独りよがりな遺言書にビックリ!解決策はあるの?

「父が残した遺言書に納得できません。遺言書を無視して財産を分けることはできますか?」
相談に来たのは、1カ月ほど前にお父様を亡くしたA子さん(45)です。

A子さんには、弟(42)が1人います。お母様は既に他界しているとのこと。A子さんは、シングルマザーです。アパートを借りて、小学生の息子を女手一つで育てています。弟は、独身で実家暮らし。生活費も家事もすべて親任せだったといいます。しっかり者のA子さんと違い、甘やかされて育ってきた弟さん。

弟が心配だったお父さんは遺言書を残していたのですが、その内容は、A子さんにはツライものでした……。

遺言書の内容を要約すると次の通りです。
① 自宅は、A子さんと弟の共有にする
② 現預金はすべて弟に残す

遺言書の最後には、付言事項としてお父様の考えが書いてありました。
(付言事項)
①自宅にA子さん親子と弟が同居をし、A子さんが弟の身の回りの世話をしてほしい
②そのかわり、生活費は遺産をもらった弟が主に払えばいい。

みなさん、これをみてどう思いますか?
お父様のお気持ちもわからなくもありませんが、A子さんの立場に立ったらどうでしょう。ただでさえ、子どもを抱えて大変な生活をしているのに、もらえるのは、弟の住んでいる実家だけ……現金は1円ももらえない。

A子さんとしては、自宅は弟にあげるから、自分は生きていくための現金を残してほしかったといいます。お父さんは、弟と同居して面倒を見るかわりに、A子さんの生活費を弟が遺産から出せば丸く収まると思ったのでしょう。

でも、ただでさえシングルマザーとして忙しく生活しているA子さんには、酷な話です。

残念ながら法的に正しい遺言書があれば、原則的にはその通りにわけることになります。財産は亡くなった人のものですから、持ち主の作った遺言書があったら、基本的にはその通りに分けなさい! ということです。ただし、この遺言書で法的拘束力があるのは、財産の分け方の指定部分だけ。弟と一緒に住んで身の回りの世話を……というのは、あくまでもお父様の希望であり、拘束力はありません。

どうしてもこの遺言書に納得できないという場合、相続人全員の同意があれば遺言書と異なる遺産分割をすることもできます。とはいえ、これは、なかなか難しいことです。
どんなひどい(失礼)遺言書でも、中にはそれでトクをする人がいるものです。
A子さんの場合も、弟はこの遺言書通りでいいと言っているそうです。

相続人全員の同意がなければ、遺言書通りに遺産分けするしかありません。かわいそうなA子さん……。

このような独りよがりの遺言書、実は少なくありません。せっかくの遺言書も、家族に不愉快な思いを残すのでは、本末転倒です。
家族も年を重ね、自分の生活を持つようになれば、それぞれの事情や考え方が変わってくるもの。遺言書を書くときは、どう相続すべきかをご家族としっかりと話し合っていただきたいと思います。

ルールを無視した遺言書がもめ事を引きおこす!

「こんな遺言書を作ってみたんですけど、見てもらえます?」

相談者のB子さん(80)に見せてもらった遺言書には、「娘にすべての財産を相続させる」と書かれています。聞くと、彼女には、息子もいるとのこと。でも、娘だけが自分の面倒を一生懸命みてくれるので、財産を全部渡したいというのです。

相続で財産を分ける場合、遺言書があればその通りに財産を分けるとお話しましたが、実は遺言書よりも優先されるルールがあります。それは「遺留分」です。遺留分は、法定相続人に最低限の相続分を保障する制度です。遺留分の割合は、通常の場合、法定相続分の2分の1です。相続人が父母や祖父母だけの場合は、法定相続分の3分の1、兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分は、遺言書よりも優先されますから、遺留分を無視した遺言書では、遺留分を巡って争いになる可能性が高いのです。B子さんの残した「娘に財産の全てを相続させる」という遺言書は、息子の遺留分を侵害しているのです。こんな遺言書を見たら、息子はどんな気持ちになるでしょうか。遺留分を主張して、姉と争うことになるかもしれません。もしかしたら、「姉さんが母さんをそそのかして、こんな遺言書をかかせたんだ!」と姉を憎んでしまうかもしれません。

子どものためを思って残した遺言書が、かえって子どもたちを不幸にしてしまうかもしれないなんて……。せっかくの家族のために残す遺言書です。最低限のルールを守った、家族にしこりを残さないものを作成したいものです。

まとめ 遺言書以外の遺産分割方法は?

では仮に、遺言書に納得できず、遺言書通りに分けない場合はどうすればいいのでしょうか。その場合は、相続人全員で話し合い、財産の分け方を決めることになります。
これは、遺言書がない場合も同じです。

でも、この話し合いがなかなか難しいのです。仮に、子どもがいないC子さん(50)夫婦の場合で考えてみましょう。

C子さんのご主人(52)が職場で突然亡くなりました。ご主人のご両親はご健在だったので、相続人はB子さんとご主人のご両親ということになります。

ちょっと想像してみてください。
義理の両親と亡き夫の財産をどう分けるかを話し合う場面を……。「遺産分割はご相続人同志でどうぞご自由にお決めください」などと、放り出されたら、どう話し合ったらいいのか途方に暮れてしまいます。

そこで、用意されているのが「法定相続分」です。
「法定相続分」とは財産の配分の目安で、相続人の組み合わせによって決まっています。
「法定相続分」はあくまでも目安で、このこの通りに分けなければいけない、ということではありません。でも、こういった目安があれば、C子さんたちの話し合いも少しはスムーズにいくと思いませんか?

とはいえ、C子さんからすればなさぬ仲の義理の親と財産を取り合う話なんてしたくないはずです。遺言書があれば、こんな話し合いもしなくて済むのです。

大切な家族を守るためには、やはり遺言書が必要、ということなのです。

(記事は2020年4月1日現在の情報に基づきます)