遺言で相続させたくない相手を指定できる?

遺言では、相続させたくない相手を決められますが、遺言者から見て、兄弟姉妹以外の推定相続人(遺言者が亡くなった後に相続人となる人)には「遺留分」という法律的に最低限認められた相続分があります。

民法1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

例えば、遺言者に妻と子ども2人(長男と長女)がいるような場合、長男と折り合いが悪く、財産を相続させたくないので、妻と長女だけに財産を相続させる遺言を書いたとします。このような内容の遺言は有効ではありますが、長男には遺留分があるので、長男の法定相続分の半分、この事例の場合だと全財産の8分の1(長男の法定相続分である4分の1の半分)に相当する金銭を妻と長女に請求できるのです。長男が自分の遺留分を他の相続人に請求することを「遺留分侵害額請求」といいます(2019年7月1日の民法改正前は「遺留分減殺請求」といいました)。

民法1046条1項
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

遺留分がある以上は、遺言によっても特定の相手の相続権を完全に奪えないのです。ただし、相続開始を知ってから1年が経過すると遺留分侵害額請求権は時効によって消滅します。

相続廃除と相続欠格

遺留分があるので、遺言によっても特定の相手の相続権を完全に剥奪することはできません。でも、どんな場合でも相続人には相続権や遺留分が認められるのでしょうか。実は、一定の要件はありますが、相続人の相続権を奪ったり、相続権が無くなったりする方法が民法によって2つ定められています。

一つ目が相続廃除というものです。被相続人が生前に家庭裁判所に請求するか、もしくは遺言の中に特定の相手を廃除する旨の記載をすることによって、文字通り特定の相手を相続人から廃除することができるのです。ただし、何の理由もなく廃除することはできません。廃除されるに至った推定相続人は被相続人に対して虐待、重大な侮辱を加えたり、著しい非行があるなどの要件があります。ちなみに、相続廃除の対象となるのは「遺留分を有する推定相続人」つまり兄弟姉妹を除く相続人ということになるのですが、遺留分を有しない相続人に対しては相続廃除をしなくても、遺言で財産を相続させないとすれば良いので、わざわざ廃除する必要もないので対象から除かれています。

民法892条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法893条
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

具体的な事例として、推定相続人である子が反社会的集団の一員であったものと結婚して、その事を被相続人の知人にも知れ渡るような方法で公表したといった場合に、相続廃除が認められています(東京高裁H4.12.11)。被相続人との人間関係や信頼関係を破壊するような行為が根拠となりますので、被相続人の主観的な感情が害されるだけでは廃除することはできません。

二つ目が相続欠格というものです。推定相続人が、被相続人の財産を相続するのが正義に反すると感じられるような行為を行った場合に、相続権が失われることを相続欠格といいます。相続欠格は先ほどの相続廃除とは違って、以下の一定の行為を行うと当然に相続権を失うことになります。

  1. 被相続人や自分と同順位や先順位の相続人を殺したり、殺そうとして刑に処された人
  2. 被相続人が殺されたことを知りながら、告発・告訴をしなかった人
  3. 詐欺や脅迫をして、遺言の作成や取消し、変更を妨げた人
  4. 詐欺や脅迫をして、遺言の作成や取消し、変更を強要した人
  5. 遺言書を偽造したり、変造、破棄、隠匿した人

※正確な要件は以下の条文参照

民法第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

遺言書の撤回や訂正方法について

特定の相手に相続させない内容の遺言を書いた場合に、遺留分の問題や将来の相続人間での争いを考えてやっぱり遺言内容を変更したいと思った場合、遺言書の内容を変更したり撤回するにはどのようにすればいいのでしょうか。

遺言の変更箇所が少なく、かつ自筆証書遺言の場合は、直接その遺言書の内容を変更します。変更の方法は、変更箇所を示して、その部分を変更した旨と変更内容を書いて、署名と押印をします。もし変更方法に不備があった場合は、その変更は無効になりますので注意が必要です(遺言自体が無効になるわけではありません)。

民法968条3項
自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

遺言の変更箇所が多かったり、公正証書遺言の場合は新たに遺言を書き直します。
遺言は日付の新しいものが優先されます。例えば最初の遺言が全財産をAさんに相続させるとなってた場合に、後の遺言で全財産をAさんとBさんに2分の1ずつの割合で相続させるとなった場合には、後の遺言の内容に従ってAさんとBさんは遺産相続することになります。ただし、前の遺言と後の遺言で内容が抵触していない部分については前の遺言が抵触していない部分に限って有効になってしまいますので、分かりやすくするには、前の遺言については撤回してから新しい遺言を書き直した方が良いでしょう。

公正証書遺言は原本が公証役場に保管されているので、手許の公正証書遺言は原本の写し(正本や謄本)となります。自筆証書遺言と同じように訂正などしても意味がありませんのでご注意ください。なお、前の遺言が公正証書であっても後で自筆証書遺言による前の遺言の一部または全部の撤回が可能です。

民法第1022条
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

以上、今回は特定の相手に財産を相続をさせない方法についてを解説させていただきました。色々と事情はあると思いますが、特定の相手に相続をさせないと考えている場合は、将来の相続争いがすでに顕在化していたり、潜在的に存在しているケースがほとんどです。遺言作成時やその後の遺言内容の変更など、疑問点や不明点がある状態ですと思わぬトラブルに発展してしまうこともあります。また、相続廃除や相続欠格に該当する相続人がいる場合については、家庭裁判所上の手続きが必要です。専門的な知識や手続きが必要なことも多いので、一度司法書士や弁護士へ相談することをおすすめします。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)