目次

  1. 法律婚でないパートナーに相続権は無い
  2. 内縁のパートナーに財産を残すには遺言書が不可欠
  3. 遺言書には2種類ある
  4. 相続税の加算に注意
  5. 遺言でも防げないトラブルも

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長年連れ添ってきた女性と私名義のマンションで暮らしています。籍は入れていませんが、生活のすべてを共にしてきました。最近、持病の悪化で先のことを考えるようになりました。両親も既に他界し、子どももいませんが、兄弟がいます。マンション以外に預貯金など計3000万円ほどの財産があります。自分に何かあったときに彼女が困らないようにするために、どのような準備をしておけばいいのでしょうか?(都内在住、72歳男性)

今回のように「内縁関係のパートナーに財産を遺せるか」というご相談は、決して珍しくありません。特に長年連れ添ってこられた場合、「当然、相続の対象になるはず」と思われる方が多いのも自然なことだと思います。

でも、ここがとても大切なポイントなのですが、内縁関係にあるパートナーには、法律上の相続権は認められていないということです。

長年生活を共にしてきた方が法的に“相続人”と認められないという事実を知って、驚かれる方も少なくありません。法律上の婚姻届を提出していない、いわゆる「事実婚」の関係にある場合、長く一緒に暮らし、生活を支え合っていても、現在の民法では「相続人」として扱われないことになっています。

相続人とは、「亡くなった方の財産を法的に受け取る権利をもつ人」のことで、民法でその範囲が定められています。法律上の婚姻関係にある配偶者は、常に相続人になりますが、それ以外の相続人は血縁関係に基づいて決まります。

そのため、今回のように相談者が亡くなった場合、両親も子もいらっしゃらないので、法律上の相続人は兄弟となります。このまま何の対策もせずに万が一のことがあると、住んでいた自宅や預貯金など、すべての遺産が兄弟に引き継がれ、内縁のパートナーには何も残らない…ということが起こってしまいます。

たとえば、ご自宅のマンションが相談者単独の所有名義である場合、その所有権は相続人である兄弟に移ります。内縁のパートナーは、法律上「相続人」ではないため、たとえ長年自宅に住んでいても、その家に住み続ける権利は保障されていません。退去を求められる可能性もあります。法律上の配偶者であれば、「配偶者居住権」という制度があり、家の所有権を相続できなかったとしても、一定の条件で自宅に住み続ける権利が保護されます。ですが、この制度も法律婚に限定されたもので、内縁のパートナーには適用されません。

さらに、相続人である兄弟が、マンションを売却しようとした場合、内縁のパートナーはそれを止める権利もありません。そうなると住まいを失ってしまう可能性もあるわけです。

このように、たとえ人生を共に歩んできたパートナーであっても、法律婚でなければ守られない現実があることをまず知っておくことが、とても大切です。住まいや生活基盤を一挙に失ってしまうリスクが現実に存在します。

「自分が亡くなったあとも、大切なパートナーに安心して暮らしてもらいたい」。そう願われるのであれば、生前に遺言書を作成しておくことが何より重要です。

相続の場面では、法定相続分よりも遺言書の内容が優先されます。つまり、相談者が遺言で適切に意思を示しておけば、相続人である兄弟ではなく、内縁のパートナーに財産を遺すことが可能になります。

一方で、遺言書がない場合には、内縁のパートナーは相続人として扱われないため、遺産分割の話し合いに参加することも認められません。相続手続きから完全に排除されてしまいます。これは、相続財産が不動産であっても現金であっても同様です。ですから、パートナーに確実に財産を遺したいと考えるならば、それを正式な形で書き残しておくこと。遺言書は、そのもっとも確実な手段です。

遺言書には大きく分けて、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つの形式があります。

「自筆証書遺言」は、費用をかけず自分ひとりで作成できる点が魅力ですが、法律上の要件が非常に厳しく、全文手書きで、日付・署名・押印が正確でないと無効になる可能性があります。また、せっかく作っても、見つからなかったり、誰かに破棄されてしまうリスクもあります。

そのため、2020年7月10日から、新たに法務局による自筆証書遺言の保管制度が開始されました。これにより、自筆証書遺言を法務局で安全に保管できるようになり、改ざんなどのリスクが軽減されました。公正証書遺言に比べて費用を抑えられる点も特徴です。

ただし、法務局では遺言書が法律上の形式要件を満たしているかどうかの確認は行いますが、その内容の法的妥当性や有効性について判断することはありません。

「せっかく遺言を残したのに、結局使えなかった」ということを防ぐには、必ず専門家に確認してもらうことをおすすめします。

一方、「公正証書遺言」は、公証人が内容と形式を確認しながら作成してくれるため、形式不備や紛失といったリスクを避けることができます。証人2名の立ち会いが必要ですが、法的な確実性を重視する場合には非常に有効です。とくに、内縁のパートナーに確実に財産を遺したいという場合には、公正証書遺言を選ぶことで、意思をきちんと形に残すことができます。

内縁のパートナーに財産を遺す場合、もう一つ注意すべきなのが相続税の取り扱いです。

法定相続人である配偶者や子どもが財産を相続する場合に比べ、それ以外の人が相続する場合は、相続税額が2割加算されるというルールがあります。つまり、たとえ遺言書によって内縁の妻に財産を遺したとしても、通常よりも高い相続税が課されます。

場合によっては、受け取った財産の中からまとまった額を納税しなければならず、生活設計に大きな影響が及ぶこともあります。こうした税負担も視野に入れ、生前のうちに税理士と相談しながら、納税資金の準備や何を遺すかを検討しておくことが大切です。

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遺言書は非常に有効な手段ですが、あらゆるトラブルを完全に防げるわけではありません。その一例が、「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ばれるルールです。

遺留分とは、法律上の婚姻関係にある配偶者や子ども、直系尊属、つまり兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、最低限保障された取り分のことをいいます。たとえ遺言書に「すべての財産を他人に遺す」と書かれていたとしても、遺留分をもつ相続人がその権利を主張すれば、財産の一部は亡くなった人の意思に反していても法定相続人の取り分となります。

ただし、今回のように相続人が兄弟だけの場合には、遺留分の権利は認められていません。したがって、内縁のパートナーに全財産を遺すという内容でも、兄弟から遺言に異議を唱えられることはなく遺言書の通りに実現されることになります。

とはいえ、遺言書の作成や相続税の対策、そして遺言の執行に至るまで、専門的な知識と手続きが求められる場面は多くあります。こうした不安を避け、確実な相続対策を行うためには、税理士や弁護士などの専門家と連携しながら進めることが重要です。

税理士は依頼者の相談内容に応じて信頼できる弁護士とチームを組み、法務・税務の両面から支援します。相続税や贈与税の試算、遺言書の作成支援を通じて、「どのように財産を遺すか」を一緒に考えていきましょう。

将来の安心のために、まずは「遺言書を正しく作成すること」から始めてみてはいかがでしょうか。

(記事は2025年4月1日時点の情報に基づいています。質問は筆者の実体験を元にした創作です)

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