成年後見人に親族がなる場合のトラブル事例と対処法
認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が低下した人を支援する成年後見人(せいねんこうけんにん)に親族が就任する場合、横領などのトラブルが発生するリスクがあります。弁護士が、親族が保護するゆえのトラブル事例や、成年後見関連のトラブルへの対処法などを解説します。
認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が低下した人を支援する成年後見人(せいねんこうけんにん)に親族が就任する場合、横領などのトラブルが発生するリスクがあります。弁護士が、親族が保護するゆえのトラブル事例や、成年後見関連のトラブルへの対処法などを解説します。
目次
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成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護する制度です。成年後見人等が本人の代理人となって、本人の財産管理や身上監護に関してさまざまなサポートをします。
成年後見制度には、成年後見や補助、保佐、任意後見といったタイプがあり、最も利用者数が多いのは成年後見です。「法定後見の三つの類型とその呼び方」の表記載のとおり、成年後見、保佐及び補助は「法定後見」と呼ばれており、本人の保護の必要度によって区分されています。
厚生労働省の「成年後見制度の利用者数の推移(平成28年~令和3年)」によると、成年後見制度の利用者数はいずれのタイプについても増加傾向にあり、平成28年12月末日時点で20万3551人であったのが、令和3年12月末時点で23万9933人に増えています。
成年後見人には、親族よりも弁護士などの第三者が選任されているケースが少なくありません。
たとえば、厚労省の「成年後見人等と本人との関係別件数(令和3年)」によると、令和3年では、親族が成年後見人等に選任されたものが約20%、親族以外の第三者が選任されたものが約80%となっています。第三者の内訳として大きな割合を占めるのが弁護士(25.9%)、司法書士(37.7%)、および社会福祉士(18.1%)といった専門職です。
成年後見人ができることは、大きく分けて財産管理と身上監護です。
たとえば、財産管理の具体的な内容としては、本人名義の預貯金の管理・解約、株式等有価証券の管理・処分、不動産の管理・処分、保険金受取・解約、相続手続き、確定申告などです。身上監護の具体的な内容としては、たとえば、医療に関する契約、施設への入所契約、介護に関する契約などが挙げられます。
成年後見人等の選任を求める主な動機は、厚労省の「申立ての動機別件数(令和3年)」によると、預貯金等の管理・解約が最も多く、次いで身上保護、介護保険契約、不動産の処分、相続手続、保険金受取などとなっています。すなわち、本人が認知症であるなどの理由で、預貯金を引き出したり、定期預金を解約したりできない場合に、成年後見制度が利用されることが多いと考えられます。
親族が成年後見人になる場合、下記のようなトラブルが起こりえます。
まずは、成年後見人による財産の使い込みです。成年後見人になった以上、自身が保護する被後見人(以下「本人」)の財産はあくまで「他人の財産」であるという意識を持って管理することが必要です。
しかし、親族が成年後見人になると(特に本人と親子関係にある場合)、財産を管理するにあたって緊張感が生まれにくく、そのような意識が乏しくなるケースも少なくありません。また、成年後見人は、本人の財産について包括的な管理権を有しているため、比較的容易に使い込みができてしまいます。
その結果、軽い気持ちで本人の財産を流用してしまい、それが常態化して多額の使い込みに発展してしまうことがあります。もちろん弁護士、司法書士、および社会福祉士といった専門職の成年後見人による横領事件もありますが、最高裁判所事務総局家庭局実情調査の「後見人等による不正事例」の統計に記載のとおり、専門職以外の成年後見人による不正事例の件数が多いのが実情です。
前述のとおり、親族の成年後見人による不正事例が多いことから、ほかの親族が親族の成年後見人に対して「本人の財産を使い込んでいるのではないか」との疑いを抱き、そこから親族間のトラブルに発展してしまうこともあります。
成年後見におけるトラブルを避けないなら、司法書士に依頼することで、本人のために財産管理を行ってもらえるでしょう。
成年後見人は、定期的に財産目録や収支報告書などの書面を作成し、裁判所に提出しなければなりません。本人の居住用不動産を売却する場合など、裁判所に申立てをして許可を得なければならない場合もあります。普段なじみのない作業は小さくない負担となります。その結果、成年後見人としての職務を十分に果たせないケースも見られます。
また、成年後見人自身が年を重ねて財産管理などが十分にできなくなったり、成年後見人と本人がトラブルになるなどして本人のサポートをしなくなったりするケースも見られます。
親族の成年後見人がトラブルを起こした場合、本人やほかの親族はどのように対処したら良いのでしょうか。対処法を紹介します。
後見監督人とは成年後見人が行う後見の事務を監督する人を指します(民法851条1号)。本人の親族は、家庭裁判所に対し、後見監督人の選任を求めることができます(同法849条)。
一般的には、管理する財産が多額、複雑など専門職の知識が必要なときや成年後見人と成年被後見人の利益相反が想定されているとき(遺産分割など)、そのほか、親族の成年後見人に専門職のサポートが必要と考えられるときに選任されることがあります。
そこで、裁判所に申立てをして後見監督人を選任してもらい、解任も視野に入れつつ、後見監督人によるサポートによって成年後見人の職務の是正を図ってもらう方法が考えられます。
成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は本人の親族等の請求によって、成年後見人を解任することができます(民法846条)。
「不正な行為」とは違法な行為または社会的に非難されるべき行為を、「著しい不行跡」とは品行ないし素行がはなはだしく悪いことを意味するとされています。
たとえば、成年後見人が本人の財産を横領した場合は「不正な行為」に、成年後見人がその職務を放棄している場合は「その他後見の任務に適しない事由」に該当するでしょう。そこで、不正な行為などに該当する事由があるとして裁判所に申立てをし、成年後見人を解任してもらう方法が考えられます。
後見人が故意または過失によって、違法に本人の権利を侵害した場合、後見人は、本人に対し、不法行為責任を負い、当該行為と相当因果関係にある損害を賠償する責任があります(民法709条・民法710条)。
そこで、成年後見人が解任された後、新たに選任された成年後見人から、前任の成年後見人に対して損害賠償を請求するという方法が考えられます。
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成年後見の相談ができる司法書士を探す親族が成年後見人になることによるトラブルを避けるためには、弁護士などの第三者に成年後見人または任意後見人への就任を依頼することが考えられます。
弁護士や司法書士などの第三者が成年後見人に就任すれば、横領などのリスクは低く抑えられるでしょう。家庭裁判所に対する定期的な報告も当該第三者に一任できますので、手間がかかりません。ただし、成年後見人に対する報酬が定期的に発生しますので、その点は注意が必要です。
弁護士などの第三者に成年後見人になってもらいたい場合、事前に弁護士などを探す必要はありません。成年後見の申立てをすれば、裁判所が弁護士や司法書士、社会福祉士などの第三者を成年後見人に選任してくれます。
他方、申立てにあたって、特定の人物を候補者に立てることも可能です。そこで、弁護士などに事前に相談し、候補者となる依頼をすることも一つの方法です。ただし、成年後見人の選任は裁判所の裁量に委ねられており、当該候補者が選任されるとは限らない点は把握しておきましょう。
任意後見制度とは、本人に十分な判断能力があるうちに、判断能力が低下した場合には、あらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。本人の判断能力が低下した場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じます。
成年後見制度と異なって、本人自らが選んだ人が必ず後見人になるという点が大きな違いです。また、後見人に代わりにしてもらいたいことを契約で個別に定めることになるのもポイントです。これら以外にも、成年後見制度と異なる点がありますので、メリットやデメリットを把握したうえで利用するかどうかを判断しましょう。
弁護士や司法書士に成年後見人への就任を依頼すれば、客観的な立場から本人のために財産管理を行ってもらうことが期待できるでしょう。成年後見の申立てを検討する際は、一度弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。
(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)
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