目次

  1. まず確認すべきは不動産の現状
  2. 相続税はどこからかかる?
  3. 納税資金が用意できない場合の対処法
  4. 売却か、保有か
  5. 生前からできる対策も重要

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父が急に亡くなりました。ですが、相続した財産のほとんどが不動産で、預貯金がありません。土地の一部を売って納税資金を用意しようと思っていたのですが、なかなか売却が進まず、気づけば納税期限が迫っていて……。どうしたらいいでしょうか?(神奈川県在住、45歳女性)

お父様のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。突然のことで、まだお気持ちの整理もつかない中、相続手続きに直面されていることと思います。

大切な方が亡くなってから10ヵ月以内に遺産の分け方を決めて、必要であれば申告・納税を完了させなければならないのが相続です。さらに基本的に「現金で一括納付」しなければならないという決まりもあります。

「相続で家や土地を引き継いだけれど、相続税を支払うための現金はほとんどない。不動産を売ろうにも買い手がなかなか見つからない」
そんな状況の中で相続税の納付期限が近づく……。

実は、こうしたケースはよくあります。一般的な土地付き一戸建て住宅の中古物件の査定価格は、都市部では数千万円以上から1億円を超えることも珍しくありません。一方で、相続財産の大半が不動産だった場合は、すぐに売れるとは限らないため納税資金の確保に悩まれる方は多くいらっしゃいます。

今回は、納税期限が迫るなかでの対応策と、今後の対処についてご説明いたします。

まずやるべきなのは、「この不動産は今どんな状態なのか?」という情報の整理です。
不動産の権利関係が不明確なまま手続きを進めると、あとで「こんなはずじゃなかった」という事態になりかねません。

(1)自宅は「所有権」か「借地権」か、抵当権は付いているか
所有権がある場合は「登記済権利証」または「登記識別情報」(2005年以降)があるはずです。借地権であれば「土地賃貸借契約書」などの資料を確認してください。あわせて、土地や建物に抵当権が設定されている場合には、借入金の残高も調べましょう。亡くなった人から借金も相続していたときは、相続税の計算の際に債務控除として差し引かれ相続額を圧縮してくれますが、残債は相続人が返済することになります。

(2)他にも相続の対象となる不動産があるか
自宅以外にも、田畑や駐車場(貸地を含む)、賃貸用のアパート・マンションなど、不動産にはさまざまな種類があり、これらも相続の対象となります。最近では、海外にある不動産や資産についての申告漏れが指摘されるケースも増えています。相続時に見落としがないよう、不動産全体の状況をあらかじめ把握しておきましょう。

(3)共有名義の不動産が含まれていないか
不動産が兄弟姉妹などとの共有名義になっている場合、遺産分割や将来の売却時に合意形成が難航する可能性があります。共有者の有無についても、早い段階で確認しておくことが重要です。

相続税は相続財産のすべてにかかるわけではなく、すべての相続財産(借入や葬式費用等を除く)から基礎控除を差し引いた残りの額に対して課税されます。基礎控除は、「3,000万円 +(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。相続財産の額が基礎控除の額を下回った場合は、課税対象がゼロになるため相続税はかかりません。

ただ、相談者のように相続財産のほとんどが不動産で、基礎控除を超えてしまうと、相続税が発生する一方で、現金が足りず納税に困ることがあります。
こうしたケースで活用を検討したいのが、「小規模宅地等の特例」です。これは、亡くなった方が住んでいた自宅の土地の面積が330㎡(約100坪)までで、配偶者や同居していた親族が引き継ぐ場合に、土地の評価額を最大8割まで下げられる制度です。要介護認定を受けて老人ホームに入居していた場合など実際に住んでいなかったとしても要件を満たせば特例が認められることがあります。

【関連】相続税の基礎控除とは 遺産はいくらまで無税? 計算式から注意点まで解説

納税期限までに用意できない場合には、一定の条件を満たせば「延納」や「物納」という方法があります。

(1)延納(相続税の分割払い)
相続税が10万円を超え、資産の構成や生活状況などから金銭での一括納付ができないと認められる場合に、分割払いにできる制度。相続財産に占める不動産などの割合によって、延納期間の上限は5年から最長20年まで申請することができます。ただし、延納した額には利子がつくほか、一定額の担保を提供する必要があります。

(2)物納(相続税の現物納付)
物納は、延納が認められてもなお現金での納税が困難な場合に限り選択できる、二次的な手段です。相続した不動産や有価証券などを相続税として納めることができますが、すべての財産が対象となるわけではありません。たとえば、海外の不動産、賃借権付きの物件、共有名義の不動産などは物納の対象外です。

これらの方法は申請書、担保目録および担保提供書をはじめとした書類の提出や税務署と専門的なやりとりが必要になるため、あらかじめ税理士へ相談することをお勧めします。

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不動産を売却して納税資金を確保する場合は、その用途や将来の活用予定をもとに「残すべきもの」と「売却を検討すべきもの」に分けて考えることが大切です。

値上がりの見込みがなく、利用予定もない不動産や収益性の低い投資用物件、使い道のない農地・山林等は売却を検討すべきでしょう。その際に注意が必要なのは、亡くなった人がその不動産を取得してから売却までの年数の長短で売却時の税率(譲渡所得税)が大きく変わることです。

  • 取得してから5年以内に売却(短期譲渡):39.63%
  • 5年を超えてから売却(長期譲渡):20.315%

不動産を相続した日からではなく、亡くなった人が取得した日から5年が基準になる点に注意が必要です。

相続が発生してからでは間に合わないことも多いため、生前からの準備が非常に重要です。具体的には、不動産の整理、売却や有効活用の検討、納税資金の準備、不動産評価額を抑える対策などが挙げられます。

  • 誰に相続させるかの決定(分割対策)
  • 相続税の納税資金をどのように確保するか(納税対策)
  • 税負担を抑えるための制度活用(節税対策)

なお、現在賃貸中の物件でも、賃貸契約ごと売却することは可能です。ご家族が賃貸物件の経営を希望しない場合は、生前のうちに現金化しておくことで、遺産分割がスムーズになるケースもあります。

また、ご両親だけが住んでいる自宅については、将来的に介護施設への入所や入院、あるいは死去によって空き家となる可能性があります。このような空き家を放置した結果、「特定空き家」に指定されると、通常より高い固定資産税や都市計画税が課される可能性もあります。

空き家問題に関連して、所有者不明土地の増加を防ぐため、2023年4月からは「不動産の相続登記の義務化」や「相続土地国庫帰属制度」という仕組みも始まっています。これは、使い道のない土地を国に引き取ってもらえる制度です。

このような事態を避けるためにも、不動産の活用方針や売却、名義変更などについて、早めにご家族で話し合っておくことが重要です。早期の相談によって選択肢が広がります。相続や不動産の状況に応じて、最適な対策をご提案できますので、ぜひ一度、専門家にご相談ください。

(記事は2025年5月1日時点の情報に基づいています。質問は実際の相談内容をもとに再構成しています)

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