遺贈寄付の意思を遺す二つの遺言 違いを解説
遺贈をするには遺言が必要です。当たり前のことですが、遺言が実際に自分の思い通りに実行されたかどうか、自分自身ではみることはできません。「え、遺言さえ残せば実行してもらえるのでは?」と考えたいところですが、必ずしもそうとはいえないのです。では、確実に実行してもらうにはどうすればよいのでしょう。実行されないケースを考えてみましょう。
遺贈をするには遺言が必要です。当たり前のことですが、遺言が実際に自分の思い通りに実行されたかどうか、自分自身ではみることはできません。「え、遺言さえ残せば実行してもらえるのでは?」と考えたいところですが、必ずしもそうとはいえないのです。では、確実に実行してもらうにはどうすればよいのでしょう。実行されないケースを考えてみましょう。
最初は自筆証書遺言の「弱点」によるものです。
主な遺言の方法には公正証書遺言と自筆証書遺言があります。公正証書遺言は、遺言者が公証役場で公証人に内容を伝えて書いてもらう形で作成します。その際、証人2人以上も立ち会います。
作成したものは公証役場が保管します。遺産額に応じた費用がかかるのですが、プロに確認してもらいながらの作成ですから、形式の不備で無効になることはほぼありません。紛失や改ざんのリスクも低いといえます。
自筆証書遺言は、「だれにどの財産を相続させる・遺贈する」という本文と、日付、氏名を自筆で書いて押印します。いつでも書き換えられる手軽さがある一方で、形式の不備で無効になるケースや、紛失や改ざんのリスクがあるのです。
たとえば日付や押印を忘れたとか、内容を書き換えた時の修正方法が形式的に正しくないだけでも無効です。形式は正しくても、内容が不正確でトラブルを招くこともあります。
たとえば、相続人の氏名を記しただけでは同姓同名の人との区別ができないとして無効を主張される場合があります。金融資産を預貯金と記してしまうと「では、株式はどうなる?」といった争いが起こる心配があります。
そして、一番厄介なのが、遺言があったかどうかがそもそもわからなかったり、紛失してしまったりする危険性や、自分に不利になると考えた関係者によって隠匿や破棄、改ざんされてしまう恐れがある点です。公証役場に保管される公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言は保管場所が決まっているわけではないですから。つまり、せっかくの遺贈の思いが実行されない危険性があるのです。
自筆証書遺言は本来、遺言者の死後に「検認」という作業が必要です。家庭裁判所で内容を確認してもらう手続きです。遺言の保管者または遺言を発見した相続人は、遺言者の死亡を知ったら速やかに遺言を家庭裁判所に提出します。封印があれば検認前に開封してはいけません。要するに、改ざんなどが起きないようにするための手続きです。
常識的に考えれば、手軽な自筆証書遺言の方が作成件数は断然、多いはずです。実際、法務省が18年に全国の55歳以上、約8000人を対象に実施した「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査」によると、「自筆証書遺言を作成したことがある」人は3.7%で、「公正証書遺言を作成したことがある」の3.1%を上回っていました。しかし、検認件数よりも、手間も費用もかかる公正証書遺言の方が圧倒的に多いのです。
なぜでしょう?
まず考えられるのは、自筆証書遺言そのものが発見されないことです。保管場所が決まっていないわけですから、あり得る事態でしょう。あとは知ってか知らずか、本当は民法で「しなければならない」と規定されている検認をしないまま、関係者が遺言を開封して故人の遺志を尊重した遺産分割をして「めでたしめでたし」という事態です。これは、善意に解釈すれば、ですが。
でも、お金が絡むと人間関係は厄介です。残念ですが、隠匿や破棄がかなり発生していると考えざるをえないのではないでしょうか。だから、検認件数は少ない…。
自筆証書遺言にはリスクがあるということが、おわかりいただけたことでしょう。つまり遺贈を確実に実行してもらうための第1歩は「できれば公正証書遺言を使うこと」です。
自筆証書遺言の紛失リスクを減らす画期的ともいえる制度が2020年7月にスタートしました。これは後の回で説明します。
次回も、遺言を確実に実行してもらうためにはどんな工夫がいるのかを説明します。
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(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)