目次

  1. 放置すれば借金含めてすべて相続することに
  2. 最初の手続きのタイムリミットは「3か月」
  3. まずやるべきは「財産と負債の棚卸し」
  4. 10か月以内には「相続税の申告」も

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夫が急死しました。子供はおらず夫の両親は亡くなっていて夫の弟が1人います。遺産と呼べるようなものは自宅以外はほとんどなく、一方で300万円ほどの借金があることが発覚しました。ただし、全体像はまだ把握できていません。いつまでに、どのような手続きをすればよいでしょうか?(都内在住、61歳女性)

ご主人が急に亡くなられ、何から手をつければよいのかわからず戸惑っていらっしゃることと思います。心の整理がつかない中で、次々に対応が求められるのが「相続」に関する手続きです。

まず行うべきは、「誰が相続人なのか」と「遺産・借金の総額」を把握することです。相続では何もしなければ「プラスの財産」だけでなく「借金(マイナスの財産)」もすべて引き継ぐことになるため、注意が必要です。

今回は、特に早めの判断が必要となる「手続きの期限」や「注意すべきポイント」についてお伝えいたします。

相談者の方がもし借金の存在が不明確なまま放置すると、法定相続人がそのまま借金をすべて引き継ぐことになります。夫の両親が亡くなっていて、子供もいない場合、夫の祖父母が存命でなければ相談者と夫の弟が法定相続人となります。

そして、相続には大きく3つの選択肢があります。

(1)単純承認
すべての財産と借金を引き継ぐ方法です。何もしなかった場合、自動的にこの形になります。相続人が遺産の一部を使ってしまう(例:預金を引き出した、車を売却したなど)と、それだけで単純承認したとみなされてしまうことがあるので注意が必要です。

(2)相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法です。今回の相談者の場合で言えば、300万円の借金があるからといって相続放棄すれば、自宅も失うことになってしまうため慎重な判断が求められます。

相続放棄については、家庭裁判所へ「相続放棄の申述」を行う必要があります。相続人が複数いる場合には、1人が相続放棄しても、借金は他の相続人に回るだけとなります。明らかに財産より借金が多い場合は、単独ではなく、相続人全員で相続放棄を行うのが得策でしょう。

注意しなければいけないのは、一度相続放棄すると、あとから取り消すことはできません。したがって、もし相続放棄をした後に高額な遺産が見つかっても受け取ることはできません。なお、相続放棄しても例外的に死亡保険金や共済金などは受け取ることができます。

(3)限定承認
プラスの財産の範囲内で借金を引き継ぐ方法です。例えば、亡くなった人が1000万円の財産に対し、1500万円の借金を負っていた場合に限定承認すると、1000万円の財産と1000万円の借金を相続することになり、借金の残額500万円は免除されます。

亡くなった人の借金がどのくらいあるか分からない一方で、プラスの財産が残る可能性もある場合には選択肢となります。ただし、相続人が複数いるときは全員が限定承認する必要があり、手続きも複雑で、費用もかかるため選択されるケースは少ない傾向にあります。主な費用は、専門家報酬(弁護士・司法書士への委任)、官報公告掲載料です。

【関連】相続放棄のデメリットとは トラブルを防ぐための注意点、放棄の判断基準まで解説

相続が発生したことを知った日(通常は亡くなった日)から3か月以内に、相続放棄または限定承認することを家庭裁判所に申し立てなければ、単純承認したとみなされます。財産の調査に時間がかかり、「気づいたときには期限が過ぎていた」という事例も少なくありません。

実際に「夫にこんな借金があったなんて…」 「何をどうすればいいのかわからない…」と悩まれる方は多く、特に「借金の相続」は見過ごされやすいポイントです。ほかにも、亡くなった人が誰かの保証人となっていた場合はその保証債務も相続の対象になるため、相続人が保証人になります。

もし相続財産の全体像がすぐに把握できなかったり、他の相続人がどこにいるか分からなかったりするときは、「熟慮期間の延長」を家庭裁判所に申し立てることが可能です(延長が認められるかは家庭裁判所の判断によります)。

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まず、行うべきことは、ご主人の「財産と負債の棚卸し」です。借金があるかもしれないと感じたら、可能な限り資料を集めて確認してください。すべてを調べるのは大変ですが、期限を過ぎてしまうと取り返しがつかないこともあります。

以下のような資料がないか確認しましょう。

  • 通帳、クレジット明細
  • 不動産の登記簿や固定資産税通知書
  • ローン契約書、保証人契約など
  • 郵便物、スマートフォンのアプリ通知 など

これらをもとに資産と負債の一覧を作りましょう。

遺産が一定額を超えると、相続税の申告が必要となります。

ときには「相続しない」という選択が、自身と家族を守ることにつながります。焦って行動せず、まずは落ち着いて「3か月のタイムリミット」と「10か月の申告・納税期限」を意識しながら、情報収集と判断を進めていきましょう。

相続には法律・税金・不動産・戸籍など、多くの要素が絡みます。相続税に関して言えば、「配偶者控除1億6,000万円」や、法定相続分として「配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1」など様々な制度やルールがあります。

知識のないまま手続きを進めると、予期せぬ大きな負担を抱えることになりかねません。こうした不安を抱えたときこそ、早めに弁護士や税理士、司法書士など専門家に相談することをおすすめします。税理士以外に登記関連は司法書士、遺言など法的手続きは弁護士とそれぞれチームを組んで対応します。

いざというときに残された家族が慌てなくても済むようにするためには、生前に家族と資産の全体像を洗い出してリストを作成しておくことが大事です。家族と共有すべき財産や借金の情報については下記のリストを参考にしてください。

  • 預貯金:預金通帳と届出印・実印、金融機関や支店名、口座番号など
  • 借入金:借用書や契約書、返済予定表など
  • クレジットカード:カード会社名、暗証番号、引落し口座など
  • 不動産:権利証や登記簿謄本、固定資産関係の評価明細書、売買契約書など
  • 動産:宝石・貴金属、書画・骨董品、自動車などの所在
  • 有価証券:証券会社名や連絡先、取引残高報告書、現物の保管場所など
  • 生命保険:保険会社名と連絡先、受取人名、保険証券の保管場所など
  • 公的年金:基礎年金番号、年金手帳や年金証書の保管場所、年金受取口座のある金融機関
  • 遺言書やエンディングノート

遺産の中にマイナスの財産のほうが多い場合や、所在不明の相続人がいる場合には、相続開始から10か月以内に申告を行う必要があるため、スケジュールがタイトになります。

遺言書作成や相続税対策といった生前対策についても、弁護士や税理士ら専門家に相談することをお勧めします。

(記事は2025年5月1日時点の情報に基づいています。質問は筆者の実体験を元にした創作です)

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