目次

  1. 1. 成年被後見人とは
    1. 1-1. 成年後見制度の概要
    2. 1-2. 成年被後見人と被保佐人・被補助人の違い
  2. 2. 成年被後見人ができないこと・できること
    1. 2-1. 成年被後見人ができないこと|契約や遺言、生前贈与
    2. 2-2. 成年被後見人ができること|日用品の購入や選挙権の行使など
  3. 3. 成年被後見人になるメリット
    1. 3-1. 不必要な契約を取り消してもらえる
    2. 3-2. 意思表示が困難でも法律行為を代理してもらえる
    3. 3-3. 金融機関や年金、還付金・給付金請求などの行政手続きを代理してもらえる
  4. 4. 成年被後見人になるための手続き
  5. 5. 成年被後見人になる際の費用
  6. 6. 成年被後見人に関してよくある質問
  7. 7. まとめ|本人の判断能力が低下する前に弁護士や司法書士に相談を

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「成年被後見人(せいねんひこうけんにん)」とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にあり、成年後見制度を利用して保護または支援を受ける人(本人)を指します。一方、支援する側を「成年後見人」と言います。

「事理を弁識する能力(事理弁識能力)」とは、法律行為の結果を判断することができる能力、とされています。難しい言葉ですが、たとえば「自宅を売ることによって、自分が得をするのか損をするのかを合理的に判断することができるのか?」といった能力です

この記事では、事理弁識能力を、単に「判断能力」という言葉で説明を進めます。

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などの精神上の障害により判断能力が低下した本人を保護したり支援したりする制度です。

判断能力が低下した本人が、たとえば何かの契約をしようとする場合に、契約内容や結果についてよくわからないまま締結してしまい、不利益を被ることがあります。あるいは、本人の判断能力の低下に乗じて、悪徳商法などの消費者被害に遭うことも考えられます。

家庭裁判所から選任された成年後見人は、本人がこのような被害に遭って損害を被らないように配慮しながら、本人がきちんと生活できるように、本人の代理人として契約締結や本人の財産管理などを通じて、本人をサポートします。

【関連】成年後見制度とは 対象となる人や利用する手続きの流れなどを解説

すでに述べたとおり、成年後見制度は、認知症など精神上の障害によって判断能力が低下した人を保護、または支援する制度として存在しています。

ただし、精神上の障害と言っても、障害の程度はさまざまです。その障害によりサポートを必要とする内容や範囲も人それぞれです。

そこで、成年後見制度は、本人の判断能力の低下具合やサポートの必要性に応じて、本人ができるところは本人が行い、本人が行うのが難しいところは成年後見人などがサポートできるように、成年後見、保佐、補助の3つの類型を用意しています。

本人にサポートする範囲が広い順から成年被後見人、被保佐人、被補助人と続きます。

法律上、成年被後見人、被保佐人、被補助人の各類型に関する判断能力の程度を下記のとおり定義しています。

  • 成年被後見人:判断能力が欠けているのが通常の状態の人
  • 被保佐人:判断能力が著しく不十分な人
  • 被補助人:判断能力が不十分な人

本人がどの類型になるのかは、家庭裁判所が主治医の診断書などを総合的に考慮して決定します。

そして、家庭裁判所は、成年後見制度を利用すべきと判断した場合には、それぞれ、成年後見人、保佐人、補助人を選任します。本人の判断能力が低いほどサポートする側の権限の範囲は広く、反対に本人の判断能力が高いほどサポートする側の権限の範囲は狭くなります。

たとえば、権限が最も広い成年後見人は、本人に代わって契約などの法律行為を行える「代理権」、本人が行った売買契約などの法律行為をあとから取り消せる「取消権」を持ちます。

成年被後見人と被保佐人・被補助人の違いの一覧。成年後見が、サポートする側の権限の範囲が最も広くなっています
成年被後見人と被保佐人・被補助人の違いの一覧。成年後見が、サポートする側の権限の範囲が最も広くなっています

成年被後見人は、常に判断能力が欠けている状態、つまり意思能力がありません。意思能力がない人の法律行為は無効となりますので、原則として成年被後見人は単独で契約はできません。

本人が単独でできない代表的な法律行為は次のとおりです。

  • 本人所有の不動産を売却
  • 相続税対策目的などで子孫への贈与(贈与は契約です)
  • 本人が相続人となる遺産分割協議
  • お金の貸し借り

遺言については、遺言能力があればよいとされていますが、民法上、遺言能力に関する明確な定義はされていません。しかし、成年被後見人が作成した遺言は無効と判断される可能性が高いと考えられます。

例外的に、成年被後見人が判断能力を一時回復したときには、医師2人以上の立ち会いのもとに遺言を作成する方法がありますが、実際は難しいと思われます。

成年被後見人は単独で法律行為はできませんが、すべての行為について制限を受けるわけではありません。

本人の自己決定権尊重の観点から、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」について、成年被後見人は単独で法律行為ができます。成年後見人には、成年被後見人の行為を取り消す権限がありますが、この「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については取り消すことはできません。

そのほか、法律行為ではありませんが、以下の行為は成年被後見人、つまり本人が単独で行うことが可能です。

  • 結婚、離婚、養子縁組・離縁などの身分行為
  • 選挙権、または被選挙権の行使

かつて成年被後見人は、公職選挙法第11条第1項1号で選挙権及び被選挙権を有しないものとされていました。しかし、この規定が違憲と判断され、現在は削除されています。

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成年被後見人になる主なメリットとしては次のようなものが挙げられます。

  • 不必要な契約を取り消してもらえる
  • 意思表示が困難でも法律行為を代理してもらえる
  • 年金や預貯金、還付金や給付金などの手続きを代理してもらえる

本人の判断能力が低下していることに乗じて不必要な物を購入させられたり、相場より高い金額で購入させられたり、と消費者被害に遭う可能性があります。また、消費者被害ではないものの必要性はないのに同じ物やサービスを購入する可能性があります。

本人にとって不必要であるとか、本人に判断能力がないことにつけ込まれたとか、あるいは詐欺にあったなどの理由の如何を問わず、成年後見人は成年被後見人がした契約を取り消すことができます。ただし、日用品の購入やその他日常生活に関する行為を除きます。

成年被後見人は、日用品の購入その他の日常生活に関する行為を除き、たとえ取引目的や取引価格が正当であったとしても、単独では契約することができません。たとえば、自宅不動産の売却、老人ホーム等の福祉施設との入所契約などが該当します。

本人が相続人となる遺産分割協議においても、本人は単独で参加することはできません。

これらのような場合には、成年後見人が代理して、契約や遺産分割協議を進めることができます。

【関連】成年後見人が相続に必要なケースとは? 遺産分割での役割、相続放棄ができるかなど解説

成年被後見人に該当する程度に判断能力が低下した人は、気がついたら年金を使い果たしてしまい明日からの生活が困ってしまったり、どこの金融機関に預け入れていたかを忘れてしまったりと、金銭管理ができないことがあります。

成年後見人は、生活状況に併せて本人の入出金の管理を行うことで、本人が安定した生活を送るためのサポートを行います。また、成年後見人は本人の法定代理人とされていますので、本人の立場で銀行などの金融機関にある本人の財産を調査することができます。

そのほかに、たとえば還付金または給付金請求などの行政手続きも、成年後見人が本人を代理して適切に手続きを行うことができます。本人にとっては面倒な事務作業をしなくても済むというメリットがあります。

本人が精神上の障害により「事理を弁識する能力を欠く常況」となれば、自動的に成年被後見人となるわけではありません。

成年被後見人になるためには、本人の四親等以内の家族などから家庭裁判所に対して成年後見開始審判の申し立てを行う必要があります。

この申し立てを行うにあたっては、医師の診断書や本人の財産状況などの添付資料を用意して、申立書と一緒に家庭裁判所へ提出します。

申し立てを受けた家庭裁判所は、申立書、添付資料及び本人との面談結果などを総合的に検討し、成年後見を開始すべきかどうかを判断します。

この検討過程で、家庭裁判所がより詳しく本人の判断能力の程度を知る必要があると判断した場合には、医師による鑑定が行われる場合があります。

家庭裁判所が成年後見を開始すべきと判断した場合には、成年後見人が選任され、成年後見制度の利用開始となります。

なお、成年後見人を選任するのは家庭裁判所となりますが、申し立て時に本人の親族を候補者とすることも可能です。

【関連】成年後見人の手続き 申し立てから選任までの流れ、必要書類、費用を解説

成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に対して申立書及び添付資料を提出しなければなりません。その費用としては、おおよそ以下のとおりです。ただし、本人の状況によって変動しますので、だいたいの目安としてお考えください

  • 医師の診断書や本人の財産状況に関する資料などの取寄せ:約1~2万円
  • 申し立て手数料、登記用収入印紙、郵便切手:約1万円
  • 鑑定費用:3~10万円(ただし、鑑定を引き受ける医師または医療機関により金額は異なります)
  • 司法書士に申立書作成を依頼した場合の報酬:約10万円

上記のほか、弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人に選任された場合、または成年後見監督人が選任された場合には、年に1回、本人の財産から報酬が支払われます。

この報酬額については、家庭裁判所が決定することになります。

成年被後見人に関して、よく受ける質問を取り上げます。

Q. 認知症の家族に成年被後見人になってもらうには、本人の同意が必要ですか?

成年後見開始審判を申し立てるにあたって、本人の同意は不要です。

しかし、誰でも成年後見開始審判の申し立てができるわけではありません。申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などの当事者とされています。そのほか、本人に身寄りがない、親族による虐待が疑われるなどの事情で、特に成年後見制度を利用する必要がある場合には市区町村長が申し立てを行うこともあります。

なお、保佐では特定の法律行為について代理権付与の審判を求める場合、補助では申し立てそのものに、本人の同意が必要となります。

Q. 成年被後見人はマイナンバーカードを申請できますか?

成年被後見人でもマイナンバーカードの申請は可能です。ただし、実際に、本人が事務手続きを行える状況にはないことが多いので、結局は成年後見人が代理して行うことになると思われます。

Q. 成年被後見人は住民票を請求できますか?

成年被後見人でも住民票の請求は可能です。同時に、成年後見人による代理請求も認められています。

Q. 成年被後見人は印鑑登録ができますか?

成年被後見人だけでは印鑑登録はできません。ただし、成年後見人の協力があれば、可能です。

なお、本人が成年被後見人になる前に印鑑登録していた場合、成年被後見人になると従前の印鑑登録はいったん抹消されます。なんらかの事情により成年被後見人の印鑑証明書が必要な場合には、再度、印鑑登録をする必要があります。

私見ですが、本人が成年被後見人になったら、印鑑登録はしないほうがよいと考えています。印鑑証明書が必要な取引をする場合には、成年後見人が代理して行えばよいのであって、成年被後見人の印鑑証明書と実印を使う必要性はないからです。 

本人の印鑑証明書を提出したことで、望まない取引や契約といった余計なトラブルに巻き込まれてしまう可能性が考えられます。成年後見人であれば、そのようなトラブルに本人が巻き込まれないように配慮してくれます。

遺産分割協議や不動産の売却などの特別な事情がなく、家族の支援を適切に受けて平穏に生活ができる場合には成年後見制度を利用する必要性は低いかもしれません。ただし、家族だからといって本人の財産を勝手に処分することはできませんので、あくまで自己責任でご判断ください。

しかし、上記のような特別な事情が生じた場合や判断能力を低下した本人を法的に保護したい場合には、現行法では成年後見制度を利用することになります。

家族が判断能力が低下しており成年後見制度の利用を検討している場合は、入口の申し立てのことだけではなく、利用開始後の運用面などについても、弁護士、または司法書士に相談することをお勧めします。

(記事は2023年11月1日時点の情報に基づいています)

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