母の生前に兄が引き出した? 不正出金を見つけるには
相続案件の依頼を受けた際、最もよくある話と言っても過言ではないのが、「他の相続人が、故人の生前に預金を引き出していたようなので、これを請求したい」というものです。対処法を事例とともに弁護士が解説します。
相続案件の依頼を受けた際、最もよくある話と言っても過言ではないのが、「他の相続人が、故人の生前に預金を引き出していたようなので、これを請求したい」というものです。対処法を事例とともに弁護士が解説します。
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被相続人の生前、他の相続人がお金を引き出していたことがわかるものを探し出し、故人に無断で引き出したものであることを証明できれば、引き出した相続人に対して、相続分相当額を返還せよ、と主張することができます。
今回は、この不正出金の見つけ出し方、証明の仕方について、これまでに当事務所が担当した案件をもとにした事例とともに、紹介したいと思います。
依頼は母を亡くした娘さんからでした。
父は母より前に亡くなっていたため、相続人は、依頼者の方と、その兄の2人で、遺産は自宅不動産と預貯金がありました。母は遺言を残して亡くなっていましたが、その内容は、「兄にすべての財産を相続させる」というものでした。
母は、亡くなる前の5年ほど、認知症で施設に入所しており、その間の金銭管理は兄がしていました。母が亡くなった後、依頼者の方が、どの程度の遺産が残っているのかを兄に確認したところ、非常に少ない金額を告げられ、兄が勝手に引き出したのではないかと考えて、相談に来られました。
不正出金が疑われるケースで、まず行うべきことは、被相続人の預貯金の取引履歴の取得です。
相続人であれば、金融機関は取引履歴を開示してくれますが、このとき確認する対象としては、被相続人が死亡した時点の遺産残高だけでは不十分です。被相続人が死亡する前に、多額の金銭が引き出されている場合が多いので、死亡前の少なくとも数年前からの取引状況の開示が必要となります。なお、金融機関は、原則として過去5年分の取引履歴を開示しますが、さらにさかのぼって調査が必要である特別な理由を説明すれば、過去10年分まで開示してもらえる可能性があります。
今回の事例でも、まずは各金融機関の取引履歴を取得することから始めました。今回の事例では、金融機関が非常に多く、10行もの金融機関に21もの口座がありましたが、すべての口座について、過去10年の取引履歴を取得しました。
取引履歴が判明した場合は、その入出金を突き合わせて、多額の出金があったかどうかを確認していく作業が必要です。多額の出金をしているように見えても、他の口座に移し替えただけという場合もありますので、被相続人が多くの金融機関に預貯金を有していた場合には、この突き合わせ作業に大変な手間がかかります。また、取引履歴の記載内容を理解し、整理しなければ突き合わせはできませんので、これも非常に大変です。
今回の事例でも、10金融機関の21口座すべての10年分の取引履歴を表にして突き合わせ作業を行い、兄による不正出金をあぶり出しました。
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相続の相談が出来る弁護士を探す兄が母に無断で出金したと主張するためには、母の口座から多額の出金があったという事実だけでは足りません。その出金を兄が行い、出金したお金が兄の元に渡っていることを証明する必要があるのです。
たとえば、多額の出金の場合には、窓口で払戻伝票を書いているはずですので、それを取り寄せて筆跡を確認する必要があります。
また、ATM出金であった場合には、母がATMを利用できる状態であったか、使用されたATMの場所はどこか(兄の自宅や勤務先付近ではないかなど)を検討することになります。
上記の事例では、母が施設に入所した後、兄が母の金銭管理を行っていましたので、その事実を指摘するとともに、出金ごとに払戻伝票や使用したATMの情報などを調査しました。
その結果、兄の奥さんの筆跡で書かれた払戻伝票や、施設に入所している母が行けるはずのないATMでの出金履歴も見つかりました。
上記の事実に合わせて、そもそも母の状態からすれば、出金を指示することも困難であったことを、病院や施設の診療録や介護認定記録なども駆使して主張した結果、こちらの主張内容に沿った形で和解が成立しました。
このように、相続人の1人が勝手にお金を引き出したと思われる節があったとしても、その主張立証には、綿密な調査と、調査資料の分析、分析結果を整理して主張に落とし込むことが必須です。ただ、丁寧に主張立証をすれば、今回の事例のように、亡くなった時点で残されていた遺産以上のものを取得できる可能性があります。
今回の事例では、母が認知症を患っていたことから、そもそも遺言が有効かとの問題もありましたが、この点については、また改めて解説させていただきます。
(個人情報に配慮し、内容の一部を脚色しています。記事は2020年7月1日現在の情報に基づきます)
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