取消しが必要なケース

遺言書の内容を取り消すことを法律の条文上では、「撤回」と言います。なので、今回の記事では、取り消しのことを「撤回」と呼ばせてもらいます。

それでは、まず、どんな時に遺言の撤回が必要になるのかを見ていきます。

具体的には、以下の二つのようなケースです。

①遺言書を書いてはみたものの、気持ちが変わったような場合です。たとえば、残された家族で自由に考え、財産を分けてもらおうと考え直した時です。この場合、遺言の撤回が必要になります。

②遺言書に書いていた定期預金を自分で解約して、家のリフォーム費用にして工務店に支払った時などです。法律にのっとって生前の処分で遺言を撤回したことが明らかと判断できます。このため、遺言書の書き換えは必要ありません。しかし、中には、実際にもう存在しない定期預金が自分の遺言書に書いてあることを気にかけてしまう人もいるかもしれません。そう考えたら、一部撤回していただいても、良いと思います。

財産の変化には遺言も変更を

次に遺言の変更が必要になる例をお伝えします。

①遺言者が、所有している不動産Aを売却し、不動産Bを取得したような場合です。遺言書で「不動産Aを相続人に与える」と書いていたのが、相続人に与える不動産に変更が生じました。

②「銀行の定期預金1000万円を相続人Aに与える」と、遺言書に書いたのですが、相続人Aが遺言者より先に交通事故で亡くなってしまったような事態です。相続人Aは、定期預金1000万円を受け取れなくなったので、相続人の変更が必要です。

③財産が不動産と預貯金だけだった人が、友人の勧めを受け、株式の投資を始めた場合はどうでしょう。新しい財産として株式を持つことになるので、財産の内容に変更が生じるので、遺言も変更したほうがよいでしょう。

これまで説明してきた撤回・変更の具体的事例は、ほんの一例です。相続財産や相続人によって、変更や撤回の事例は無数にあります。

遺言を変更する方法

公正証書遺言でも、自筆証書遺言でも、変更する時には、新しく変更することを書いて、もう一度、遺言書を書く必要があります。一部分を変更する場合や全部を変更する場合は、その事を明記します。

最初に公正証書遺言で書いて、変更の遺言書は自筆証書遺言で書いても構いません。その逆も同様に大丈夫です。文案は、以下のように書きます。
「平成30年1月1日に書いた遺言書の第3条の相続人Aに不動産を相続させる。と書いた部分を相続人Bに不動産を相続させると変更する。」

遺言を撤回するには

次に、遺言の撤回についてです。変更するのと同じように、公正証書遺言・自筆証書遺言ともに、新しく撤回することを盛り込んで、もう一度、遺言書を書く必要があります。一部分を撤回したり、全部を撤回したりする場合は、その事を明記します。

最初に公正証書遺言で書いて、撤回の遺言書は自筆証書遺言に書いても構いません。その逆も同様に大丈夫です。

遺言者が、自筆証書遺言を破って処分すると、法律の決まりによって、「生前の行為で撤回した」と位置づけられます。このため、自筆証書遺言の場合は、意外と簡単です。

ただし、公正証書遺言の場合は、気を付けてください。遺言者の手元にある遺言書正本、遺言書謄本を破って処分しても、公証役場に原本が保管されているので、撤回したことにはなりません。

撤回、変更は何度もできる?

答えから書きます。法律には制限がなく、何度も撤回と変更は出来ます。それは、遺言は遺言者に「書く自由、書かない自由、撤回する自由、内容を決める自由」を与えているからです。これを「遺言自由の原則」と言います。主人公は遺言を書く遺言者なのです。

変更前の遺言はどうなるのか

遺言を書いた人が亡くなると、一部撤回や変更をする前の古い遺言書と、一部撤回や変更をした後の新しい遺言書の2通を使って、相続手続きをすることになります。

手続きに行く法務局や金融機関には古いものと新しいものを同時に提示することになります。ここで、ご注意してほしいのは、「古いものは、もういらない」と勘違いしてはいけません。処分しないでください。また、全部を撤回した場合には、相続手続きに遺言書は使わないことになります。

こういった時、私は「一度、全部を撤回して、新しく遺言書を作成したほうがいですよ」とアドバイスします。一部の撤回や変更をすると、遺言者が亡くなった後、相続人が新旧2通を使って、相続手続きをすることになり、複雑で誤解を生む可能性もあるからです。こちらのほうが、手続きはスムーズに進むと思います。

遺言書を書く時は将来を想像しながら

私は、自分で遺言書セミナーでお話しする際には、必ず最後に、こう伝えます。「遺言書を書く時には、将来を想像して書きましょう」と。

遺言書を書いてから、その人が亡くなるまでは、3年、5年、10年・・・と時間が経つかもしれません。いつ亡くなるのかは、誰にも分かりません。その間に相続人や相続財産に変更があるかもしれません。

例えば、「相続人の長男に不動産を相続させる」と書いても、長男が遺言者より先に亡くなる可能性もあります。そうすると、その不動産は、行き先を失った財産になってしまいます。

将来を想像して書くなら、「もし、長男が先に死亡した場合、その不動産は次男が相続する」と書くこともできます。これを「予備的遺言」と言います。

遺言書を書くには、想像力が必要です。「これから書こう」と考えている人は、数年後の自分を取り巻く環境も考えてみてください。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)