしら問題が出てくるはずです。たとえば古い保険証券などを貯めたままにしている場合などは、整理を手伝ってあげるのもいいでしょう。親から言い出さない場合、相続の話はタブーだと考えず、子ども側からきっかけを作ってください」

さまざまな質問にも丁寧に答えてくださった小谷さん(左)。ライターの永浜さん(右)も、興味津々な様子でした。(撮影用にマスクを外してもらっています)
さまざまな質問にも丁寧に答えてくださった小谷さん(左)。ライターの永浜さん(右)も、興味津々な様子でした。(撮影用にマスクを外してもらっています)

昨今では、遺産の中にデジタル資産もあります。子どもたちを困らせないよう、財産の遺し方も変えていく必要がありそうです。小谷さんは、こう指摘します。「最近では、ネットバンキングを使用される方も増えています。ネット以前は封書で案内が届くので、本人以外でも金融機関の把握がしやすかったのですが、メールでの通知では万が一のときに家族は確認のしようがありません。繰り返しますが、基本は『誰が見てもわかりやすいように整理すること』です」
また、相続人から受ける相談で多いのが遺産の処分です。子どもにとって遺品は処分しづらいもの。持ち物も捨てるもの、残したいものを整理することが思いやりかもしれません。また、別荘のようなメンテナンスの維持費がかかるものを相続したくないという声もあります。残したい場合は、維持費などを配分するなどの配慮をされる方もいます」。親としては、子どもの目線になって財産を整理していくことが求められそうです。
子どもに、なるべく不公平感を出さずに遺産を分け与えたい、と思う人もいるでしょう。ただ、生前から、対策を施さないといけないシーンもあるようです。たとえば、付き添いで行った通院の交通費。わずかと考えていても、ちりも積もれば山となります。介護費用などもあると、同居する子どもに負担が生じることだって考えられます。
そういった事態に備えて、金融商品も新たに開発されているそうです。たとえば、三菱UFJ信託銀行では、本人が認知症や入院などでお金の管理が難しくなったとき、代わりに口座からお金をおろせる代理人を設定できる商品(代理出金機能付信託つかえて安心)があるそうです。お金を使うと、スマートフォンアプリで家族に金額や内容が通知され、子ども同士で使い道を共有できるのも利点だそうです。

2007年に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きると推計される「人生100年時代」がもうすぐやってきます。平均寿命と健康寿命の差はこれからどんどん広がっていくことも予想されます。認知・判断機能の低下によって、相続の執行に制約を受けることもあり、準備がより複雑になり、時間もかかってしまいます。円満な相続は、自分のためであり、家族のため。皆が満足できる相続を実現するために、早めの準備と心構えが何よりも大切です。

小谷亨一さんのプロフィール

(こたに こういち) MUFG相続研究所所長。三菱UFJ信託銀行トラストファイナンシャルプランナー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士。2012年にリテール受託業務部部長に就任し、遺言の企画・審査・執行業務などに従事。現在、相続・不動産のエキスパートとしてセミナー講師を務める傍らメディアでも活躍。

MUFG相続研究所のHPはこちらです。

(記事は2021年7月1日時点の情報に基づいています)

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