成年後見人として弁護士を選任するメリット・デメリット 職務内容・費用も解説
「成年後見人」は、認知症などで判断能力が低下した本人(成年被後見人)に代わって、本人の財産を管理する重要な職責を担っています。本人の親族などを成年後見人に選任する場合もありますが、事務の煩雑さや責任の重さなどを考えると、弁護士を選任することも有力な選択肢です。今回は、成年後見人として弁護士を選任するメリット・デメリットなどを弁護士が解説します。
「成年後見人」は、認知症などで判断能力が低下した本人(成年被後見人)に代わって、本人の財産を管理する重要な職責を担っています。本人の親族などを成年後見人に選任する場合もありますが、事務の煩雑さや責任の重さなどを考えると、弁護士を選任することも有力な選択肢です。今回は、成年後見人として弁護士を選任するメリット・デメリットなどを弁護士が解説します。
目次
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まず、成年後見人はどのような権限を有するのか、どのような職務を行う必要があるのか、基本的なポイントを押さえておきましょう。
成年後見人は、事理弁識能力を欠く常況になった本人(成年被後見人)に代わり、日常家事に関するものを除く一切の法律行為をします(代理権)。
例えば、
など、幅広い法律行為が成年後見人の代理権の対象です。
成年被後見人が単独でした法律行為は、本人または成年後見人が取り消すことが可能です(民法9条)。
このように成年後見人は、本人の財産管理に関する判断の一切を代行する、非常に大きな権限を有しています。
成年後見人は、本人の利益のために、善良な管理者の注意をもって、財産管理などの職務を行わなければなりません(民法869条、644条)。
また、成年後見人が職務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ心身の状態や生活の状況に配慮することが求められます(民法858条)。
具体的な職務としては、個々の法律行為を本人に代わって行うことに加えて、
などが挙げられます。
成年後見人の候補者としては、本人の親族か、弁護士など専門家が挙げられます。
その中でも、弁護士を成年後見人として選任することのメリットは、以下の通りです。
成年後見人の職責は重大であるうえに、各法律行為に関するやり取りや家庭裁判所への定期報告など、事務的な手間も発生します。
弁護士を成年後見人とすれば、重要かつ煩雑な事務手続きを一任できるため、親族の負担は大きく軽減されるでしょう。
親族同士の感情的な対立や、財産を巡る争いなどとは無縁で利害関係を持たない点が、弁護士の大きな強みです。
弁護士は、親族内の状況がどうであるかにかかわらず、常に成年後見人としての職務を公正に執行することができます。
成年後見人に親族を選任したとしても、本人が遠方に住んでいる場合には、適切に財産の管理を行うことが難しいでしょう。
この点、弁護士を成年後見人として選任すれば、出張での対応を依頼することも可能です。
また、本人の居住地域を拠点とする弁護士に依頼すれば、出張交通費を削減できます。
高齢の親族について成年後見を申し立てる場合、相続もセットで事前に検討しておくのがよいでしょう。
弁護士には、成年後見人への就任と併せて、遺産分割・遺言書作成・遺言執行などの相談をすることもできます。
万が一、遺産分割に際してトラブルが発生した場合にも、紛争解決のサポートができる点が、弁護士特有の大きな強みです。
成年後見人として親族を選任するケースと比較すると、弁護士を選任する場合、一定のコスト増になる面は否めません。
また、一部では横領などのトラブル事例も発生しているので、信頼できる弁護士を選任しましょう。
弁護士などの専門家を成年後見人とする場合、月額報酬が発生します。
報酬額は家庭裁判所が決定しますが、管理する財産の額に応じて月額2~6万円程度となるケースが多いようです。
参考:成年後見人等の報酬額の目安|東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部
最近では、成年後見人に選任された弁護士が、管理していた本人の預金を着服するなどの横領事例が報道されています。
参考:被後見人の預金2100万円横領、元弁護士に実刑判決 京都地裁|京都新聞
このようなケースは極めて例外的ですが、弁護士に依頼する際には、その弁護士が信頼に足る人物かどうかをよく見極めましょう。
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成年後見に強い弁護士を探す弁護士を探す成年後見人として誰を選任するべきかについては、個々の家庭状況などにより異なります。
コストの面では、本人の親族などを選任する方が有利ですが、以下に挙げるような場合には、弁護士を成年後見人として推挙することを検討すべきでしょう。
本人が非常に高齢である場合や、病状がかなり進行している場合には、将来的な相続を巡って、親族同士で争いが生じてしまうことがあります。
このような状況で親族を成年後見人に選任すると、財産を恣意的に処分・着服するなど、モラルハザードが起きてしまう危険性が高いです。
親族同士でこのような争いが生じている場合には、弁護士を成年後見人に選任すべきでしょう。
成年後見人の職責はきわめて重大であり、かつ本人のために奉仕するという側面を強く有しています。
そのため、人格的に信頼できない人や、やりたくない人を成年後見人とするのは得策ではありません。
もし親族内で候補者を見繕えない場合は、弁護士に就任を依頼することをお勧めいたします。
以下のようなケースでは、財産管理や身上監護に関する事務が、きわめて煩雑になることが予想されます。
本人の病状が進行中であり、医療機関とのやり取りが頻繁に発生する場合 など
このような場合、弁護士を成年後見人とすることで、親族の負担を大きく軽減できるでしょう。
本人が単身で暮らしており、近くに親族が誰も住んでいない場合には、親族が満足に本人をサポートするのは難しいでしょう。
より緊密に本人をサポートするためには、本人の近くに拠点を構える弁護士を成年後見人とすることをお勧めします。
弁護士を成年後見人として選任するには、家庭裁判所に対して後見開始の申立てを行う際に、弁護士を候補者として伝えましょう。
特に問題のある事情がない限りは、候補者として推挙された弁護士が、そのまま成年後見人に選任されます。
弁護士に就任を依頼する場合、事前に法律相談を申し込んで、家庭や本人の財産に関する事情を弁護士に伝えておきましょう。
弁護士を成年後見人とすることで、親族の負担は軽減され、かつ公正に財産管理等を行うことができます。
相続について併せて相談できる点も、弁護士に成年後見人就任を依頼することの大きなメリットです。
法律相談などを通じて、信頼できる弁護士を見極めたうえで、成年後見や相続に関する依頼を行ってください。
(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)
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