長男が親の扶養・介護を条件に遺産を多く相続した場合

遺産分割協議においては、特定の条件を付けて遺産を分割することが可能です。実際、長男等に対して「老いた親の面倒をみる」ことを条件に、他の相続人よりも多くの財産を相続させるケースは、今でも少なくないものと思います。例えば「残された老親の面倒を見る(扶養・介護する)」かわりに、長男に対して、故人の全財産を相続させたケースを考えてみましょう。もちろん、全財産を相続した長男が、しっかりと最後まで親の面倒を見るケースも多いかと思いますが、残念ながら、財産を手にした途端、急に態度が変わり、老親の面倒を全くみなくなるケースも少なからず存在します。このような場合、解決策として、どのような方法が考えられるでしょうか。以下の3つの方法について、検討してみたいと思います。

1 遺産分割協議をやり直す
約束した条件を守らないのだから、債務不履行(約束違反)を理由に、遺産分割をやり直すという方法が考えられます。しかし、約束を破った長男の意思に関係なく、遺産分割協議を一方的に解除することは原則として認められていません。遺産分割協議をやり直すためには、「約束を守らない長男」を含めた相続人全員の合意が必要とされています。もちろん、このような場合に長男が「遺産分割協議のやり直し」に応じることは期待できません。

そのため、「遺産分割協議のやり直し」は、事実上不可能といえるでしょう。

2 老親の面倒をみる行為を強制する
遺産分割協議のやり直しができないのであれば、次に、強制的に、長男に老親の面倒をみさせるという方法が考えられます。しかし、仮に、遺産分割調停や審判等を経ていたとしても、強制執行手続等を用いて、長男に老親の面倒をみるという行為を強制することはできないとされています。そのため、「老親の面倒をみる行為を強制する」ことも、事実上難しいといえるでしょう。

3 毎月の生活費(扶養料)を支払わせる
最後に、老親の生活費(扶養料)を支払わせるという方法が考えられます。老親から長男に対し、所定の要件を満たせば、一定程度の扶養料を請求することは可能です。
しかし、長男が扶養料の支払いに応じなければ、扶養請求調停といった裁判所の手続を経る必要があります。実際に、扶養料が支払われるまでに、時間も費用もかかり、非常に面倒な対応を強いられることとなります。

金銭管理を一部の相続人で行う場合には注意が必要

以上のとおり、「老親の面倒をみる」ことを条件とする遺産分割協議を行った場合、その条件が守られなかったときの事後的な解決は非常に難しいといえます。そのため、「老親の面倒をみる」ことを条件とする遺産分割協議を行う場合には、しっかりと事前対策を行う必要があります。

遺産分割方法の注意点

まず、「老親の面倒を見る」という条件をつけるとしても、故人の全財産を老親以外の特定の相続人に相続させることは控えた方がよいでしょう。相続税対策等の兼ね合いもありますが、残された配偶者が全財産を相続しない場合には、以下の観点に注意するとよいでしょう。

1 居住権確保
他の相続人の動向に関わらず、親が居住できる場所を確保することが重要です。なお、相続法改正により、配偶者居住権の制度も創設されたことで、より柔軟な対応を行うことが可能となりました。

2 将来の生活保障
上記居住権確保とともに、老親のその後の生活に支障がないよう、残された配偶者に対して生活資金等を遺産分割する必要があります。なお、上記のとおり配偶者居住権の制度が創設されたことにより、遺産分割協議において、残された老親が住まいを確保しつつも、生活資金としての相続財産を確保しやすくなりました。

面倒をみる相続人への対応

次に、老親の面倒をみる相続人(子)については、一括して財産を相続(取得)させるのではなく、扶養や介護等の実態を見ながら、状況に応じて、必要な財産を譲渡するとよいでしょう。例えば、毎年、少しずつ生前贈与を行うことや、面倒をみてくれた子に財産を渡す旨の遺言を作成する等の方法が考えられます。

なお、親が自分自身で金銭管理が難しくなってきた場合には、面倒をみる相続人が老親の金銭を管理することとなるかと思います。その際は、過去の記事「相続トラブル回避のカギは『領収書』 親の財布を管理する家族がすべきこと」における注意点を参照されるとよいでしょう。特に、老親の金銭管理を一部の相続人のみで行う場合には、老親が亡くなった際の相続においてトラブルとなる可能性が高く注意が必要です。「老親の面倒を見る」という条件を遺産分割に用いる場合には、弁護士をはじめ、専門家に相談をして、遺産分割協議書の内容をじっくりと検討するとよいでしょう。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)