任意後見人とは なれる人は誰? できることは? 手続きから権限、報酬まで解説
日本では高齢化が進み、2025年には高齢者の約20%にあたる約700万人が認知症になると予測されています。認知症対策の一つとして挙げられるのが、任意後見制度です。任意後見制度で不可欠な任意後見人の手続きや権限などについて弁護士が解説します。
日本では高齢化が進み、2025年には高齢者の約20%にあたる約700万人が認知症になると予測されています。認知症対策の一つとして挙げられるのが、任意後見制度です。任意後見制度で不可欠な任意後見人の手続きや権限などについて弁護士が解説します。
目次
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「任意後見人」とは、任意後見制度において、本人に代わって財産管理や身上監護に関する事務を行う人のことです。任意後見制度の概要や法定後見との違いについて説明します。
任意後見制度とは、将来、認知症や障害によって本人の判断能力が低下した場合に備えて、十分な判断能力があるうちにあらかじめ自分で任意後見人を選出しておく制度です。財産管理や身上監護に関する事務など、任意後見人に代わりにしてもらいたいことを決めて、公正証書で契約を結びます。この契約を「任意後見契約」と言います。
任意後見契約は、本人の判断能力が低下した際、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されて初めてその効力が生じます。任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約の内容どおりに仕事をしているかを監督する役割を担う人です。
そして、任意後見人は、効力が生じたときから、任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。
判断能力が低下した人を支援する後見制度には、大きく分けて「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに契約をして、将来の判断能力の低下に備える制度です。これに対して法定後見は、本人の判断能力が低下してから裁判所に申立てをして、判断能力の低下に対応する制度です。つまり、制度の利用を検討する時期が、本人に判断能力があるうちかどうかという違いがあります。
また、任意後見は法定後見と異なり、後見人に取消権がありません。そのため、たとえば本人が悪徳商法の契約を結んでしまったケースなど、契約の取消が必要な場合は、法定後見の活用を検討すべきと言えます。
任意後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、契約の内容に基づいて事務を行います。主な事務内容は財産管理に関する法律行為と、身上監護に関する法律行為です。たとえば以下のような行為が挙げられます。
【預貯金の管理や払戻し】
本人から通帳を預かって管理するとともに、必要に応じて払戻しをして家賃や水道光熱費、電話代、税金、保険料などの定期的な費用を支払います。
【不動産などの重要な財産の処分】
施設に入るためのまとまったお金が必要な場合などに、不動産を売却する手続きをします。
【遺産分割】
本人の親や兄弟姉妹が亡くなるなどして本人が相続人になった場合、ほかの相続人と話し合って遺産の分け方を決めます。
【介護契約の締結】
本人が高齢や病気などで介護を要する場合に、介護事業者との間で介護契約を締結します。
【施設入所契約の締結】
本人が老人ホームなどの施設に入所する場合に、施設との間で入所契約を締結します。
【医療契約の締結】
本人が病気で入院する場合などに、病院との間で医療契約を締結します。
【賃貸借契約の締結や解除】
本人が転居する場合などに、これまで住んでいた家の賃貸借契約を解除し、新しく住む家の賃貸借契約を締結します。
任意後見人には、法律が任意後見人としてふさわしくないと定めている欠格事由に該当しない限り、誰でもなることができます。ただし、自分と年齢が近い人を任意後見人に選任すると、任意後見を始めるときにはその人も高齢になっていて十分に事務が行えない可能性があるため、注意が必要です。
以下の欠格事由に該当する人は任意後見人になれません(任意後見契約に関する法律第4条1項)。
任意後見人は、本人から通帳やキャッシュカードなどの大切なものを預かるとともに、日々の収支について適切に記録しておかなければなりません。また、任意後見人に目を配る任意後見監督人に対し、定期的に後見事務に関する報告をする必要もあります。
報告内容は任意後見人による財産の管理状況や、本人の生活や療養看護に関する措置、費用の支出及び使用状況などです。任意後見人は、これらの事務を本人が亡くなるまでの長期間にわたって行わなければなりません。
そのため、他人の財産を管理しているという自覚を持ち、誠実に事務を行うことが期待できる人を任意後見人に選ぶべきです。
任意後見人には親族や友人、知人などを自由に選ぶことができるものの、候補となる身近な人がいない場合も少なくありません。また、親族による使い込みや親族間のトラブルも懸念されます。そのような場合には、弁護士や司法書士などの専門家を任意後見人に選任することも検討しましょう。
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任意後見の相談ができる司法書士を探す任意後見制度のメリットは、主に以下の3つです。
法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、本人や家族の希望する人物が後見人に選ばれるとは限りません。本人と選出された人物との相性が合わないこともあるでしょう。
これに対して任意後見では、欠格事由がない限り、成人であれば誰でも自由に任意後見人に選ぶことができます。そのため、子息、息女や兄弟、姉妹、姪、甥などの親族、友人といった信頼できる人物に後見人になってもらうことができます。
私が所属する法律事務所でも、任意後見に関する相談や依頼を受けることがありますが、自分の知らない第三者に財産管理を任せるのは不安という思いから、任意後見の利用を検討されるケースも少なくありません。
任意後見契約は「契約」であるため、当事者の合意により、自由にその内容を決めることができます。任意後見人になった際にどのような事務をしてもらうか、任意後見受任者(=任意後見人になる人)との話し合いで柔軟に決められます。
たとえば、どのような生活を送りたいかなどを記載したライフプランノートを任意後見受任者と一緒に作成し、その内容に沿って事務を遂行してもらうよう契約書に記載することもできます。
信頼できる人を任意後見人に選ぶといっても、一人にすべて任せきりにすることに不安を感じるかもしれません。任意後見では、任意後見人の事務が始まる際に任意後見監督人が必ず選任され、任意後見人が適正に仕事をしているかを監督してくれるため安心です。
また、本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときには、任意後見監督人が本人を代理して本人の利益を守ります。
任意後見監督人はこれらの事務について家庭裁判所に報告することになっているため、家庭裁判所も間接的に任意後見人を監督することになります。なお、任意後見監督人は家庭裁判所によって選任されますが、その役割などから、本人の親族ではなく弁護士や司法書士などの第三者が選ばれるケースが多いです。
任意後見制度にはデメリットも存在します。特に以下の4点には注意が必要です。
法定後見では後見人に取消権がありますが、任意後見では後見人に取消権がありません。そのため、たとえば本人が悪徳商法に騙されて高額な商品を買ってしまっても、任意後見人は本人の行為を取り消すことができません。
任意後見制度を利用する場合、任意後見監督人が必ず選任されます。任意後見監督人の報酬が毎年かかることになりますので、本人の財産や収支と照らし合わせ、継続して支払うランニングコストを負担する余裕があるかどうかを把握しておくことが大切です。
私が弁護士としてこれまで相談を担当したなかでは、ランニングコストを理由に任意後見制度の利用を躊躇する事例も少なくありませんでした。継続的な出費を抑えたい場合は家族信託の利用も選択肢の一つです。
任意後見監督人が選任されて任意後見契約が発効したあとは、本人や任意後見人は、正当な事由がなければ任意後見契約を解除することができません(任意後見契約に関する法律9条2項)。なお、契約が発効する前であれば、公証人の認証を受けた書面によっていつでも解除できます。
正当な事由には、たとえば後見人が仕事の都合により遠隔地に転居した場合や、後見人が高齢や病気などにより後見事務を行うことが困難になった場合などが挙げられます。
また、任意後見人に不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見人に適しない事由があるときは、任意後見監督人、本人、本人の親族または検察官の請求によって、家庭裁判所が任意後見人を解任できます(任意後見契約に関する法律8条)。
本人が亡くなると任意後見契約は終了し、その後の葬儀や遺品整理などの事務処理は任意後見人の職務の範囲外となります。死後のサポートを希望する場合は、別途、死後事務委任契約を締結するようにしましょう。
任意後見人の選任から事務開始までの流れとしては、主に5つの手順を踏みます。
本人の判断能力がある元気なうちに、誰を任意後見人とするか、どのようなことをしてほしいかを決めましょう。その際は、任意後見人ができることとできないことを十分に理解したうえで決めることが大切です。
たとえば、任意後見契約では本人の判断能力が低下する前の事務や死後のサポートについては決めることができません。そのため、これらの支援を希望する場合は、判断能力が低下する前からサポートするための見守り契約や財産管理等委任契約、死後の事務処理をするための死後事務委任契約といった、任意後見契約を補完する契約も検討しましょう。
次に、公証役場に連絡して任意後見契約公正証書の作成を依頼しましょう。主な必要書類と費用は以下のとおりです。
【本人に関する必要書類】
・印鑑証明書+実印(または顔写真付き公的身分証明書+認印)
・戸籍謄本または抄本
・住民票
【任意後見受任者に関する必要書類】
・印鑑証明書+実印(または顔写真付き公的身分証明書+認印)
・住民票
【必要な費用】
・公正証書作成の基本手数料:1万1000円
・登記嘱託手数料:1400円
・法務局に納付する印紙代:2600円
公証人とやりとりをして任意後見契約の内容が確定したら、本人と任意後見受任者の双方が公証役場に行き、公証人に任意後見契約公正証書を作成してもらいます。高齢や病気などで公証役場に行くことが難しい場合は、公証人に出張してもらうこともできます。
任意後見契約が締結されると、公証人の嘱託により、任意後見人の氏名や代理権の範囲などの契約内容が東京法務局で登記されます。
本人の判断能力が低下した際には、本人や配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者が、本人の住所地の家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。主な必要書類と費用は下記のとおりです。
【主な必要書類】
・本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・任意後見契約公正証書の写し
・本人の成年後見等に関する登記事項証明書
・本人の診断書
・本人の財産に関する資料
【主な費用】
・申立手数料:収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手(裁判所によって異なる)
・登記手数料:収入印紙1400円分
任意後見監督人選任の申立てがなされると、家庭裁判所は、本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、任意後見受任者の職業や経歴、本人の意見などをふまえて総合的に判断し、任意後見監督人を選任します。その際、家庭裁判所は、本人の意思を尊重するため、基本的には申立ての内容について本人と面談し、同意の確認をします。
なお、任意後見監督人が選任されたことは、任意後見監督人、本人及び任意後見受任者に告知されます。
任意後見監督人が選任されると、任意後見人の事務が始まります。たとえば、本人から通帳を預かるなどして本人の財産や収支を把握し、本人を支援する方針を決めます。
任意後見人に報酬をいくら支払うかは、本人と任意後見受任者との話し合いで決めることになります。親族や友人が任意後見人となる場合は、無報酬とするケースも多いです。弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、月額3万~5万円が相場です。
また、任意後見監督人の報酬は、本人の財産の額や監督事務の内容などを総合考慮して家庭裁判所が決定します。目安は下記のとおりです。
・管理財産額5000万円以下:月額1万~2万円
・管理財産額5000万円以上:月額2万5000円~3万円
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任意後見の相談ができる司法書士を探す任意後見制度は判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人を選び、支援してもらう制度です。任意後見制度をいずれ利用したいと思っていても、候補となり得る親族がいない場合も多いでしょう。また、親族による使い込みや親族間のトラブルに対する懸念もあると思います。
そのような場合は、弁護士など信頼できる専門家を見つけて依頼するのがお勧めです。専門家であれば、重要かつ煩雑な事務手続きを適切に処理してくれます。ただし、任意後見人や任意後見監督人に対する報酬が定期的にかかりますので、その点は注意しましょう。
(記事は2024年8月1日時点の情報に基づいています)
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