目次

  1. 1. 口座名義人が亡くなると口座はどうなる
  2. 2. 凍結されたままだと・・・
  3. 3. 凍結後の手続きは
  4. 4. 生前からしておいた方がよいこと
    1. 4-1. 早めに預貯金から引き出しておく
    2. 4-2. 生命保険に加入しておく
    3. 4-3. 遺言書を作成し、金融口座の保管状況等を明確にしておく
    4. 4-4. 外国の銀行口座や証券口座は生前に解約しておく
  5. 5. まとめ

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まず、口座名義人が亡くなったことを何らかの形で銀行が知ると口座が凍結されます。基本的には銀行が故人の親族から死亡の旨の連絡を受け故人の死亡を知ることになりますが、まれにあるケースとして会社経営者や著名人の方等で新聞のお悔やみ欄やニュースなどのメディアで銀行が死亡の旨を知り、逆に親族に凍結に関する連絡が来ることもあります。
口座が凍結される理由は主に3つあります。

  1. 死亡した時点での相続財産を確定させるため
  2. 相続に関連するトラブルを防止するため
  3. 口座が振り込め詐欺などの犯罪に利用されることを防ぐため

このうち
1について、故人の預貯金は死亡した時点で相続財産となります。口座を凍結しないとキャッシュカードや暗証番号情報を持っている故人の親族が勝手にその預貯金を引き出すことも可能になってしまうため、遺産の権利侵害防止の観点から銀行は口座を凍結します。
2についても、1と同様、特定の相続人などが勝手にその預貯金を引き出した場合、後々、金融機関が他の相続人から抗議を受けたり、他の相続人との間の遺産相続争いに巻き込まれたりする可能性があるため、そういったトラブルを防止するためにも口座を凍結します。

従って、親族としても上記のように、後々のトラブルを防止するために、口座名義人が亡くなった際にはなるべく早く銀行に連絡をしたほうがよいでしょう。
なお、亡くなった病院や死亡届を提出した役所から銀行に死亡の連絡が行くことはありませんので、銀行は基本的には親族からの連絡等により初めて故人の死亡について知り、銀行内部の相続担当部署に連絡をし、口座を凍結することになります。

銀行に亡くなったことを黙っておくことは可能なのか、と問われると答えはYesになります。それに対する直接的な罰則や罰金もありません。ただし、面倒だからと言って故人の口座を放置したままにすると、上述した通り一部の相続人が勝手に預貯金を引き出すことも可能でトラブルの原因になりますので、それは避けたほうがよいでしょう。

次に、黙ったままで預貯金を引き出すと罰則などはあるのかですが、本来、預貯金は故人が亡くなった時点で相続財産になります。他の相続人の相続分を不当に引き出すことになれば不法行為にあたりますし、もし他の相続人から返還請求があれば当然返還しなければなりません。加えて、損賠賠償請求されることも十分にありえます。

なお、違う観点になりますが、相続放棄を希望しているのであっても、相続財産を一部でも使用した時は相続の単純承認(注1)をしたものとみなされる可能性がありますので、故人に負債がある等で相続放棄を希望する場合には特に、黙ったまま預貯金を引き出すことは望ましくないと言えるでしょう。
(注1)プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することを単純承認といいます。

口座が凍結されてしまうと、基本的には、凍結された口座から一切の預貯金の入出金や公共料金やクレジットカードも含め口座引き落としによる支払い等ができなくなります。したがって、振込や引き落としの予定のある口座の場合には、事前に取引の相手先に連絡をし、入金に係る振込先を変更したり、引き落とし口座の変更を行ったりする必要があります。なお、口座が凍結されるとATMにて残高を確認することもできなくなります。

ただし、凍結口座からの預貯金払戻制度として以下の2つの方法があります。

  1. 家庭裁判所の判断によらない預貯金の払戻制度(一金融機関につき150万円が上限)
  2. 家庭裁判所の判断による仮払い(金額上限なし)

1については、葬儀費用の支払や当面の生活費のためにお金が必要になる場合を想定し2018年民法改正により2019年7月1日から「預貯金の払戻制度」が開始されています。これは、遺産分割が成立する前であっても、一定の金額の範囲内で法定相続人が故人名義の預貯金を引き出せるという制度になります。

出金できる金額は、それぞれの金融機関ごとに、以下の『いずれか低い金額』になります。

  • 死亡時の預貯金残高×法定相続分(注1)×3分の1
  • 150万円

(注2)民法で定められた相続割合(国税庁HP 以下リンク参照)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm

この払戻に必要な書類は、以下のものになります。

  • 被相続人(故人)の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本または法定相続情報一覧図
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払戻を請求する相続人の身分証明書、印鑑証明書
  • 申請書等

なお、必要書類は金融機関ごとに異なる可能性があるので事前に確認しましょう。

2について、この制度は家庭裁判所に預貯金の仮払いの必要があると認められた場合に、他の相続人の利益を害さない範囲において預貯金の仮払いが受けられるという制度です。1のような金額の上限がないため、上記1の上限を超える金額が必要な場合は検討の余地があります。ただし、こちらの制度を利用するためには預貯金のみならず相続財産全てについて家庭裁判所に遺産分割の審判又は調停の申し立てが必要になりますので、弁護士への依頼が必要になり、手間と費用を要するためハードルは高くなりますが、選択肢の一つとして考えるのもよいと思います。

1及び2いずれの払戻においても、留意点として、前述した時と同様、相続財産を単純承認したものとみなされる可能性がありますので、故人に負債がある等で相続放棄を希望する場合には注意が必要になります。

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口座が凍結されると、凍結が解除されて口座が元のように使えるようになることは2度とありません。口座の名義変更(相続)をするために銀行での手続きが必要になります。なお、金融機関によって、必要書類や手続きが異なるので、各金融機関に事前の確認が必要になります。

また、銀行での相続手続きはその時々の状況によりケースバイケースですが、以下のようなケースが想定され、その場合の一般的な必要書類等はそれぞれ以下のようになります。

  1. 遺言書により預貯金取得者が決まっている場合
  2. 遺産分協議書がある場合
  3. 遺産分割協議をしたが遺産分割協議書がない場合
  4. 調停又は審判によって預貯金取得者が決定している場合

1の場合に必要な書類は以下の通りです。

  1. 遺言書
  2. 自室証書遺言の場合は、検認調書又は検認済証明書
  3. 故人(被相続人)の戸籍謄本又は全部事項証明書(死亡の確認ができるもの)
  4. 預貯金を相続する人の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合は執行者の印鑑証明書)
  5. 遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合のみ)
  6. 預金通帳、キャッシュカード、銀行印等

2の場合に必要な書類は以下の通りです。

  1. 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名押印があるもの)
  2. 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  3. 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  4. 相続人全員の印鑑証明
  5. 預金通帳、キャッシュカード、銀行印等

3の場合に必要な書類は以下の通りです。

  1. 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  2. 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明
  3. 相続人全員の印鑑証明
  4. 預金通帳、キャッシュカード、銀行印等

4の場合に必要な書類は以下の通りです。

  1. 調停調書謄本
  2. 審判所謄本
  3. 審判確定証明書
  4. 預貯金を取得する相続人又は受遺者の印鑑登録証明書、実印
  5. 預金通帳、キャッシュカード、銀行印等

なお、上記の名義変更の手続きについては、金融機関によって内容がもちろん異なりますが、書類に不備さえなければ早ければ1~2週間で完了することができます。

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故人の死亡による口座凍結に備えるため、生前にある程度対策をしておくことが大切です。主に考えられる策として以下のような方法があります。

相続が発生し、口座が凍結した時の事態を想定し、相続人となりうる方全員の合意を得た上で、一定の預金を引き出し、自由に使える資金を手元に置いておく、または、被相続人が生前に預貯金を引き出し、特定の親族に託しておくことも一つの方法かと思います。

生命保険の死亡保険金は基本的に相続税の課税対象になりますが、保険金の受取人が手続きを行なえばすぐに保険金を受け取ることができます。また、生命保険については『法定相続人の数×500万円』の非課税枠があるため、受け取る保険金がこの非課税枠内であれば相続税が課されることはありません。したがって、保険金額によっては相続税が課されることもなく、かつ、自由になる手元資金が増えますので、口座が凍結されることを想定し、このような策を講じておくのも一つの手かと思います。

相続に際しての管理や手続きの煩雑さを解消するために不要なものは生前に解約しておくなど、口座の数を少なくしておくのが良いと思います。また、最近では紙の通帳が存在しないネットバンキング口座も普及してきているため、相続が発生した後の手続きやトラブル防止の観点からも生前に遺言書を作成し、その遺言書の中で被相続人が所有している金融口座の情報(銀行名、支店名、口座番号等)をすべて細かく明記しておくことが望ましいと思います。そうすることで、被相続人が亡くなった際でも、後々になって実は故人にこんな銀行口座があった、という事態も防ぐことができます。

故人によっては外国の金融機関に預貯金口座や証券口座をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。言語の問題もありますし(相続人が言語に問題がなければよいですが)、被相続人が亡くなった後に相続人が外国の金融口座について手続きを行うのはかなり煩雑で手間のかかることが多いです。したがって、そういった外国の金融口座をお持ちの場合は生前に解約等の手続きを進めておくのが望ましいと言えるでしょう。

以上、相続による口座の凍結とその対応策について述べさせていただきました。具体的な事例が発生しうる場合には、事前に、我々税理士等の専門家にご相談いただければと思います。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)

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