目次

  1. 1. 任意後見制度と家族信託とは、それぞれどんな制度?
    1. 1-1. 任意後見とは
    2. 1-2. 家族信託とは
  2. 2. 任意後見制度と家族信託の共通点は?
    1. 2-1. 安心して老後を過ごすために役立つこと|認知症や資産凍結への対策
    2. 2-2. 本人が財産管理を任せる人を選べる
    3. 2-3. 契約の内容を理解できる判断能力が必要|認知症になる前の契約が安心
  3. 3. 任意後見制度と家族信託の違いは?
    1. 3-1. 財産管理の始まりは判断能力が不十分になる前か、後か
    2. 3-2. 身上監護権があるか、ないか
    3. 3-3. 裁判所による監督があるか、ないか
    4. 3-4. 積極的な財産管理をできるかどうか
  4. 4. 任意後見と家族信託、選ぶ際に考慮すべきポイントは?
    1. 4-1. ポイント①身上監護が必要か
    2. 4-2. ポイント②積極的な財産管理を希望するのか
    3. 4-3. ポイント③認知症になる前から財産管理を任せる形でよいか
    4. 4-4. ポイント④二次相続での財産の承継先を指定しておきたいか
    5. 4-5. ポイント⑤裁判所が関与する形でもよいか
    6. 4-6. ポイント⑥ランニングコストを抑えたいか
  5. 5. 任意後見制度と家族信託、併用できる?
    1. 5-1. 併用のメリットとデメリット
    2. 5-2. 併用したほうがいいケース
    3. 5-3. 併用する際の注意点
  6. 6. 任意後見制度と家族信託、費用はどれぐらいかかる?
    1. 6-1. 任意後見制度は後見監督人への毎月の報酬も
    2. 6-2. 家族信託にかかる費用は信託財産の価格で変わる
  7. 7. まとめ|専門知識や経験のある弁護士や司法書士に相談するのが得策

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任意後見は、成年後見制度の一つです。成年後見制度は認知症などで判断能力が不十分となった人を支援する制度で、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

法定後見は、本人が認知症などで判断能力が不十分になった「後」に家庭裁判所に申し立てるもので、後見人は家庭裁判所によって選ばれます。

これに対し、任意後見は、本人が認知症などで判断能力が不十分になる「前」に公正証書で契約しておくもので、将来的に財産を管理したり、生活を支援したりする後見人になってくれる人は本人自らが選びます。契約後は、本人が認知症などで判断能力が不十分になった段階で、本人や家族が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てをし、任意後見人の働きを監督する任意後見監督人が選任されることで契約の効力が発生します。

【関連】成年後見制度とは 対象となる人や利用する手続きの流れなどを解説

家族信託とは、信頼できる家族や親族などと信託契約をし、財産管理を任せる仕組みです。信託契約の基本的な当事者は委託者、受託者および受益者の3名です。

委託者は財産を託す人を、受託者は財産を管理する人を、受益者は財産から利益を得る人を意味します。通常、委託者と受益者は同一人です。

家族信託の基本的な当事者は委託者、受託者および受益者の3名です
家族信託の基本的な当事者は委託者、受託者および受益者の3名です

任意後見と家族信託の主な共通点は以下の3点です。

  • 安心して老後を過ごすために役立つこと|認知症や資産凍結への対策
  • 本人が財産管理を任せる人を選べる
  • 契約の内容を理解できる判断能力が必要|認知症になる前の契約が安心

認知症などで判断能力が低下したり喪失したりしてしまうと、本人の資産を本人や家族が自由に動かせなくなってしまいます。つまり、資産凍結リスクが生じます。

しかし、任意後見や家族信託を利用しておけば、万が一、本人が認知症などになってしまっても、任意後見人や受託者はそれぞれの権限で管理する財産を動かすことが可能です。したがって、資産凍結リスクを避けることができ、本人は安心して老後を過ごすことができます。

法定後見では家庭裁判所が後見人を選任するため、本人や家族が希望する人が後見人に選ばれるとは限りません。

これに対し、任意後見や家族信託では、本人が、任意後見人や受託者など財産管理をする人を選ぶことができます。

任意後見や家族信託は契約ですので、本人には契約の内容を理解できるだけの判断能力が必要です。そのため、認知症になる前の元気なうちに契約をしておくのが安心です。

認知症などで契約の内容を理解できないほどに判断能力が低下したり喪失したりしてしまった場合には、もはや両制度を利用することはできません。その場合には、家庭裁判所に申し立てをする法定後見を利用することになります。

任意後見と家族信託の違いは、主に下記の4点です。

  • 財産管理の始まりは判断能力が不十分になる前か、後か
  • 身上監護権があるか、ないか
  • 裁判所による監督があるか、ないか
  • 積極的な財産管理をできるかどうか

後見人は本人自らが選ぶ任意後見では、判断能力が不十分になった後から財産管理が始まります。

これに対し、委託者、受託者および受益者から成る家族信託では、契約時、つまり判断能力が不十分になる前から財産管理を始めることができます。契約時以降に遅らせることも法的には可能ですが、契約時から財産管理を始めるケースが多いです。

身上監護とは、本人が安心して暮らすことのできるように、生活や医療、または介護などの契約手続きを本人に代わってすることです。具体的には、介護施設や福祉施設などの入所手続きや病院の入院手続きなどです。

任意後見では任意後見人に身上監護を任せることができますが、家族信託では受託者に身上監護を任せることはできません。家族信託は財産の管理や承継を目的とする制度だからです。

任意後見では、任意後見人は、家庭裁判所から選任された任意後見監督人や家庭裁判所による監督を受けることになります。

これに対し、家族信託では、財産の管理、運用、処分を担う受託者は裁判所による監督を受けません。

任意後見では、本人の財産は現状維持をするのが原則で、本人にとって損害が生じる可能性のある不動産投資や株式投資、財産の組み替えなどを行うことは通常許されません。

一方、家族信託では、これらの積極的な財産管理が可能となる仕組みを構築することができます。

それぞれの制度の概要や違いは、図版「後見人等の開始要件や権限内容」も参考にしてみてください。

後見人等の開始要件や権限内容の一覧。任意後見は、本人の判断能力が残っている段階で任意後見契約を締結します
後見人等の開始要件や権限内容の一覧。任意後見は、本人の判断能力が残っている段階で任意後見契約を締結します

親の認知症への備えとして「任意後見制度」や「家族信託」の利用を検討しているのであれば、専門知識や経験のある弁護士や司法書士に相談すれば、適切なアドバイスをもらえるでしょう。以下の記事を参考にして下さい。

ここまでで任意後見と家族信託の共通点や違いを解説してきました。日頃、相談を受けていると、「どちらを選べばいいのか、よくわからない」という悩みを多く聞きます。そこで、両者を選ぶ際に考慮すべきポイントを解説します。

家族信託では、信託財産を管理する受託者に、生活や医療、または介護などの契約手続きを行う身上監護権がありません。そのため、財産管理を任せたい人が家族ではないなど、身上監護権も与えておきたい場合、任意後見を選ぶのがよいでしょう。

任意後見では本人の財産は現状維持が原則であるため、積極的な財産管理は通常できません。そのため、株式投資や不動産活用、財産の組み替えなど、積極的な財産管理を希望する場合、家族信託を選ぶことをお勧めします。

「元気なうちは自分でできるだけやりたい。自分ができなくなってから任せたい」と希望する人は少なくありません。しかし、家族信託の場合、通常、契約時から受託者に財産管理を任せることになります。そのため、認知症になってから財産管理を任せたい場合、任意後見を選ぶのがより適しています。

家族信託は、二次相続での財産の承継先を指定できることが特徴の一つです。たとえば、一次相続では配偶者に自宅不動産を承継させ、その配偶者亡くなることで発生する二次相続では複数の子のうち特定の子に自宅不動産を承継させるといったことが可能です。これに対し遺言では自分が亡くなった際の承継先しか決められず、二次相続の際の財産の承継先を決めることはできません。そのため、二次相続での財産の承継先を指定したい場合は、家族信託を選ぶのがよいでしょう。

【関連】二次相続とは? 一次相続との違い、相続税額の比較・対策を解説

任意後見では家庭裁判所に選任された任意後見監督人や家庭裁判所による監督がなされます。具体的には、任意後見人は定期的に任意後見監督人に対して事務の内容を報告しなければなりません。これに対し、家族信託では裁判所による監督はありません。なお、任意で信託監督人などの第三者による監督の仕組みを設けることも可能です。その場合、家族信託を依頼した専門家がそのまま信託監督人などに就任することが多いでしょう。そのため、裁判所が関与しない形で財産管理をしたい場合、家族信託を選ぶことをお勧めします。

任意後見では少なくとも任意後見監督人に対してほぼ必ず報酬を支払うことが必要です。任意後見は基本的に支援を受ける被後見人が亡くなるまで続きますので、その間に継続して報酬がかかり続けます。これに対し、家族信託では第三者による監督は必須ではないため、監督機関を設けなければ継続した報酬はかかりません。そのため、ランニングコストを抑えたい場合、家族信託を選ぶことを推奨しています。

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任意後見と家族信託はどちらか一方しか選べないわけではありません。両者を併用することも可能です。

両者の併用には、一方の制度でカバーできない部分を他方の制度で補完できるメリットがあるのと同時に、手間や費用が増えるというデメリットもあります。

積極的な財産管理と身上監護を希望する場合

積極的な財産管理という点で家族信託を、身上監護という点で任意後見が必要ですので、両者を併用したほうがよいでしょう。

積極的な財産管理と全面的な財産管理を希望する場合

家族信託では、受託者が管理できる財産は信託契約で決められた財産のみです。そのため、たとえば、契約後に年金などで本人の財産が増えていっても、それは受託者が管理できる財産には含まれません。

そのため、積極的な財産管理という点で家族信託を、全面的な財産管理という点で任意後見が必要ですので、両者を併用したほうがよいでしょう。

任意後見と家族信託を併用する際に悩ましいのが、任意後見人と受託者を同じ人にしてよいのかという点です。一番信頼できる人に両方やってもらいたいという意向を持つ相談が多いのですが、利益相反にも配慮する必要があるためです。

家族信託では受託者による財産管理は基本的に受益者が監督する仕組みになっています。受益者である本人が認知症になると、任意後見人が本人の代理人として受託者を監督することになります。したがって、任意後見人と受託者を同じ人にしてしまうと、自分で自分を監視することになってしまうのです。

そのため、信頼できる人が一人しかいないのであればやむを得ないと思われますが、複数人いる場合にはそれぞれ別の人を選ぶのがよいと言えます。

両制度の利用を検討するにあたっては、どれぐらいの費用がかかるかも大きな関心事でしょう。以下では、両者にかかる費用の目安を解説します。

任意後見制度にかかる費用は、大きく分けて下記の3つがあります。

①公正証書作成費用
②任意後見監督人選任の申し立て費用
③任意後見人や任意後見監督人への報酬

大まかになりますが、①の公正証書作成費用は2万円程度、②の任意後見監督人選任の申し立て費用は1~2万円程度(鑑定が必要になれば5~10万円程度加算)です。③の任意後見人や任意後見監督人への報酬のうち任意後見監督人の報酬の相場は、管理財産額によって、5000万円以下は月々1~2万円程度、5000万円超えは月々2万5000円~3万円程度が目安です。任意後見人の報酬は、任意後見契約の中で自由に決めることができます。

なお、①の公正証書作成や②の任意後見監督人選任の申し立てを弁護士などの専門家に依頼する場合、上記に加えてそれぞれ10~20万円程度の費用がかかります。

家族信託にかかる費用は、大きく分けて、次の3つとなります。

①公正証書作成費用
②専門家への報酬
③信託登記にかかる登録免許税

家族信託の場合、①の公正証書作成費用は信託財産の額によって異なり、おおむね数万円~10万円程度です。②の専門家への報酬は専門家によって報酬基準が異なるため一概には言えませんが、信託財産の1.2%~2%程度が多い印象です。③の信託登記にかかる登録免許税は信託財産に不動産が含まれる場合にかかる費用で、固定資産評価額の0.3~0.4%です。

任意後見や家族信託についての十分な知識や経験がなければ、どちらの制度を利用すべきかを的確に判断することは難しいものです。あまり考えずに制度を利用してしまい、いざ想定と違っては手間や費用が無駄になってしまいます。また、取り返しがつかない事態になってしまうかもしれません。他方、判断に時間をかけすぎてしまうと、本人の認知症が進んでしまい、いずれの制度も利用できなくなる状況にもなりかねません。

生前の財産管理について不安に感じた場合は、できる限り早めに、専門知識や経験のある弁護士や司法書士などの専門家に相談してみることをお勧めします。

(記事は2023年9月1日時点の情報に基づいています)

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