目次

  1. 1. 保佐人とは?
    1. 1-1. 保佐開始の要件
    2. 1-2. 保佐人になれる人は?資格は必要?
  2. 2. 保佐人の権限内容は?
    1. 2-1. 同意権・取消権
    2. 2-2. 代理権
  3. 3. 保佐人と成年後見人の違いとは?
    1. 3-1. 本人の判断能力の程度が異なる
    2. 3-2. 成年後見人には広範な代理権・取消権が認められている
  4. 4. 保佐人を選任すべき状況とは?
  5. 5. 保佐人を選任する手続き
  6. 6. 保佐人の業務が終了する場合とは?
  7. 7. まとめ|保佐人・成年後見人の選任は早めに検討を

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「保佐人」とは、判断能力が低下した本人のサポート役として、本人が行う法律行為の一部につき、同意権・取消権・代理権を与えられた人をいいます。

判断能力が低下した状態では、詐欺被害に遭いやすくなったり、見境のない浪費をしてしまったりするリスクが高くなります。
保佐人は、本人がこのような経済的搾取に遭わないようにするため、同意権・取消権・代理権の行使を通じて、本人の法律行為をコントロールする使命を担っているのです。

保佐人が選任されるためには、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分」であることが要件です(民法11条)。

裁判所の運用上、「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」と認められる場合には、上記の保佐要件に該当するとされています。

保佐人となる人は、家庭裁判所が職権で選任します。

本人の親族が就任する場合もあれば、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が就任する場合もあります。
保佐人には特に資格は必要ありませんが、必ずしも申立人が希望する人が選任されるとは限らない点に注意が必要です。

保佐人が有する権限には、「同意権」「取消権」「代理権」の3つがあります。

被保佐人(保佐を受ける人)が、以下に挙げる重要な法律行為をする場合、保佐人の同意を得なければなりません(民法13条1項。ただし、日常生活に関する法律行為を除きます)。

①預貯金の払い戻し、貸付け、貸金の返済の受領など
②借り入れ、他人の債務の保証など
③不動産の売買・賃貸借の解除・抵当権の設定、株式の購入・売却など
④訴訟行為
⑤贈与、和解、仲裁合意
⑥相続の承認、相続放棄、遺産分割
⑦贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承諾、負担付遺贈の承認
⑧不動産の新築、改築、増築、大修繕
⑨一定期間以上の賃貸借
⑩①~⑨の各行為を、制限行為能力者(未成年者など)の法定代理人として行うこと

被保佐人が、保佐人の同意を得ずに上記の行為をした場合、保佐人は当該行為を取り消すことができます(同条4項)。

保佐人が選任された場合でも、被保佐人は保佐人のサポートを受けながら、自ら法律行為を行うのが原則です。
したがって、原則として保佐人に代理権はありません。

ただし、同意権・取消権の対象行為については、家庭裁判所の審判により、保佐人に対して代理権が付与される場合があります(民法876条の4第1項)。
代理権が付与された場合、保佐人は被保佐人に代わって、被保佐人のために法律行為をすることができます。

代理権付与に関する審判は、以下のいずれかの者による請求によって行われます。

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 後見人
  • 後見監督人
  • 保佐人
  • 保佐監督人
  • 補助人
  • 補助監督人
  • 検察官

なお、保佐人に対する代理権の付与が認められるには、本人の同意が必須であることに注意しましょう(同条第2項)。

保佐人と同じく「成年後見人」にも、成年後見制度の一環として、判断能力が低下した本人の法律行為をサポートする役割が与えられています。

しかし、保佐と成年後見を比較した場合、以下の2つのポイントが異なります。

成年後見人が選任されるには、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にあることが要件とされています(民法7条)。
裁判所は、「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」レベルにまで判断能力が低下した場合に、成年後見の対象になるという基準を示しています。

前述の保佐要件と比較してまとめると、支援を受ければ契約の意味内容を理解・判断できるのが「保佐」、支援を受けても理解・判断できないのが「成年後見」ということです。

成年後見は、保佐よりも判断能力の低下が進行した人に対して開始されます。
そのため成年後見人には、保佐人よりも広範な代理権・取消権が認められています。

保佐人の場合、民法13条1項各号に規定される行為についてのみ同意権・取消権が与えられており、また代理権の付与には家庭裁判所の審判が必要です。

これに対して成年後見人には、財産に関するすべての法律行為について、当然に代理権が与えられています。
また、日常生活に関するものを除き、成年被後見人によるすべての法律行為を取り消すことが可能です(民法9条)。

このように、成年後見人の権限は、保佐人よりも広範なものになっています。

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「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」程度に認知症などが進行し、本人の判断能力が低下した場合には、保佐人を選任すべき段階にあると考えられます。

特に、以下のような事情がある場合には、速やかに保佐人の選任申立てをご検討ください。

  • 不動産取引など、大規模な取引を安易に行ってしまう懸念がある場合
  • 浪費傾向が生じている場合
  • 詐欺業者による訪問販売などに騙されそうな場合
  • 遺産分割など、重要な法律行為を近い将来に控えている場合

保佐人の選任は、以下のいずれかに該当する者による保佐開始の申立てを受けて、家庭裁判所が行います。

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 後見人
  • 後見監督人
  • 補助人
  • 補助監督人
  • 検察官

申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
必要書類や費用などは、以下の裁判所ホームページをご参照ください。

参考:保佐開始|裁判所

申立書の中で、保佐人の候補者を挙げることができますが、最終的に誰が選任されるかは、家庭裁判所の判断次第である点に注意しましょう。

被保佐人が判断能力を回復し、保佐要件に該当しなくなった場合には、保佐開始の審判が取り消されます(民法14条1項)。
また、被保佐人について後見開始または補助開始の審判があった場合も、保佐開始の審判は取り消されます(民法19条1項)。

さらに以下の場合にも、保佐人の業務は終了します(民法876条の2第2項、844条、845条、847条)。

  • 保佐人が家庭裁判所の許可を得て辞任した場合
  • 家庭裁判所により、保佐人が解任された場合
  • 保佐人について、破産手続開始の決定が行われた場合
  • 保佐人またはその配偶者もしくは直系血族が、被保佐人に対して訴訟を提起した場合
  • 保佐人が行方不明になった場合

家族などの判断能力が低下した場合、詐欺被害や浪費などによって大事な財産を失わせないようにするため、早めに保佐人や成年後見人の選任を検討しましょう。

親族を保佐人・成年後見人として選任することも可能ですが、信頼できる人がいない場合には、弁護士や司法書士にご相談ください。

(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)

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